20階 ダンジョンマスターロウニール・ハーベス
仕事を終えて帰宅すると僕は真っ先に司令室へと向かった
水晶を覗くと当然いる4人の男達・・・疲れ果てて寝る者、喚き続ける者、お祈りする者に諦めず地面を掘る者と様々だ
《で、どうするの?私としてはどうでもいいのだけど・・・》
「生かす道は?」
《ないわ》
「・・・そっか・・・」
《勘違いしないでよね。人間の命なんてどうでもいいって思ってる・・・けど、だからと言ってむやみやたらに殺したりはしないわ。今回はアナタの事を・・・》
「分かってる・・・分かってるけどそう簡単に割り切れないんだ・・・ダンコが話してくれたアイツらがやって来た事・・・それを聞いた時に僕は許せなかった・・・でも・・・」
ダンコはサラさんとアイツらの会話を聞いててそれを僕に教えてくれた。とんでもない奴らだと思った・・・けど果たして僕が断罪するべき事なのだろうか・・・真実を然るべきところに伝えて裁いてもらうべきじゃ・・・
《怖いの?》
「違う!僕じゃなくてちゃんと・・・そう、例えばドカート隊長にでも・・・」
《それで?門番であるアナタに捕まりました。ダンジョンの6階で、って言わせるつもり?》
「・・・」
助けるから黙っててなんて言って通じるような相手じゃない。沢山の人を裏切ってDランクまで上がったような奴らだ・・・助けたが最後僕は色々と聞かれてしまうだろう・・・もしそこでダンジョンコアが体内にあって僕がダンジョンを生成したと知られたら・・・
僕とダンコは実験台行き・・・最初から分かってた事じゃないか・・・バレたらまずいって・・・なのに僕は・・・
「分かったよダンコ・・・でも・・・やり方は僕が決める」
《初めからアナタに決めてって言ってたでしょ?で、どうするの?》
「僕は──────」
「・・・・・・?・・・てめえは!!」
「貴方はラウルさんだっけ?・・・いや、さん付けする事もないか・・・」
司令室からゲートで訪れた先は7階のラウルのいる空間
ここから出る事を諦めていたのか寝転んでいたラウルはゲートに気付いた瞬間床に置いてあった剣を手にする
「ここから出せ!さもないと・・・」
「さもないと?僕を殺したらここから一生出れないけど?」
「なに!?・・・てめえ何しやがった?俺を閉じ込めて何を企んでやがる・・・」
「お前がしようとしてた事を止め、罪を償ってもらおうとここに落とした」
「やっぱりてめえが・・・」
初めは喚いていたが急に冷静になる・・・恐らく色々と考えているのだろう
「・・・何か気に触ったんだったら謝る・・・だけど勘違いしてねえか?俺は別に何も・・・」
「サラさんを殺そうとしただろ?」
「・・・違ぇよ。マナポーションと間違って麻痺毒が入った瓶を渡しちまってな・・・それで俺達を疑ってサラが逃げちまったもんだから追いかけて誤解を解こうとしたんだが・・・」
すごいな・・・話していた内容をダンコから聞かずに映像だけを見ていた状態だったら信じてしまいそうだ。コイツもそれを考えて辻褄が合うように嘘をついているのだろう・・・その頭の回転の速さを別の事に使えばいいのに・・・
「なるほど・・・サラさんの早とちりだった・・・そう言いたいんだな?」
「チッ・・・そうだって言ってんだろ?サラに何を聞いたか知らねえけど悪ふざけし過ぎちまったみたいだな」
「Dランクに上がった経緯も?」
「そうだって言ってんだろ!いいから早くここから出せ!」
「なら見せてくれよ・・・実力でDランクに上がったって証拠を・・・」
「てめえ・・・本気で言ってんのか?」
「ああ・・・門番如き軽く捻ってくれるよな・・・Dランクさん?」
挑発する為とはいえ慣れない口調は疲れる・・・こんな感じで・・・良かったみたいだ
ラウルは剣を握り締め僕を睨みながら構える。殺意ってやつなのか・・・見てるだけで体が竦んでしまう
「・・・カッ、もしかして・・・震えてるのか?んだよ、今までのは単なる虚勢か?」
「人と戦った事なんて学校の訓練の時くらい・・・しかも学校では常にドベだった・・・」
「だろうな。こんなチンケな村の門番なんてそういう奴がなるって相場が決まってる・・・この落とし穴はもしかして良い物でも拾ったのか?もしそれを出せば少し痛い目みるだけで生かしてやるぜ?いや、物を出して俺をすぐに出せば何もしねえと約束する・・・女も抱かせてやるよ・・・極上の女をな・・・どうだ?良い話だろ?」
ラウルはダンコがやった事を道具のお陰と思ったらしい。それもそうだよな・・・ダンジョンを自在に操れる人間なんて居るわけがない・・・僕以外は
「・・・どんな女性を紹介してくれるの?」
「おっ・・・そうだな・・・サラなんてどうだ?アイツをこんな風に落として・・・」
「ごめん、誘いに乗る振りをするつもりだったけど・・・気持ち悪いや・・・。やっぱりお前は死ぬべきだ・・・ラウル」
「てめえ!!」
震えは止まった
向かって来るラウルを冷静に見れる
剣を両手で握り締め、殺意がこもった剣を受け止める
「このっ!」
大丈夫・・・見える・・・
スラミと散々特訓した甲斐があったのかダンジョンが大きくなったからなのか・・・僕は強くなってる!
ラウルは必死に剣を振る
それを僕が難なく受け止める
その繰り返しが数回続くとラウルは突然飛び退き、腰のポーチに手をやった
あれは・・・マナポーションか
「残しておいて良かったぜ・・・さあここからが本番だ」
マナポーションを飲み干し空の瓶を投げ捨てるとラウルは余裕の笑みを浮かべる
体を沈めまるで地を這うように飛び込んで来る
迎え撃とうと剣を振り上げた瞬間、ラウルは間合いでもないのに剣を振り上げた
「剣技・三爪線」
ラウルの剣は豪快に空振り安心したのも束の間、三本の爪が僕に襲いかかる
「あっ・・・つ!・・・」
焼けるように・・・熱い・・・
剣を追うように現れた三本の爪はマナを使った魔技だ・・・剣を振り上げ無防備だった僕の体を脇腹から胸にかけて斜めに切り刻まられた
《ロウ!!》
「門番風情がDランク冒険者に逆らうからそうなる・・・大人しく入口で突っ立ってれば良かったものを!」
「だい・・・じょうぶ・・・てか、門番は村の顔だ・・・門番なめんなよ・・・」
悲痛な叫びをあげるダンコ・・・そう心配するなよ・・・僕は門番であり・・・
「・・・それと・・・ダンジョンマスターなめんな」
「は?ダンジョンマスター?」
「母なる大地よその数多なる手を貸し給え・・・アーステンタクル!」
地面に手を付き学校で何度も試みた呪文を唱える。ダンコにマナは使うなと言われてたから出す事は出来なかったけど・・・今なら!
「チッ!魔法使いかよ!?」
地面から無数の触手が生えラウルに襲いかかる
土で出来た触手・・・アーステンタクルは本来魔物を拘束するのに使う魔法だ。その魔法を目眩しに使用し僕は次の魔技に移る
「ウザってぇ!剣技・三爪線!」
「魔技・瞬歩」
触手を魔技で振り払うラウルに今度は魔技の瞬歩で一気に近付き背後を取る・・・つもりだったのに技を放った勢いで体を回転したラウルと目が合った
「あっ」
「瞬歩!?てめえ・・・チッ!三爪線!!」
「魔技・空魔陣!」
また喰らったらシャレにならない!両手を前に突き出すとマナの盾を作り出しラウルの攻撃を受け止める
ラウルの三爪線と僕の空魔陣がぶつかり合い激しい音を立てると力が拮抗していたのか互いの技は弾けその衝撃波で吹き飛ばされた
「ガハッ・・・・・・てめえ・・・何者だ?何で魔法と魔技を・・・」
「何者って・・・そう言えば名乗ってなかった・・・僕の名前はロウニール・ハーベス・・・門番でありダンジョンマスターだ」
「ダンジョンマスター・・・何がダンジョンマスターだ!何で魔法と魔技が使える!?しかもスカウトやタンカーの技まで・・・」
「ヒーラーの魔法も使えるぞ?聖なる光よその傷を癒し給え・・・ヒール」
目の前で回復魔法を使ってラウルにやられた傷を癒すと顎が外れんばかりに大口を開けた
「あ、ありえねえ・・・てめえの適性は一体・・・」
「適性?適性は・・・全部」
「あ?全部?」
「そう全部。元々の適性は今になってはもう分からないけど・・・ダンジョンマスターの僕は全ての魔法と魔技を使える」
適性とはその人に合ったマナの使い方の事を指す。ペギーちゃんは魔法使いでダンは盾使いの適性があった・・・僕は・・・そもそもマナを使わせてもらえなかったので適性不明・・・そのせいで残留すらさせてもらえなかったのはいい思い出だ
・・・それはさておき適性・・・合わない使い方だと全く使えないかと言うとそうでもない。ダンが魔法を使ったりペギーちゃんが魔技を使ったりする事も出来る。出来るには出来るが・・・弱い・・・らしい
どれほど弱いかと言うと魔法に適性がない人が魔法を使おうとした時、例えばアーステンタクルを唱えても地面からミミズが生えてくる程度・・・同じ大きさのミミズを拘束するのには使えるかな?
「ダンジョンマスター・・・全適性?・・・あ、ありえねえ・・・」
ラウルは戦っている最中にも関わらず呆然としブツブツと呟く
ラウルがそうなるのも無理はない・・・稀に二つの適性を持つ人もいるらしいが全適性なんて人類初・・・いや、実際はいるのかもしれないけど・・・その人は冒険者の頂点・・・Sランクにでもなってるだろうな
「えっと・・・確かまだ見せてないのは・・・」
僕は手に持つ剣にマナを流す
ペギーちゃんが魔法に適性があると知った時にこれだったらいいなぁって思ってた適性・・・これならペギーちゃんとパーティーを組めると思ってた・・・近接アタッカー用の魔技
「ふざ・・・ふざけるな・・・そんな訳・・・」
かつて『剣聖』と呼ばれた偉大な剣士が生み出した剣技
僕は後退るラウルを向けてその剣技を放つ
「剣気一閃!!」
マナを纏った剣を横に一閃
ラウルの持っていた剣を斬り落とした
「あ・・・」
折れた剣を見つめて小さく声をあげる
近接アタッカーで剣士であるラウルにとって、武器を失う事は攻撃手段を失うに等しい。もう僕に抗う術は・・・ない
「ざけんな・・・なんなんだ・・・なんなんだてめえは!!」
「ロウニール・ハーベス・・・門番でありダンジョンマスターだ」
もう一度剣にマナを流す
さっきはわざと剣に向けて放った
けど今度は・・・
「ひぃ!!」
逃げ場のないこの空間で必死に逃げようと走り出す
僕は背後から迫りその首を・・・斬り落とした
《・・・お疲れ様・・・他の奴らは・・・》
「・・・大丈夫・・・僕がやる・・・」
《そこまでする必要ないんじゃない?魔物を配置するか放置すれば・・・》
「僕の責任でもある・・・もし僕が仮面を付けていれば・・・普通に裁かれていたかも知れないのに・・・」
《・・・ロウ・・・》
殺さなきゃいけない理由はサラさんを襲おうとしたからじゃない・・・僕の正体がバレないようにだ
だから僕は・・・
司令室に戻ると椅子に座り天を仰ぐ
口から息が漏れ、全身の力が抜けていった
《ロウ・・・》
「悪い・・・今は・・・そっとしといてくれ・・・」
僕はこの日・・・4人の命を・・・奪った




