234階 弱い者イジメ
「ハッハッハッ!貴族をぶん殴って死刑囚となり果ては剣奴となっていたとは・・・お前の弟子らしいじゃねえか!ギルドにスカウトしてぇくらいだ」
「笑い事じゃありません・・・それで衛兵への復帰は・・・」
「ケインには話しておく。一度死刑宣告を受けたら名を失う・・・つまり死んだも同然だ。国も剣奴の件はあまり深く掘り下げられたくないだろうから街の衛兵に復帰したところでとやかく言っては来ないだろう。ケインもまあそこまでケツの穴の小さい奴でもねえし・・・」
「ケツ・・・とにかくお願いします。ロウニールには明日にでも顔を出すよう伝えておくので」
「ああ・・・それよりも・・・本気なのか?」
「はい。ローグも納得してくれると・・・」
エモーンズに戻り真っ先に向かったのはギルドの2階にあるギルド長室
そこでフリップにロウニールの衛兵への復帰の手助けと『ダンジョンナイト』解散を願い出た
もう限界だった
ローグ不在の中、しばらくはエリンとジェファーと共にやりくりしてきたが元々はダンジョンナイトことローグがいたからこその『ダンジョンナイト』・・・求心力を失った組合は勢いのある新組合『エモーンズシールダー』には勝てず衰退の一途を辿っていた
1人2人と組合を抜け新組合に加入する冒険者達・・・決定打となったのは私の身勝手な行動だろう・・・ロウニールを探す目的で街を出ている間に『ダンジョンナイト』に残った数は8人だけだった
「ローグの奴も戻って来るのだろう?だったらそれを待っても・・・」
「時間が経てば最後まで残ったケン達とジケット達の印象も悪くなります。この街で冒険者を続けるなら『エモーンズシールダー』に入るのが良いかと思いますし・・・」
「お前さんはどうするんだ?今更新組合に属するとは思えないが・・・」
「この街には愛着ありますし仲間と呼べる者もいます・・・弟子もいることですししばらくはこの街に滞在しようかと・・・」
「『しばらくは』か・・・それこそこのままギルド職員になっちまうか?俺としては色々と助かるんだが・・・」
「考えておきます。ですが・・・」
「意思は固いか。しばらくの後何をするつもりだ?」
「まだ決まっていません。もしかしたら残るかもしれませんし・・・」
ガゾス達と出会い風牙扇を手に入れた後、私は思い通りに生きてきた
様々なパーティーに助っ人として加入しようやくここエモーンズが安住の地となるやもと思っていたが・・・なかなか上手くいかないな
ここに残るという選択肢もある・・・が、それでは私の精神が保たない・・・期待して期待して期待して・・・誰にも見向きもされなくなった頃に答えが出ると言うのならいっそう自ら引くのが最善・・・他に誰かを好きになる可能性もなくはないがそれはこの街では・・・・・・なぜあの顔が浮かんでくる・・・
「・・・何やってんだ?頭の上に虫でも飛んでいたのか?」
「いえ・・・虫ではありません」
「だったら何だよ・・・まあいい。それよりこの後ロウニールの帰還祝いみたいのやるんだろ?これを持ってけ」
そう言って渡されたのは1金貨・・・ああ、何か買って行けって事か
「あいつら動物みたいにガツガツ食うからな・・・それでも足りるかどうか・・・」
「動物でもありません」
「あん?」
「いや、何でもありません。それではありがたく頂きます」
ハア・・・シシリアちゃん可愛かったな・・・私も子供が・・・欲しい──────
「やっぱり解散・・・ですか」
「ええ・・・ローグを待つつもりだったけど次を考えると・・・ね」
せっかくのお祝いに水を差すつもりはなかったけど現状は予想以上に酷かった
ギルドに入った時の私への視線は非難を含めた敵対心・・・どうやら向こうの組合長はとっとと『ダンジョンナイト』に消えて欲しいと願っているようだ
奴らの思い通りになるのは癪だけどこのまま敵対心を煽ればこの街には居られなくなる・・・ケン達はまだしもこの街の出身であるジケット達にはそれはあまりにも酷だろう
「はぁ・・・ダンの野郎が帰って来なけりゃなぁ」
「まっ、仕方ないよ・・・けどアイツの組合に入るのは御免だね」
「そうだな」
「副長の地位もおしまいか・・・身の丈に合ってなかったから気は楽になるけどさ」
「俺達はどうする?街を出るか?」
「慣れ親しんだ街だけどね・・・さすがに組合変えてまでは・・・」
「俺は歓楽街がある街ならどこでもいいぜ?」
「1度村に戻りますか?スカットを置いて」
「・・・寂しくなるなぁ・・・」
やはり『エモーンズシールダー』に入るという選択はない、か。ジケット達にとっては組合長が同期だし居づらいと感じるのだろうか・・・ケン達は無理に残る理由もない・・・ペギーの言葉ではないがやはり寂しさは感じてしまう
エモーンズか・・・5年足らずだが楽しかった・・・その生活ももうおしまい、か──────
次の日僕はサラさんに言われた通り衛兵所を訪ねた
ケインは嫌そうな顔をしていたが勝手にしろとぶっきらぼうに言われた
これで晴れて衛兵に復帰・・・と思いきや制服がない
そう言えば貴族服を買った時に思わず処分してしまったのを忘れていた・・・呆れたようにため息をついたケインに仕立てるから数日待てと言われて無職継続・・・辛い・・・
サラさんに稽古つけてもらうのも忙しそうで気が引けるしダンジョンも現在僕なんて要らないくらい順調に回ってる・・・まあ寝ずに魔物の配置とか出来るスラミには敵わないけどさ・・・もっとこう・・・
「へえ・・・戻ってたのかロウニール。どっかで野垂れ死にしたとか噂されてたのによぉ」
「・・・ダン・・・」
何をする訳でもなく街をふらついていたら会いたくない奴に会ってしまった
脇を固めるのはそこそこ強そうな冒険者・・・こいつらが『エモーンズシールダー』の幹部か?
「そう睨むなよロウニール・・・本当は聞いてたんだよ・・・お前が剣奴をやってたってな。辛い環境だったろう?聞けば試合以外はずっと牢屋に閉じ込められているらしいじゃねえか・・・糞尿を垂れ流してな・・・ん?何か臭くねえか?・・・ああ・・・長年染み付いた臭いはそう簡単には消えねえってか」
僕の肩に寄りかかって来たと思ったら鼻をツマミ臭いを散らすように手を振るダン・・・連れの奴らもバカにするように笑っていた
「だからそう睨むなって・・・こちとら気分がいいんだ・・・ようやく邪魔な組合が解散するって話だからな。胡散臭い仮面野郎にアバズレ女がやる組合なんてこの街には似合わねえ・・・そう思わないか?ロウニール」
「・・・アバズレ?」
「そうだアバズレだ。図々しいんだよ・・・人の街で好き勝手やりやがって・・・ギルド長とローグの野郎に取り入ったからと言って・・・おっとお前の師匠だったか・・・なんだ?お前もその1人か?ロウニール」
ハア・・・ヤバい・・・殺してしまいそうだ・・・いや、いっそう殺すか?別にコイツが死んでも悲しむ人なんて・・・・・・あっ、こんな奴でもヘクト爺さんの孫だったか・・・
「なあ・・・いつまで醜態を晒せば気が済むんだ?」
「醜態?」
「同期の奴らはみんな頑張ってるぜ?ペギーもすげえ魔法使ったりしてよぉ・・・でもお前はなんだ?門番もまともに出来ねえわ犯罪者になるわ・・・はっきり言って邪魔なんだよお前・・・見てて反吐が出る」
「・・・」
「ジケット達にはキッチリ話して組合に入ってもらうつもりだ・・・いずれ俺達の代は永遠に語り継がれるだろう・・・エモーンズを発展させた者達って事でな。けどお前だ・・・お前の存在が唯一の汚点・・・消えてくれた方がいいんだよ・・・ラックみたいにな」
「お前・・・本気で言ってんのか?」
「本気だよ・・・俺はラックを買っていた・・・だから誘ったんだが妹の近くにいたいからって断りやがったんだよ・・・俺の庇護下に入りゃ守ってやらねえこともなかったのによ・・・馬鹿な奴だぜ」
「・・・」
「結局はその妹と一緒に死んじまっただと?呆れてものも言えねえぜ」
「・・・ラックは必死に足掻いていた・・・それは誰にも馬鹿にされる行為ではない・・・」
「それが無駄だって言ってんだよ!無駄な足掻きで醜態を晒すなら初めから潔く死ねよ!ラックも・・・お前もな!」
もういい・・・僕の事ならともかくサラさんやラックの事を馬鹿にされて生かすほど出来た人間じゃない・・・死なんて軽い・・・コイツの暴言を閉ざす方がよっぽど・・・
「弱い者イジメはよくないな」
誰だ?
拳を握り一気に全員殺してやろうかとした時、背後から声がした
「・・・誰だてめえ?」
ダンも知らないみたいだ・・・僕も振り向き顔を見たが知らない老人だった・・・けど・・・
「・・・向こうから衛兵達が見回りで迫って来ている・・・それを伝えようと思ったのだが迷惑だったかな?」
「衛兵・・・チッ・・・行くぞお前ら!」
さすがに組合長が街中で喧嘩をしたとあれば組合の存亡にも影響しかねない・・・そう判断してか僕を忌々しげに睨みつけると仲間を引連れてこの場から立ち去ってしまった
「・・・彼らに言ったつもりじゃなかったのだけどね・・・『弱い者イジメ』」
「衛兵は?」
「嘘だよ」
「だろうな。最も嫌いな職業だし逃げるなら真っ先に逃げるのはそっちだろうしな・・・レオン」
「この顔で会ったことあったかな?」
「ない・・・けどいつまでも見えるのが自分だけと思わない事だ」
「なるほど・・・少し時間いいかな?ロウニール・・・いや、それともローグと呼んだ方が?」
組合『タートル』の長にして指名手配犯、レオン・・・ジースに何か聞いてやって来たのか?
「何の用だ?」
「ふむ・・・ここで話すのはお互いにあまり好ましくないと思うけど・・・どこか静かな場所はないかな?」
「それならおあつらえ向きの場所を知っているぞ」
「ほう・・・それは?」
「墓地だ──────」




