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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
198/856

195階 ターゲット

「だ、大丈夫ですか?セシーヌ様」


カタカタと震えるセシーヌに寄り添い支えると彼女は小さく頷いた


とても大丈夫に見えないけど・・・


「あの人達は・・・死を恐れません・・・」


「え?」


そう言えばエミリがそんなような事を言ってたな


触れる為なら命すら投げ出すほど・・・ああ、そうか・・・セシーヌが震える理由が分かった


確かに怖いもんな・・・そんな奴らに狙われたら


「あの人達の要求は様々です・・・が、他の人達と違うのは結婚して欲しいとかお付き合いしたいとかそういったものではなく・・・ただ私に触れたい・・・体の一部が欲しい・・・着ている物が欲しい・・・見たい・・・見られたい・・・そういった欲求を満たしたいだけなのです」


・・・なんだそりゃ・・・


「しかもその為ならどんな犠牲も厭いません・・・たとえそれが自分の命でさえも・・・」


それで良いのか親衛隊・・・セシーヌを神格化し過ぎだろ・・・


「これまで何度か襲われそうになったのですがその度にエミリ達や聖騎士の方が助けて下さって・・・最近は大人しくなったと思っていたのですがまさかこのような暴挙に出るとは・・・」


王都を出た時から計画していたかもしれないな。行きはキースがいたから断念して帰りの手薄になった時を狙ったか


たとえ相手が多くても大丈夫だとは思うけど・・・念の為に備えておくか──────




「『暗影のエミリ』ですか・・・最後の砦が聖女セシーヌ様から離れても大丈夫なのですか?」


シーリスの出した土壁を登るとアブールはエミリ達を見下ろす


「ここを抜けられるとでもお思いですか?」


「まさか策もなく突進するとでも?」


「・・・」


ニヤリと笑い手を上げると土壁が爆発したかのように大きな穴が空く


土煙の奥から雄叫びを上げて現れたのは2mを越す大男


「その方が切り札ですか?お粗末な・・・」


「いや?私達はただの陽動です」


アブールが言うと同時にエミリの背後に吠える声が聞こえ振り向くと馬車の左右から親衛隊と思われる者達がセシーヌの乗る馬車へと押し寄せる


「くっ!いつの間に!?」


「初めからですよ・・・私達が突然現れた時点で他にも潜んでいる事を疑わなかった貴女の負けです。聖女セシーヌ様は私達が大事に預からせてもらいます」


「全員セシーヌ様の元へ!」


「行かせませんよ・・・貴女用に当然策も講じてます」


派手な登場をした大男はエミリ達の目を引く為・・・本命は他にあった


まともに当たればエミリに勝てないのは目に見えていた・・・が、アブール達親衛隊は必ずしもエミリ達を倒す必要があるわけではない。目的の為にしばらく足止めするだけでいいのだ


「・・・っ!これは・・・」


親衛隊の中に特殊な能力を持つ者がいる


その特殊な能力とは『幻術』


相手に幻を見せ惑わす能力


魔物には匂いでバレ、強者には気配でバレる為に無用な能力と言われてきた


だが今・・・その能力は遺憾なく発揮されている


親衛隊代表アブールは初めてこの能力『幻術』を得て良かったと心の底から思った


「さてさてどうしますかな?動く気配を攻撃しますか?それとも動かない気配を?間違えれば仲間を殺す事になりますがそれでも平気と言うなれば存分にその両手の小剣を振るってください」


エミリ達の視界は白くボヤけ隣にいる者すら認識出来ない。まるで濃厚な霧に包まれたかのよう


その様子を見てアブールはほくそ笑む


常にセシーヌと共にいるエミリの対策は十分に練ってきた


暗影と呼ばれていた頃のエミリはその名の通り暗闇に紛れターゲットを暗殺してきた暗殺者だった


何一つ見えない漆黒の闇の中で命を絶つ・・・それを可能にしていたのは類まれな気配を察知する能力があったから


しかし今の状況下のエミリには気配を察知する事は出来てもそれが味方なのか敵なのか知る術はない


「くっ・・・動くな!動けば敵とみなす!」


エミリはセシーヌの安否が気になり強引な手段をとる


動けば敵、動かなければ味方と判断し、動くものを始末しようと考えたのだ


しかし・・・


「きゃあ!」


動く気配に容赦なく小剣を走らせると聞こえてきたのは聞き馴染んだ声


「っ!だから動くなと・・・」


「可哀想に・・・攻撃されたくない一心で縮こまっていた人を攻撃するなんて・・・」


「・・・まさか・・・動かされた?」


アブールの一言でなぜ侍女が動いたか気付く


侍女は自らの意思で動いたのではない・・・誰かに押され動かされたのだ


セシーヌが襲われそうになっているという焦り


視界を遮られ仲間を手にかけさせられた屈辱


ふたつの感情が合わさりエミリは見えぬアブールに凶悪な殺意を抱く


「聖女の侍女?似合わないからやめた方がいい・・・なあエミリ」


「っ!?・・・その声・・・」


「警戒しなくていい・・・俺の標的はお前じゃないから」


近くを通り過ぎる気配


その気配を頼りにエミリは小剣を繰り出すがそこにあったはずの気配は消え小剣は空を切る


「ジャック!貴様がなぜ!」


吼えるが気配は消えたまま


焦るエミリにアブールが代わりに答える


「ジャックさんがここにいる理由はただ一つ・・・貴女もお分かりなのでは?少々順番が狂ってしまいましたが目的の達成まであと少しといったところでしょうか」


「・・・一体誰を・・・」


「障害となりそうなのは貴女ともう1人だけ・・・他は取るに足りません・・・ジェイズさんもファーネさんも私達だけで何とかなるでしょう。本来ならエミリさん・・・貴女は聖女セシーヌ様の傍にいて最後にお相手する予定でした・・・なのに前線に出て来られるとは・・・意外でした」


「質問に答えなさい!あの男は・・・ジャックの対象は誰なの!」


「仮面の男ローグ・・・今回の作戦で唯一不確定要素だった方・・・噂ではAランク相当の実力をお持ちだとか・・・なので大金を支払い依頼したのですよ・・・貴女の元同僚である暗殺者ギルドのSランク暗殺者・・・『切り過ぎジャック』にね」


暗殺者ギルド・・・冒険者ギルドのように表の組織ではなく裏の組織である。そしてエミリがかつて属していた組織


金さえ払えば対象が誰であろうと殺す・・・誰であろうと


「ローグ・・・くっ!ローグ殿!セシーヌ様を連れてそこからすぐに離れて下さい!」


ローグの強さは未知数・・・だがこれだけは分かる



ジャックには敵わない



親衛隊が馬車に迫る姿を見ても焦りはしたがすぐに駆け付けなくても大丈夫だと思っていた


馬車にいるのはセシーヌだけではない・・・ローグもいたからだ


それに親衛隊は絶対にセシーヌを傷付ける真似はしないという妙な安心感もあった


が、ジャックの存在がエミリのその妙な安心感を吹き飛ばす


「ローグ殿!!」


「そう何度も叫ぶな・・・聞こえている」


「!!?」


急に現れた気配と共にすぐ近くから声がする


その声は仮面をしている者特有の少しくぐもった声・・・紛れもなくローグの声だと確信した


「ローグ殿!?セ、セシーヌ様は!?それにそちらに向かったジャックは・・・」


「安心しろ。セシーヌはロウニールと共に安全な場所に隠れている。それにしても視界が悪いなここは・・・このモヤのせいか。ならば・・・」


風が吹く


全てを吹き飛ばす程の大風が


エミリは咄嗟に目を閉じて思わず腕で顔を覆うと次に目を開けた瞬間、視界を遮っていた白いモヤはきれいさっぱりなくなり状況が色々と見えてきた


「っ!私の幻術を・・・」


「さて・・・視界も晴れことだしそろそろ反撃と行こうか──────」




「ローグ殿!セシーヌ様はどこに・・・安全な場所とは!?」


「絶対に見つからない場所だから安心しろ。それにロウニールも付いている」


『ロウニールも付いている』という言葉に露骨に不安そうな顔をするなよ・・・


セシーヌの場所は明かせないけど絶対に安全なのは間違いない。コイツらが想像もつかない場所に連れて行ったからね


その場所は・・・エモーンズの僕の家


親衛隊の奴らが僕達の馬車に近付いて来た瞬間にゲートを開き僕の家に3人で移動した。そしてシャドウセンジュと交代し、僕がローグにシャドウセンジュがロウニールに扮し僕だけが戻って来た


それにしてもさっきの霧みたいな白いモヤは原魔だったのか・・・道理でいきなりこんな大人数が先頭を走っていたジェイズに見つからなかったはずだ


そのジェイズはと言うと・・・親衛隊の大男と何やら遊んでいる真っ最中・・・戦う姿は初めて見るが・・・そこそこって感じだな・・・強くもなく弱くもなくってところか


「ローナ!」


うん?


エミリが叫び倒れている侍女に駆け寄る・・・どうやら親衛隊の奴らに・・・いや、見る限り切り刻まれたって感じだぞ?コイツら武器を持ってないのにどうやって・・・


「早く治療しないと・・・」


確かに治療しないと危なそう


それでもローナと呼ばれた侍女はエミリの腕を掴み首を振る


治療をするとしたらセシーヌをここに連れて来ないといけない・・・そうなるとセシーヌの身に危険が及ぶから呼ぶなって事なんだろうな


「ローナ・・・ローグ殿?」


エミリも危険な場所にセシーヌを連れて来るのは避けたいと思っているはず・・・それでも仲間が死んでいくのをみすみす見ているだけなんて出来ない・・・その葛藤に揺れる中で僕が近付くと怪訝そうな表情を向けてきた


「安心しろ・・・セシーヌは連れて来れないが助かる道は他にある」


セシーヌに遠く及ばないけど僕にだって治療は出来る


再生の能力・・・逆再生である『呪毒』を鍛えたお陰で再生の能力自体も格段に上がった


「傷が・・・」


「安静にしていれば助かるはず・・・なのでそろそろ静かに願おうか・・・親衛隊とやら」


前方には何故か動きを止めている親衛隊・・・背後の馬車付近では必死にセシーヌを探す親衛隊・・・コイツらを何とかしないとセシーヌは呼び戻せない


「なんだ・・・馬車にいるって言うから向かったのにここにいたのか・・・探したぜ?」


なんだコイツ・・・歩いて近付いて来る異様な雰囲気の男・・・親衛隊ではなさそうだ


1人だけ雰囲気が違うし何より・・・親衛隊は持っていない武器を持っている


半月を描くように湾曲した片刃の小剣を左右両方に持ち、ゆっくり・・・ゆっくりと僕に近付いて来る


「ジャック!貴様の相手は私が・・・」


「引っ込んでろエミリ・・・お前は標的じゃねえんだよ」


ジャックというのか


なんだかエミリと知り合いっぽいけど・・・てかエミリが標的じゃなくて僕に向かって歩いて来るって事は・・・標的はローグ?


「この仕事が終わればしばらく遊んで暮らせそうだ・・・さっさと終わらせて旅にでも出るか・・・つーわけだからローグ・・・さっさと死ね──────」

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