253階 絶望
よし!ほとんどの魔獣は倒せたみたいだ
さすが『タートル』ってところか・・・大き過ぎる借りになっちゃったけど仕方ない・・・街を守る為だ
それにしてもまさかシークス達まで来てくれるとは・・・実は良い奴だったり?・・・そりゃあないか
水晶の映し出す映像の中で魔獣は次々に倒され散り散りになっていたみんなは無事を確認するように集まっていた
もう広場には魔獣はいない・・・これで街は大丈夫だろう
後はこの場を・・・僕がダンコから魔核を奪いゲートを開いて脱出すれば・・・
「どうしたの?これで私の胸を裂き核を取り出して体に取り込めばアナタの思い描いた未来になるんじゃない?」
「・・・さっきまで『終わり』とか言ってたのに余裕だね・・・」
「余裕なんてとても・・・それよりいいの?早くしないとお仲間がどんどん減ってくるわよ?」
ダンコが指差すのは映像ではなく僕の背後・・・魔王と戦っているディーン様達だった
そう言えばさっきから戦っている音がしない・・・慌てて振り返ると目を疑った
ディーン様は鎧を身に着けていない状況で魔王に首根っこを掴まれ力なく揺れていた。他のみんなは・・・倒れておりピクリとも動かない・・・まさか・・・死・・・
「ん?そっちは終わったのか?サキュバスよ」
「はい・・・第一段階は終了しました」
第一段階?
「ならばもういいだろう・・・この人間を魔人にする為にはもっと魔力が必要だ。そろそろ見せてやれ・・・本当の絶望というやつをな」
「はっ!では本部隊を投入し街を殲滅します」
本部隊?
「もう少し楽しめると思ったが・・・まあ『理の内』にいる者を得られたのだ・・・これ以上望むのは贅沢というものか」
見るとディーン様の首が黒く変色していた。魔王が言ってた魔人って・・・あの魔人の事だよな?つまり魔王は強制的に魔蝕を起こす事が出来る?・・・くそっ!みんなの事も心配だけど今はディーン様を助けてから・・・
「さーて、何分保つかしらね・・・本部隊を相手に」
「え?・・・あ・・・あ・・・」
振り返り映像を見るとこれまで見た事のないような魔獣が広場にズラリと並んでいた。中にはドラゴンらしき姿も・・・あんなのに攻撃されたらみんなは・・・
「ほう?人間は正直だ・・・魔力がかなり濃くなっているな」
「はい。もう少しでその人間を魔人にするには十分な量が得られるかと」
「無意識に抵抗しているが最後の足掻きも残り僅かか・・・安心しろ、魔人となれば余の配下に加え思う存分暴れさせてやる。手始めにそこに転がる人間共を喰らえ・・・そして目覚めるのだ・・・魔人としてな」
ディーン様が更に黒く染まって行く・・・ダメだ・・・何とかしないと・・・
「うっ・・・ううっ・・・」
「サラさん!」
倒れていたサラさんが必死に起き上がろうと・・・セシーヌもシーリスもダンも・・・みんな生きてる!
「死んだ餌ではつまらぬと思い生かしておいたが・・・もう少し痛めつけるか・・・」
魔王が動く
餌・・・ディーン様を魔人にしてサラさん達を殺させるつもりだ
ダメだ・・・そんなの・・・ダメだ!!
「うおおおおぉぉぉぉ!!」
今動けるのは僕だけだ!
僕が何とかしないと・・・
僕が魔王を復活させた
勇者が出現する前にこの僕が
その責任を果たさないと・・・大丈夫!いける!これまで何とかなってきたんだ・・・今回だって・・・
「魔王!僕が相手・・・え?」
胸から何かが突き出て来た
細い金属のようなものが5本
遅れて背中が熱くなる・・・燃えるように熱い・・・
「ロウニール!!!」「いやあぁぁぁ!!」「あっ・・・兄貴!」「ロウニール!!」
僕はその金属の出処を探る為に振り向いた
振り向くと彼女と目が合う
すると彼女は微笑みこう言った
「魔王様よ?・・・ロウニール──────」
広場にて魔獣の群れに勝利し浮かれる冒険者達
中には微妙な空気を漂わせる者達もいたがほとんどの者達からは自然と笑みが零れていた
その中で1人険しい顔をした男、ケインがキースとレオンの元に訪れる
「おう!ケイン!ここに指名手配犯がいるぞ?一緒に捕まえるか?」
「・・・感謝こそすれ捕まえる気などありません。少なくともこの件が終わるまでは、ですがね」
「えー、せっかく出世の大チャンスなのによぉ・・・手柄は全部譲るぜ?なあ、捕まえようぜ」
「・・・キース・・・君はなんで私を捕まえたいのだ?国の犬に成り下がったのか?」
先程まで往年のコンビプレイを披露していたというのに自分を捕まえようとするキース・・・その真意を探るべくレオンが尋ねるとキースはニヤリと笑う
「命より価値のあるもんなんてそうそうねえ・・・だろ?」
「捕まえた程度で止まると?」
「止まるさ・・・いや、止めてみせる」
見つめ合う二人・・・その二人に割って入るようにケインは咳払いをするとダンジョンの入口を指差した
「痴話喧嘩なら他所でやって下さい。それよりも魔獣がまだ出てくるかもしれないので警戒を怠らないよう。それと終わった気でいるかもしれませんが魔獣が出て来なくとも城に行った者達が帰って来なければこの勝利は無意味ですよ?」
ケインはロウニールの作戦を全て聞いている
魔王を倒すのではなく、あくまでロウニールが力を取り戻し勇者がやって来るまで魔王を城に閉じ込めておく作戦
その作戦は魔王討伐などよりよっぽど現実的であった
「6縛りの結界は本来魔王を討伐しなければ解除されないはず・・・ロウニール曰くその結界すらも越えて戻って来ると・・・」
「ゲート・・・か。確かにダンジョンコアがなければ魔王もただの強い魔族に成り下がる・・・魔獣も増えなければ城も増築出来ねえだろう・・・多分な」
「まあどっちにしろ街を捨てる事にはなりますが・・・それでも人間側の勝利に1歩近付くでしょうね」
「また無謀な賭けを・・・と言うかどれくらい前に城へ?力を取り戻し持って来るだけの割には時間が掛かり過ぎじゃないのか?」
レオンの指摘通り
ロウニールの作戦ではもうとっくに戻って来てもおかしくはない。だからこそケインの表情は険しいままだった
「・・・やっぱり俺が行くべきだったか・・・」
「それはないな」
「おい!そりゃあどういう意味だ!」
「討伐目的ならともかくお前が強敵を目の前にして逃げる訳がないだろ?私も6名を選べと言われたら真っ先に君は外す。もっと機転の利く者を選んでいたはずだ」
「バッカ俺だって前もって作戦を聞かされてりゃ・・・」
キースとレオン・・・共にSランクであり相棒だった2人のやり取りを聞きながらケインは次にどう動くべきか考える
戦力的には申し分ない・・・6縛りも編成すればかなりの人材を投入出来るだろう
最悪の事態を考え編成しておくべきかそれともロウニール達を信じこのまま待つか・・・そんなケインの悩みを吹き飛ばすような事態が突如として起こる
「・・・そんな・・・まだ・・・」
「さっきのは先遣隊だったって言うのかよ・・・レオン・・・止められると思うか?」
「そうだな・・・1時間・・・いや、30分なら可能じゃないか?」
「時間かよ!・・・チッ・・・ケイン!」
「はっ!すぐに住民の退避を開始します!なので1時間・・・お願いします」
「1時間っておい・・・30分って言ってんだろ!」
「なるほど・・・『タートル』のレオンが30分だからSランク冒険者であるキース殿も30分と・・・」
「・・・癇に障る野郎だな・・・レオンが30分つったら俺はその倍・・・1時間だ!」
「ですよね。では、お願いします」
キースの言葉を受けてケインはすぐに行動を開始する
ジェイズの元に行き防衛線上にいた騎士や衛兵を総動員し街から住民を連れ出せと命じた
動き出す騎士と衛兵の姿を見て動揺する冒険者達
それを見てケインは前線を張る冒険者達に向け叫んだ
「聞け!冒険者よ!これよりエモーンズに住む住民の撤退を始める!ここに残れとは言わない!死を覚悟した者だけここに残り、そうでない者は共に撤退せよ!撤退する者に石を投げる者はいない・・・これよりここは死地となるのだから!」
動揺していた冒険者達は互いに顔を見合せて頷く
そして各々が武器を手に取り現れた魔獣達に向き直った
「・・・あー言われて普通逃げるか?」
「冒険者に『死地だから逃げろ』は意味ないね。そんな腰抜けはそもそも冒険者などやっていない・・・私以外はね」
「おい」
「冗談だよ。ここで死を迎えるのは口惜しいが・・・私が抜けると30分保たないだろうからね」
「はっ、俺一人でも1時間保つのにか?自惚れが過ぎるんじゃないか?亀野郎」
「・・・私は変わったのだよ・・・変わざるを得なかった・・・その成果を今から見せてやろう」
レオンは言うと武器を構えて動かない冒険者達の前に出た
レオン・ジャクス・・・組合『タートル』の組合長にして国に仇なす元Sランク冒険者でありキースの相棒だった男
その男が今、死地に一番乗りを果たす
縁もゆかりも無いエモーンズの街を守る為に
「・・・変わり過ぎだろ・・・」
魔獣の群れに突っ込むレオンを見てキースは呟くと地面に刺していた大剣を肩に乗せ未だ動かない冒険者達を見渡した
「おうお前ら!チビってねえでさっさと死んで来い!祭りの・・・始まりだ!──────」
ここは・・・どこだ?
いや、分かってる・・・けど・・・僕は胸を貫かれて・・・
見渡す限り真っ白な世界
ここには眠っている時にしか来た事なかったけど・・・もしかして今までのは夢?・・・んなわけないか・・・
となるとここは何なんだ?僕の作り出した妄想・・・にしてはやけに現実味がある
それに・・・
「妄想ならもうちょい色気のある女の人がいるはずだしな」
目の前にはいつもの少女
この子を僕が妄想して作り出したとは考えにくい・・・それにこの子は・・・
「名前が偶然一緒・・・って訳はないよな?この前聞きそびれたけど一体お前は何者なんだ?チビダンコ──────」




