209階 Sランク
最初は考えもなく突っ込んであっさりとやられた
次は口車に乗せ何とか勝ちを拾った
最後は・・・まあ勝てるわけないから少しでも戦いたい・・・Sランク冒険者と!
「躱せ!!」
躱せと叫びながら大剣を振り下ろすキース
もう何もかも無茶苦茶だな
「必要があればな」
怒りのせいかかなり大振り・・・間合いも何も考えていない
ここで一歩下がれば容易に躱せる・・・けどそれだと次はないような気がした
一歩・・・うねりを上げる大剣に対してたった一歩だが踏み込んだ
「このっ!」
今度は止める気はないようだ。それならと僕は大剣の腹に剣の柄の頭を当てて押し込んだ
これで大剣の軌道が逸れなければ僕は真っ二つ・・・自分が大剣で真っ二つになる姿を想像しゾッとする
けど・・・押し切れば僅かだけど勝機が生まれる!
込められるマナを全て込め、強化と操作を駆使する
すると僅かに大剣は傾きそのまま地面を叩いた
キースの首は無防備、僕は剣を横に構えた状態
このまま剣を薙げば首を落とせる・・・そう思った瞬間に下から圧力を感じた
「んがァ!!」
んなバカな・・・振り下ろした大剣をそのまま持ち上げるように振り上げようとしてんのか!?
確かに大剣は地面を叩いてた・・・だからと言ってすぐに上げれるような重量じゃないだろ!
首を狙うのはやめだ!今はどうやって回避するか考えないと・・・でも軌道を変える為に思いっきり力を使ったから体勢が前屈みに・・・どうする?
「だらっ!・・・あん?てめぇ人の剣を!・・・」
危なかった・・・咄嗟に大剣を足で踏み付けたらタイミングよくキースが持ち上げたのでそれに合わせて飛び上がり一回転して着地・・・もう一度やれと言われても絶対に出来ない芸当だ
それにあの大剣・・・センジュの剣みたいに斬る為と言うより押し潰すって感じだな・・・刃の部分があまり鋭くなく丸みを帯びていた
もしよく切れるよう研がれていたら今頃・・・
「いい踏み台だ。どこで売っているか聞いてもいいか?」
「んの野郎・・・もう勘弁ならねえ!」
いつ勘弁してくれた?
それにしても何となく分かってきた
キースは単純・・・故に強い
小細工なんて一切なくただ力任せに剣を振るうだけ・・・普通ならSランクどころかDランク止まりだ
けどそのキースをSランクに押し上げているのはあの大剣・・・それと落とすだけで凶器になるような巨大な大剣を自由自在に振り回す筋力だ
僕が強化してもあそこまで振れないだろう・・・その大剣を筋力だけで振り回している
本当に人間か?
「まだまだ遊べそうだなぁ・・・滾るぜこの野郎!」
「剣を・・・振り回しながら・・・喋るな・・・」
躱すのが精一杯
一撃必殺の一振が次々に襲いかかって来る
勝機なんて見い出せない・・・改めて感じる・・・
これがSランク冒険者キース・ヒョーク!
「っ!チッ!」
攻めあぐねている間に持っていた剣を叩き割られる
急に妙な軌道をと思ったけど・・・狙ったか
「さーて、どうする?また新しい剣を取り出すか?すぐに取り出せると良いけどな・・・グズグズしてると腕切られちまうぞ?なんならお願いしてみるか?『剣が折られちゃったので取る時間を下さい』ってな」
取り出そうと思えば簡単に取り出せるけど・・・なんかムカつくな
「おい・・・素直にお願いすれば・・・」
拳を握り構えると何故か逆に動揺するキース・・・多分何かにつけて剣を取る時間をくれようとしたのだろうけど・・・
「知らなかったか?私は魔闘士でもある」
「魔闘士だあ?武道家と魔法使いの?・・・ハッハッ!どんだけ引き出し持ってんだよローグ!」
「さあな・・・続けようか」
「もちろんだ・・・けど・・・俺に近付ける勇気があれば、だがな」
何気なく大剣を振ったキースは更に大きく遠くに見えた
持っていた剣すら届かなかったのに更に間合いが短い拳が届くのか?
いや、超接近は大剣にとって苦手なはず・・・入り込めさえすれば・・・
「どうした?怖いか?」
・・・正直怖い・・・今にも逃げ出したいと思うほどに・・・それに潜り込んだらどうするって話だ
殴る?蹴る?どれくらいのマナを纏えば奴に通じる?あの大剣を自由自在に振り回す筋力をどれだけの力を込めれば・・・
『石煌』?それとも『呪毒』?・・・いや、即効性の技じゃないとやられる・・・なら『射吹』?じゃなければ『流波』?・・・ダメだ・・・効く気がしない
一撃必殺の技・・・キースの懐に潜り込み一撃で確実に終わらせられるような技・・・
「おい・・・聞いてんの・・・か・・・ってお前それ・・・」
「ああ、怖いな・・・Sランク冒険者を殺してしまったらどうなるかを考えると、な」
両拳が熱い・・・マナを込めたり纏ったりした時と明らかに違う・・・立ち上る黒いマナが僕の拳を焼き尽くそうとする
黒蝕招来
借りるぞシークス
「お前それま・・・」
「長くは持たない・・・今度はこちらから行くぞ!」
勝てる見込みはほんの僅か・・・懐に飛び込めれば僕の勝ち・・・その前にやられれば僕の負け・・・普通に躱しながら懐に潜り込むのはまず無理だろう・・・なら!
「チッ!人の話を・・・聞けっ!」
キースは間合いを詰める僕に向けて大剣を一閃・・・横に薙ぎ払う大剣を僕は飛んで躱した
飛んで躱したのは初めてだ。それもそのはず飛ぶのは誰が考えても悪手・・・大振りで次の攻撃まで時間がかかる相手になら有効だがキースは違う
「バカめ!終わりだ!!」
「『暗歩』!」
暗歩・・・エミリに散々しごかれたからな・・・1回だけなら超一流と言われるどこでも地面のように立つことが出来るようになった。どこでも地面・・・つまり空中でも・・・
「くっ!」
大剣が戻って来るより速く僕は空中を蹴り間合いを詰める
もう少しで拳が届く・・・拳が燃え尽きる前に・・・大剣が僕を切り裂く前に・・・決める!
「きゃあ!ロウニール様!?」
え?・・・急に耳に飛び込んで来た声は・・・セシーヌ!?
完全に集中が切れてしまった
そのまま拳を突き出せばキースに勝てた・・・かもしれない
けど僕の顔は声に反応し、振り向いてしまっていた
だが振り向いて見えたのはセシーヌではなく巨大な鉄板・・・マジか──────
「・・・もしロウ・・・ローグ様に何かあったらキース様には天罰を!いや、いっその事・・・エミリ、暗殺者ギルドにキース様を懲らしめる依頼をするとしたら私のお小遣いで足りますか!?」
「足りません」
・・・なんだか物騒なのか物騒じゃないのかよく分からない話が頭の上で・・・
「そう・・・一体どうすればキース様に罰を・・・」
「・・・何かセシーヌにしたのか?キースは」
「いえ!ロウ・・・ローグ様に巨大な看板を・・・ってローグ様!?お気付きになったのですか!?」
「ああ・・・ところでここは?」
「ローグ様のお屋敷の中です・・・執事の方が運んで下さって・・・」
なるほど・・・僕の部屋か。まだ見慣れないな・・・この天井は
起き上がると確かに昨日泊まった部屋だった。僕が寝かされているベッドの近くにセシーヌとエミリ・・・それにドアの近くにサーテンがいた
「申し訳ありません。ご主人様の許可無くまたお客様を・・・」
「この2人は構わない。キースはもう勘弁だがな・・・それに私を運んでくれたとか・・・ありがとう」
「いえ、当然の事をしたまでです」
そう言って頭を下げるサーテン・・・やっぱり有能なのか?まあいずれ分かるか
にしても派手にやられた・・・かどうかも曖昧だな。セシーヌの声が聞こえて振り向いたところまでは覚えているけどその後どうなった?・・・確か鉄板・・・キースの大剣が迫って来て・・・あれ?それにしてはどこも痛くないな
「まだ痛い所ありますか?念の為何度か回復してみたのですが・・・」
ああ、なるほど・・・セシーヌが魔法で治してくれたのか
「ありがとう・・・どこも痛くない。さすがはセシーヌだな」
「へへっ・・・どういたしまして。ところでなぜキース様と?」
うっ・・・これで僕が『キースにしつこく付きまとわれて仕方なく勝負した』なんて言ったらどうなることやら・・・助け舟を出す義理はないけど仕方ない・・・
「少しSランク冒険者の実力を知りたくてな・・・それがこのザマだ」
ひとつ貸しだ・・・キース
しかし・・・あのままもし僕の拳が届いていたら・・・いや、あの時は考えないようにしていたけど多分キースは手加減していた
その証拠に最後まで山の頂きは見えずじまい・・・どんだけ高いんだよ・・・Sランクの山は──────
「・・・ご機嫌ですね・・・」
「ん?そう見えるか?」
「業務中に押し掛けて何する訳でもなくソファーで鼻歌を歌っている姿を見れば見えないはずもないでしょう?一体何があったのですか?」
第三騎士団駐屯所の執務室にて書類に目を通していたディーンの前に突如として現れたキース・・・また『勝負しろ』と言われるかと思いきや部屋の中にズンズンと入って来たと思ったら何も言わずにソファーに座る
そして音痴な鼻歌を聞かされること数分・・・とうとう耐え切れなくなり話し掛けてしまった
「ローグとな・・・勝負して来た」
その言葉を聞いた瞬間に頭を抱えるディーン
部屋の隅に立っていた補佐官のジャンヌも同時に項垂れる
「もしかして私への嫌がらせですか?」
「あん?なんでローグと勝負したらお前への嫌がらせになるんだ?」
「・・・貴族・・・伯爵への襲撃は国への反逆とみなされます。ジャンヌ、騎士達を総動員してくれ。それと第一第二騎士団にも協力要請を!」
「はっ!」
「待て待て待て!『はっ!』じゃねえよ!勝負って言ったろ?なんで勝負が襲撃になってんだよ!」
「・・・分かってます。あまりに断られ続けてたのでイライラしたのですね・・・でも貴族になった今、手を出すべきではなかった・・・」
「心中お察しします団長・・・せっかくの平穏がこの野獣のせいで・・・」
「俺は無法者か!しかもジャンヌ!しれっと人を野獣扱いしてんじゃねえ!」
「ですが襲撃以外は考えられ・・・まさか弱味を握って脅して?」
「ありえます団長!意外と小賢しいところが・・・」
「お前らいい加減にしろよ?今すぐここで暴れてもいいんだぞ?」
「やはり本性を現しましたか・・・ジャンヌ!」
「はっ!」
「いい加減にしろ!!」
王都全体に響くのではないかと思うくらいの叫びに手で耳を塞ぎ耐えるディーン・・・塞ぎ損ねたジャンヌは耳をやられ蹲る
興奮し立ち上がったキースを見てディーンは耳から手を離し微笑むと再び書類に目を通し始める
「・・・それでどうだったのですか?」
「急に冷静になるな!・・・楽しめたぜ・・・そこそこな」
「そこそこ・・・ですか。貴族にならなければ騎士団に引っ張りたいところですね」
「そうなってたらお前の立場も危うかったかもな」
その言葉に書類をめくる手を止め再びキースを見た
「そこそこ・・・なのですよね?」
「今は、な。将来的にはお前をも超えるぜ?」
「将来・・・年齢不詳でしたが実は若かったのですか?」
「うん?・・・ああ、多分、な」
「歯切れが悪いですね・・・それにしてもキースさんにそこまで言わせるとは・・・」
「・・・魔力を使ってた」
「っ!本当ですか?」
「ああ、だが安心しろ・・・魔人じゃねえ。あの若さで魔力を使う・・・これがどういう事かお前なら分かるだろ?」
「あのがどれくらいか知りませんが・・・確かに魔力を使えるのならばAランクでも上位になるでしょう。しかも貴族・・・なかなか厄介・・・いや、楽しみですね」
「本音が出てるぞ本音が・・・今のうちに唾をつけておいた方がいいんじゃねえか?敵に回すと厄介だぞ?」
「敵・・・ですか?同じ国民・・・しかも貴族ですよ?敵など・・・」
「俺の勘だと5年以内に動き出すぞ」
「・・・」
「きっと動く・・・いや、動き出す・・・運命の歯車ってやつがな。その時に決まるだろうよ・・・この大陸の運命が、な──────」




