21階 組合
「まさかサラさんがあの『風鳴り』とは・・・ビックリっす!」
「そんな大袈裟なものではない」
「いえいえ超有名っすよ!なあスカット」
「ああ・・・しかも噂に違わぬ・・・」
「んんっ!もうその辺にしときなさいよ!サラさんが困ってるでしょ!」
「そうですよ。まだ傷も癒えたばかりなので安静にしなくては・・・」
昨日から今の今まで色々あった
今は若い・・・と言っても私と1歳くらいしか変わらないけど・・・彼らと今後の事について話をしていた
「そうだな。サラさんが平気になるまで俺達でダンジョンに潜っておくか」
「私なら大丈夫だぞ?なんなら今からでもな」
「え?どんだけタフなの・・・」
「別に怪我をした訳でもないし毒はヒーラが解毒してくれたし・・・早く恩を返したくてウズウズしてるくらいだ」
「恩って俺達は特に何も・・・それどころか逆に助けてもらったっていうか・・・なあ?」
「ああ・・・まさか俺らが狙われてるとはな」
「狙われてたと言うか目をつけられてたと言うか・・・あんなのは助けた内には入らない。私も前にああいう輩がいると聞いてたので気付いただけだ」
彼ら・・・ケンとスカット、それにマホとヒーラは奴らに狙われていた可能性が高い
ラウル達は高ランクの冒険者を騙し討ちする奴らだった
ケン達を狙っていたのはその逆・・・低ランクの冒険者を罠に嵌めようとする奴らだ
もう嗅ぎつけるとはな・・・ハイエナ共め
「あのような人達はギルドで取り締まれないのですか?」
「無理だな。奴らは何もしていない・・・まだ、な。しかも証拠も残さないらしく何かしたとしても捕まえるのは難しいらしい・・・関わらないのが一番いいのだが・・・」
「組合・・・でしたっけ?」
「ああ・・・中には良心的な組合もある・・・それだけに国も何も出来ないでいる・・・」
この事を私に教えてくれた人・・・ガゾスは奴らの事をこう呼んでた
『闇組合』
奴らの存在に気付いたのは今日の朝、ケン達とギルドに行った時の事だった──────
ラウルに麻痺毒を飲まされていつの間にか意識を失ってた私は目が覚めるとケン達が私の顔を覗き込んでいた。ぼーっとしながら受け答えしていると徐々に意識が回復し・・・
「・・・ギルドに報告しなきゃ・・・奴らが・・・」
「ちょ!まだふらついてるし明日にしなよ!入口に立ってる兵士に伝えておけば逃がさないだろうし・・・とりあえずもう遅いし今日は宿に泊まって明日行こう?私達もついて行くし!」
マホがギルドに向かおうとしている私を止める
今の状態で、もしラウル達に遭遇したら・・・そう考えてその場は彼女の意見に従い宿へと向かう
だが当然ラウル達が戻ってくれば宿を探すはず・・・この村に宿屋はひとつしかなく、探すのは容易い。それは彼らも分かっていたようでマホとヒーラと私・・・3人でひとつの部屋に泊まることになった
追っ手が来るかも知れないと断ったのに強引に・・・
次の日の朝、全ての機能が回復した私は改めて4人に礼を言うと昨日起きた出来事を細かく説明した
「・・・あの怪しい仮面の言ってる事は本当だったのか・・・」
「確かに怪しかったわね・・・ローグだっけ?仮面も取らないし言動もちょっと変だったし・・・」
「それでもサラさんを助けたのは間違いないですし・・・怪しかったですけど」
「ああ・・・怪しいな・・・俺にとても似てたし・・・」
「スカット・・・あんた自覚あったのね・・・」
どうやら私を助けてくれた方・・・ローグ様はケン達には不評らしい。でもあまり怪しい怪しい言わないでもらいたいものだ・・・
「あー・・・という訳で今からギルドに行きこの事を伝えて来る。ダンジョンにずっと潜ってもいられないだろうしすぐに捕まるだろう。私も同じヘマはするつもりはないから奴らに出会しても問題ないが・・・どうだろう?しばらく私と組まないか?」
「え?何で・・・」
「理由はふたつある。ひとつは君達が危険かも知れないからだ。もしかしたらラウル達の誰かが君達と私が接触しているのを見ていたかも知れない・・・奴らは人を騙してDランクまで上り詰めた・・・捕まるまでは用心に越したことはない。私もそれなりに腕に覚えがあるからダンジョンで奴らや魔物に遭遇しても君達の助けになれると思う・・・ふたつめはまあ個人的な理由だ」
「サラさん・・・いえ!大丈夫!俺達だってそれなりに経験あるし・・・そんな奴らに負ける気なんてしない・・・なあ?お前ら!」
「そうね・・・6階に行けるパーティーの人となら確かにダンジョン攻略は楽になるだろうけど・・・私達は私達のペースで行くわ。それにそのDランクの奴らなんて逆に私の魔法でけちょんけちょんにしてやるわ!」
「サラさんはまだ無理をされない方が・・・私達は平気ですから」
「マジかよ・・・い、いや、そうだな。うん・・・マジか・・・」
1人異様にガッカリしてるが・・・どうやら余計なお世話だったらしいな。いいパーティーだ・・・私もこんなパーティーを見つけられていたら・・・
「・・・そうか。何かあったら気軽に言ってくれ。私はしばらくこの村に居るつもりだしまだ恩を返せてないからな」
「恩なんて・・・たまたまあの場に居ただけだし・・・それよりギルドまで一緒に行かないか?今日もダンジョンに行こうと思ってたからさ」
「・・・ああ、では早速行こうか」
そして私達は冒険者ギルドに向かった
ギルドに着くとケン達はダンジョンの手続きを、私は昨日あった事をギルドに伝えていたその時・・・妙な視線を感じた
「あのー・・・それでその人達は・・・」
「あ、ああ・・・まだダンジョンから出て来てないようだ。もしかしたら悪事がバレたとダンジョンに潜んでるかもしれない。これからダンジョンに入る者には注意するように伝えといてくれ」
「はい!ギルド長にもすぐに・・・」
ギルドの受付嬢が話を続けてる最中、私は視線を滑らせる
アイツか・・・見ているのは私ではなく・・・ケン達
「すまん、視線を動かさずに答えてくれ。入口付近で椅子に座りこちらを見ている男はいつもギルドに居るのか?」
私が小さい声で囁くように言うと受付嬢は一瞬えっと驚いた顔を見せたがすぐに平静を取り戻しこくんと小さく頷く
「続けて質問だ。奴は冒険者・・・特に低ランクの冒険者が受付に来た時にこちらを見てるのではないか?」
「・・・まだ当ギルドにはランクの高い方がいらっしゃらないので確実な事は言えませんが・・・昨日サラさん達が来た時も居たのですが見てなかったと記憶してます。いつも見ていたのにと違和感を感じてたので覚えていました」
この受付嬢は頭の回転が早いな。私に合わせて声を小さくし視線を決して男に向けず的確に答える
にしても・・・動きが早いな・・・奴らは
私は振り返り真っ直ぐに椅子に座りこちらを見ていた男の元へ
男は慌てて視線を外し何食わぬ顔をして立ち上がろうとするがそうはさせじと入口側から回り込み男の正面に立った
「・・・初めまして。私を仲間に入れてくれないか?」
「は、はあ?いきなり何を・・・頭おかしいんじゃないか?」
「なに・・・仲間に入れて欲しそうな顔をしていたのでな・・・逆に私が入ってやろうかと・・・それともお前の『組合』は都合のいい冒険者しか仲間に入れてくれないのか?例えば言う事を聞くような低ランク冒険者とか・・・」
私がそう言うと男の表情が見る見るうちに変わっていく
「・・・あまり調子に乗るなよ・・・『風鳴り』」
「今の会話で調子に乗ってると判断されると困るな・・・態度を改めるつもりは毛頭ない・・・特にお前達に対しては、な」
「くっ・・・覚えてろ!」
男は私を睨みつけた後ギルドから出て行った
これで諦めるような輩じゃないだろうしケン達には気を付けろと・・・
そう思い振り向くと全員が私を見て口をポカーンと開けていた
「どうした?『組合』がいた事に驚いているのか?」
「いや・・・サラさんって・・・あの『風鳴り』・・・だったんすね」
そっちか・・・そう言えば正式には名乗ってなかったな
「恥ずかしながらそう呼ばれている。私の名はサラ・セームン・・・二つ名『風鳴り』と呼ばれる冒険者だ──────」
それからギルドを出て適当な空き地に移動し『組合』について私の知る限りの事を教えた
みんなはその話を熱心に聞き、全てを聞き終えた後でケンは私に頭を下げ一時的に仲間になってくれないかと頼んで来た
どういう心変わりか尋ねると彼は・・・
『そういう知らない事でみんなが傷付くのは嫌だ。さっき断った手前都合のいい事を言ってるのは分かってるが・・・俺達に冒険者ってやつを教えて欲しい・・・サラさんの知ってる事を・・・』
いいリーダーだ。私は断る理由はないと一時的に彼らのパーティーに加わり今に至る──────
「でも・・・なぜその『闇組合』が私達に目を付けていると気付いたのですか?」
「私が聞いた話によると『闇組合』はまだ冒険者になりたての者を狙う。その方が御しやすいからな。あの男はそれなりの腕を持つ雰囲気があった・・・そんな男が仲間も連れずにギルドで冒険者を物色するというのはおかしいと思っただけだ」
まだダンジョンが出来て間もないこの土地なので『闇組合』にとっては入り込みやすいのだろう
『組合』はそもそも冒険者を助ける名目で作られた。パーティーを組めない冒険者や怪我で一時的に離脱したりした時に組合に加入していると助っ人を貸し出してくれる。加入した者は寄付と称していくらか毎月払うのだがそれに目を付けた奴らがまだ経験の浅い冒険者を騙し奴隷のようにこき使い最終的には死に至らしめる・・・どういう理由で死に至らしめるのか不明だが一旦加入したら地獄のような日々を送る事になると聞いたからもしかしたら抜けたいと言ったら殺されるのかもな
「どの組合がヤバイなんて分からないから入らないのが一番の対策か・・・」
「そうなるな。だがこの村に長く滞在すると決めたのなら組合に入った方がいいかも知れない。これから村が発展し冒険者ギルドが大きくなり人も増えた時、誰しもが何らかしらの組合に加入しているのにケン達だけ入ってないと肩身の狭い思いをする事になるからな」
「うへぇ面倒くさい・・・いっその事サラさんが組合を作ってくれればいいのに・・・そしたら即加入するっすよ!」
「私はそんな器ではないよ。まあまだ当分先の事だし出来たばかりの組合に焦って入らなければ問題はないと思う・・・とまあ話はここまでにしてこれからどうする?ダンジョンに入るのなら私もギルドに申請して来るが・・・」
ケン達はもう既に入場料を払ってるからな・・・ダンジョンに入らないと勿体ない。私は報告してそのまま出て来たから一度ギルドに戻らねばならないが・・・
「なら一緒にギルドまで戻らないッスか?ちょっと俺・・・腹減っちゃって・・・」
「そうだな。それだったら食事をしてからギルドに寄ってダンジョンに行くとするか」
「はい!サラ姐さん!」
「・・・姐さん?」
「へへっ、何となく・・・」
「・・・勝手にしろ。では行くか」
なんだかんだとやっていたらいつの間にか陽はかなり高くまで上がっていた。もう昼間・・・私のお腹も食を求めてキュゥと小さく鳴る
移動しギルドの横にある店に入ると5人で席に着いた
店は昼時ということもあり少し混んでいてその人混みの中にラウルが居ないか思わず店の中を見回した
「サラ姐さん何かありました?」
「いや・・・なんでもない。私は初めてだからオススメのものを頼んでくれ」
「了解です!ここの肉が美味いんッスよ!絶対気に入ると思いますよ?」
ケンはメニューも見ずに店員に料理を注文した。どうやら行きつけの店らしい・・・全員同じものを頼むと言う事は相当美味しいのだろう
「・・・そう言えばサラ姐さん・・・最初に組まないかって言ってくれた時に理由がふたつあるって言ってましたよね?個人的な理由って言ってましたけど結局その理由って何なんです?」
「ん?ああ・・・かなり個人的理由だしな・・・」
「教えて下さいよ!同じパーティーの仲間じゃないですか!」
「・・・ローグ様を探したい・・・」
「ローグ・・・ああ、サラ姐さんを助けたあの仮面・・・お礼でも言うんですか?」
「あの時はすぐに意識を失ってしまったのでな。礼が出来なかったのは悔やまれる・・・だが礼は当然として・・・その・・・」
言うべきか・・・いや・・・ううむ・・・
「ああ・・・サラ姐さん義理堅いから口だけのお礼じゃなくて何か渡したいとかッスか?」
「・・・そ、そんな感じだ・・・いや、渡すは違うか・・・」
「何です何です?渡すじゃないって・・・」
「う、うむ・・・・・・その・・・・・・求婚しようかと・・・」
「はあ!?」
ケン達が大声を上げて客全員の注目を集めてしまった。後ろの席の者など咳き込む始末・・・だって仕方ないじゃないか・・・私の命は完全に尽きかけていた・・・それを救ってくれたのは間違いなく彼・・・ローグ様だ。なら私は何を返せばいい?命を助けてもらった礼など物で返せるものではない・・・だから・・・私は一生彼に尽くす・・・もし既婚なら妾でもいいし奴隷でも・・・
「・・・やはり尽くそうとしてるのに求婚はおかしいだろうか?ならば性奴隷にして下さいの方が・・・」
「ダメー!!」
マホの叫びに再び注目を集めてしまう
どうやら私は世間と少しズレてしまっているようだ




