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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
19/856

16階 『風鳴り』

口では必ず倒すと虚勢を張ったけどサイクロプスを単身で倒すなんて無理な事は分かってる


諦めてタダで命をくれてやるつもりはない・・・最後まで抵抗して・・・抵抗して抵抗して・・・満足したら逝ってやる!



ほぼ奇跡に近かった


3度目の棍棒を掻い潜り、3度目のかすり傷を付ける事に成功・・・しかし奇跡もそれまで・・・サイクロプスは中級上位に位置する魔物・・・単調な動きを繰り返すほど愚かじゃない


縦から横に・・・縦横無尽に棍棒を振る姿に尊敬の念すら抱いた



サイクロプスが強く、私が弱い・・・ただそれだけ


「これが最後・・・かな?」


次の攻撃に何かしらの変化がある予感がする


それでも私は棍棒を掻い潜り、足にダメージを与えるのみ


もうマナを残しておく必要も無い


この一撃に・・・全てを込める!


振り下ろされる棍棒


同じように避けると背筋が凍りつく


今までは棍棒が地面を叩きつける音が響いていたが、その音がしなかった・・・恐らくサイクロプスは地面に当たる前に棍棒を止めた


私は振り返ることなく目の前に集中する


短剣を強く握り締めるけど、やっぱり短剣にマナを流す事は出来なかった


もし私に剣士の才能があれば・・・1人でサイクロプスに勝ててたかな?



風が鳴る


振り下ろした棍棒を止めた理由はただひとつ・・・次の攻撃に備える為だ


空気を切り裂き、棍棒が迫って来るのが分かった


満足?・・・いいえ・・・全然足りない・・・もっと生きていたかった──────



「グオオオオオオ!!」


「・・・え?」


サイクロプスの呻き声が聞こえ、私は一気に現実に引き戻され状況を確認する


短剣では到底つけられないような深い傷がサイクロプスの足に刻まれ、血が噴き出していた


「な、何が・・・」


誰かが助けに?・・・違う・・・周りには誰も居ない・・・居るのは私とサイクロプスだけ・・・ならどうして・・・


あの時・・・死を覚悟した時・・・私は一体何を・・・


確か・・・短剣で切りつけて・・・まだマナが残ってたから・・・探索用の風魔法を・・・



風が鳴る



ハッとして懐にしまった扇子を取り出しまじまじと見る


扇子を開いてマナを流したら強風が出た・・・けど、もし・・・


扇子を閉じたままマナを流し片膝をついているサイクロプスに向かって振ってみる


すると風は刃となりサイクロプスの腕を切り裂いた


「グオオオオオオ!!」


再び呻くサイクロプス


腕を切り裂かれ、体を支える事が出来ず地面にうつ伏す


どういう原理か分からないけど・・・開いて使えば強風を起こし、閉じて使えば強風は刃となり対象を切り裂く



地面にうつ伏したサイクロプスは片腕で起き上がろうとしている


私がその前に立つとサイクロプスは顔を上げ一つ目で私を睨みつけた



「・・・ありがとう・・・」


何故か感謝の言葉を口にした私は閉じたままの扇子を振るう


風の刃が私を睨みつける一つ目を切り裂くとサイクロプスはこれまで以上の呻き声を響かせ・・・絶命した



地面に溶けていくように消えていく巨大な魔物を無言で眺めていると残った物に目がいった


サイクロプスの魔核・・・これまで見たどの魔核よりも大きい


自然にそれを拾い上げるとそのまま奥へと足を向ける


20階の出口であり、21階の入口であり──────



その後の事は記憶にない


21階に下りるとゲートがあり、そこから地上に戻った・・・のだろう。唯一私が生きて戻るにはその方法しかなかった・・・そして私は生き残った・・・ただそれだけ


目を覚ますと街の宿にいて、ダンジョンの入口に立っていたギルド職員が運んでくれた事を聞いてお礼を言いにギルドに行くとあの時の事を根掘り葉掘り聞かれた


21階から1人でどうやって生還したのか、他のパーティーメンバーはどうしたのか・・・あの時の事を色々と


全て正直に答え、何か言われるかと身構えるが特に何もなく終わった・・・けど、翌日から私の環境は変わった


パーティーへの誘いが山のように来たのだ


それはそうだ・・・中級上位の魔物であるサイクロプスを単独で倒せるスカウトなんてそうそういない・・・だからそんな噂を聞きつけた冒険者達がこぞって私をパーティーに迎え入れたがるのも無理はない


だけど私はその誘いを全て断る


生き残れたのは偶然であり実力ではない


もし今の状態で誘われるがままパーティーに加入したとしても、また以前のように不要とされるかもしれない


だから私は偶然を偶然でなくす為に鍛え直した


まずは扇子の能力を完全に使いこなせるようになる為に低階層の魔物を倒し続ける


そこで分かったのはこの扇子・・・開き加減で能力が変わる


全開だと強風、半分くらい開くと複数の風の刃を生み出し、閉じるとひとつだが威力の高い風の刃を生み出す


そして風は別に扇子を振る事によって発生する訳ではない


つまり持っているだけで強風や風の刃を生み出せるのだ




「うおっ『風鳴り』だ!」


風が鳴る


私が通り過ぎると風が鳴り魔物が切り刻まれる


そうした姿を見て他の冒険者がいつの間にか私をそう呼ぶようになった


ソロで何度もダンジョンに潜り、何度かパーティーにも加わったけど・・・しばらくすると私からパーティーを抜けていた


不要と思われる前に


多分もう私を不要と思うパーティーは少ないだろう


けど・・・まだ私は・・・



結局、固定メンバーにならずに3年の月日が経過し、その間はマーベリルダンジョンに拘らず求められれば何処へでも向かった


ダンジョン都市で有名なアケーナダンジョン、人喰いダンジョンと言われ恐れられているカルオスダンジョン、ランダムダンジョンと言われてるバーチダンジョンなどなど・・・とにかく色々なダンジョンを経験した


気付いた時には『風鳴り』の二つ名は広く知れ渡っており、更にパーティーの誘いが増えるが、私は加入しては抜けるを繰り返す・・・いつか心の底から仲間と呼べる相手が見つかるまで・・・



「急に立ち止まってどうしたんだ?」


「ん?ああ・・・初めて来る場所だから色々と気になって、な」


今回はこの男・・・ラウルに誘われて新しく出来たダンジョン、エモーンズダンジョンに訪れた。なんでも最近出来たばかりのダンジョンらしく、しかもアケーナダンジョンと同じく居住地にあるダンジョンだ


元々は小さな村だったらしいがダンジョンが出来た事で村は開拓されている・・・まだまだ発展途上だが村の外壁の高さは期待の表れなのか・・・村の中身と外壁がミスマッチではあるがこれから中身も充実していくことだろう


「この村もそうだけどダンジョンも出来て日が浅いダンジョンだ・・・『風鳴り』には物足りないかも知れないな」


「そんな事はない。若いダンジョンには若いダンジョンなりの楽しみがある・・・聞くところによると以前国で調査した時は3階までしかなかったが、今はそれ以上に拡がっているらしいし、な」


噂には聞いていたが来るのは初めて・・・それもそのはず出来て間もない・・・1ヶ月くらいじゃないか?それでも噂になっているのは村の中に出来たフーリシア王国二つ目のダンジョンであり尚且つ成長が異様に早いダンジョンだからだ


ダンジョンは成長する


階層が増えたり同じ階でも広さが変わったりする


その度に難易度が上がる事をダンジョンの成長と言われている


だがその成長の頻度はダンジョンによって違い、今までで最も成長が早いとされてきたのはダンジョン都市アケーナにあるアケーナダンジョン・・・だがここエモーンズダンジョンはそれを上回る早さで成長している可能性があるのだ


「まあ確かに・・・村の貧相さに比べて冒険者の数がやたらに多いのはみんな期待してんだろうな。でも見るからに大したことなさそうだ・・・こりゃあ拡張してからの踏破はもらいだな」


ラウルの言う通り冒険者の数は多いが雰囲気のある冒険者は見る限りいない。装備も安価なものばかりなので冒険者になりたての者が多い印象を受ける


「どうする?疲れているなら宿を探しダンジョンに潜るのは明日にするか?私はどちらでと良いぞ?」


「サラがいいなら俺達は今日からでも問題ねえぜ?明日になったら踏破されたって事にもなりかねねえしな・・・なあ?お前ら」


ラウルの言葉に全員が頷く


この村に着くタイミングを朝にしたのも着いてすぐにダンジョンに向かうつもりだったのかもな。歩いて来たとはいえ体力は十分・・・発展途上でまだ何も無い村で1日無駄にするよりはダンジョンに入ってしまう方が暇潰しにもなるだろう


私達はダンジョンに入る事にし早速冒険者ギルドに向かった



「冒険者ギルドへようこそ」


冒険者ギルドに入るとまだ幼さの残る受付嬢が丁寧に頭を下げる


「ダンジョンに入りたい。これが全員分のギルドカードだ」


「はい、確認致します」


ラウルが私達のギルドカードを渡すと受付嬢はそのカードに目を通す


ギルドカードは便利なもので身分証としても使える。ギルドでの貢献度・・・魔核を売った量によってランクが上がり、Gランクから始まりAランクが一般的には最高位になる。特別な功績をあげて国から認められればSランクというのも存在するらしいがフーリシア王国でもほんのひと握りしかおらず自分がなる機会もなければ会う機会すらあるかどうか・・・そんなレベルだ


Cランク以上になるには色々と条件が必要で面倒だが、ランクが上がれば魔核の買取価格に上乗せされるしいい事づくめ・・・だが、ランクが上がるとデメリットもある


それは国から協力要請がある事だ


ダンジョンブレイクによる魔物の襲撃、ダンジョン調査の際の招集、国家間の戦争時の徴兵・・・しかも要請と言いつつ強制に近いからタチが悪い。何せ要請に従わなければランク剥奪・・・ギルドカードも作れなくなり永久にダンジョンに入れなくなる・・・まあ抜け道もある事にはあるが・・・


「皆さんDランクで・・・え?」


受付嬢の手が止まる


そう・・・私は数々のダンジョンを渡り歩きいつの間にか・・・


「Bランク!?」


受付嬢の上ずった声にギルド内がザワつく


私が色々なパーティーに誘われるひとつの要因にもなっているランク・・・Bランクともなれば魔核の買取価格もかなりの上乗せが期待出来る。ラウル達がDランクでもBランクの私が売ればBランクの価格で売れる・・・ただし貢献値は売った者が得る為にランクを上げたければラウル達が売る必要があるのだが・・・


「Bランクだって?・・・すげえ・・・」「あの女か?1人だけ格好が違うし・・・」「ただの目立ちたがり屋じゃねえの?それか情婦か」「情婦だったら俺もあのパーティーに加わりてえ・・・まあ俺のランクGだけど・・・」


ダンジョンに入らずギルドでウダウダしている冒険者達の声が聞こえた


いちいち目くじら立てるつもりはないが、格好の事は余計なお世話だ・・・この服はダンジョンで得た装備で着ている者の身体能力を上昇させる効果がある・・・別に好きで着ているわけでは断じてない


「嬢ちゃん・・・あまり人のランクをひけらかすもんじゃねえぜ?」


「あっ!すみません!・・・つい・・・」


「今夜付き合ってくれりゃあ・・・イタッ!」


「ラウル・・・くだらない事を言ってないでさっさとダンジョンに行くぞ」


「・・・ハイハイ・・・これ入場料ね・・・おー痛え・・・」


まだ年端もいかぬ子を誘うからだ


鉄扇で叩いたのでかなり痛かったのだろう・・・頭を擦りながら私を軽く睨むが無視して受付嬢に微笑むと彼女は微笑み返し軽く頭を下げた


幼い割には胸もあるし誘われる事も多いのだろう・・・可哀想に


ラウルは入場料を支払うと代わりに入場許可証を渡される


本来なら色々と準備をしてからダンジョンに潜るのだが、そこまで深いダンジョンでもなさそうだからこのまま行く事となった



入場許可証をダンジョンの入口で見せて中に進むと体をほぐす


初めてのダンジョンはどんなダンジョンでも緊張する・・・これはどんなにベテランになっても変わることはないだろう


「さーて・・・早速行きますか」


ラウルが言うと私達は頷き足を一歩踏み出した



これから・・・何が起こるか知らずに

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