189階 ドラゴンバスター
デクトとファムズに絡まれて遅くなったけど・・・ようやく来れた・・・冒険者ギルド
ゲイルさん達とドラゴニュートを討伐したのを昨日のように感じるけどもう結構日が経つんだよな・・・あれから元気にしているだろうか
少し緊張しながらギルドの戸を叩くとまるでエモーンズの冒険者ギルドのように活気のある風景が飛び込んできた
ドラゴニュートを突破出来ず未来が見えなくなり鬱蒼とした雰囲気が漂っていた以前と比べたらまるで違うギルドに迷い込んだかと思うくらいだ
「・・・ん?おいおい何の用だ?ここは飲み屋じゃなくて冒険者ギルドだぞ?」
僕に気付いた1人の冒険者がお決まりのように絡んでくる。ギルドには常連以外が来ると絡まないといけない規則でもあるのか?
「ゲイルさんはいますか?」
「ゲイルさん?・・・てめえ本気で何しに来た?」
顔付きが変わった・・・それに周囲の雰囲気も
男は険しい表情になり周囲も僕を睨みつける。なぜゲイルさんを訪ねただけで・・・
「おいどうした?何静まり返って・・・・・・お、お前は・・・」
ギルドの奥にある階段から降りて来た人物が異様な雰囲気を感じ取りキョロキョロと回りを見渡すと僕と目が合った
相変わらずご立派なお髭だこと・・・
「お久しぶりです・・・ゲイルさん」
「ロウニール!!ロウニールじゃねえか!!」
ドスドスと床を鳴らし物語に出て来るようなドワーフ髭を揺らしながら冒険者達を押しのけ駆け寄って来た
僕の目の前で両手を広げた姿はさながら熊・・・身構えると背骨が折れるかと思うくらい思いっきりハグされた
「ゲ、ゲイルさん・・・苦し・・・髭刺さってる・・・」
背中の痛みと髭のチクチクのダブルパンチに意識が朦朧とする・・・殺意はないけど何か恨みでもあるのか!?
「おぉ悪ぃ悪ぃ・・・こんなに早くまた会えると思ってなかったからつい、な。それよりどうした?カルオスに住む決心でもついたか?」
「住みませんって・・・たまたま仕事でカルオスに寄ったので顔を出しただけですよ」
「仕事?・・・そうかなんで変な格好してるかと思ったがそういやお前さん兵士だったな」
そういえば支給されている服装だったの忘れてた
門番の時に着る鎧じゃなくて長旅に対応する為に服を支給されていた。フーリシア王国の紋章である何かの鳥が羽を広げている絵が胸の部分に描かれた服・・・一目で護衛と分かるように全員お揃いのものを着ている
僕は着る機会がなかったので今回初めて支給されたが内勤の時や見回りの時は通常この服を着るらしい
「く、組合長・・・もしかしてこの人が『ドラゴンバスター』のロウニール?」
さっき僕に絡んで来た男が僕を震える手で指さしてゲイルさんに尋ねる
『ドラゴンバスター』?・・・それを言うなら『ドラゴンニュートバスター』じゃ・・・
「おうよ・・・『ドラゴンバスター』ロウニール・ハーベス・・・この街の救世主だ──────」
「・・・それを言うならゲイルさんこそ『ドラゴンバスター』じゃないんですか?」
「確かにトドメを刺したのは俺だがそれを言うのが恥ずかしくなるくらい活躍してねえ・・・あの戦いを見てたら誰もが言うだろう・・・お前さんが一番手柄だってな」
てな感じでゲイルさんがギルド内で広めたらしく話を誇張しまくったのか尊敬の眼差しを一身に受けることに・・・そういうの慣れてないからやめて欲しい・・・恥ずかしくて逃げたくなる
ギルド内にあるテーブルにゲイルさんと向かい合って座り、その周りを取り囲む冒険者達・・・一語一句聞き逃さないように聞き耳を立てたりメモしている人もいるし・・・
「・・・で、新生組合名が『ドラゴンバスター』ですか・・・それじゃあまるで・・・」
一応前からの組合はあるにはあったが空中分解状態であった為に心機一転とゲイルさんが新しい組合を立ち上げた
その名も『ドラゴンバスター』
んで僕のこの街での二つ名が『ドラゴンバスター』
それだけ聞くとまるで僕の組合のような印象を受けてしまう・・・実際は加入すらしてないのに・・・
「ま、まああれだ・・・あの戦いを通じて話していく内に『もうそれほとんどドラゴンじゃ』って話になって・・・ならロウニールは『ドラゴンバスター』だなって・・・で、ちょっとその響きがいいなぁと思ってな・・・新しい組合の名を考えてたところだったからつい・・・」
聞く人は必ず勘違いするだろうな・・・組合『ドラゴンバスター』に二つ名が『ドラゴンバスター』の男・・・誰だって繋がっていると考える・・・下手すりゃ組合長とさえ思う人も・・・・・・繋がり、か
「ねえゲイルさん・・・三つ質問していい?」
「ん?あ、ああ・・・」
「組合って別の街に住んでても加入可能ですか?」
「そりゃあもちろん・・・根無し草の冒険者にとって住まなしゃいけなかったら加入しづらいしな」
「んじゃ二つ目・・・組合って何個も入れるのですか?」
「ああ・・・その組合によってダメなところもあるが・・・同じギルド内じゃなければ基本可能だ」
「最後に・・・『ドラゴンバスター』に加入出来ますか?」
「・・・誰が?」
「僕が」
「・・・本気か?」
「本気です・・・ただ住まいはエモーンズから移るつもりはありませんししょっちゅう来れる訳でもありません・・・それでも良ければ・・・あ、あと二つ名の『ドラゴンバスター』っていうのをやめてもらえれば・・・『ドラゴンバスター』の『ドラゴンバスター』って何か変でしょ?あ、会費はなかなか来れないのでまとめて払うんでいくらか教えてもらえれば・・・」
「・・・ハ、ハハッ・・・要らねえよ!その代わり何かあったらこき使うぜ?・・・つーわけで歓迎するぜロウニール!」
ゲイルさんが加入を認めてくれると聞いていた周囲の人達から歓声が上がる
僕なんかが加入したくらいで大袈裟な・・・
《随分人気ね・・・まっ当然ちゃ当然だけどね・・・アナタはあれだけ強くなったドラゴニュートを討伐した・・・ここの人間にとってもダンジョンにとっても救世主なんだから・・・》
ダンジョンにとっても?・・・そうか・・・あのままあのドラゴニュートが40階で冒険者を退けていたらダンジョンは先細りするしかなくなる。現に冒険者は減り続けていたみたいだし・・・でもあのドラゴニュートを倒したことによってドラゴニュートの強さはリセットされたし冒険者も戻って来ている・・・街の人にとってもダンジョンにとっても救世主か・・・
《少しくらい自惚れてみたら?下手な謙遜は卑屈に見えるわよ?アナタの場合は少しくらい自惚れた方がいい・・・多分それでもアナタの実力からしたら謙遜の部類に入るから》
自惚れても謙遜ってどうなんだよ・・・僕が自分を低く見積もり過ぎ?
《まあ半分くらい私のせいだけどね・・・マナを使えなかったからそりゃあ自信なんて持てるはずないし・・・》
半分くらいじゃなくて全部のような気がしないでもないけど・・・
「・・・多分ダンコが居なかったらこうはならなかっただろうから・・・おあいこだね」
「あん?ダンコ?」
「いや、何でもないです・・・少し体を動かしたいのでダンジョンに付き合ってもらえませんか?今日中に戻らないと行けないのでそんなに長くは潜れませんが・・・」
「あ、ああ、もちろ・・・」
「組合長!俺も行きます!」「私も行きます」「俺が行く!」「私が・・・」
ゲイルさんと2人で行こうと思ってたけど一緒に行くと立候補する人達・・・収拾がつかなくなりゲイルさんが怒鳴るまで立候補する声は続いた──────
日帰りだし行くのは31階という事でそれに見合った実力者をゲイルさんが選出・・・なんとまあ偶然なのか奇縁なのかギルドに入って僕に絡んで来た人が選ばれた
あとの2人は古くからこの街でゲイルさんと共に冒険者をしている2人から選ばれいざダンジョンへ
どうやら絡んで来た人・・・マクトはドラゴニュートが討伐された後からカルオスにやって来たのだとか
喧嘩っ早いのが玉に瑕だが正義感が強く才能もあるとか・・・見た目はチャラチャラしてて強面だがその容姿に反して魔法使い・・・そのギャップも面白いとゲイルさんは笑っていた
戦闘スタイルも面白くジャンルで言うと『近接魔法使い』?僕のように強化や操作と組み合わせる訳ではなく変化だけで戦うのに近接アタッカーは珍しい
なぜならマナを変化させ魔法として放つとその魔法は自身にも牙を剥く・・・例えば魔法で炎を出せば自分も焼かれてしまうのだ
なので魔法使いは仲間はもちろん自分にも被害がないように近くではなく遠くから魔法を放つのがほとんど・・・だからマクトみたいな命知らずな戦い方をする人は珍しいとされている
「いやーロウニールさんやっぱり凄いっすね!31階がまるで散歩感覚っすもん」
「えっとマクト・・・同い年なんだしさん付けじゃなくても・・・」
「いやそれは無理っす!自分組合長から話を聞いた時から尊敬してたっすから!」
絡んで来た時との変わりようがなんとも・・・最初はおちょくられているのかと思ったら本気で尊敬しているみたい・・・なんだか照れるな・・・
あまり時間がないのでサクッと31階を一回りしただけで終えたけど、その間ずっと僕の一挙手一投足を見つめていたマクト・・・時折『すげえ』とか『カッコイイ』とか言われてしまうとなんだか乗せられてしまっていつもより張り切ってしまった
ずっと馬車の中に居たから運動不足だったけど十分に体を動かす事も出来たし良かった
「どうします?これから飯でも・・・」
「そうだね・・・ゲイルさん達は?」
「ああ、もちろん行くさ・・・てか本当に今日の分いらねえのか?」
「体動かしたかっただけですし付き合わせちゃった形なんで4人で分けてください」
「悪ぃな・・・じゃあ今日は俺の奢りだ!マクト、今ギルドに残ってる連中も連れて来い・・・いつもの店で久々にパッーとやるぞ!」
「ウッス!じゃあ今からひとっ走り・・・」
街に戻りながらそんな話をしていると門番の後ろにふたつの影が・・・よく見るとデクトとファムズが苛立った様子で僕を睨みつけていた
「なんだアイツら」
走って先に行こうとしていたマクトが足を止め怪訝な表情を浮かべ2人を見る
「気にしないでいいよ・・・僕に用があるみたいだ」
以前だったら苛立つ2人を見て萎縮してしまってたかも・・・でも今は2人が小さく見える
「ロウニール!油売ってないでさっさと来い!」
「思わせぶりなこと言いやがって・・・ジェイズさんも知らねえって言ってたぞ!」
遠くからキャンキャン吠えてみっともない・・・2人は元々第三騎士団所属のはず・・・今の姿を見るととても信じられないな
とりあえず歩いて門番の人にギルドカードを見せ中に入ると興奮した様子の2人がすぐに寄ってきた
「おい!どういう事だ!説明しろ!」
「・・・それはジェイズさんが知らないだけで・・・」
「うるせえ!口答えすんな!」
説明しろと言うから説明したのに・・・どう言えばいいんだ?いっそう僕から伝えるか?
そんな事を考えていると2人と僕の間にマクトが割って入って来た
「ちょっとアンタら・・・ロウニールさんに喧嘩売ってんのか?」
「なんだてめえは?」
「マクト・・・冒険者だ」
「はあ?冒険者?関係ねえ奴は引っ込んでろ!しょっぴくぞ!」
「あん?何の罪でしょっぴくって言うんだよ」
「そんなの決まってるだろ?冒険者ごときが衛兵様に逆らった罪だ」
冒険者ごとき?
「てめえら下賎の者が俺達の言葉を遮る事さえ罪なんだよ・・・分かったらさっさとどけ!」
下賎の者?
「てめえら・・・」
「よせマクト!衛兵に手を出したら前の街の二の舞になるぞ!」
「どうした?かかって来ないのか?所詮冒険者なんざブペッ」
「デクト!!・・・ロウニール貴さまっ!?」
デクトの顔面に拳を放り込み、ファムズの顔面に踵をめり込ませた
「先輩方の言い分だと衛兵同士ならただの喧嘩・・・だよね?」
思った以上にスッキリしなかったけど、これ以上やるのはさすがにまずいな
けど・・・冒険者を下に見てる言い方は許せない・・・やっぱりもう一発ずつ殴っておくか?
何が冒険者ごときだ何が下賎の者だ・・・衛兵が偉いと本気で思ってんのかコイツら・・・ダメだ・・・とりあえず殴っておこう
「よせロウニール・・・クズでも同じ衛兵なんだろ?それ以上やると問題になるぞ?」
「・・・そうですね・・・飯・・・行きましょうか」
気絶こそしてないけど殴られた顔を押さえてうずくまる尻目に歩き出す
「・・・シビい・・・」
何やらマクトから変な視線を感じるがとりあえず気付かないフリをしとこう・・・面倒そうだし・・・それにしてもゲイルさんが言っていた『前の街の二の舞』って何の事だろ?
「マクト!ボーッとしてねえでギルドにいる奴らを呼んで来い!嫌な事は忘れてパッーとやるぞ!」
「は、はい!」
マクトは前の街で衛兵相手にやらかしたのか?それでカルオスに?・・・まあいいや、とりあえず腹が減ったから・・・まずは飯だ──────




