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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
18/856

15階 サラ・セームン

──────待って!貴方は誰なの?──────


薄れゆく意識の中、必死に手を伸ばそうとしながら心の中で叫んだ


声が出ない・・・体も動かない


彼は振り返らずに去って行く


もしかしたら彼が・・・私の──────





私の名はサラ・セームン


今年19になる()()()()()


15の時は風を操りダンジョンの中を探るスカウトだったが、今はアタッカー兼スカウトであるレンジャーを通じて名乗っている


なぜレンジャーになったのか・・・いや、なれたのか・・・あの日の事を思い出さない日は・・・ない



あの日の事を語るには少し日を遡る必要がある・・・そう、私がフリーシア王国で最も深いダンジョンが近くにある街マーベリルで生まれた子供が10才から15才まで受ける訓練を終えた頃からの話だ


私の適性は魔法・・・訓練を受け始めた頃はそう言われて嬉しかった


しかしマナの量が少なく魔法使いとしては使い物にならない・・・いわゆる『落ちこぼれ』認定されてしまったのだ


小さい頃から冒険者に憧れ、ダンジョンを夢見ていたのに・・・その道は早々に閉ざされてしまう


だが諦められない私は色々と試した結果、ある魔法だけはマナの消費量が極端に少ない事に気付く



それは風魔法



魔法使いは得意な魔法が存在する。それは持って生まれたものなのか何なのか分からないけど得意な魔法は威力が高かったりマナの消費量が少なかったりする事が稀にあるらしい


ただ・・・私の場合はそれでもマナの量が少ないようで得意な風魔法ですらそこまで数を打てない。それは魔法使いとしては致命的な欠点だった


そこで考えたのが風を魔法を通じて使ってダンジョンを探るスカウトになる事


魔物を倒す為に風魔法を放つ場合は数発でマナ切れになってしまうが、風を操りダンジョンを探る行為はほとんどマナを消費せず冒険者として何とか成り立つレベルであった


15になる頃には風探索を確立し、何とか教官に冒険者として認められ私は冒険者となる



そして順風満帆な冒険者ライフを満喫するはずだった



街の近くに最も深いダンジョン・・・マーベリルダンジョンがあるのだからそこに行かない手はない。すぐにパーティーを組んでダンジョンに向かい攻略を始めた・・・が──────



「ごめん・・・この階でしばらく経験積みたいから、さ」



リーダーのタンカーに言われた言葉だ


初めは言葉の意味が理解出来なかったが、少し考えるとようやく理解出来た


スカウトはあくまで初めて行く場所の探りを入れる役目。何度も行った事のある場所では()()になる


パーティーは8階まで下りて実力不足を感じて上の7階で経験を積む事を選択した。その際に私はお荷物になると判断されたのだ


私は戦闘技術もなく魔法も数発しか打てない・・・ダンジョンに入るにはお金もかかるし武器や防具もずっと使える訳では無い・・・つまりお金がかかるのにパーティーにお荷物をいつまでも入れてられない・・・そう判断したんだ


経験を積む時は配当は要らないと言おうか迷った・・・けど、いつまで7階に留まるか分からないのにそんな事言ったら最後・・・有限な時間を無駄に過ごす羽目になるかもしれない


だから私はリーダーの意見を聞き入れパーティーを抜けた


それからと言うものスカウトとしてパーティーに入っては抜けての繰り返し・・・その間に『俺の情婦になればパーティーに残してやる』と何人かに言われたが断った


結局スカウトは先に進むパーティーには必要だが固定メンバーとしては要らないんだ



私は腐らず暇な時には戦闘技術を磨く事に専念したが、スカウトは基本素早い動きを求められる為に重い武器や重厚な装備は着けられずどうしても近接アタッカーには不向き・・・かと言って短剣投げなどでサポートしようにも邪魔扱いされる始末


もっと何か・・・私だけが出来る事を模索したけど残念ながら専門職には到底適わず断念する他なかった



やはり私は冒険者に向いてないのか・・・そう腐りかけた時に転機が訪れる


マーベリルダンジョンの最深部を目指す熟練のパーティーメンバーに誘われたのだ


魔物を倒さなくていい・・・魔物の位置やダンジョンの構造、罠の察知だけしてくれればそれでいい、と


パーティーのリーダーであるガゾスはこの道10年のベテラン冒険者でパーティーメンバーも固定。そのパーティーメンバーと話し合った結果、一番動ける時期に行ける所まで行こうという話になりスカウトの私がたまたま選ばれた


行ける所まで行くとはダンジョンに潜りダンジョンの中で寝泊まりしながら自己記録に挑戦するものだ


マーベリルダンジョンしか知らないけどダンジョンは大体10階毎にボス部屋があり、そのボスを倒すとゲートが使えるようになる


ゲートを使えば次の探索は途中から行けるのだが、ボスと同じようにゲートも10階毎なので無理してでもキリのいい所まで行く必要がある。でないと例えばせっかく15階まで行けたのに戻ったら次行く時は11階から出直しになるからだ


ガゾス達は20階まで到達出来ずにいた


理由は実力不足と言うよりパーティーメンバーのマナ切れや疲労が大きいらしい


なのでマナを回復するマナポーションを大量に買い込み、日持ちする食料を持ち込んで何とか20階をクリアしたいとの事だった


その為に私は誘われる


もちろん願ってもないことだったので二つ返事で誘いを受け、いざマーベリルダンジョンへ



だけど・・・ダンジョンは甘くなかった



何とか休み休み攻略して行き、20階に到達・・・この階のボスを攻略出来れば今度からゲートで21階からスタート出来る


ボスの情報も冒険者ギルドで聞いていた


中級の魔物の上位に位置するサイクロプス


一つ目の巨大な棍棒を振り回す魔物だ


背も高く、高い位置から振り下ろされる棍棒の直撃を受けると絶命必至・・・だが動きはそこまで速くなく対処法はいくらでもある


ボス部屋に近付くにつれ緊張する私とは違い、ガゾス達は笑顔なのが印象的だった


多分20階に行くまでに何度も断念してたからだろう



そんな時・・・私はダンジョンの隠し部屋を見つけてしまう



何も無い壁から風が流れ出ている事に気付いてしまったのだ


本来ならそれは喜ばしい事・・・何故なら隠し部屋には大概貴重なお宝が眠っているから



けど今回は・・・今回だけは見逃しておけば良かった・・・



タンカーが盾で壁を殴りつけると壁は容易に崩れ部屋が現れる


現れた部屋はこじんまりとしており、中央には宝箱が置かれていた


私が罠の有無を調べると宝箱には罠は仕掛けてはおらず、宝箱を護る魔物もいない


普段は私が宝箱を開ける役なのだが、20階に到達した事で気の緩みがあったのだろう・・・リーダーのガゾスが宝箱に歩み寄るとそのまま開けてしまった


「・・・鉄で出来た・・・扇子?」


拍子抜けした声


どうやら期待外れだったみたいでガゾスは宝箱から扇子を取り出すとパーティーメンバーで唯一の女である私にそれを投げて寄越す


「え?」


「やるよ・・・男が持ってても使わないだろ?」


「まだ鑑定もしてないのにいいの?もしかしたら凄いお宝・・・か・・・も・・・」


「どうした?サラ・・・後ろに何が・・・」



──────油断した!宝箱の罠は大概開ける時に発動するものが多い・・・だが稀に宝箱の中に罠が仕掛けてあるものもあると知っていたのに・・・


発動条件は恐らく宝箱の中身・・・この扇子を取り出した時!


そして罠の種類は・・・魔物召喚!


「ガゾス!逃げて!!」


この魔物はダメだ


普通に相対する分には何の問題もない魔物


攻撃力は皆無で防御力も紙


だけど特殊な能力を持っている・・・それは人間の体を乗っ取るというもの



レイス・・・それがこの魔物の名前だ



レイスに乗っ取られたらある方法で対処しなくてはならない。その方法はそこまで難しくない。ヒーラーが乗っ取られた人物を回復すれば良いだけ



だが・・・そのヒーラーがガゾスなんだ・・・



油断しなければ乗っ取られる事はない。でも無警戒に宝箱を開き後ろを見せたガゾスはレイスにとって隙だらけ・・・案の定ガゾスの体はレイスに呆気なく乗っ取られてしまった


「ガゾス!!くそっ!てめえ!!!」


レイスに乗っ取られた者は体の自由を奪われる・・・だけではなく、無理な力を使()()()()()()


その為か信じられないような力を発揮するのでレイスに乗っ取られた者にパーティーが全滅させられたなんてよく聞く話だ



そしてこのパーティーも・・・



「ぎゃああああ!!」


一番近くに居たアタッカーの断末魔が響き渡る


両手を真っ赤に染めたガゾスは次の獲物を探すように忙しなく目を動かしタンカーを見て動きを止めると飛びかかり突き出された盾を片手で弾くと首元を食いちぎる


それを見ていた魔法使いが杖を構えるが時すでに遅く、魔法を放つ前に首から上をもぎ取られる


私はと言うと・・・パーティーメンバーが殺されているにも関わらず何も出来ず正しいその光景を見ているだけだった


残るは私のみ・・・なのに体は全く動かない


にじり寄るガゾスを眺めてただ死を待つだけだった私・・・けどその時、乗っ取られたガゾスは激しく抵抗し始めた


「ぐっ・・・に、逃げ・・・」


「ガ、ガゾス!自分に回復魔法を!そうすればレイスは消える!」


私は回復魔法が使えない


もし生き残るチャンスがあるとしたら逃げるのではなくガゾスが回復魔法を使うこと


再び完全に乗っ取ろうとするレイスと抵抗するガゾスの目に見えない激闘は・・・辛うじてガゾスに軍配が上がった


「き、消え去れ!大いなる力よ・・・彼の者に祝福を・・・ヒール!」


レイスはガゾスの体から抜け出て声なき声を上げる



おぞましい姿のその魔物はそのままゆっくりと消えていった



甚大な被害を与えた後で



・・・それでも2人も生き残れたのだ・・・運が良かったと言えるだろう


3人の死体がある部屋で私とガゾスはしばらくその場に立ち尽くした


「・・・サラ・・・悪いけど少しの間・・・この部屋から出てくれないか?・・・コイツらに別れを言いたい・・・」


「・・・うん・・・」


憔悴しきった顔で頼まれたので私は断れず隠し部屋から一旦出て行った


10年もの間、一緒に冒険していた仲間・・・その仲間との突然の別れ・・・しかも殺したのは・・・


ガゾスの心中を察するといたたまれなかった


けど・・・


「それはないよ・・・ガゾス」


なかなか出て来ないガゾスが心配になり戻ってみると自死したガゾスの遺体が転がっていた


仲間を追ったのか、殺してしまった自らを責めたのかは分からない・・・ただひとつ言える事は・・・私はこのパーティーでも不要になったということだけだった



物言わぬ4人の冒険者達


悲しいとか怒りとかはなかった


ただただ虚しい


そして私は後を追う事はせずボス部屋へと向かう


引き返すつもりはない


引き返してもどうせ次の階の魔物に殺されるだけ・・・ならせめて前のめりに死のうと突き進んだ


隠し部屋は思ったよりもボス部屋に近く、他の魔物に出会わずに辿り着けた


大きめの扉を押し開けると情報通りのサイクロプスが部屋の中央で待ち構える


本当だったら5人で挑むはずだった魔物


勝って21階に到達しゲートで戻って祝杯をあげるはずだったのに・・・今は1人で対峙し死を待つばかりだった


サイクロプスが私に気付き棍棒片手に近付いて来る


歩く度に起こる地響きが恐怖を増長させ、私は思わず目を閉じて手をギュッと握り締める・・・すると何かを持っている事に気付いた



隠し部屋で見つけた扇子



ガゾスから受け取った扇子



その扇子を握り締めていたのだ


ダンジョンで手に入る武器の中には特殊な能力が備わっている物があるらしい。もしかしたらコレも・・・そんな甘い期待を込めて私は扇子を開きマナを流すと思いっきり振るう


「!」


突風──────扇子を振ると荒ぶる風が巻き起こりサイクロプスに襲い掛かる


しかし強靭な体を持つサイクロプスにはただの強風に過ぎず、少し足を止めただけで再び大きな一歩を踏み出した


扇子に特殊能力は備わっていた・・・が、期待した程の効果はなく、結局私の死が半歩遅くなっただけに終わる


もう打つ手はない


張り裂けるかと思うほど心臓が高鳴り、視野が極端に狭くなる


見えているのはサイクロプスの棍棒のみ


あの私の体ほどある大きな棍棒が振り下ろされれば私の生涯はここで幕を閉じるだろう


「はっ・・・はっ・・・」


突然息が吸えなくなり、残った酸素を短く吐く


このまま酸欠で死んだ方が楽なのでは・・・そんな事を考えている内に棍棒は天井に届くくらい高い位置へと上げられた


「・・・はっ・・・」


最後の酸素が吐き出された


私は死ぬ・・・無駄な抵抗をして生き長らえるよりも、さっさと死んでみんなの元へ・・・



みんな?


誰の事?


私は結局1人だ・・・誰にも必要とされず、共に死ぬ事すら望まれなかった・・・


棍棒が振り下ろされる


避けるつもりはなかったのに、体は自然と動いてしまう


恐怖じゃない・・・私を突き動かしているのは未練



まだ私は・・・私に満足していない!



棍棒をギリギリで躱し、サイクロプスの足元に転がると扇子をしまい短剣を取り出し切り付ける。硬い皮膚が邪魔してかすり傷を付けるのみに終わるがそのまま通り抜けサイクロプスの背後を取った


「来るなら来い!足掻いて足掻い・・・何が何でもお前を倒す!」


弱点は目


その目を狙うには足にダメージを与え跪かせなければならない


かすり傷ひとつじゃ無理だとしても・・・何度も何度も繰り返せばきっと・・・


極めて甘い考えだと思う



それでも私は抗う・・・諦めて死を待つのではなく・・・最後の最後まで戦い・・・散る為に

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