192階 デバインの街
仕返し・・・と言っても直接的ではなく間接的・・・になるのかな?・・・も済んだしスッキリとした気持ちでカルオスを去る事が出来た
見送りに来てくれたマクトと今度ダンジョンに一緒に行く約束をして王都に向けて旅立つとすぐにふたつの変化に気付く
ひとつはあの2人・・・デクトとファムズだ
「・・・随分と離れた場所で護衛してますね・・・あの2人」
「ええもう顔も見たくないので出来る限り離れてもらっています」
セシーヌの笑顔が何故か怖い
まあ嘘をついた罰だ・・・たらふく飲まされた二日酔いの苦しみとセシーヌに嫌われたという精神的な苦しみを存分に噛み締めればいい
んでもうひとつの変化は・・・
「聖女様、ローグ様・・・お疲れになられたらいつでも言ってください!何時いかなる場所でも安全に休憩出来るようこのジェイズがお守り致します!」
この変わり身の早さ・・・実力ならファーネさんやゲッセンより劣るのに・・・出世するはずだ
定期的に先頭から二番目の馬車まで下がって来てセシーヌとローグにお伺いを立てる・・・聖女であるセシーヌは当然として伯爵になる予定のローグにも気を使っているのは丸分かりだ
この辺の柔軟さがあればあの2人も・・・いや、無理か・・・あの2人は元々の性格が悪過ぎる
「まだ大丈夫ですので先に進んで下さい。次の街まではどれくらいですか?」
「はっ!一日野営をしその次の日にはデバインの街に到着する予定です!」
!・・・デバイン?マクトの・・・
「ロウニール様何か?」
「いえ・・・何でもありません」
まさか昨日聞いた街に寄ることになるとは・・・領主、衛兵、ギルド・・・全てが腐っている街か・・・何も起こらなきゃいいけど・・・
カルオスを出て一日が経過・・・特に何も問題はなく順調に進んでいた
そして二日目の夕方に噂のデバインの街に辿り着く
この街にも教会はあり、セシーヌ達は教会に・・・その他の人達は宿を取り一泊する事に
初めはローグも教会に泊まれる話だったけどあえて断った・・・少しでもこの街の状況が見たかったからだ
《別に教会に泊まっても抜け出せばいいじゃない》
「抜け出すとセシーヌに根掘り葉掘り聞かれるだろ?この件はセシーヌを巻き込まない方がいいと思って・・・多分この街の人間以外にも関わっている人がいるはず・・・それが誰なのか分からない内は下手に手を出せないと思って・・・」
マクトの話だと告発した人はいたけど無駄だったらしいし、デバインの街だけの問題じゃなさそうだ。もっと上の・・・それこそ貴族やらが関わってればセシーヌに迷惑がかかってしまう
《それなら尚更・・・まあいいわ。それよりもあの人間・・・アナタに用があるみたいよ?》
あの人間?
僕が宿を抜け出して外に出ると僕を見ている人がいた
「ファーネ・・・さん?」
これまでそれといって関わりがあった訳じゃないファーネさん・・・時折視線は感じてたけど・・・何の用だろ?
「どこに行くのかしら?」
「・・・えっと・・・冒険者ギルドに・・・」
つい本当の事を言ってしまった・・・適当に『ご飯でも食べに』と言えば良かった
「教会の警護もないし自由時間ではあるけど・・・何故冒険者ギルドに?」
そうなるよな・・・もう夕方だしこれからダンジョンに行くはずもなく・・・となれば冒険者ギルドに用なんてあるはずもない
「えっと・・・カルオスで知り合ったこの街出身の冒険者でして・・・ギルドの近くにある店が美味しいって言ってたものですからそこに行こうかと・・・」
「ああ、なるほどね。てっきりギルドに用事があるのかと・・・私も一緒していいかしら?」
うげっ・・・何とか誤魔化せたけどまさか付いて来るとは・・・
ギルドの近くには食事が出来る店が建ち並ぶ事が多い・・・それは村から街に変わったエモーンズもカルオスもそうだったからデバインでも何かしらの店はあるだろう・・・美味しいかどうかは別だけど・・・
なので冒険者ギルドを目指してギルド近辺にある店に適当に入れば誤魔化せるはず・・・ギルドの状況が見れないのは少し残念だけど今日は仕方ないから諦めよう・・・もう風景は覚えたからいつでもデバインに訪れる事が出来るし焦らなくてもいいだろう
「ねえ・・・冒険者ギルドに向かっているのよね?」
「え?・・・ええ・・・」
「反対よ?」
「え?」
「ギルドはあっち・・・前にこの街を通った時に見たから・・・知らなかった?」
「じ、実際に来たのは初めてでして・・・」
場所を知らないで適当に歩いていたのがバレてしまった。初めて来る街だし適当に歩いていればいずれ着くかなって思ってたけどまさか逆とは・・・
恥ずかしくなり顔を伏せるとアタマをポンポンされてしまった
「ふふっ・・・坊やいつまで経ってもそんなんじゃ・・・おっとこれは内緒だった・・・危ない危ない」
そんなんじゃ・・・なんだ?内緒って・・・そこまで言って全部言わないのは反則だろ!
「えっと・・・何の話ですか?」
「内緒って言ったでしょ?それよりほら・・・あそこが冒険者ギルドよ」
おお、いつの間に・・・なんか誤魔化された気がするけど今はそれどころじゃない・・・目的の冒険者ギルドには着いたけど今の目的はその近くにある店・・・出来るだけ美味しそうな雰囲気が漂う店を探さねば・・・
「あっ、ここです!魚々亭!」
「へえ・・・内陸地なのに魚を扱っているの?鮮度は大丈夫かしら?」
おおぅ・・・そう言えばデバインって周りに海や川はなかったような・・・水路はあるんだろうけどそこに魚はいるのだろうか・・・いたとしてもたかが知れてるような・・・じゃあここで出す魚はどこから?
「まあいいわ。エモーンズも海が近い割には魚料理がほとんどない肉料理ばかりで飽きていたところだし・・・入りましょ」
不安だ・・・これで不味かったら・・・確かファーネさんは火魔法使いだったよな・・・突然怒り出して『お前を焼き魚にしてやろうか!?』なんて事に・・・ならないよな?
どうか美味しいようにと祈りながら店に入るとそれまで楽しく食事をしていた店内の客が一斉にこちらを見て顔を曇らせる
店内はかなり広くテーブルも所狭しと置かれており、そのテーブル全てに客が座っていた
満席か・・・と思ったが1人の男がお代と思われるお金をテーブルに置いて席を立ちそのお陰で僕達の座れる席が出来た
「ファーネさん、あそこ空いたみたいですよ?」
「・・・そうね・・・」
入る前と打って変わって表情が厳しくなるファーネさん・・・まさか匂いで既にダメとか?
「どうやら私達にはあまり居て欲しくないみたいね・・・」
ファーネさんは呟き、まだ店員が片付け中のテーブルに進むとお構い無しに席につきテーブルに置いてあるメニューを手に取り開いた
確かに客は僕達が入ってから変な雰囲気になったみたい・・・入る瞬間まで聞こえていた笑い声は鳴りを潜め黙々と食べる客達・・・他所者に聞かれたくない話でもしてたのだろうか?
「何してるの?入口で突っ立ってると迷惑よ?」
「あ、すみません・・・」
言われて周囲の目を気にしながらもファーネさんの対面に座るともうひとつあったメニューを手に取り開いて見た
うーん店の名前通り魚は料理ばかり・・・聞いた事のないメニューだがどれも魚っぽい
「ロウニールは何にするの?」
「えっ?・・・えっと僕は・・・」
まだ決めてないけど適当に選ぼうとした時、周りのテーブルに座っていた客が次々に立ち上がりお代を置いて出て行ってしまう
それも1人や2人じゃない・・・店の半数以上の客が、だ
明らかに食べ途中のテーブルまであるしこれは・・・
「随分ね・・・嫌われたかしら?」
ファーネさんがクスッと笑い呟くと出て行こうとした客の1人が立ち止まり肩を震わせ我慢の限界といった感じで振り向いた
「!よせジヤン!」
「うるせえ!・・・店まで来て嫌がらせかよ?兵士さんよぉ」
ジヤンと言われた男はファーネさん・・・ではなく、僕の前に立ちそう言った
嫌がらせって・・・なんで??
「えっと・・・別に・・・」
困ってファーネさんに助けを求めると彼女は自分の胸を指さして何かを伝えようとしていた。胸・・・大きいな・・・じゃなくて僕の服を見ろって事?・・・あっ
カルオスの時と同じ失敗をしてしまった・・・そっか・・・この服を見て僕を兵士だと・・・
改めて見るとファーネさんは・・・そういやそもそもファーネさんって制服着てないよな・・・だから着替えなくても良かったんだ。その点僕はまんま兵士の制服だしマクトに聞いた状況だと冒険者達は兵士にいい感情を抱いていないはずだ
ギルドの近くだからか客は冒険者っぽい・・・うーん、もしかして店に入っただけで嫌がらせと勘違いした?
「その・・・誤解です・・・僕達はある任務でここに来ただけで・・・」
「任務?楽しい飯の時間を邪魔するのが任務か?」
違ーう・・・どんな任務だよそれ
「よせってジヤン・・・すみませんコイツ酔ってて・・・」
「離せよ!もうたくさんなんだよ!お前らの目を気にして生活するのも金を奪われるのも好き放題されるのも!この店だけは・・・この店だけは憩いの場だったのによォ!ここまで奪うのかよ!」
なるほど・・・もしかしたらここは暗黙の了解で冒険者しか来ない店だったとか?だとしたら悪い事したな・・・
「ファーネさん・・・すみません、店を変えて・・・」
「いやよ・・・どこで食事しようと勝手でしょ?それともこの店は兵士お断りなの?」
僕の提案を拒否して店員をチラリと見ると、店員はあまり関わりたくなさそうに慌てて首を振る
「てめえこのアマ!兵士の女だからって調子に乗りやがって!」
・・・兵士の女?・・・僕が制服着てるから兵士と認識されていて、ファーネさんは制服じゃないから・・・えっ?僕の彼女と思ってる?ファーネさんを??
「ち、違いますよ!ファーネさんは・・・」
「あら?そんなに強く否定しなくていいじゃない・・・傷付くわ」
いやいやいやそこは否定するでしょ!
ファーネさんと僕なんて全然釣り合わな・・・ん?
「うっせぇ!もう容赦しねえ!」
なんで!?
突然ジヤンが腰の剣に手を伸ばす
その瞬間視線の端にファーネさんの手が燃え上がるのが見えた・・・確か彼女は火魔法使い・・・このままじゃジヤンは消し炭に・・・そう思ったら体が自然に動き柄を握る手を押さえそのまま鞘に押し込んだ
「んなっ!てめえ・・・」
「剣を抜いたら流石に僕も無抵抗って訳にはいかない・・・知らずにこの店に入った事は謝るよ・・・けど店の看板に兵士お断りって書いてない限りはそこまでされる筋合いはないよ?」
まあ兵士お断りと書かれていても殺される筋合いなんてないけど・・・
言葉を選びながらなるべく神経を逆撫でしないように言ったつもり・・・その効果が、あってかジヤンは剣の柄から手を離した
「・・・本当に知らなかったのか?」
「うん・・・ここもカルオスでマクトに聞いて・・・」
「嘘つけ!マクトは魚が嫌いでここには・・・え?マクト?」
やべっ・・・チラリとファーネさんの方を見ると僕に疑いの目を向けていた
ええいこうなったら・・・
「すみません・・・正直に言うとマクトに聞いた訳じゃなく・・・その・・・彼にこの街の事を聞いてどんな状況なのか知りたくて・・・」
「???・・・それこそ嘘だろ!マクトが兵士と話すなんてありえねえ!」
あーもう!どうやって説明すればいいんだ?
「えっと・・・順を追って説明させてください。僕はエモーンズから来た兵士でして、とある任務に就いています。それで任務中にカルオスに寄って知り合いのいるギルドを訪ねたらマクトと会って一緒にダンジョンに・・・」
「・・・はあ?兵士が・・・ダンジョン??」
「そうですそうです!僕は兵士をやってる傍ら冒険者もしてまして・・・あっ、ほら・・・ちゃんとギルドカードも・・・」
初めからこうすれば良かったと懐からギルドカードを取り出すとジヤンはそれを奪うかのように僕の手から取り、顔を近付けて読み上げた
「Fランク・・・ロウニール・ハーベス?・・・ア、アンタ・・・あの『ドラゴンバスター』のロウニールなのか!?」
やめてその二つ名・・・ってデバインまで知られてるの!?──────




