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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
193/856

190階 教会にて

「イテテ・・・あの野郎・・・今度会ったらタダじゃおかねえ・・・」


「だな・・・それにしてもどこ行きやがった・・・教会に戻っていると思ったのにまだ戻ってねえみたいだし・・・まだあの冒険者達とつるんでるのか?」


ロウニールにやられてしばらく立てなかったデクトとファムズはようやくある程度痛みが引いてきて周りを見渡したが既にロウニール達は居なくなっていた


腹の虫が収まらない2人はロウニールを探すべく教会へと足を運ぶが空振り・・・まだロウニールは戻ってないと侍女の1人に聞いたのだった


「どうする?」


「チッ・・・慣れない土地で人探しってのも効率が悪い・・・どうせ明日になればイヤでも会うんだ・・・その時に・・・」


「あら?どうされたんですか?そのお怪我は・・・」


「せ、聖女様・・・」


教会前で話をしているとたまたま通りかかったセシーヌとエミリが2人の怪我に気付き近寄って来た


「まさか誰かに?すぐに治療しますので中へお入り下さい」


「え?・・・いいんですか?」


「ええ。私達を守って下さる方ですもの・・・治療は当然です。さあ、中へ」


教会の中へと案内するセシーヌの後ろ姿を見て2人は内心喜んでいた


治療をしてもらえるからではない・・・セシーヌとお近付きになれるチャンスが舞い込んで来たと喜んでいたのだ


「んじゃお言葉に甘えて・・・」


2人は痛みなど忘れ下卑た笑みを浮かべながらセシーヌのあとをついて行こうとした・・・その時


「・・・セシーヌ様、少しお待ちを。先ずは誰にやられたか聞くべきです。もしかしたら賊がいるやも知れませんので」


「治療が先でも遅くはないでしょ?」


「いえ・・・事は急を要す場合も御座いますので・・・お2人方・・・誰にやられたのです?」


2人の笑みは消え、睨みこそしなかったが心の中で舌打ちしながらどう答えるべきか考える


でっち上げて賊と言えば存在しない賊を永遠と探す羽目になりそうであり、本当のこと・・・つまりロウニールにやられたと言えば後輩にやられた情けない2人とセシーヌに思われてしまう


一瞬悩んだがファムズはいい案が浮かんだのかニヤリと笑い尋ねてきたエミリを見た


「ロウニールにやられました」


「なっ!?ファムズ!」


ここでその名を出すのは恥・・・そう思っていたデクトが驚きファムズに振り返る・・・が、ファムズは自信ありげな表情をデクトに向け、再びエミリを見た


「・・・ロウニール殿に?」


「はい・・・何を思ったのか勝手に冒険者共と護衛中にも関わらずダンジョンに赴いていたのでそれを咎めたところ、突然ロウニールが私とデクトに殴りかかって来ました。応戦しようとしたのですがロウニールの味方をする冒険者達の数が多く・・・気付いたらこのザマです・・・」


「・・・そうですか・・・ロウニール殿が冒険者達と共にお二方を・・・」


「え、ええ・・・私はただ護衛の任務が如何に重要かを・・・」


「もう結構です。それ以上言えばお二方の首を落とさねばならなくなります」


「・・・え?首をって・・・」


「・・・エミリ・・・そこのお2人を今後私の視界に入れないようにお願いします。でないと私は・・・」


「畏まりました。そのようにジェイズ殿にお伝えしておきます。セシーヌ様は先に中へ・・・私は少しこの者達と話があるので」


セシーヌはエミリの言葉に頷きそのまま教会の中へ


残ったエミリは意味が分からず目を白黒させている2人の前に立つと大きくため息をついた


「事もあろうにロウニール殿とは・・・まだ他の者なら救いはあったかも知れませんね」


「え?一体何を・・・」


「聖女様に対して嘘をつく・・・重罪であり処刑されても文句は言えない・・・そう言っているのですよ」


「そ、そんな!嘘なんて・・・」


「誰でも一目で分かります。正面から綺麗に一撃・・・とても複数の人にやられた傷には見えません」


「い、いやそれは・・・そうだ!その・・・冒険者達に羽交い締めにされて・・・」


「嘘を重ねない方がよろしいかと・・・私はともかく聖女様は・・・いえ、とにかくロウニール殿ならそのような事をしなくてもお二方ならば苦もなく組み伏せるでしょう」


ジロリと睨み2人の力を測る


自分の不意の一撃を難なく躱したロウニールと目の前の子羊のように震える2人の力量など比べるまでもなかった


「で、ですが・・・」


「もし全く嘘偽りがないと言うのなら明日の朝今一度聖女様に申し開きを・・・ただし1片でも嘘があるのならその時は覚悟を・・・お二方の首だけでは到底足りない事になりますので」


エミリはそれだけ言うとセシーヌの後を追うように教会の中へ


2人はエミリの言葉を飲み込みしばらくその場で呆然としていた


「そんなところにいたのか!探したぞ」


「・・・ジェ、ジェイズさん・・・」


背後から声が聞こえ振り向くとジェイズが慌てた様子で教会の敷地に足を踏み入れる


そして息を切らせながら2人の前に立つと息を整える為に深呼吸を繰り返し未だ呆然とする2人を見つめ口を開いた


「・・・いいか?よく聞け・・・ローグ()の同行理由についてだ」


「・・・ローグ・・・様?」


「そう・・・様だ。お前達に聞かれて私も気になって知っている方に尋ねてみた。聖女様・・・あるいは侍女長であるエミリ殿なら知ってるかと思い・・・残念ながら聖女様と話す機会はなくエミリ殿に聞いたのだが・・・ローグ様が王都に行く目的は爵位を授かる為だ」


「しゃ・・・爵位!?」


「戦争でもしてれば爵位を授かる方はいるだろうけど戦時中でもないのに爵位を授かるのは奇跡に等しい・・・余程の貢献がないと無理だからな」


「・・・その余程の貢献をローグが挙げたと?」


「様、だ。まだ叙爵していないが既に貴族と思って接しろ・・・何せ授かる爵位も・・・」


「え?男爵では?だってローグ・・・様は平民ですよね?」


「ああ・・・普通はそうだ。我ら騎士ならある程度の功績で一代限りの騎士爵が関の山だろう・・・平民からなら男爵・・・私もそう思っていた・・・」


男爵が最も低い爵位ではあるが、もうひとつ下に特別な爵位がある


騎士爵・・・主に武功を挙げた者に与えられる爵位であり、他の爵位と違い家に与えられるのではなく個人に与えられるものとなる。なので地位としては男爵と同等ではあるが世間一般的には男爵のひとつ下と見られている



「だ、男爵でなければ・・・もしかして子爵・・・」


「いや・・・伯爵だ」


「は、伯爵!?」


「嘘でしょ!?だって・・・」


「ああ、前代未聞だ。もしケイン様が知ったら発狂するかも知れない・・・一体どんな功績を挙げれば平民から伯爵に・・・と、とにかく絶対に失礼のないように!聖女様と同等・・・いや、今までの事を考えるとそれ以上に気を使え!」


呼び捨てはもちろん仮面野郎呼ばわりしていたデクトとファムズは顔を青ざめさせる


伯爵ならば衛兵など吹けば吹き飛ぶ存在・・・気分ひとつでどうにでもなる存在なのだから・・・


「マジか・・・」


「終わった・・・」


「諦めるな・・・これから挽回すれば何とかなる・・・それにしてもなぜ教会にいるんだ?それにその顔の傷・・・」


「いや、これは・・・」


「全て話せ・・・これ以上この任務で頭を悩ませたくない」


「・・・実は──────」



ファムズは包み隠さず今起こった事をジェイズに話した


騎士団に所属していた時からの上官・・・少なからずジェイズなら味方してくれると思ったから素直に話したのだが当のジェイズはその話を聞いて頭を抱えた


「・・・やってくれたな・・・」


「で、でもロウニールの野郎が・・・」


「違う・・・ロウニールの事もそうだが・・・お前達が聖女様に嘘の報告をしたのが大問題だ」


「嘘なんて・・・そりゃあ少しは誇張しましたけど・・・」


「・・・ハア・・・お前達・・・聖女様の能力を知らないのか?」


「能力?・・・治癒の事ですか?」


「違う・・・聖女様・・・もしくは聖者様は歴代の法務大臣をされている。その理由はひとつ・・・特殊な能力『真実の眼』を持っておられるからだ」


「真実の・・・眼?」


「そうだ・・・全ての嘘を見抜くその力は法を司る法務大臣として法を犯した者の嘘を見抜き裁いてきた・・・聖女様と聖者様には何人たりとも嘘はつけない・・・その聖女様に嘘をついたのだ・・・お前達は」


「そんな・・・」


「誇張しただけと言ったな?だがお前達は清廉潔白な聖女様に人を・・・ロウニールを陥れるような誇張の仕方をしたのだ・・・聖女様にはお前達がとてつもなく邪悪な存在に見えただろうな・・・もう護衛としての信用など欠片もない・・・命令通り王都まで聖女様の視界に入らず過ごすしかないだろう。・・・とにかく私がエミリ殿と話しとりなしてはみるがあまり期待しないでくれ・・・」


そう言ってジェイズは教会の中へ


残された2人は自分達のしでかしてしまった事を改めて後悔し絶望する


「ファムズ・・・お前が嘘なんてつかなければ・・・」


「仕方ないだろ?あの場で正直に話すか?『ロウニールにやられました』って言えたか?」


「・・・くそっ・・・ローグの件も聖女様の件も・・・最悪だ・・・」


「とにかく今はジェイズさんに頼るしか・・・」


ジェイズが入って行った教会の扉を見つめる事しか出来ない2人・・・途方に暮れ無言のまま立ち往生していると背後から声を掛けられる


「何してるの?教会の前で・・・」


「・・・ファーネさん・・・」


振り返るとファーネが怪訝な表情を浮かべ立っていた


日も暮れて暗がりの中で呆然と立つ2人に異様な雰囲気を感じ声を掛けたのだが、振り返った表情を見て声を掛けなければ良かったと後悔した


「あー・・・何があったか聞かないわ・・・お達者で」


「ちょっ・・・ファーネさん!聞いて下さいよ・・・実は──────」



藁をもすがる思いで2人はファーネにこれまでの経緯を話した


聞いている内に話し掛けた事への後悔よりも腹立たしさが上回り焼いてしまおうかとも思ったがグッと堪えて最後まで話を聞いた


「・・・ハア・・・全面的に貴方達が悪い・・・ならやる事は決まってるんじゃない?」


「え?」


「分からないの?発端は何よ?誰なら一番穏便に済ませられるのよ?」


「えっと・・・聖女様?」


「バカ?聖女様と仲良くてローグの護衛をしている人物・・・その人物に頼めばもしかしたら・・・」


「まさかその人物って・・・」


「そうよ・・・ロウニール・・・彼に謝罪し許しを得ればもしかしたら元通りとは言わないまでも最悪の結果にはならないかもね──────」

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