221階 弟子をたずねて
見上げるほど高い門・・・ここに来るのは二度目か
一度目はあまりいい思い出はない・・・二度目の今回は・・・今回も、か
門番にギルドカードを提示すると確認しすぐに手渡される。その際にじっと見つめていると怪訝な表情を浮かべて早く通って下さいと言われてしまった
こんな所にいるはずもないのに・・・重症だな私は
二度目の王都・・・今度も満喫することなく目的地へと向かう
誰かに聞く必要などなかった・・・遠くからでも見えるその建物はどこの街も形はよく似ている
迷うことなく辿り着くとまずはその長蛇の列に驚いた
この列に並ばないとダメなのか?しかしこの列と私は目的が違う・・・時間を改めて訪れるか・・・
この列を無視して進めば割り込みと勘違いされるだろうしそれしかないか・・・そう思って帰ろうとした時、背後から声を掛けられる
「あの・・・サラ様・・・ですよね?」
声を掛けて来た者に見覚えは無い・・・が、その服装を見る限りなぜ私を知るか見当がついた
「聖女様の侍女?」
「はい!ローナと申します!」
ニッコリと笑いハキハキと喋る元気のいい侍女・・・覚えてはないが恐らく聖女様と共にエモーンズに来た1人か
「ちょうどいい。すまないが言伝を頼めないか?少し聖女様と話をしたいのだが・・・」
「え?・・・」
笑顔だった顔が聖女様と聞いた瞬間に曇る・・・そして周囲を気にするように見回すと神妙な面持ちで顔を近付け私に耳打ちした
「ここではなんですので・・・少しよろしいでしょうか?」
そう言って人気のない所まで移動すると衝撃の事実を口にする
「聖女様は面会謝絶・・・だと?」
「はい・・・公務は一切出ておりません。理由は申し訳ありませんが・・・もし詳しい事情をお望みでしたら侍女長に相談してからとしか・・・」
「・・・エミリには会えるのか?」
「はい・・・お呼びしましょうか?」
「頼む・・・聖女様にお聞きしたかったが侍女長であるエミリ殿も知っているかもしれないからな」
「分かりました・・・あの・・・余計な事かもしれませんがサラ様はどこか具合が悪いので?」
「いや、そういうわけでは・・・」
「そうですか・・・顔色が優れないのでもしかしたらと思いましたが・・・ではすぐに呼んで参ります」
顔色か・・・一年以上も同じ事を言われ続けているからもう慣れた──────
侍女のローナはすぐにエミリを連れて来た
私が来た事で何かを察したのか表情は険しい・・・つまり何かを知っているという事だ
「お久しぶりです・・・サラ殿。お元気そう・・・には見えませんね」
「お互いにね・・・エミリ。単刀直入に聞く・・・ロウニールはどこだ?」
「・・・」
「黙っているという事は知っているという事か・・・一年以上も音信不通の弟子を遠路はるばる探しに来た甲斐があったというものだ・・・それで?どこにいる」
「・・・聞けば後悔すると思います」
「それは私が判断する・・・次で最後だ・・・ロウニールはどこだ?」
「・・・場所を変えませんか?」
「今すぐ話せ・・・ロウニールのゆかりの地は全て寄った・・・もうここしか思い付かずやっとの思いで来たのだ・・・場所を変える時間すら惜しい」
「・・・ロウニール殿は・・・死にました」
意識が遠くなる
それでもその言葉が頭にガンガンと鳴り響く
ロウニールが・・・死んだ、と
「・・・なぜ?」
「話せば長くなります・・・お願いですから場所を変えましょう」
「なぜ?」
「サラ殿・・・お願いです」
「なぜだ!!なぜ──────」
ここは・・・どこだ?
目を開けると見知らぬ部屋・・・どうしてここにいるか記憶にない
確かあの時・・・そうだ!エミリは?奴に聞かなくては・・・
「お目覚めのようですね」
ガバッと起きるとベッドに寝かされていた事に気付く
そしてベッドの傍にはエミリが座って私を見ていた
「エミリ・・・貴様・・・」
「・・・これから全てお話します。ロウニール殿がなぜ亡くなってしまったのかを──────」
私が問い質す前にエミリは全てを話した
ロウニールに聖女の誕生日をお願いした事
その誕生日の時に聖女は結婚式を挙げており相手が貴族だった事
エミリはその結婚を止める為にロウニールを利用した事
ロウニールはまんまとエミリの思惑通りに結婚を止めた事・・・ただし自身の犠牲をもって・・・
「全ては私の責任です。見通しが甘すぎました・・・あそこまで強引に事を進めるとは思わず、更に私が警戒されているなどと思わず・・・」
聖女を思うあまりの行動だ・・・責められるはずもない
ロウニールも後悔はしてないだろう・・・聖女を守った事に関しては
「・・・それでいつなんだ?・・・執行された日は」
「次の日にはもう・・・」
「なに?」
「ですから次の日には・・・」
ありえない・・・その場で処刑というのなら話は分かる。しかし拘束してマナ封じの首輪もつけられているだろうから逆らえない状況のはず・・・なのに即日執行だと?
法務大臣が聖女の父親だったからか?しかし諸々の手続き等もあるはず・・・それを全て飛ばして無力になった者に対して執行する・・・元々聖女の父親はロウニールを疎ましく思ってた?・・・それにしても・・・
「方法は?」
「え?方法と言いますと?」
「死刑にも色々あるだろう?絞首、斬首、毒・・・どれを執行した?」
「いえ・・・ただ『死刑は執行された』とだけ・・・」
「・・・エミリ・・・ロウニールは聖女の両親に会った事は?」
「あります。王都に着いたおり、御二方が揃っておられました。その時にセシーヌ様が御紹介を・・・」
なるほど・・・動機はある訳だ
ロウニールを罠に嵌めたか?聖女の父親にとってロウニールは聖女に集る虫のようなものだった・・・それを亡き者にしようと画策して・・・
「エミリ・・・ロウニールが来る事は誰が知っていた?」
「私だけです。セシーヌ様へのサプライズのつもりだったので・・・」
・・・そうなると事前に準備など出来ないか・・・いや、エミリが嘘をついている可能性も・・・
ダメだ・・・このままでは埒が明かない
冷静に考えろ・・・即日執行する理由があるはずだ
何か理由が・・・
「サラ殿?」
・・・なぜ私は無条件にエミリを信じているんだ・・・彼女が嘘をついているかもしれない。やっと得た手掛かりで舞い上がってしまったか・・・私はロウニールがどうなったか知りに来たのではないはず・・・探しに来たのだ
もうこれ以上エミリからは情報を得られそうもない・・・ならあとは自分で調べるしかない・・・しかし何の伝手もなく何を調べられる?・・・・・・伝手?
「・・・知ってたら教えて欲しい。Aランク冒険者のソニアの家は知っているか?──────」
意外と知られているものだな・・・かなり探さないと分からないと思ったが聖女の侍女が家を把握しているとは・・・
私は今大きい屋敷の目の前にいる
SランクパーティーのメンバーでSランク冒険者のキースの妻にしてファーネの師匠であるソニアの住む屋敷
ファーネから困ったら訪ねてと言われていたが果たして協力してくれるだろうか・・・不安に思いながらも屋敷の敷地に足を踏み入れると玄関の扉を叩いた
「どちら様でしょうか」
「突然の訪問失礼する。私はサラ・セームン。エモーンズで冒険者をしている者だがソニア殿はご在宅だろうか?」
「少々お待ち下さい」
扉の奥から声が聞こえ返事をすると気配が遠のくのを感じた
扉は頑丈そうだし表に出ず対応するのは恐らく警戒しているのだろう。キースがあの性格だから敵も多いだろうしな
「お待たせ致しました。どうぞお入り下さい」
中に通されるとおよそ冒険者の家とは思えない豪華な内装に一瞬家を間違えたのかと戸惑う
「確かファーネの友達だっけ?」
奥から出て来たのは真っ赤なドレスに真っ赤な髪が良く似合う色気が歩いているような女性・・・この人がソニア・ヒョーク・・・
「初めまして私は・・・」
「私と同じAランク冒険者『風鳴り』サラ・セームンね。何の用かしら?」
「・・・力を貸して欲しいのです。死刑を執行された弟子の件で──────」
話の触りだけ聞いて込み入った話になると判断したソニアは私を応接間へと案内した
いきなり『死刑執行された弟子』と言われても困るのは当然・・・でもソニアは私の話を親身になって聞いてくれた
「そう・・・確かに即日執行はおかしいわね。拘留期間はあるはずだし、調べもせず・・・現行犯逮捕だからかしら?」
「どうでしょうか・・・一年以上も前の話なので調べようにもどう調べていいか見当もつかない状態です」
やはりソニアも同じ印象のようだ
となると何かしらの力が働いた可能性が高い・・・やはり聖女の父親・・・現法務大臣の権力で強引に・・・
「・・・意外ね」
「え?」
「うーん・・・ファーネから聞いてた話と一年以上も前に失踪した弟子を探しにわざわざ王都まで来た人物とは思えないほど冷静だから・・・どうでもいい弟子ならここまで来ないでしょうし、大事に想ってるからこそ来たのでしょ?」
「・・・どんな話を聞いたか知りませんが私は常に冷静・・・ではないですね。どうしてでしょう・・・私も自分で不思議なくらい冷静でいられる事に驚いています。最初にロウニールが死んだと聞かされた時は気を失うほど動転してしまったのに・・・」
エミリの言葉を信じてないからか・・・それとも・・・
「まだ可能性が残っている・・・そう信じているのね?」
かもしれない・・・即日執行というありえない事が起きてるのだ・・・それが嘘だとしたらなぜそのような嘘をつく必要がある?もしかしたら何か裏が・・・雲をつかむような話だがだからこそ釈然としない・・・そしてだからこそ冷静でいられるのかも・・・
「・・・悪いけど私じゃ力にはなれない」
そう言って立ち上がるソニア・・・やはりSランクパーティーでも・・・
「けど力になれる暇人なら知っている」
そう言って応接間のドアを開けると小さい何かが廊下を横切った。そしてすぐ後に年配の女性がその後を追うように姿を現した
「ちょっと!ここで遊ばせないでって言ったでしょ!」
「そうは言っても・・・うん?お客さんか?」
「ええ・・・暇人お婆ちゃんが役に立つ時が来たわ」
「誰が暇人お婆ちゃんだい!」
「孫の顔見たさに毎日来る人を暇人と呼んで何が悪いの?娘の私は放置してたくせに・・・」
「ぐぬぬ・・・それは言わない約束じゃないか・・・」
孫?娘?・・・さっき通った小さな影がソニアの娘でこの女性がソニアの母親?確かにメイドには見えない服装・・・と言うか寝巻き?
「ハア・・・その格好は今日も泊まるつもりなのね?まだ後釜も決めてないのにいいの?」
「フン・・・そんなものいつでも決められる。それよりなんだい?あたしゃシシリアを追いかけないといけないのだから用があるならさっさと言いな」
「偉そうに・・・一年以上前に死刑を宣告された彼女の弟子の事を調べて欲しいの・・・それくらい朝飯前でしょ?宮廷魔術師なら」
朝飯前?一年以上も前なのに・・・ん?・・・この寝巻きのお婆さんが・・・宮廷魔術師!?──────




