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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
255/856

252階 再会

「何をしている!とっとと倒してしまえ!」


安全な位置からの無茶な注文に内心舌打ちをしつつエミリが宙に舞いデュラハンの背後から短剣を繰り出す


しかし分厚い鎧に阻まれダメージは皆無・・・鎧に隙間はなくどうにかして鎧を破らないといけないのだがまるで歯が立たない


デュラハンは器用に馬を操り馬上で体を捻ると片手で重そうな槍を操り突きを繰り出す


それを躱しながら共に戦う男に向けて叫んだ


「もう少し敵の気を引いて下さいますか?」


「注文の多い侍女長だ」


ボヤきながらも言われた通りデュラハンに攻撃するランス


狙い通りデュラハンの目標がエミリからランスに変わると着地したと同時に弱点を探す


「駄目ですね・・・鎧に隙間が見当たらない・・・可動部分は恐らく魔力で覆ってて刃が通らないですし・・・」


「何をボーッとしている!こっちにどんどん近付いて来ているぞ!」


「・・・セシーヌ様のお父上でなければとっくに殺してますね・・・あ!」


遠くで叫ぶゼンを見て呆れ返るエミリだったが自分の言葉である事に気付いた


「ゼン様!この魔獣の弱点を見ていただけませんか?」


セシーヌの父であり前聖者のゼンは当然『真実の眼』を持っている。頼むのは癪だったが背に腹はかえられぬと尋ねると思わぬ答えが返ってきた


「ここからじゃ見えん!そっちで何とかしろ!」


「じゃあ見える距離まで来いよ」


「何か言ったか?」


「いえ!何でも御座いません!」


怒りを必死に抑え他の方法を考えようとしたエミリは不穏な空気を纏った冒険者の存在に気付く。どこからともなく現れゼンの背後に立つと・・・突然彼の首根っこを掴んだ


「人の縄張りで好き勝手暴れているから様子を見に来たけど・・・なかなか面白そうな相手と戦ってるね」


「ぐっ・・・何をする!離せ無礼者!」


「弱点を見破れるだって?距離が問題なら近付けば良いだろ?」


そう言って男はゼンの首根っこを掴んだままデュラハンに向かって前進し始める


抵抗するゼンだが男はものともせず進みとうとうデュラハンの目の前まで来てしまった


「ゼン様を離せ!」


デュラハンの近くに居た聖騎士達が男とゼンを取り囲むが男は物怖じせずデュラハンを見て邪悪な笑みを浮かべる


「向こうも首を抱えてんだ・・・これで同じだろ?まっこっちは胴体付きだから重いけど・・・なんなら首だけにしてあげようか?」


「なに!?」


男が力を入れるとゼンは苦痛に顔を歪める


この男は本当にやる・・・そう思わせる何かを感じ聖騎士達は身動きが取れずにいた


「よせ・・・死にたいのか?」


「へぇ・・・君は強そうだね。君でも倒せないならやっぱりこの魔物は結構強いのか・・・なら尚更弱点を知る必要があるね。どうした?この距離でも見れないならもう少し近付こうか?」


「ヒィ!・・・わ、分かった・・・見る・・・見るから!」


聖騎士達が手出しが出来ない状態と容赦なく込められる力に恐怖しゼンは慌てて『真実の眼』を使いデュラハンの弱点を探る・・・そして・・・


「く、首だ!頭と胴体に見えない繋がりがある!それを断ち切れば・・・」


「ありがとさん」


そう言って男はゼンを後ろに放り投げると拳を鳴らしデュラハンの前に立つ


いつの間にか男の後ろにはパーティーメンバーが3人並び立ち各々武器を構えていた


「ヤットは近付いて牽制、サムス、レジーは殺されない程度に距離を取り突っついといて」


「ええ!?」


「なに?文句ある?」


「・・・ない・・・」


自分だけ無茶な注文されて驚くヤットをジロリと睨み付けると返事に満足したのか微笑み拳を鳴らす


「さて・・・騎士達は手を出してもいいけど邪魔だけはするなよ?こいつとはボク・・・シークス・ヤグナーが遊ぶんだからね──────」





「オーガァ!」


と、叫びながらオーガにではなく壁に向かって走り靴にマナを流し壁を駆け登るジケット


その奇行はオーガの注意を引くのは十分でその間にペギーが魔法を放つ・・・が


「うう・・・このタイムラグが慣れな・・・キャッ!」


油断していた頃に突然射出された氷の塊に驚いて尻もちをついてしまう。それでも狙いはオーガに向いており水魔法『アイスジャベリン』がオーガを貫く


「・・・やった!?」


「ダメ!効いてないわ!」


オーガに魔法が当たった事により起きた煙が晴れると無傷なオーガが姿を現す


「くっ・・・ダメなの?」


「恐らくは魔法耐性ってやつね。いくら威力が上がったとはいえ中級魔法は弾かれてしまうみたい・・・やっぱり『フェニックス』は無理そう?」


エリンに聞かれてペギーは首を振る


ペギーが扱える唯一の上級魔法『フェニックス』・・・その魔法でオーガに対抗しようと考えていたがマグの杖とは相性が悪かった


「大き過ぎるのか分からないけど無理みたい・・・かと言って普通にフェニックスを放って効かなかったら・・・」


「打つ手なし・・・になるわよね。けど中級魔法のアイスジャベリンすら効かないとなると・・・」


「一か八か・・・フェニックスに賭けるしかない・・・か」


マナ量が増えたとはいえフェニックスを放てばマナは底を突く。そうなればこのパーティーの火力は皆無・・・オーガに対抗する手段は無くなることになる


「お願い出来る?」


「うん・・・でもその後は・・・」


「分かってる。私が時間を稼ぐから逃げて倒せそうな人を見つけて来て」


「それじゃエリンが・・・」


「大丈夫・・・ほら、ロウニールに貰った腕輪もあるしね。とにかく早くしないとジケット達が危ない・・・じゃお願いね」


「ちょっとエリン!・・・もう・・・知らないからね!」


ジケット達の助太刀に行くエリンの背中を見てペギーも覚悟を決めた


杖を介して発動しないならばと杖を地面に突き刺し、両手を広げてイメージした


『フェニックス』は上級魔法の中でも高位になる。放った後も操れる便利性に加えて高威力でもあり一度だけだが再び飛翔する


その為にマナの消費量も多く更に二度目の飛翔を終えるまで他の魔法は使えず術者も『フェニックス』の操作に集中しなくてはならない為に無防備となってしまう


辺りに魔獣がいない今がチャンスとばかりに本来ペギーを守るべきタンカーのエリンはジケット達の援護に回る


ペギーもそれを理解してこれで決めてやるという強い意志の元、頭上に『フェニックス』を舞い上がらせた


「・・・これで倒す!」


ジケット達がオーガの注意を引き付けている間に完成させた『フェニックス』


みんなの努力を無駄にしないとペギーは狙いを定めその時を待つ


が、オーガは『フェニックス』の存在に気付いた途端に動きを変えた


これまで集るハエを落とすが如く振っていた棍棒を地面に叩きつけそのまま手を離す


急に動きを変えられた事により反応が遅れたエリン・・・オーガはニヤリと笑うと素早く動きその頭を鷲掴みし片手で持ち上げる


それはさながら盾・・・オーガは人間の盾を手に入れ掲げると『フェニックス』へと向けた


「そんな!」


「ペギー・・・撃って・・・」


「エリン・・・出来ない・・・出来ないよ・・・そんな事・・・」


掠れた声で訴えるエリンに対して首を振るペギー


ジケット達が何とかエリンを救おうとするがオーガには効かなかった


そして・・・オーガはゆっくりと歩き出す


この中で唯一自分を脅かす可能性のあるペギーの元に


「ペギー!逃げっ・・・ガッ」


捕まっているエリンは自分よりもペギーの心配をするがそれを言わせまいとオーガが力を入れる。まるで逃げたら握り潰すとでも言うように


ペギーは動けずオーガの接近を許しとうとう目の前までやって来る


震えながらペギーはオーガを見た


完全に人間を見下した目、大口を開けて覗かせる牙、鼻の上にある火花・・・


「・・・火花?」


「そこの女!耳を塞げ!」


背後から突然声がして反射的に耳を塞ぐ・・・が、どうやら『そこの女』とはペギーの事ではなくオーガに捕まっているエリンを指すものだった


エリンの頭の上・・・オーガの顔付近で爆音を鳴らし火花が弾ける


「だから耳塞げって言ったのによぉ・・・って聞こえねえか」


「あったり前でしょ!離れているニーニャですら耳がキーンだよ!」


ペギーの背後で喧嘩をする2人をよそに目の前で激しい音を鳴らされたオーガはエリンの首を掴んでいた手を離していた。地面に落ちたエリンを素早くジケットが救出しその場を離れる


「良かった・・・ありがとうござ・・・え?」


初めて見る魔法だがきっと後ろにいる人達の仕業だろうと振り向き頭を下げた時、一瞬見えた顔には見覚えがあり思考が停止する


「あれぇ?よく見たら受付にいた子じゃん!冒険者になったのぉ?まっ、とりあえずその物騒な魔法はしまっていいよぉ」


「馬鹿だな・・・これは魔法じゃなくて奇術だ・・・そうだろ?姉ちゃん」


「え・・・あ・・・『ブ・・・」


「アハハッ、覚えててくれたんだぁ!でももう『ブラックパンサー』じゃないよ・・・今は『タートル』のニーニャ・・・よろしくね」


「堂々と名乗ってんじゃねえよ・・・まっ、俺とお前は顔バレしちまってるから別にいいけどよ・・・てか相手はオーガかよ・・・強いの?アレ」


「知らん!」


組合『タートル』のニーニャ、オード、ヘガンの3人が前に出る


ニーニャはペギーとすれ違いざまに頭をポンポンと叩きウインクすると頭上に未だ存在感を見せつける『フェニックス』を指さした


「って事でニーニャ達が殺るから、ねっ」


ニーニャが何を言わんとしているのか理解し素直に頷くと発動したままの『フェニックス』を解除した


その様子を見て満足気に頷くとニーニャは腰に差していた2本の剣を同時に抜きオーガに向けた


「さーて、お仕置の時間だよ!──────」





マホは怪鳥を倒す為に覚悟を決めた


ケン達の制止を振り切り怪鳥に近付くとストックしてあったものを放つ



それは『零式・風喰い』



マホは何をストックしておくべきなのか考えた結果、パーティーに足りないものを選択したのだった


ケンは剣と盾で前衛を1人でこなし、スカットは遠距離から相手を翻弄する。ヒーラは回復魔法とパーティーの強化。魔法使いのマホは後衛アタッカーとして魔法で攻撃する


その中で足りないのは圧倒的な火力


もし誰の攻撃も通じない魔物が現れた時、そして逃げる事も出来ない時に必要となるのは火力だと判断したのだ


窮地を脱するほどの火力を持つ者はパーティーにはいない。だが、運良く知り合いにその火力を持つものがいた


それがサラだった


サラは快く承諾してくれて自分の持つ最大火力の技『零式・風喰い』を杖の中に注入してくれた


ただ『零式・風喰い』を使用するにあたって問題があった


それはストックした『零式・風喰い』は相手に触れないと意味がないということ


杖先でもいいとは言え魔法使いのマホにとって杖先が魔物に触れる距離に近付くなど危険極まりない行為だった


そしてもし万が一・・・『零式・風喰い』に耐えるような魔物に対して使用してしまうとその後は無防備になり攻撃されてしまう可能性が非常に高くなる


なので一撃必殺・・・その条件下でのみ使用すると決めていた



だが・・・マホは覚悟を決めていた



怪鳥に背後から忍び寄り『零式・風喰い』を放った


すると怪鳥は体全体を震わし倒れる寸前まで傾いたが三本指の足を地面に突き立て何とか堪える


そして予想外のダメージを与えてきたマホを睨むと怪鳥はクチバシを空へと向けた


それを見てマホは彼女の居場所を確認すると持っていた杖を放り投げる


受け取ったのはスーザン


彼女はすぐにその杖をマドスに渡しすぐにこの場を離れて放てる最大の魔法をその杖に込めろと伝えた


怪鳥の近くで魔法の詠唱を始めれば怪鳥に気付かれ攻撃されるのは目に見えていた。なので『零式・風喰い』が万が一効かなかった時・・・杖をマドスに渡して怪鳥に気付かれない距離で魔法をストックするようスーザンと打ち合わせしていたのだ


「あー・・・カッコつけたけど・・・その時になるとやっぱ怖いな・・・」


空に向けたクチバシが陽の光を遮り影となる


ただの影だがマホにとっては暗闇に感じられた


何も見えないほどの暗闇に


だが、その暗闇の中でもう一つの影が割り込む


その背中は何度も見た背中


「バカ!なんで・・・」


「一応これでもアタッカー兼タンカーなんでね」


たとえ剣を盾に変型させたとしても怪鳥のクチバシは防げないだろう


それはケンも重々承知だった


それでも目の前で仲間が殺されそうになるのを黙って見過ごす訳にはいかなかった


迫り来るクチバシ


固い地面を難なく貫通するクチバシだ・・・2人諸共串刺しになるのは目に見えていた


2人は同時に目を背け運命を受け入れる・・・が、そのクチバシは何故か2人のすぐ横の地面に突き刺さった


「え・・・どうして・・・ねえケン・・・っ!?」


マホは状況が飲み込めずケンに尋ねようとして顔を向けた瞬間、ケンの様子がおかしい事に気付いた


そしてケンの背中越しに人影が・・・


「ハズン、ジーナ・・・この鳥をお願い」


その人影は呟くと微笑みながら振り向いた


「タンカーの真似事?なら攻撃は真っ直ぐに受けないで斜めに受けないとね・・・ケン」


マホはその声を聞き懐かしいと思う反面苦しくなる


だがケンはそのマホの気持ちも知らずに震える声で呟いた


「・・・シル──────」

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