22階 色
4つの命を奪った次の日・・・僕は具合が悪いと言い仕事を休んだ。ヘクト爺さんには申し訳ないがとても人前に出れる顔ではなかった
《だから別の方法を取れば良かったのに》
「僕もそう思う・・・けど思ったよりは平気かも。トドメを刺した直後はひどく後悔したけど今は落ち着いてるし・・・」
部屋に戻ってから一睡も出来なかった・・・目を閉じると脳裏に奴らの顔が浮かぶから・・・それに何か別の事を考えようとしてもどうしても奴らのことを考えてしまうから・・・
ところが時間が経つにつれてどうでもよくなる
人を殺したというのに、だ
もっと何日も気持ちが沈むかと思ってたけど・・・実は僕・・・人殺しの才能があったとか?
《それにしても・・・溜めたマナを惜しげも無く使ってくれたわね。もう少し抑えても余裕で倒せたでしょ?》
「そう言うなよ。僕も必死だったんだ・・・それにスラミ達では試せない事もあったし・・・」
全ての魔法や魔技を使えると知ったのはスラミ達と訓練をしている時だった。マナに余裕が出来たのでドキドキしながら魔法や魔技を使ってみると拍子抜けしてしまう・・・今までが嘘だったように簡単に魔法や魔技が簡単に出せた
「そう言えばダンコ・・・僕の適性って結局何なの?」
《全部よ》
「全部・・・それってダンコの影響?」
《そうなるわね。ダンジョンコアに適性なんてないもの・・・だから私が影響してアナタの適性はなくなった・・・全然使いこなせてないけどね》
「うっ・・・仕方ないじゃないか・・・人との実戦は初めてだったし・・・」
《もっと上手く使いたいなら色を意識するといいわ》
「色?」
《人間が適性と呼んでるものよ。基本の色は黒白赤青黄の5つ。黒が変化、白が再生、赤が操作、青が強度、黄が強化よ》
「???」
《マナは無色透明・・・そのマナをどう染めるかによって発揮する力が違うの。そして魔物も人間も使える色が決まってる・・・稀に何色か使える者もいるけどね》
「ああ・・・なるほど・・・そういう事か・・・」
変化は魔法・・・マナを火や水に変化させる
再生は回復・・・マナを使って体を再生させる
操作は・・・操作?
「操作って何?マナを操る・・・ああ、スカウト?」
《違うわよ。赤の操作はアナタ達で言うところの近接アタッカーの適性よ》
「は?・・・操作が?」
《武器にマナを纏ったり放ったりしてるでしょ?あれ操作だから》
意外・・・なんかイメージと違う・・・
「じゃあ強度は・・・タンカー?」
《そうなるわね。体の強度や防具の強度を上げてるでしょ?》
「となると・・・スカウトは強化か・・・なんかこれも・・・」
《人間が勝手に括ってるだけよ。自ら可能性を狭めるなんて愚かなものね。まっ、もしかしたらそれが最大限に力を使える方法かも知れないけど》
「と言うと?」
《これもあれも出来ると考えちゃうと散漫になるでしょ?ただでさえ人間はマナの量が少ないから『色々出来る』じゃなくて『これしか出来ない』と考えた方が極められるかもって思っただけよ。事実魔物は本能で後者を選択してるしね》
魔物が?・・・本能でって事はそれが一番効率がいいと体が勝手に判断してるのかな?
「僕は全部使えるって事は・・・何色なんだ?」
《無色》
「・・・マナと同じ?」
《そういう事。何色にも染める事が出来る・・・だから漠然とマナを使うとどうしても威力が落ちちゃうの。例えば魔法を使うなら『マナを変化させる』と意識して使うと効率も威力も段違いよ》
「なるほど・・・魔法を使った時は授業で教わった通りにやったら出たって感じだったけど、そうじゃなくてマナを変化させるって意識するのか・・・」
《そそ。人間が詠唱するのはマナを変化させているのよ?イメージ通りの形に変化させて放つから魔法は詠唱が必要なの。でももし・・・常にイメージしてたら?》
常にイメージ・・・そうか・・・
「詠唱が要らない!つまり無詠唱で魔法を放つ事が出来る!」
《正解。もちろん変化する時間は必要だけど『イメージして変化させる』から『変化させる』と省略出来るだけでもかなり違うわ。マナの量も威力もね》
「どうして?」
《変化させる際のロスがなくなりマナの量が減る・・・それに鮮明にイメージすればするほど威力は上がるの・・・例えば武器を作る時にイメージが鮮明じゃないと歪に武器が出来たでしょ?でも絵に描いて鮮明にイメージしたら・・・ね?》
確かにただ頭の中で浮かべて作った武器は酷かった・・・逆に絵に描いた後でそれを見て作った武器はイメージ通り・・・そういう事か
それにしても・・・
「なんで今まで教えてくれなかったんだ?もし教えてくれてたら・・・」
《あのねぇ・・・ダンジョンコアが自ら戦うと思う?普通は何かする時は魔物を創ってやりせるの!自ら危険に晒す事なんて必要ない・・・いえ、やるべきじゃないのよ。何せダンジョンコアが壊されたらダンジョンは消えてしまうから・・・だからロウには危険な目には合って欲しくない。アナタは私でもある・・・つまりダンジョンコアなのだから・・・》
「・・・それなのに今教えてくれたのは?」
《どうせアナタは私が止めても聞かないもの。だからどうせ危険な目に合うのなら強くなって欲しいと思っただけよ。誰にも負けないくらいにね》
「誰にも・・・負けない・・・」
《ダンジョンが大きくなればアナタも強くなる・・・100階くらいになったら誰にもアナタに勝てないわ。けどそれまでの間に死んでしまったら元も子もないでしょ?強くなりなさい・・・誰よりも・・・多分それがダンジョンをより大きくする・・・今はそんな気がするの》
誰よりも強くなれ
ダンコはダンジョンと自分を守る為にそう言ったのだろうけど・・・強くなれるのだったらなんでもいい・・・強くなってみんなを守る・・・魔物を創ってる時点で矛盾してるかも知れないけど・・・昨日のような理不尽から守るんだ・・・僕のダンジョンで勝手は許さない!
「・・・なんかスッキリしたよ・・・マナの事もだけど、これから僕がどうするべきか分かったような気がする」
《どうするべきかって・・・アナタはダンジョン経営に集中しなさいよ。だから門番なんて辞めてさっさと・・・》
「門番は辞めない。だって村に変な奴が来たらすぐに分かるだろ?門番しながらでも監視は出来るし・・・声は聞こえないけどその辺はダンコが教えてくれればいいしね。・・・なんかスッキリしたらお腹が空いてきた・・・」
《何よそれ・・・心配して損したわ・・・》
「心配してくれたの?」
《ええ・・・何せアナタは私だからね。そりゃ心配もするわ》
「・・・そういう事にしとくよ。さ、着替えて飯食って・・・お仕事といきますか」
《休んだんでしょ?》
「あいにくふたつ仕事を抱えててね。もうひとつの仕事は休ましてくれないんだ・・・上司がうるさくてうるさくて・・・」
《・・・上司って・・・私?》
キョトン声を出すダンコを無視して僕は着替えると空っぽになった胃袋を満たす為に外に出た
運良く兵舎には誰も居らず見つからないで外に出れた僕が向かった先はギルド近くにある例のお店・・・どんどん店が出来ていくのでとうとう店に名前を付けたらしい
その名も『ダンジョン亭』
なんだか微妙なネーミングだ・・・この前ダンジョン亭に来たのは確かペギーちゃんと・・・うっ、思い出すんじゃなかった。あれから気まずくてここら辺に近付かなかったからな・・・
店を覗いて見ると昼時という事もあり大盛況だった。客は冒険者がほとんどだったのに今や村の人もちらほら・・・家で食べなよ家で
「おひとり様ですか?あいにく混んでますので相席でもよろしいでしょうか?」
「はい」
とにかくお腹が空いたので相席でもなんでも・・・と思って座った正面には・・・
「なんだロウ、サボりか?」
オッサンA!
ダンジョンの入口に立ってる時に色々イチャモンつけてきたオッサンAと相席に・・・今更席を立つ訳にもいかないし・・・ううっ、最悪だ
「・・・休みです・・・」
「おーお、ヘクト爺さんは休まず働いてるってのに気楽なもんだな?」
黙れオッサンA!こちとら色々大変なんだよ!・・・とは言えず適当に返事を返して店員にいつもの料理を頼んだ
料理が来るまでも嫌味ったらしい事を繰り返すオッサンA・・・このオッサンは僕になんの恨みがあるんだ・・・
料理が運ばれて来てさっさと食べて店を出ようとガッツいていると、後ろのテーブルにも客が座る
チラリとその客を見て思わず口の中の肉を吹き出しそうになった・・・後ろの席についたのはサラさん達だったからだ
「サラ姐さん何かありました?」
サラ・・・姐さん??
キョロキョロするサラさんにファーストパーティーの・・・確かケンと言われてた剣士が尋ねる・・・てか姐さんってなんだ??
「いや・・・なんでもない。私は初めてだからオススメのものを頼んでくれ」
「了解です!ここの肉が美味いんすよ!絶対気に入ると思いますよ?」
聞く気はないのに耳に入ってくる・・・てかもうかなり回復したんだな・・・良かった
せっかく回復魔法も使えるのだから僕も解毒を覚えといた方がいいな・・・麻痺毒があんなに危険なんて思いもしなかった
「・・・そう言えばサラ姐さん・・・最初に組まないかって言ってくれた時に理由がふたつあるって言ってましたよね?個人的な理由って言ってましたけど結局その理由って何なんです?」
組む?ファーストパーティーとサラさんが?そっか・・・サラさんのパーティーは・・・
「ん?ああ・・・かなり個人的理由だしな・・・」
「教えて下さいよ!同じパーティーの仲間じゃないですか!」
「・・・ローグ様を探したい・・・」
!?・・・ローグ様!?ローグって・・・僕の事だよね?なんで探そうと・・・
「ローグ・・・ああ、サラ姐さんを助けたあの仮面・・・お礼でも言うんですか?」
「あの時はすぐに意識を失ってしまったのでな。礼が出来なかったのは悔やまれる・・・だが礼は当然として・・・その・・・」
礼なんていらないのに・・・
「ああ・・・サラ姐さん義理堅いから口だけのお礼じゃなくて何か渡したいとかすか?」
「・・・そ、そんな感じだ・・・いや、渡すは違うか・・・」
え?ちょっと気になる・・・いや、受け取るつもりはないけど・・・
いつの間にか聞き耳を立てて聞いているとオッサンAが不審がって僕を見ていた
僕は盗み聞きしているのがバレると思い、聞いてないフリをして肉を口に運ぶと・・・
「何です何です?渡すじゃないって・・・」
「う、うむ・・・・・・その・・・・・・求婚しようかと・・・」
思わず口の中で咀嚼中の肉を吹き出した
肉は放物線を描きオッサンAの顔面に見事着地・・・その瞬間にオッサンAの額に血管が浮き出る
「はあ!?」
驚きの声をあげるファーストパーティー達
オッサンの顔からずり落ちる食いかけの肉
「すみませんすみません」
オッサンAの顔面をテーブルに置いてあった布巾で拭きながら混乱する僕
求婚??え?・・・求婚???
「・・・やはり尽くそうとしてるのに求婚はおかしいだろうか?ならば性奴隷にして下さいの方が・・・」
「ダメー!!」
再び叫ぶファーストパーティー達
その声に驚き手が滑ってしまう
「あ・・・」
驚きのあまり布巾越しに指が2本鼻の穴にイン!『フガッ』と呻き仰け反るオッサンA
そんな事より性奴隷って・・・サラさんは一体何を・・・
「・・・ロウニ~ル~・・・」
「サラ姐さん!助けてもらって求婚もおかしいけど性奴隷って・・・」
「そ、そうか?では尽くすにはどうすれば・・・」
「尽くさなくていいですって!助けてもらった礼を言えばそれで全然・・・仮面の男もそこまで求めてないですって!」
「そうよ!そんなんで結婚とかその・・・せ、性奴隷とかになってたら冒険者なんてそれだらけになっちゃうわ!」
あ、当たり前だよ・・・もし助けられたら性奴隷にならなきゃいけないなんて事になったら・・・てかサラさんってスタイル抜群だよな・・・めっちゃ美人だし・・・
《・・・ロウ?・・・》
後ろ姿のサラさんをチラリと見て生唾飲み込んでいるのがダンコにバレた!いや、決して性奴隷を望んでる訳じゃ・・・
「・・・ロウニ~ル~・・・いい加減に・・・」
「え?」
忘れてた!
ビックリして鼻の穴に入ってた指が更に奥深くイン!再び呻き仰け反るオッサンAを見てヤバいと感じ勘定を置いて店の外に逃げてしまった
当分あの店には行けないな・・・それとオッサンAに遭遇しないようにしなくては・・・
早く別の店が出来る事を願いながら僕は人気のない場所に向かいゲートを開きダンジョンに向かうのであった
「それで?しっぽを巻いて逃げて来た、と?」
「ですが頭!」
「組合長と呼べって言ってんだろ!・・・まあいい・・・にしても『風鳴り』か・・・邪魔だな・・・」
「・・・殺りますか?」
「Bランクだ・・・下手すりゃこっちが殺られる」
「ならエモーンズは『風鳴り』が居なくなるまで・・・」
「いや、他に組合が出来ちまったら独占が難しくなるから・・・・・・俺に考えがある・・・殺さないで自ら『風鳴り』に退場してもらおうじゃねえか・・・なあ、お前達!」
エモーンズに・・・不穏な空気が流れこもうとしていた




