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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
177/856

174階 日常へ

「・・・行ってしまったな・・・アレが君の言ってた『簡易ゲート』かい?魔道具としては便利過ぎる代物だね。何処からでも帰れるなんて遠出し放題じゃないか」


「・・・違う・・・アレは『簡易ゲート』ではない」


「え?だって・・・」


「『簡易ゲート』は魔道具・・・玉のような物に衝撃を与えるとエモーンズのダンジョンの1階に繋がるゲートが展開する。だが彼は今()()使()()()()()()・・・つまりアレは・・・能力だ」


「んなバカな!能力でゲートだと?そんなもの・・・国ひとつがひっくり返る能力だぞ!?」


「私も驚いた・・・マナ量に成長度合い・・・それと私の勘という漠然とした思いで仲間に引き入れたいと思っていたのだが・・・どうやら私の勘はかなり優れているようだ」


「悠長に言っている場合じゃないだろ?味方になれば鬼に金棒だが、敵になれば恐ろしいことこの上ない能力なんだよ?」


「そうだな・・・必ず仲間にしなければならない・・・国が・・・世界が彼に気付く前に・・・何としてでも、な──────」





ローグは背後にゲートを発生させ、私と共にその中に身を投じた


最後にレオンが仮面をしていても分かるほど目を見開き手を伸ばすがすぐにゲートは閉じてしまう


「思ったより時間かかったじゃねえか・・・心配したぜ」


ゲートが閉じると見慣れた光景に聞き慣れた声・・・そう・・・ここはエモーンズの冒険者ギルド・・・ギルド長室だ


「お姉ちゃん!」


「???」


突然フリップの子サナに抱きつかれて困惑しているとフリップは吹き出しすまなそうな顔で私を見つめた


「あれから通信も切ってたから向こうでどうなっているか分からなかったからな・・・随分と心配してたんだぜ?『お姉ちゃんは平気かな?』って」


通信?・・・ああ、そうか。ローグはハッシュに変身している時、通信道具にマナを流しフリップに聞こえるようにしていたのか・・・それでフリップはあっちの状況も把握していた、と


「まあサナももう8歳だ・・・あの状況で誰が悪くて誰が自分を庇ってくれたか判断出来る年頃・・・お前さんがどんなに必死で自分達を助けてくれようとしてるか分かったのさ・・・だから・・・」


サナが顔を埋めている部分が少ししっとりとしていた。私の為に涙を流してくれているのか・・・サナを優しく抱き締めるとフリップの横に立っていたサシャが歩み寄り頭を下げる


「ありがとうございます・・・貴女のお陰で私達は・・・」


「い、いえ・・・そもそも私のせいで巻き込まれて・・・」


「いや、俺のせいだ。俺が考えなしに・・・いや、分かっていながら我が身可愛さに・・・」


「ギルド長は当然の事をしたまで・・・センジュを気絶させた時に安全な場所まで運んでいればこんな事には・・・」


「いやしかしセンジュが貴族と分かった時点で報告をもう少し考えて・・・」


フリップは事実を報告しただけ・・・何も悪くはない・・・ん?


互いに責任は自分にあると言い合っていると後ろの方でドアが閉まった音がした


「ギルド長!とりあえず久しぶりの親子水入らず・・・話は今度で!」


「あ、ああ・・・あ、おい!しばらく休めよ!」


「はい!」


サナの頭を撫でてから離れると急いで部屋を出た


もしかしたらあのゲートって技でもうどっかに・・・と思ったが廊下に出ると彼は普通に歩いていた


「ローグ!」


「ん?もうギルド長との話はいいのか?」


「ええ・・・ローグにいくつか聞きたい事があるの・・・私の部屋に来て」


返事は聞かず歩み寄るとローグの腕を掴み私の部屋へ


このまま行かせてしまってはまたいつ会えるか分からないと思って行動に移したけど・・・・・・よく考えると私ってなんて大胆な行動を・・・


「・・・それで?聞きたい事とは?」


・・・いつも冷静なローグは魅力的だけど・・・今は無性に腹が立つ


女性が勇気を出して部屋に誘ったにも関わらず『それで?』ですって?・・・別にそういうつもりじゃなかったけど男なら少しは期待しなさいよねっ!


「・・・いくつか疑問に思った事があるの・・・いつからハッシュに変装していたの?」


「カルサスでエモーンズの衛兵から子爵の私兵に引き継がれただろ?その際に」


「・・・カルサスで待ち伏せして?」


「いや、エモーンズの衛兵にも変身していた。名前は・・・デクト・・・だったかな」


「・・・つまり最初から私の傍に居たって訳ね・・・どうして言ってくれなかったの?」


「言えば余裕が出来る。それに気付けない間抜けかどうかは判断出来なかったからな」


そう言われたらそうね・・・下手したらニヤニヤしちゃうかも・・・ローグと旅する機会なんてなかったし・・・


「じゃあ質問を変えて・・・魔人って何?あのヴォールって奴・・・明らかに普通の人間とは違ってた・・・」


「魔蝕の成れの果て・・・それが魔人だ」


「魔蝕の?え・・・だって魔蝕って聖女様しか治せない病気の名前じゃ・・・」


「適合しなければ死・・・適合すれば魔人となる。あそこにいたヴォールとかいう奴は恐らく半適合者だな・・・魔人になりきれてなかった」


「適合って?」


「魔蝕がどんな症状か知っているだろ?体内にある魔核が傷付きマナになる前の魔力が溢れ出し肉体を蝕む・・・適合とはその溢れ出した魔力に体が馴染む事を言う。魔力を使う人間・・・それが魔人だ」


「・・・ヴォールは魔人になりきれてなかったと言ったわよね?もしヴォールが魔人になっていたら?」


「私達の屍があの地下室に転がっていたかもしれない。ただ・・・そもそも魔人になった奴をペットとして飼えるとは思えないからあの場に居ること事態がなかったと言える」


そうね・・・ヴォールは理性を失っているように見えた。本能だけで動く獣・・・だからあのブタにも飼うことが出来たのだろう


「・・・でも今まで魔人なんて聞いたことも無い・・・なぜローグは知っているの?」


「古い文献で読んだことがある・・・魔蝕のことを調べるきっかけがあったのでな・・・その時に知ったのだ」


「ふーん・・・」


噂程度にも話が上がらない『魔人』・・・それを知るローグ・・・古い文献っていうのも眉唾ね・・・もしかしてローグの仕事って魔蝕を根絶するとかだったり・・・これだけ長い付き合いなのに仕事どころか素顔さえ見たことない・・・てかあのレオンが素顔知っててなんで私が知らないのよ!普通逆でしょ!?


「もう聞くことはないか?ないなら私は・・・」


「見たでしょ?」


「なに?」


「私が・・・するところ・・・見たでしょ?」


「見ていない!見られないように妨害する事で手一杯で・・・サラも知っているだろう!?」


ローグが動揺してる・・・しかも激しく・・・ふふっ・・・


「別にローグになら見られても・・・」


「見るか!・・・・・・・・・用がないなら帰るぞ?仕事が一段落したからと言って暇な訳じゃない」


しまった!少しからかい過ぎてしまった・・・どうしよう・・・このままじゃ本当に帰ってしまう・・・


振り返り部屋を出て行こうとするローグ・・・だけど私が呼び止めようとする前に自ら足を止めた


「・・・それとサラ・・・ギルド長と話した結果、君は組合長から降格だ」


「え?」


降格?だってフリップはそんな事一言も・・・そもそも組合の人事権はギルド直属とはいえないはずなのに・・・


「君は組合長から降格し組合長補佐に・・・そして組合長の座には・・・私が就く・・・ってなぜ倒れる?」


ち、近くにベッドがあって良かった・・・あまりの嬉しさに卒倒してしまうとは・・・


「・・・なんでも・・・ないわ・・・」


「そ、そうか・・・明日から頼むぞ・・・サラ組合長補佐」


「・・・はい・・・ローグ組合長」


なんだろう・・・自分の命が助かった事よりも・・・ローグが再び組合長になってくれる事がこんなにも嬉しいなんて・・・


組合長が重責だったから?それともローグの傍に居られるから?・・・とにかく今の私はローグの顔をまともに見れないほど・・・にやけている


「・・・色々あったのだ・・・疲れも出るだろう・・・今日は休め」


そう言って今度こそ部屋を出て行こうとするローグ・・・ダメ・・・出て行く前にちゃんと言わないと・・・


にやけ顔を気力で封じ込め、勢いよく起き上がる


「待ってローグ!」


「・・・まだ何か?」


まだ何かどころかあり過ぎて絶賛混乱中・・・でもあれだけは言わないと・・・


「・・・・・・助けてくれてありがとう・・・・・・」


「・・・当然の事をしたまでだ」


最後はまともに顔を見れなかった


耳にドアが閉められる音が聞こえ、一人部屋に残された私は再びベッドに身を任せる


「・・・バカ・・・なんで・・・」


確かに疑問に思ったことは多々あり聞きたいことは沢山あった。だからってお礼もせずにズケズケと聞きたい事を聞いたりして・・・ハア・・・



自分が嫌になる


何度も助けられて・・・助けられるのが当然と思うようになってしまってる自分が



強くなろう・・・今よりずっと・・・


いつか・・・ローグが困難に陥った時に少しでも助けられるように・・・背中を安心して預けられるように──────




次の日、私はギルド長室に行き、衛兵に捕まった時に取り上げられた通信道具と風牙龍扇を返してもらった


どうやらフリップが衛兵長のケインに言って預かってくれていたらしい。それでフリップは思い付いたのだとか・・・私を救う為に通信道具を使ってローグを頼る事を


「勝手に使って悪かったな」


「何を言って・・・もしギルド長がローグに知らせてくれなかったら今頃私は・・・」


「そう言ってくれると少しは気が楽になる」


「そんな事よりも2人で何を話したかの方が気になりますね。まさか組合長を降ろされるとは思いませんでしたよ」


ジロリと睨むとフリップは慌てて言い訳を始めた


どうやらローグからの提案だったらしい・・・護送されている時にもう既に私を助けた後の話をするなんて・・・ローグらしいと言えばローグらしい


「まあギルド直属とはいえ俺に人事の決定権がある訳じゃないし・・・断ってもいいが・・・」


そう・・・組合『ダンジョンナイト』は一応ギルド直属の組合という事になっている。直属・・・と言っても別に何か特別な事がある訳でもないのだが・・・まあ公認って言葉が本来なら適切かもしれないな


大きな街になれば冒険者の数も増える


そうすると組合が複数存在する事もあり、その複数の組合の中でギルドの意向に沿った組合がギルド直属の組合に選ばれる


直属になったからと言って特に制約などがある訳でもない・・・ただ冒険者が組合を選ぶ時にギルド直属だと安心出来るって程度・・・何せギルドが『この組合はダメだ』と判断すれば別の組合がギルド直属になるからだ


要は優良組合認定みたいなもの


まあこの街には現在『ダンジョンナイト』しかないから自然とギルド直属になっているだけだがな


「いえ・・・この組合があって然るべき姿に戻るだけなので当然受け入れます・・・が、一言相談あってもいいのでは?」


「そ、そうだな・・・すまなかった・・・」


フリップとローグで決めたって言うのが少し気に食わないだけ・・・出来れば私とローグで決めたかった・・・


「あっ、そう言えば正式にバクアート子爵からサラの事に関して伝達があった。センジュ殺しの罪を着せてしまった事を謝罪し撤回・・・賠償金も払うってよ。これは衛兵の方にも伝わっているはずだからもう大手を振って街中を歩いても大丈夫だ」


「仕事が早いですね・・・バクアート子爵は」


「それだけ脅威に思ったのかもな・・・虎の尾を踏んだと焦ったんじゃねえか?」


確かに・・・もしかしたらこの世で怒らせてはいけない人の最上位にいるかも・・・


「でしたら今回の件でお世話になった人達に挨拶してきます。それと組合が生まれ変わる事も伝えないと・・・」


「そうだな・・・生まれ変わるというより元の鞘に戻るって感じだが・・・俺からも職員には伝えておく」



こうして一連の騒動は終わりを迎えた


一週間やそこらの出来事だったがかなり濃密な時間だった・・・しばらく平穏な日々が続いてくれると・・・ありがたいのだが、な──────

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