207階 来襲
狭い世界で過ごして来た僕・・・それは僕と同化しているダンコも同じだった
本で見ると何となくは分かるけど実際に見るとスケールが違う
それにダンジョンブレイクの実験についてもかなり驚かされた
ゴーンの提案を受ければダンジョンの調査という名目で人員を動かせる・・・そうなれば確かに今までのペースより早くなるだろう
でも果たしてそれでいいのか?
冒険者達がコツコツ溜めてくれたマナ・・・それをまるで強権を使って強引に溜めるみたいな事をして・・・本当にいいのだろうか?
「・・・私はゴーンのようにダンジョンに興味がある訳では無い。たまたま知り得た情報が・・・」
「もう貴殿の価値を見誤るつもりはない。どうか頼む・・・私と共にダンジョンの謎を解き明かしてくれ!」
まっ、そうなるか
何年もダンジョンを調べているゴーン・・・それよりも遥か昔からゴーンのように調査はされてきたのに原因を突き止められなかった問題をぽっと出の僕が突き止めたのだ・・・偶然で片付けるなんて難しいだろうな
「・・・私に何を望む?ここに住むのは無理だぞ?」
「週・・・いや、月に1回・・・不定期でもいい・・・私と情報交換をしないか?それと情報の共有・・・そのふたつでいい。ダンジョン調査に関する予算なら国王陛下に願えば頂けるし悪い話ではないと思う・・・だから・・・」
不定期でもいいか・・・それなら問題なさそうだ
それに情報の共有もバレたら不味い事は話さなきゃいいだけだし・・・
「分かった。ダンジョンの情報の共有と不定期の情報交換・・・私は積極的に謎を解き明かそうとしないがそれでも?」
「構わない・・・だが不定期と言っても私も屋敷にずっといる訳ではない・・・その辺をどうするか・・・」
「ふむ・・・その辺は私が何とかしよう」
「ほ、本当か?・・・そう言えば魔道具技師であったな・・・よろしく頼む」
貴族って偉そうな人ばかりで決して頭を下げないような人種だと思っていたのに・・・ゴーンは僕に対して頭を下げた
ゴーンが特殊なのか僕の偏見だったのかは分からないけど・・・まあ前者っぽい気がする
「それで・・・早速だがお互いの情報の共有といこうか」
え?今から?
頭を上げた時の薄笑いが夢に出てきそうなほど不気味だった
屋敷に僕・・・正確にはシャドウセンジュだけど・・・が滞在しているのにダンジョン談義に花を咲かせられなかったのを根に持っていたのか唾が飛ぶくらいの勢いで自分の知り得た情報を話し始めるゴーン・・・
やっぱりやめときゃ良かった──────
「ご主人様、お食事は如何致しましょうか?」
「いや、いい・・・もうお前達も休んでくれ」
「畏まりました」
食事?もう夜中だぞ?
夜中・・・夜中まで一方的に喋り続けるゴーンに何度殺意が芽生えたことか・・・しかも微妙に間違ってたり勘違いだったり自分の考えが入り交じったり・・・最初の頃は否定したけど、否定したら否定したで『その根拠は?』とか『なぜそう思う?』とかで話が広がって・・・もう今後一切否定するのはやめよう
「ハア・・・」
ゴーンが去った応接間で1人豪華なソファーの上で横になりため息をつく。すると・・・
《なんですぐに承諾しなかったの?それに人員の事を条件にしないし・・・》
「・・・悪かったよ。ただダンジョンは冒険者のもの・・・もし人員・・・例えば騎士なんかを投入してマナを得たとしてもなんだか素直に喜べないような気がしてさ」
《マナはマナじゃない・・・でもそれなら何故承諾したの?まさかあの人間と仲良くなりたかったとか?》
「それは遠慮したい・・・承諾したのは・・・あまりにもゴーンが必死だったから・・・かな?」
《情に絆されたってわけ?お優しいこと》
「そんなんじゃないよ・・・ちょっと嬉しかったんだ・・・ダンジョン側の人間として、ね」
あのまま無言でいたら命まで差し出す勢いだったし・・・そんな熱意を持って接しられたらこちらも少しは応えないとって思ってしまった
まあその熱意が少々熱すぎるけど・・・
《ロウ・・・少し前から思ってたけど・・・変わったわね》
「変わった?何が?」
《アナタよ。思考が大人になったというか・・・ローグと近くなったというか・・・まあ元々1人の人間だしおかしくはないのだけどね》
「そう?自分じゃよく分からないけど・・・」
《まさかアナタ・・・私が隠れていることをいい事にセシーヌと大人の階段を・・・》
「ないない!それはない!てかなんだよ大人の階段って!」
《そんな大声出すと使用人に聞こえるわよ?・・・やっぱり私の勘違いみたいね。アナタとローグはやっぱり別物・・・ローグならそんな無闇矢鱈に叫んだりしないしね》
「そうそう・・・ってローグは僕で僕はローグだ!!──────」
・・・昨日は散々だった・・・
ゴーンに捕まるわダンコにからかわれるわ・・・その後寝ようとして寝室っぽい部屋を開けると2人のメイドが寝ていて痴漢と叫ばれるわ・・・
騒ぎを聞き駆けつけたサーテンに2階の寝室に案内してもらって寝たはいいけど目覚めは最悪だ・・・メイド達も間違えて入っただけなのにあんなに騒がなくてもいいじゃないか・・・ん?
コンコンとドアを叩く音
慌てて仮面をつけて入れと言うと昨日と変わらぬ執事服を身にまとったサーテンが部屋に入り頭を下げる
「おはようございますご主人様。朝食は如何致しましょうか」
測ったようなタイミング・・・起きた気配を察知して?・・・いやまさかな
「部屋でとるから持って来てくれるか?」
「畏まりました。ではそのように」
仮面をみんなの前で外す訳にはいかないし・・・いや、いっそうのこと適当な顔に変身して外してみるか?それなら屋敷の中では仮面を外せるし・・・でも間違えて違う顔の時に外してしまうと変身能力がバレる可能性も・・・
そんな事を考えていると再度ドアがノックされ、返事をするとサーテンがドアを開けメイドの2人がお盆に乗せた朝食を運んで来た
昨日の件があるからまともに顔が見れない・・・わざとじゃないだよわざとじゃ
「それではごゆるりと」
部屋にあるテーブルに配膳し終わると気を使ってか3人は部屋を出て行く
やっぱり何があるか分からないから仮面のままでいっか・・・この屋敷に長居するつもりはないし
仮面を外しテーブルに置かれた朝食を見ると昨日飲みそびれたコーヒーとふっくらとしたパン・・・それにジャム?いや、ハチミツか・・・小皿にハチミツが入っていて後はソーセージ2本とサラダが少々
あの2人がこれを作ったのか?パンも?だとしたら有能だな・・・パンは火加減が難しく料理人でも難しいと聞くし・・・
そのパンを手で掴み小皿に入ったハチミツをタップリつけて口に運ぶ
うん美味い
パンは焼きたてなのかふっくらしてて温かく、ハチミツはドロドロした感じではなく少し水っぽい。水っぽい為にが程よくパンに染み込み噛む度に口の中に甘い香りと味が広がる
ソーセージも程よい塩加減だしサラダもみずみずしくて美味しかった
最後にコーヒーを口に含むと・・・うん、苦い
余ったハチミツでも入れてみようかと思ったけどコーヒーカップの横に白い粉が入った小皿が2つある事に気付いた
これは恐らく粉ミルクと砂糖か
とりあえず両方スプーンで1杯ずつ入れて再度チャレンジすると・・・まあ飲めなくはないがまだ苦いな。ミルクは十分だから砂糖をもう1杯入れれば美味しく感じるかも
それにしてもこんなに豪華な朝食を食べる事が出来るとは夢にも思わなかったな
アドン達のいるあの露店も美味しいけどこの朝食も美味しい・・・もしかしたら王都の食べ物は全部美味しいとか?
「ご主人様、よろしいでしょうか?」
ノック音と共にサーテンの声。僕は仮面をつけて返事をすると部屋に入り予想外の事を口にする
「お食事中申し訳ありません。お客様がお見えです」
「?・・・ゴーンか?」
まさか朝から!?
「いえ、キース様です」
良かった・・・ゴーンじゃ・・・・・・
「私は居ないと言え」
「畏まりました・・・ですがひとつ問題が・・・」
「問題?」
「はい。主人の許可なく屋敷に入れるのはとお断りしたのですが・・・既にドアの向こうにおられます」
おい
「サーテン・・・つまりノックした後の返事とか聞かれているって事か?」
「はい。そうなります」
朝起きてすぐに来た時は有能な感じだったのに・・・有能なのかポンコツなのか・・・それじゃあ居留守ってバレバレだろ!
「あー、さっきのは撤回する・・・もういい下がれ」
「畏まりました」
次から次へと・・・こんな事なら昨日の段階でエモーンズに戻っておくべきだったか・・・失敗した──────
「よう!昨日ぶりだな!・・・っておい!無視すんなって!」
ドアを開けると満面の笑みで親しげに手を上げるキースの横を通り過ぎ1階へ降りた
当然の如く後ろをついて来るキース・・・正直彼の強さには興味がある
Sランク冒険者・・・レオンとはまた違った強さを持つであろう男
『大剣』という二つ名以外は何も知らないけど・・・そう言えば昨日もそうだったけど武器も持たずに勝負しようとしていたのか?それとも武器の置いてある場所まで連れて行こうとした?
『大剣』という割には何も持ってない彼に疑問を持ちながらも興味がふつふつと沸いてくる
「なあローグ・・・やろうぜ。それとも昨日の夜はお楽しみだったから体力が残ってねえのか?」
お楽しみ?一体何を楽しんだと言うんだ何を
「意味の分からない事を・・・それとも君はゴーンの長話が好きなのか?」
「あちゃージジイが来てたのか。そいつは災難だったな・・・じゃあ今日か?今日やるのか?」
あまりにしつこく訳の分からない事を言うので立ち止まり振り向くとゲスな顔をしたキースが僕を覗き込む
「あまり無理矢理は良くないぜ?まっ、向こうも待っているだろうから適度に、な」
!?
僕だって子供じゃない・・・キースの言わんとしている事は理解しているつもりだ
しかも僕を見つめた後でゆっくりと視線を滑らせ頭を下げたままの2人を品定め・・・その後でポツリと『安産型だな』と呟くから確定的だった
「・・・彼女達はメイドだ。そういうものではない」
「いやいやウブか?そういうもんだろ?向こうもそれを望んでる・・・一代限りの爵位じゃなくて普通の爵位・・・しかも伯爵相手なら尚更だ・・・まさか知らねえのか?」
えっ!?そうなの??
いやいや、そんなはずは・・・昨日は意図しなかったとはいえ寝室に入ったら痴漢呼ばわりだぞ!?
「その様子だと知らねえみたいだな・・・試しに後ろからガバッとパンツ下ろして突っ込んでみな・・・拒否するどころかケツ振って誘って来るぜ?」
んなバカな!
「女達は常駐だろ?しかも国から宛てがわれた・・・となりゃ恋愛なんてもってのほか・・・恋人なんて作る暇なんてありゃしねえ。となるとその女の家がその女だけしか子供がいなかったらどうなる?その家はそこで途絶えちまうってわけだ。だからメイドになった時点で狙ってんのよ・・・玉の輿ってやつをな」
・・・ま、まあ筋は通っているかも・・・
でもメイドの仕事が好きな子もいるだろうし、一人っ子じゃないかもしれないし・・・一概に言えないんじゃ・・・
「考えてみろ。どこかの馬の骨と結婚して苦労するのと貴族の正妻じゃなくても妾になって子を孕んで一生涯面倒見てもらうのとどっちが幸せかをな」
いやどうなんだろ・・・幸せ・・・なのか?
「それにヤラれる覚悟もなしにメイドなんて出来るわけねえだろ?何されても逆らえねえのに・・・だろ?」
ウインクしながら『だろ?』と言われても・・・
「まっ、やるかやらねえかはお前次第だからやらなくてもいいが・・・手を出されなくて不幸になる女もいるって事は知っとけ?知らずに女を不幸にするってこともあるんだ・・・分かったか?」
知らずに不幸・・・か
確かにメイド達が本当に求めていたらそうなのかも・・・いやいや、だからってみんながみんなそんな訳・・・かと言って聞くか?
『僕の子が欲しいか?』
・・・聞けるわけがない・・・立場の上の者からそんな事聞かれる自体セクハラだろ
「まあ朝っぱらから話す内容でもないわな・・・てなわけで今は・・・俺とやろうぜ」
『やる』違いだろ!
なんでそこまでして・・・ハア・・・
「サーテン」
「はい」
「庭師は週に1度だったな?」
「はい。そうでございます」
「おいおい・・・俺を目の前にして庭の心配なんか・・・」
「明日から連続で入るよう伝えろ・・・少々庭が荒れる事になる」
「畏まりました」
「・・・庭が荒れる?」
「いつまでもしつこく付きまとわれるのも面倒だ・・・相手をしてやる。ただしこの屋敷の庭でな──────」




