179階 ジケット達の新装備
3日間考え抜いた末、作る装備の方針がようやく決まりそこから紙に起こし実際の装備が完成したのは作り始めてから1週間が経過した頃だった
てな訳で装備お披露目会をいつもの訓練所で行う事になった
僕とサラさん・・・それにジケット達と何故かいるケン達の前でそれぞれ完成した装備を渡す
「前に見た戦闘スタイルを元に短所を補うのではなく長所を伸ばす装備を作ってみた。付けてみてサイズが合わなかったら言ってくれ」
短所を補う装備も考えたけどジケット達には合わない気がした。だから長所を活かす方向で作ってみたけど・・・気に入ってくれるかな?
「感動です組合長!俺らもとうとう・・・って俺の靴はどんな能力で?」
「ジケットの靴は・・・と口で説明するより実際使ってみた方が早いだろう・・・靴にマナを流してみろ」
「はい!」
ジケットが装備した靴にマナを流すと淡く光る
「おおっ!?・・・じゃあ早速・・・靴って事は移動速度がアップするとかかな・・・じゃあ向こうの壁まで一気に・・・イッ!?」
離れた壁に向かって動こうとするジケット・・・けどみんなが見つめる中、驚いた表情をするだけで一向に動きはしなかった
「な、なんだ?まるで靴が地面に張り付いたみたいに動か・・・なぁーーー!?」
突然叫び声を上げるとその場から姿が消えてしまった
そして聞こえる激突音・・・見るとジケットが壁にぶつかりゆっくりと倒れていく
「かっ・・・なっ・・・」
「ジケット!?・・・組合長今のは??」
「靴の能力だ。靴にマナを流すと触れている箇所に張り付く。ジケットは靴にマナを流した後で移動しようとしたが靴が張り付いていた為に移動出来なかったのだ」
「・・・えっと・・・それだけ?」
「いや、張り付いていた時に込めた力は張り付きの効果が解けた時に解放される・・・なのでジケットは解けた瞬間に壁に向かってしまったのだ・・・恐ろしいほどの速度でな」
あの靴に使った魔核の持ち主はオクトレーザー
手足?触手?に吸盤がビッシリついた軟体動物・・・いや、軟体魔物か
壁に張り付いたり天井に張り付いたりとやりたい放題・・・防御力はないに等しいのに戦いづらい相手だった
でもそれだけなら下級中位くらいだろう
実際はオクトレーザーは中級上位・・・その理由は攻撃にある
壁や自らの体に吸盤で張り付き、離した瞬間にまるでカミソリのように鋭い攻撃を繰り出す・・・張り付いている時に力を溜めているのに気付かなかったら致命傷を食らってもおかしくなかった・・・あれは本当にビックリした
そのオクトレーザーの魔核を靴に付与したのでマナを流すと吸盤で張り付いたような状態になる。なので訓練すれば壁や天井を歩いたり出来るだろう。それに加えてさっきの加速・・・素早さを活かした戦いをするジケットにはピッタリの装備・・・だと思ったけどかなり訓練が必要そうだな
「私が手当して来ます」
ヒーラが大の字になって寝ているジケットを心配して治療しに行ってくれた
「頼む・・・さて、次は・・・」
「ちょ・・・っと怖くなってきたんだけど・・・」
「う、む」
「まともなの来いまともなの来いまともなの来い」
失礼な連中だな・・・せっかく頑張って作ったのに・・・
「ハーニア」
「ひぃ!・・・じゃなくて、はい!」
ヒドイ・・・何が『ひぃ!』だ
「ハーニアにはこれだ」
取り出したるは抜き身の剣・・・もちろん鞘も作ったけどまずは剣身のある部分を見てもらいたかったからだ
「・・・綺麗・・・なんで剣の中心に宝石が?」
そう・・・切先の手前くらいに付いている宝石みたいな赤い石・・・これがこの剣の能力に関係している
「マナを流して振ってみろ」
ハーニアに剣を渡すと警戒心MAXで渡された剣を眺める
「・・・このワンポイントの宝石は可愛いけど剣の耐久度が下がるのでは?」
「耐久度が下がらないよう加工している・・・いいから振れ」
まだ他に2人も待ってるのだから早くしてくれ
「・・・振ります」
恐る恐る剣を振る・・・けどマナを流し忘れ何も起こらないことに気付き慌ててマナを流した
「・・・うわぁ・・・凄い何これ・・・」
マナを流すと宝石は赤く光輝き剣を振るとその後を追って残像が残る。その残像はまるで赤い糸のように残り続けハーニアは面白がって円を描いたり動物の絵を描いたりした
「ねえエリン凄くない?これ・・・っていつまで残ってるのか・・・なっ!いたっ!」
「あー、気を付けろよ・・・その赤い糸はマナだからな?触れたら怪我するぞ?」
「それは初めに言うべきでしょ!って私囲まれてるんですけど!これいつ消えるのよ!」
「流したマナ量によって変わるから何とも言えないな」
「・・・このっ・・・人でなし!」
いやいや・・・自分で出しまくったクセに人でなしって・・・
あの赤い宝石はレッドアイの魔核
レッドアイは目玉の魔物
戦った時は別に目は赤くないし弱点さらけ出してるし楽勝かと思いきや近付くと突然目が真っ赤になり光線を出して来た
咄嗟に躱して今度こそと大地を蹴ろうとした時、不思議な光景が目に入る
何と放った光線がそのまま糸のようにその場に存在し続けていたのだ
気になって触ってみると鋭い痛みと共に触った指から血が流れる・・・それを見た瞬間にゾッとしてレッドアイを見た
また赤くなるレッドアイ・・・光線を放つ度に残るなら撃たれる度に逃げ場が無くなる!
焦った僕は新たに放って来た光線に肩を貫かれながらもレッドアイを真っ二つにして何とか難を凌いだ
もし気付くのが遅かったら・・・身動きが取れなくなり光線に撃ち抜かれて死んでいただろう・・・ゲートがなければ
咄嗟だったから思い付かなかったけど、ゲートで背後に回り込んで斬ってたらダメージ受けずに済んだのに・・・自分の能力を使いこなせてない証拠だな
「・・・さて、身動きの取れないハーニアは放っておいて・・・「人でなし!」・・・次はマグ・・・君だ」
途中で何か聞こえたが無視だ無視
「は、い」
あれ?嬉しくないのかな?妙に固いような・・・
「組合長・・・まさかマグの装備にもあんな危険な能力が付いているとか言わないわよね?」
「・・・危険?」
「無自覚か!突然走り出したと思ったら壁に激突したり赤い危険な糸に囲まれて動けなくなったり・・・マグの装備も同じように・・・」
口数の少ないマグの代わりにエリンが捲し立てる
「使い方次第なのだが・・・」
「その使い方をちゃんと教えて下さいって言ってるの!」
「ふむ・・・ではちゃんと教えよう。と言ってもマグの装備は杖・・・しかも魔法を唱えれば終わりなのだが・・・」
「危険は?」
「ない。人に向けなければな」
「マグ・・・聞いた?・・・気を付けてね」
なんだかすっかり信用を失ってしまったような・・・マグは頷き僕が持っていた杖を受け取ると緊張した面持ちで誰も居ない空間に向けて魔法を放つ
「風牙!・・・・・・??」
魔法は唱えたにも関わらず発動しなかった
不思議に思ったマグは杖を覗き込み・・・ってマズイ!
焦った僕はゲートを開き手を突っ込む
ゲートの先はマグの後頭部辺り・・・そこから僕の手が出て来るのを見て奇妙な感覚に陥った
遠くにある僕の手はマグの髪を掴み強引に引っ張る
すると杖の先から巨大な風の牙が放たれマグを掠め天井に当たり破壊する
「・・・危なかったな・・・危うく頭が吹っ飛び・・・」
「組~合~長~」
「・・・使い方は教えたぞ?それに人に向けるなとも・・・」
「・・・なんで最初魔法が出なかったのですか?」
「それは杖の効果だ。杖の先端から見ると空洞になっているのが見えるだろ?その杖を持って魔法を唱えるとその空洞の中で魔法を蓄え増幅する・・・そして時間が経つと増幅された魔法が放たれるって訳だ」
杖にはビックホーンの魔核を使用している
ビックホーンはとにかくうるさい魔物だった
口の中で声を溜め、吐き出した時の音量はまさに目に見えない飛び道具・・・鼓膜が破けるかと思ったよ
牛みたいな見た目で馬みたいな鳴き声・・・ただ鳴き声がデカいだけで他に特別な能力はなく倒すのは楽勝だったけどひとつ問題が・・・
マグ用の杖を作り魔核を付与して試してみた・・・けど・・・
「時間が経つと?それってさっきの唱えてから放たれるまでの時間ですか?」
「いや・・・早かったり遅かったり・・・まちまちだ」
「・・・」
そう・・・威力は凄まじいけど放たれるまでの時間が安定しないんだ
「横からすみません。それなら私の封魔の杖で良くないですか?」
封魔の杖?・・・ああ、前にマホに渡した・・・そんな名前付けてたのか
「その杖は良くて2~3倍の増幅・・・マグの杖はおおよそ5倍くらいだ」
「5倍・・・でも発動する時間がまちまちだったら使い勝手が悪いんじゃ・・・いくら強力でもそれだと・・・」
「マホの言いたいことは分かる。咄嗟の時に魔法が出なければ死にすら繋がる・・・が、初級魔法を上級とは言わずとも中級上位の威力にまで引き上げるのはマグにとって大いに助けになると思っている・・・そうだろ?マグ」
「・・・」
「マグにとっては?」
返事のないマグに代わってマホが尋ねる。同じ魔法使いとして気になるんだろうな
「恐らくだが・・・マグは初級魔法しか使えないのでは?」
「え?そうなの?」
「・・・」
多分マナ量や実力から中級魔法は使えるのだろうけどひとつ問題がある・・・それは・・・
「・・・詠唱」
「詠唱?」
「魔法はマナを変化させるって前に言っただろう?その変化を起こす為にはイメージが大事・・・そこで役に立つのが詠唱だ。形が複雑になればなるほどイメージしにくい・・・それを補う為に人は詠唱を唱える」
「ええ・・・でもどうしてマグは・・・」
「喋るのが苦手だから・・・詠唱も苦手なんじゃないか?」
「・・・え?」
「単純な魔法なら頭の中でイメージがパッと浮かぶけど複雑になると難しい・・・だから魔法使いは自分なりにイメージを言葉にして繰り返し唱える事で『その言葉を紡げばこの魔法が出る』と覚える・・・が、マグの場合は詠唱自体が苦手な為になかなか中級魔法以上を使う事が出来ない・・・そうじゃないのか?」
「・・・はい・・・」
「ええ?・・・だったら喋る練習を・・・」
「言ったろ?短所を補うより長所を伸ばすって・・・だからマグの杖は初級魔法でも中級魔法に負けないくらいの威力が出せるようにした。発動時間はまちまちだけどそれを補ってあまりある威力をな」
「なるほど・・・なら威力は高いけど発動時間が読めない杖と普通の杖を二本持てば使い分けも出来るし・・・使い方によってはかなり使えるかも」
エリンが顎に手を当て渡した杖の使い所を考えていた
確かに杖の二刀流はいいかもな・・・二杖流とでも言うのかな?
「そして最後にエリンだが・・・」
「ちょっと待った!口下手だかなんだか知らないですけど、装備の説明は簡潔に!分かりやすく!危険性を教えて下さい!」
だいぶ警戒されてるな・・・エリンのは危険性などないと思うけど・・・
「エリンにはこれだ」
そう言ってゲートの先から取り出したのは・・・
「腕輪?てっきり盾か鎧かと・・・」
「付けてマナを流してみろ」
「・・・まだ説明を受けていませんが?」
「論より証拠だろ?危険性はないから安心しろ」
「・・・安心出来ないから聞いてるのに・・・」
ブツブツ言いながらもエリンは言われた通り腕輪を右手にはめてマナを流す。すると・・・
「ちょっ!?何これ・・・私の腕が・・・」
エリンが腕輪にマナを流すと見る見る内に右腕の色が灰色になっていく
鉄化・・・アイアンキャットの魔核の能力だ
アイアンキャットはその見た目とは裏腹に凶悪な攻撃方法を持っている
それは自らの体を鉄と化し飛んでくる攻撃方法だ
飛び上がり壁を蹴った後で体を丸め鉄化すると巨大な鉄球と化す・・・強度も高く威力も高いその鉄球は躱す以外の道はない・・・
「強度はかなりのもの・・・それと盾のように更に強度も上げることも出来る・・・恐らく強度を上げたその腕を斬れる者など・・・そうはいないだろう」
「いたら困るんですけど・・・でも何故この装備が私の長所を活かすと?」
「トロールとの戦いを見た時に感じた・・・エリンはタンカーとして視野の広さと速さを活かすべきだとな」
「視野の広さと速さ・・・」
「巨大で強力な盾を装備すれば受けられる攻撃も多くなる・・・けどそれではエリンの機敏さは失われる。それに立ち回りも考えなくてはならなくなり視野の広さも損なう恐れがある」
大きい盾は重量がある。逆に重量がなければ大型の魔物の一撃なんか食らえば吹き飛ばされてしまうしね
なので大きい盾を持っていると移動速度は遅くなりほぼ固定位置で味方を守らなくてはならなくなる
エリンには戦闘の流れを読む能力があるし視野も広い・・・その特性を活かすには身軽でいる必要があると思って考えたのが腕の鉄化だ
「・・・何となく理解しました・・・けど乙女の腕を鉄にするって・・・」
乙女って・・・乙女って!
「そうよね・・・手を握ったら鉄でしたなんてシャレにならないわ・・・百年の恋も冷める勢いよ」
いやいや、デート中は腕輪外せよ!
「柔肌が鉄肌に・・・残酷ですね」
ジケットを回復し終えたヒーラまで加わり僕を責める
いい案だと思ったのに・・・ダメか・・・
「でも気に入りました・・・これで殴れば相手の顔を陥没させられそうだし・・・何とか使いこなしてみます!」
気に入ったと言うのは嘘だろうな・・・でも僕のことを気にしてか無理矢理笑顔を作り鉄化した腕を見せた
マホとヒーラにジト目を食らうが・・・まあ本人がそう言うのだから勘弁してくれ
「鉄化か・・・体重もその分増えるのだろうか・・・」
今まで黙って聞いていたサラさんがボソッと一言・・・その言葉を聞いて今の今まで笑顔だったエリンの表情がサーッと青ざめる
「やっぱりナシで!変更を希望します!」
「ちょっと待て・・・別に鉄化しなければ・・・」
「そういう問題ではありません!」
どういう問題なんだよ・・・さっきの手を繋ごうとしたらとか・・・意味が分からん──────




