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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
228/856

225階 ニオイ

「・・・うーん・・・」


だいぶ牢屋の床の硬さにも慣れてきたな。短時間で熟睡して体力を回復する程度には


闘技場の砂を敷き詰めたら気持ちいいかも・・・まあ試す機会はもうないけどね


起き上がり体を捻り骨を鳴らす


さあ準備は出来た・・・後は・・・


「よく眠れたか?」


誰もいるはずないと油断していた


咄嗟に構えたけどよくよく思い返すと声の主に聞き覚えがあった。その声の主は・・・


「師匠!?」


「どうやら寝ぼけてはないようだな。ちなみに夢ではないぞ?」


夢だったら絶望感半端ないだろうな・・・でも現実に目の前にいる・・・サラさんが鉄格子の前に・・・立っているんだ


「どうしてここに・・・」


「それを答える前に・・・頼む」


そう言うとサラさんは横を向き誰かに何かを頼んだ


一体誰に・・・と思ったらナークだった。サラさんがナークに何を?


「寂しくなるな・・・けどそれ以上に嬉しい・・・自分の事のようにな」


「ナーク?何を・・・!?」


ナークはカギを取り出し扉を開けた


試合の時以外は決して開く事の無い扉・・・まさか一週間眠り続けてたって事はないよな?


「出ろ・・・身請け先はこの人だ」


そう言ってサラさんを見るナーク・・・身請け?サラさんが僕を買ったって事!?


いや、待て・・・確か剣奴は長ければ長いほど・・・活躍すればするほど高額になるはずだ。今の僕は一年以上も剣奴を続け魔人にも勝った実績がある・・・つまりそれは僕の価値がかなり高いって事に・・・


「何を惚けている。なんだ?もしかして余計なお世話だったか?」


「い、いえ・・・だってそんなお金どこから・・・」


「私のポケットマネーだが?」


「・・・いつからそんな大金持ちに?」


「少し迷ったがな・・・可愛い弟子の為に奮発して・・・」


「一体いくらだったんですか?僕もそれなりに貯えがあるのでそれで返せれば・・・」


「1ゴールド」


「・・・え?」


「ロウニール・・・お前の身請け額は1ゴールドだ」


1ゴールド・・・1ゴールド・・・


「万?」


1万ゴールドの間違いかと聞くと答えはノー・・・サラさんは首を振り指を1本立てた


「正真正銘1ゴールドだ。パンすら買えない1ゴールドだ」


僕の価値が1ゴールド・・・あれ?さっき少し迷ったって言ってなかったか?


「・・・そんなにそこが居心地が良いのなら居ても構わないが・・・」


「で、出ます出ます!出させて頂きます!」


立ち去ろうとするサラさんを見て慌てて牢屋から出た。すると・・・


「!!??」


突然視界が暗くなり柔らかいものが顔に当たる


すぐにそれがサラさんだと分かり慌てて離れようとしたけど力が上手く入らない


「し、師匠?・・・その・・・ずっと風呂に入ってなくて・・・」


「ああ・・・臭いな」


「・・・」


「だがロウニールの匂いだ」


それって普段から臭いって事?・・・今度から面倒臭がらず毎日風呂に入ろうっと


「・・・よく耐えた・・・ロウ」


「・・・当たり前ですよ。なんてったって『風鳴り』サラ・セームンの一番弟子ですからね──────」




僕を羨ましそうに見つめるナークに別れを告げ、とうとう僕は剣奴1058番ではなくロウニール・ハーベスに戻る事が出来た


闘技場でしか見る事のなかった空を感慨深く眺めているとサラさんは僕を連れてある屋敷へ向かう


その屋敷はなんとあのキースの屋敷・・・なんでキースの屋敷か尋ねる間もなく中に入りいきなりキースに


『勝負しようぜ』


と言われ、赤い髪のセクシーな女性・・・後で聞いたらキースの奥さんであるソニアさんには


『ねえあの時の魔法見せて』


と言われ、寝巻き姿のお婆さん・・・見覚えがあると思ったら宮廷魔術師のラディル様には


『本当にシーリスの兄か?似てないな』


と言われる始末


そして小さくて可愛い・・・名前はシシリアというキースとソニアさんの子に離れた場所からじっと見られる中、屋敷にある風呂に強制的に入らせられ剣奴生活の垢をそこで落とす事に・・・その際にサラさんから『一緒に入るか?』と言われたがもし『はい』と答えていたら一緒に入ってくれたのだろうか・・・


風呂に入った後はキースの寝間着なのかブカブカな服を着させられ部屋に連行されると『とにかく今日は休め』と半ば強制的に部屋に押し込められる・・・なんだかこれじゃあリッチだけど剣奴生活と同じじゃ・・・と思いつつも久々に寝るベッドの心地良さに負けて倒れ込むように寝てしまった



その夜



部屋がノックされて返事をするとドアが開きサラさんが部屋に・・・何事かと思うくらい薄手の服に身を包み風呂上がりなのか少し赤みを帯びた顔で僕をじっと見つめる


「えっと・・・」


「悪いな・・・ゆっくりと休ませてやろうと思ったがどうしても言わなくてはならない事があってな」


え?なになに??


何か言いにくそうな感じの困った表情・・・一体サラさんは何を言おうと・・・まさか・・・いや、そんなまさかな・・・


「大変だったのは分かっている・・・いや、分かる事は出来ないが想像はつく・・・だから少しでも休ませてやりたい気持ちはやまやまなのだが・・・」


夜に・・・薄手の服で部屋にやって来て・・・休ませてくれないって・・・


「1人の人生がかかってる・・・だから・・・」


人生・・・なんか重くなってきたぞ?ヤバい・・・ドキドキが止まらない・・・


「・・・ふぅ・・・お前が気に病む事では無い。断じてな・・・それを踏まえて聞いてくれ」


あれ?期待していたのと違う?


「ロウニール・・・お前が拘束された次の日、聖女様達は『ロウニールの死刑は執行された』と言われたらしい」


「・・・え?」


「死刑が執行された・・・そう聞けば誰しも死んだ思うだろう・・・実際は死刑囚として剣奴となった訳だがそれも死刑執行であり嘘ではない」


「・・・つまりセシーヌ様は僕が死んだと?」


僕の問い掛けにサラさんはコクリと頷いた


「そして聖女様は・・・その日から一歩も部屋を出ず食事も取らずにいるらしい」


「まさか死んで・・・」


「いや、辛うじて生きてはいるらしい・・・が、覚えているか?侍女長のエミリという者を・・・あの者曰くいつどうなってもおかしくないのだと・・・」


セシーヌが・・・そんな・・・


てか、人間ってそんなにも長い間何も食べずに生きられるものなのか?だって一年以上だぞ?一日食事を抜いただけでも強烈にお腹が空くのに・・・


「何日か休んだ後でもいい・・・お前が生きている事を知れば聖女様はきっと元に戻られる・・・だから・・・」


「分かりました。体調は万全なのですぐにでも・・・もしかして用ってそれだけですか?」


「それだけとはなんだそれだけとは!聖女様は国の至宝・・・その聖女様の事なんだぞ?・・・まあいい・・・今はゆっくり休め。また明日な、ロウ」


「はい、おやすみなさい、師匠」



サラさんが部屋を出て行った後、ベッドに体を沈め久しぶりに声を掛けてみた


「ダンコ・・・起きてる?」


《私が寝た事あった?》


「酒飲んだ時は前後不覚に・・・」


《それは言わない!・・・まったくあの時いくらでも逃げれたのに・・・》


あの時とは捕まった時の事だろう。確かにマナ封じの首輪を付けられる前なら簡単に逃げれてたかな?まさかあんな事になるとは思ってなかったし・・・


「その後の記憶は?やっぱりない感じ?」


《今回はやる事なかったからね・・・遠くから眺めてたって感じよ》


「なに?今まではやる事あったから記憶になかったの?」


《そうよ・・・色々とあるのよ。でもまあ退屈な日々だったわね・・・ってゆっくり話してる場合じゃないわよ!ダンジョン!どうなっているか気にならないの!?》


「気になるけどその前に行く所が出来た」


《・・・それってダンジョンより大事?》


「比べるものじゃないさ・・・どちらも大事だ」


《ハア・・・何急に成長したみたいになってんのよ・・・まあいいわ、ダンジョンは私が見て来るからさっさと行って来なさい》


「はいはい・・・じゃあサクッと行きますか──────」




・・・いくら記憶にあるとは言えここに繋げたのは間違いだったかな?


真っ暗の中手探りでどこが出口か探っていると僅かだけど光の射す場所があった。僕は手を突き出しゆっくりと押すと木の板は左右に分かれて開かれる


女性の部屋に夜遅くにタンスから忍び込む・・・これバレたらまた剣奴送りなんじゃないか?まあいつでも抜け出せるけど


いや待てよ・・・もし魔力を使える事がバレてマナ封じの首輪と魔力封じの首輪を付けられたら?・・・ヤバい詰むな・・・あまり派手な行動はしないどこう


そんな事を考えていると足元に一匹の白い子猫が僕を見つけてキョトン顔・・・我ながらいい出来じゃないか・・・番猫にはなりそうにないけど


さてと・・・断食大好き聖女様は何処にいるかな?


キョロキョロ部屋を見渡すと分かっていたけどベッドの上にいた


しかも寝ている訳ではなくベッドの上で虚空を見つめている感じ・・・あまり痩せこけては見えないな・・・一体どんな体の構造してんだ?


僕が見つめていると足元にいた猫はダッシュでベッドまで走ったと思ったら大ジャンプをしてベッドの上に・・・そして彼女に近寄ると頭を彼女の手に近付ける


撫でて欲しいのか?


どうなるか黙って観察していると僅かに彼女の手が動き子猫の頭を撫でた・・・でも視線はそのままだし表情も変わらない


まさか僕が剣奴になってからずっと・・・なんで僕なんかをここまで・・・


「・・・名前はもう付けた?」


どう声を掛けようか悩んだ挙句に当たり障りのない話題からという事で猫の名前から切り出してみた


すると僕の方を首だけバッと向ける・・・うん、ちょっと怖かった


「・・・僕なら毛並みが白いから・・・シロかな?セシーヌ様は何て付けたんですか?」


「・・・・・・・・・」


掠れる声で何か言ってる・・・でもそれは声にならない声のよう・・・恐らくいくら近付いても聞こえなかっただろうな


「・・・驚かしてすみません。ちょうどそのタンスが開いてたもの・・・でぇ!?」


セシーヌはゆっくりと立ち上がると突然倒れそうになる。慌てて僕は倒れないように支えると・・・


「ふえ」


「ふえ?」


「ふええええん!」


まるで小さな子供のように泣き出してしまった


こんな時はどうすんだ?


抱き締める?・・・いや、僕の手はもう・・・


「何事ですか!?セシーヌさ・・・」


セシーヌの泣き声を聞いたエミリが部屋に入って来て僕とセシーヌを見て固まる


そりゃあそうだ・・・目の前に飛び込んで来た光景は絶賛『老衰計画』進行中のターゲットと怪しげな男が部屋の中央で抱き合っているのだ・・・固まりもするだろう


「・・・他の者は入らなくていいです・・・何でもありませんので」


そう言ってエミリはドアを閉めて部屋の中は3人と1匹になる・・・さて、どうやって誤魔化そうか・・・


「・・・本物・・・ですか?」


「偽物に見えます?」


「いや・・・でも確かに・・・」


「とりあえず積もる話もあるので・・・泣き止むまで待ちません?」


聖女の涙で僕の服はビッチョビチョ・・・これ借り物なんだけど・・・まっいっか──────

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