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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
181/856

178階 サキュバス

「誠に・・・誠に申し訳御座いませんでした!!」


朝のゴタゴタの後、僕とサラさんは部屋で今後の事を話し合っていた


そこに領主であるダナスさんが現れ、いきなり土下座謝罪・・・理由は何となく分かるけど何もそこまで・・・


「領主・・・別に私は・・・」


「ローグ殿は窮地を救ってくれた恩人!あの時ローグ殿の支援がなければエモーンズは未だ村のまま・・・いえ、国有地化されていたでしょう・・・その恩義に報いるどころか多大なる御迷惑を・・・息子には帰って来た日に申し伝えたのですが・・・誠に申し訳御座いません!」


「いやだから・・・」


「不肖の息子ダンは即刻除籍致します!妻とも話しましたがそれ以外方法が・・・私も領主の座を退き後任が見つかるまで・・・」


「待て・・・ちょっと待て」


ものすごい大事になってきたぞ・・・ダンはともかくダナスさんまで領主を辞めるなんて・・・


「今回の件をどう聞いたのだ?」


「・・・大恩あるローグ殿にあろう事か喧嘩を売ったとか・・・しかも公衆の面前で貴殿を乏し対立する組合を設立・・・更には組合員の奪取・・・いっそ処刑出来ればどれだけ良かったか・・・」


処刑って・・・しかしダナスさんはここまで恩義を感じてくれてたのか・・・別に気にしなくていいのに


「処刑や捕まってないのはダンが罪を犯してないから・・・彼は正々堂々と私に挑み、結果私が敗れただけ・・・領主が気に病む事は何もない」


「しかし!」


「それに彼の案に乗ったのには理由がある・・・敗れたのにもな」


普通の人が聞いたら負け惜しみに聞こえるかも・・・でもダナスさんも隣で聞いてるサラさんも僕の言葉をすんなり聞き入れた


「当然ね。あのまま少しでも力を込めてたら盾は粉砕出来ていた。寸前で止めたのには理由があるとは思ってたけど・・・この際だからその理由を聞いても?」


「わ、私も是非・・・でなければ・・・このままではあまりにも申し訳なさ過ぎて妻と2人で心中しようかと・・・」


やめれ


ハア・・・この人の義理堅さや謙虚さをダンが少しでも受け継げば・・・


「理由は単純だ。ちょうど組合『ダンジョンナイト』の方針を考えていてな。他の組合がないからと有耶無耶になっていたが彼の話を聞いて咄嗟に思い付いたのだ・・・方針と成長を促す方法をな」


「方針はともかく成長・・・ですか?」


「ああ。組合がひとつであれば争いもなく平和であるだろう・・・だが、その分平和に甘んじて危機感が足りない事に懸念を抱いていた。争わずとも競う相手がいれば少し変わるのでは?と思ったのだ。ダン・・・彼の印象は野心家・・・つまりダンジョンを攻略したり組合員を集めたり積極的に動くだろう。逆に私が浮かんだ方針はその逆・・・地に足をつけ実力を高め、無闇矢鱈に組合員を増やさない・・・ダンが積極的なら私は消極的・・・対称的な考えであり冒険者にとっては組合を選びやすくなるだろう」


「なるほど・・・自分に合った環境・・・組合を選択する事で成長を促すという事ですな」


「そうだ。その為には私が敗れる必要があった。エモーンズにいる冒険者のほとんどが『ダンジョンナイト』に所属している・・・もしダンが設立した『エモーンズシールダー』が気になっても所属している組合を抜けてまで・・・と考える者もいるだろう。だからあえて私が敗れる事で所属しているというアドバンテージを消しフラットな状態で組合を選べるようにしたという訳だ」


「そうね・・・ダンの組合を好む人は積極的な人が多いだろうし『ローグに勝ったダン』のいる組合に入るのなら『ダンジョンナイト』を抜けてでも入るって人は多いかも・・・さすがローグね、あの一瞬でそこまで考えているなんて・・・」


そこまで大層な考えがあった訳じゃないけどね


ただダンが組合を設立すると聞いて組合同士で競い合えばダンジョンのマナも溜まりやすいのではって考えただけだし・・・まあさすがに『ダンジョンの成長を促す為』なんて言えないしな・・・


「理由は分かりました・・・ですが息子はその理由なぞ知らずにローグ殿に無礼を・・・除籍はしませんがしばらく勘当致します。領主の息子という立場でない方がより公平に組合を選べると思いますし・・・」


まあそれはそうかな?


次期領主と知って擦り寄る輩もいるだろし・・・そういうのを抜きにして組合の方針だけで選ぶ方がいいかも


「その辺は任せる・・・好きにしてくれ」


さて・・・これで何人の冒険者が『ダンジョンナイト』を抜けて『エモーンズシールダー』に加入するだろうか・・・出来ればちょうど半々くらいになってくれればやりやすいのだけど・・・ん?


ダナスさんの背後にあるドアが突然大きな音を立てて開け放たれる


そこにはある人物が鬼の形相で立っていた


「ちょっと!腐れ組合長はいる!?一体何をしたら金づる・・・冒険者が一気にやめるって言ってくるのよ!」


あー、この人の存在を忘れてた・・・


「落ち着けジェファー」


「いた!これが落ち着いてられるもんですか!私の給与が・・・あの店の服が遠のく・・・これ以上冒険者が抜けていくなら私にも考えがありますからね!・・・・・・あっ、ダナス様・・・お、お久しぶりです・・・」


ダナスさんのお陰で助かった


あのままだと数時間くらい説教されてたかも・・・守銭奴ジェファー・・・恐るべし


元ご主人様の手前急に冷静になったジェファーさんに給与が減らないよう支援する事と引き続きムルタナ村へのお金の運搬も頼んでおいた。もちろん足りない分は支援すると伝えて


僕に何があるか分からないからハーキンさんへ支払うお金はジェファーさんに一任していた。直接僕が渡せれば一番いいのだけど・・・ラルは元気でやってるかな?



その後はダンへの怒りが収まらないダナスさんが『必ずダンを勘当しますから!』と言い残し部屋を去り、ジェファーさんも支援を約束したからか満足気な表情で部屋をあとにした


部屋に残った僕とサラさんは引き続き今後の組合の方針を話し合う


そして夕方になりサラさんから食事に誘われたが丁重に断った・・・残念がる彼女だったが明日もまた朝から来ると伝えると途端に元気になった・・・てか、仮面をしたまま食事をしろと?いや、誰かに変身すればいいだけか・・・


ギルドを出て人気のない場所まで移動するとゲートを使い我が家へ戻る


ちょうど仕事を終えたシャドウセンジュと入れ替わりようやくロウニールに戻ることに・・・何もしていないような気がするけどどっと疲れた・・・組合長って大変なんだな


んで、今はある作業をする為に机に向かい頭を悩ませながら一心不乱にペンを走らせている


相変わらず下手だけど・・・まあ何とかなるだろう


「・・・ねえダンコ」


《なに?》


「気になったんだけど・・・あのダンの盾・・・あれってどの魔物の能力?」


盾に拳が当たった瞬間、マナが吸われるような感覚があった


事実拳に纏ったマナは吸い尽くされ、更に体内にあるマナまで・・・どこまで吸われるか試してみたら危なく盾がマナでいっぱいになりそうになり慌てて拳を引っ込めた・・・もしあの盾がマナでいっぱいになったら・・・恐らく盾は破裂?していただろう


《・・・あの盾の能力は『吸魔』・・・サキュバスの能力よ》


「吸魔・・・サキュバス?」


《ええ・・・人間は酷く勘違いしてるけど、サキュバスの能力はマナを吸い取る事・・・その能力があの盾には付与されていたの》


サキュバスか・・・聞いた事ないな


「勘違いってどう勘違いしてるの?」


《・・・突然現れ男の精を吸い取る魔物・・・そんなとんでもない勘違いよ》


精って・・・あの精だよね?


「なるほど・・・マナを吸われているのをせ、精と勘違いして・・・あの能力いいよね。もし剣とか武具に付与出来たら相手の攻撃を無効化出来るし、もし自分のマナに変換出来たら・・・」


最強の武器、もしくは防具と言っても過言ではないかも・・・


《・・・それは無理よ》


「なんで?だってそのサキュバスを創れば・・・」


《サキュバスは創れないの。アナタがサキュバスを知らなかったのもその為よ》


うーん・・・思い返しても確かにサキュバスって名前はリストになかったような・・・


「なんで創れないの?」


《さあ?リストにないからじゃない?》


リストにないから創れない・・・じゃあリストにない理由は?と聞こうと思ったけど聞いても分からなそうだからやめといた


「あの能力があればなぁ・・・ほら、例えばダンジョンの外でもマナを集めたり出来そうじゃない?」


《そうかもね。あの盾はどうやって作ったのかしら・・・そうだ、どうしても欲しいならあの人間から盾を奪って・・・》


「そんな事はしないよ・・・まあいずれ手に入るかもしれないし今は目の前の事を片付けよう」


目の前の事・・・それはジケット達の武具作りだ


机の上に所狭しと置かれている紙とペン・・・下手なりにみんなに合う武具を考え真っ白な紙に描いていた


今日サラさんと組合に欠けているものを話し合った結果、組合員の実力不足が挙がった


ダンのところと競い合うにしても実力が違い過ぎては話にならない・・・今はダンだけの組合かもしれないけど噂によるとアケーナから冒険者を呼んでいるらしい・・・となればサラさんがAランクとはいえどうしても見劣りしてしまう・・・なので誰かを強くしようとなって白羽の矢が立ったのかジケット達だ


なぜジケット達かと言うとエリンが組合副長である事が大きい・・・まあ僕としては同期っていうのが大きいけどそれは言えないし・・・


とにかくジケット達を強くする為に考えたのがまずは装備を渡すこと


ケン達も装備のお陰でだいぶ躍進出来たみたいだしジケット達も強くなれるはず


作るのが魔道具とはいえ万能ではないし魔道具に頼りきりでは強くなれないと思う・・・だから絶妙なバランスの魔道具を作らないと・・・


コンコン


気合い入れて絵とそれに合わせた能力を考えていると玄関から音がする


誰であっても入れないぞ!今日は魔道具作りに専念するって決めたんだから!


コンコン


執拗いな・・・だから入れないって!


コンコン・・・ゴンゴン!


段々扉を叩く音が大きくなる


このままじゃ壊されるかも・・・仕方ない


急いで机の上の紙を片付けてそっと扉を開けると出なきゃ良かったと激しく後悔した


「よお!家を追い出されてさ・・・泊めてくんね?」


「無理!」


勢いよく扉を閉めてカギをかける


まさかダンが単身乗り込んで来るとは・・・そういえばダナスさん勘当するって言ってたもんな・・・てかなぜ僕の家に来る・・・


「おおい!他の奴らは家族とかと住んでてお前だけなんだよ!一人暮らしなの・・・いいから開けてくれ!」


『いいから』って意味が分からない


何が悲しくてダンを泊めなきゃいけないんだよ・・・


「おいコラ!ロウニール!てめえあんまふざけてっとシメるぞ!」


騒いでも無駄


てかシメるって・・・少しムカついてきた


「ダン・・・もし扉を壊したら弁償だけじゃ済まないぞ?僕の仕事知ってるだろ?組合を立ち上げたんだってな・・・その日の内に組合長が逮捕って前代未聞だけどいいの?」


「~~~っ!・・・ロウニールてめえ・・・能無しが一端な口利くようになったじゃねえか・・・」


「うっ・・・」


ビ、ビビるな僕・・・今の僕はダンより強い・・・きっと・・・多分・・・


「10秒で開けろ・・・1・・・2・・・」


どうする?開けて・・・いや、開けちゃダメだ・・・でも・・・


「・・・5・・・6・・・!?」


「こんな夜分に騒がしいと思ったら君か」


「・・・ローグ・・・」


何やってるんだろ・・・咄嗟にゲートを開きローグセットを取り出すと今度は家の近くにゲートを開き偶然を装って現れる・・・ロウニールとして追い返せないからといって・・・情けない


「そこで何をしている?」


「別に・・・関係ねえだろ?」


「関係なくはないな。その家に住むロウニールはサラの弟子だ・・・もし何かしようものなら・・・」


「ロウニールがサラの弟子!?・・・くそっ・・・だからいきがってやがったのか・・・」


いきがってないし!それにサラさんの弟子っての関係ないし!


「チッ・・・まあいいや・・・もったいねえけど宿にでも泊まるか・・・・・・ローグ覚えてろよ?すぐにこの街の冒険者は『エモーンズシールダー』が牛耳る・・・それまでせいぜい組合ごっこを楽しんでおけ」


そう捨て台詞を吐いてダンは闇夜に消えて行った


ハア・・・ローグの姿だから何とか耐えたけど・・・やっぱり僕はダンが苦手だ・・・


《あらあら・・・いいの?言いたい放題言われたままで》


「別にいいさ・・・競い合えば競い合うほどマナは溜まるだろうしね」


ダンはムカつくけど今は個人的な感情は抑えて組合に・・・そしてダンジョンに集中しよう


後2年・・・後2年でディーン様が来る・・・はず


それまでに魔王・・・とはいかないまでもドラゴンくらいは準備しておきたい


「さあ静かになったしジケット達の装備を考えないと」


《ほどほどにね・・・マナは無限じゃないわよ?》


「分かってるよ・・・でも今回作って消費した分はすぐにでもジケット達が稼いでくれるよ・・・きっとね──────」

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