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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
184/856

181階 女神像

朝、衛兵所にて正式に聖女護衛の任務が言い渡された


護衛の任務に当たるのは3人


僕とゲッセンと・・・ファムズだ


「ゲッセンを隊長にファムズとロウニールで必ず聖女様を護れ。特にロウニール・・・無様を晒し衛兵全体の評判を下げるような真似はするなよ」


「ゲッセンとファムズはともかくなんでロウニールが・・・出来る事なら私が代わりたい・・・」


「ジェイズ・・・ブツブツ言うな。お前から何かないか?」


「・・・特にありません。あっ、必要以上に聖女様に近付いたら減給・・・懲戒免職もある事を忘れずに」


ジェイズは冗談で言っている訳じゃなさそうだ・・・目がそれを物語っている


ケインから言い渡された3人・・・僕はセシーヌから指名を受けて選ばれた


ゲッセンはレオン並とは言わないけど見抜く力に秀でてるから選ばれたのだろうけど、なぜ最後の1人がファムズなんだ?


僕に執拗な指導という名のイジメを繰り返して来た奴・・・相棒のテムズは以前のサラさん護送の時にやらかして・・・僕が入れ替わる時に気絶させたのだけど・・・選ばれなかったがまさかファムズが選ばれるとは・・・


ケインとジェイズにしてみればなぜロウニールが?って感じなのだろうけど、僕としてはなぜファムズが?って感じだ。護衛任務に関係ないとは言え少しは性格も加味した方がいいんじゃないだろうか・・・


ファムズの方も同じ事を考えているのか僕を見る目が険しい・・・まあ前に墓地で殴り飛ばしてからまともに話してないので未だに恨みを持っているのだろう


文句を言っても変わる訳でもないので黙って言う通りにして僕達3人は衛兵所から教会へと向かった



「護衛を命じられましたゲッセン・アナスン、ファムズ・マクロバー、ロウニール・ハーベスです」


教会に到着し中に入ると護衛対象であるセシーヌ・・・それと侍女長のエリンや侍女達が僕達を迎える


「よろしくお願いします。ゲッセン様、ファムズ様・・・それとロウニール様」


セシーヌが僕にだけ微笑みながら名前を言うと隣からギリッと歯軋りの音が・・・


「・・・最近セシーヌ様の周りで不可解な事が起きています。なので警護の範囲を拡げたいと思いお願いした次第です・・・ゲッセン殿達には周辺の警護をお願いします」


「かしこまりました。それで不可解な事とは具体的には?」


「セシーヌ様が視線を感じるようになられました。それだけなら何ら不思議はないのですが誰も居ない時にもその視線を感じるようになり・・・」


誰も居ないのに視線を感じるか・・・誰か隠れてセシーヌを見つめているって事かな?


「なるほど・・・それで私達に頼られたのですね」


「はい・・・探ろうにも私達は聖女様から付かず離れずが原則ですので・・・かと言って人数を割けば夜の警護に支障が・・・なので視線の正体が掴めるまでよろしくお願いします」


それって正体が掴めなければずっとって事?それは勘弁して欲しいな・・・そりゃセシーヌは心配だけど・・・


セシーヌの勘違いだったら存在しない犯人を永遠に捜す事になるぞ?


「お騒がせして申し訳ありません。最初は気の所為かと思っていたのですが・・・」


「構いません!もし聖女様が御希望でしたらその不届き者を捕らえた後もずっと・・・」


突然ファムズが身を乗り出しアピールを・・・スっとエミリがセシーヌの前に立ち、ゲッセンがヤレヤレといった感じで興奮するファムズを手で制す


「ファムズ殿・・・と申しましたね?必要以上に聖女様に近付くのはお止め下さい。もし守られないようでしたら人を替えてもらいます」


あくまでもセシーヌの身辺警護は侍女達がやり、僕達は視線の主を捜せって事か


「それと・・・」


エミリは何か言いにくそうにゲッセンに向けられていた視線を僕に向け・・・


「隊長はゲッセン殿で平気なのですが報告などは・・・ロウニール殿にお願いします」


ゲッ・・・なんで僕!?


聞いた瞬間から感じるファムズの視線が痛い・・・


「・・・かしこまりました。それで今日の公務は何を?」


ゲッセンは特に文句を言うわけでもなく受け入れ、結局僕が伝言役に・・・


こうしてしばらくの間・・・だと思うセシーヌの警護が始まった──────




今日の公務・・・と言うか普段の聖女としての行動は信者集めと教会での治療が主になる


信者集めは街を練り歩き街の人達に愛想を振りまくというもの


教会での治療は教会に訪れる人に治療を行うというもの


視線を感じるのは街を歩いている時


こんな時だから治療だけにすればいいのに・・・と思うが色々と切実な事情があるらしく信者集めは特に力を入れているのだとか


護衛の仕事はセシーヌが街中を歩いている時に少し離れた場所で不審な人物がいないか警戒する事


セシーヌを見る目は羨望の眼差しや好意的な眼差しがほとんど・・・その中でセシーヌが不快に感じる眼差しの輩を捜すのが目的だ



街を歩き終えるとセシーヌは教会の中へ


そのタイミングで一旦怪しい人物がいなかったか報告する


「特に怪しい者はおりませんでした」


「僕も見掛けておりません」


「・・・ご苦労さま。2人に一言いいかな?ファムズは護衛対象を見過ぎ・・・あくまでも俺達は『護衛対象を怪しげな視線で見ている者』を捜している・・・下手すれば君がそれになりかねない・・・次もし同じ事をしたら別の者と交代だよ」


「は、はっ!気を付けます!」


「それとロウニール・・・君は仕事熱心なのはいいがキョロキョロし過ぎ。俺達が警護しているバレたら出て来るものも出て来ないよ?自然にさりげなく探る・・・分かった?」


「はい気を付けます」


そんなにキョロキョロしてたかな・・・まあ早く見つけたいって思ってたし人も多かったから・・・してたんだろうな


「それじゃあロウニール・・・君は怪しい者は居なかったと報告を・・・その後は教会の周りを巡回するから早目に戻って来てね」


「はい、では行ってきます」


午前中は街を歩き、午後からは教会で治療・・・逆になる時もあるけど大体この行動パターンだ


治療を希望する者はそこまで多くなく、もっぱら信者との交流(おしゃべり)で終わるらしい


「失礼します。御報告にお伺い致しました」


報告はセシーヌの部屋で中間と業務終わりに義務付けられている


怪しい人物は居なかったと報告してさっさと戻るか・・・


「待ってましたロウニール様。報告は後回しにして少し私の話を聞いてもらえますか?」


早く戻って来いと言われているけど・・・セシーヌは依頼主だし無下に断る訳にはいかないよな


部屋の中にはセシーヌとエミリだけ・・・僕が頷くとセシーヌは満面の笑みを浮かべる


「良かった・・・エミリ、ロウニール様に何か飲み物を・・・」


「・・・かしこまりました。()()に戻って参ります」


何故か『すぐ』を強調して僕を軽く睨むエミリ・・・そう警戒しなくとも何もしないって・・・


「お願い。ささっ、ロウニール様はここに座って・・・あっ、今日は果物のはちみつ漬けはありません・・・明日は必ず用意しておきますね」


厳粛な雰囲気の教会の一室とは思えない程の可愛らしい部屋・・・元は質素な部屋だったのだろう・・・その部屋を恐らくセシーヌが飾ったみたいだ


何も無い壁にリボンを飾ったりカーテンの開き方を工夫して可愛く見せたり・・・座るよう言われたテーブルに掛けてある布も模様が描いてあるけど手描きっぽいし・・・ん?


案内された椅子に座ると先程のセシーヌの言葉が引っかかる


「・・・果物のはちみつ漬け?」


「昨日美味しい美味しいって言って食べてたやつです。前にお料理はお肉が好きで飲み物は柑橘系が好きと仰ってたのであまり甘いものはお好きじゃないと思っていましたが・・・意外でした」


昨日・・・センジュか・・・あの野郎・・・


「ははっ、実はそうなんです・・・甘いものも大好きで・・・」


甘いものは苦手で・・・なんて言えないよな・・・明日から地獄の日々になりそうだ


「そ、それで話とは?」


僕が尋ねるとセシーヌの表情は陰りを見せた


「はい・・・実はお父様より再三再四通達が来てるのです・・・『戻って来い』と・・・」


「戻って来い・・・王都にですか?」


「はい。私がエモーンズに来たのはセーレン教の教えを広める為です。新しく教会を建てた地に訪れるのは慣例となっておりますので今回は私が・・・そしてこの地がセーレン教の本部のある王都から離れている事もあってしばらく滞在しより多くの信者を得ようと頑張るつもりでしたが・・・・・・実際はロウニール様のお傍に長く居たかっただけですが・・・」


最後の方は聞き取りづらく何を言っているか分からなかった・・・という事にしておこう


「それがなぜ・・・もしかして今回の件が?」


「いえ・・・この件に関してはお父様に報告しておりません。不確かでありますし報告すれば即刻戻るよう言われるのは目に見えています」


まあそうだよな。視線を感じるってだけで実害は受けてはいない・・・けど遠く離れた場所で問題が起きていると分かればすぐに戻って来るように言うはず・・・


「お父様が戻って来いと仰っているのは別の理由です。実はその・・・信者の数がそれほど得られていませんので・・・これ以上ここに居ても信者獲得は見込めないと判断したお父様が・・・」


なるほど・・・そういう事か


「ちなみに信者の条件などあるのですか?」


ただ単に信者を増やすと言っても誰が信者かなんか分からないし条件がなければ嘘の報告してもバレなさそう・・・適当な名前をリストにあげて『信者増えました』ってすれば問題解決しそうだけど・・・


「信者となった方は1日1回セーレン様の像にお祈りを・・・」


「それだけ・・・ですか?」


「ええ・・・それだけです」


それなら簡単に水増し出来そうだけど・・・嘘をつくのがイヤとか?


「ただし教会がない土地の方には少し小さいですがセーレン様の像を買っていただくことになります。なのでこの街の方は買わずに教会にいらしてくだされば良いのですが他方から来られた方だと・・・」


「・・・ちなみにその像はおいくらですか?」


「1万ゴールドと聞いております」


あー、それは増えないな


この街以外からも聖女をひと目見ようとやって来る人は多い


だけど教会がある場所なんて大都市と呼べる街くらい・・・つまり近隣から来る人が信者になるには1万ゴールドの大金を払う必要があるって事になる


もう少し・・・いや、だいぶ安ければ増えるかも知れないけどエモーンズの住民以外は頭打ち・・・もう増える望みは薄いだろう


1日1回のお祈りの義務化・・・それさえなければ信者は増えるだろうに・・・いや、信者を増やす事が目的じゃなく像を売る事が目的なのか?


教会は慈善団体ではない


そう装ってはいるが・・・治療にも寄付という名の支払いをほぼ強制に近い形で徴収しているみたいだし・・・まっ、それはある程度仕方ないか・・・セシーヌ達にも生活がある訳だしね


「ロウニール様?」


「あ、ああすみません・・・少し考え事をしていました・・・」


近隣の村から聖女を見にやって来ても信者にはならない。何せ数ヶ月分の給与を支払えと言っているようなもの・・・そんなの無理に決まっている


どうすれば信者を増やせるか・・・僕がお金を払えば・・・いや、金儲けの為とはいえ実際に信者が増えてないとダメだろ・・・なら・・・


「セシーヌ様・・・そのセーレン様の像をタダであげる事は出来ませんか?そうすれば信者になりたい人は喜んで毎日祈りを捧げると思いますが・・・」


「いえ・・・それは出来かねます。像を制作するにも費用がかかっており・・・本当はロウニール様の仰る通り無償で配布したいのはやまやまなのですが・・・」


ふむ・・・となるとあの手しかないか・・・


「セシーヌ様・・・今現在この街にある像は何体ですか?」


「?・・・一応100程用意しておりますが・・・」


100・・・つまり100万ゴールドか・・・


「セシーヌ様・・・もし知り合いにその100体の像を売って信者を100人・・・いやもっと増やす事が出来るって言ったら・・・その話に乗りますか?──────」

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