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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
174/856

171階 人質

ブタ屋敷の生活は既に4日が経過した


風呂も食事も・・・マナ封じの首輪以外は何不自由のない暮らし


一体あのブタは何を考えているのやら・・・人類には到底理解出来ないな


「準備が整った。出ろ」


部屋でなにする訳でもなくボーッとしているとついにその時がやってきた


何の準備か知らないが恐らく生きてこの屋敷を出る最後のチャンス・・・奴の狙いを正確に見極め利用し生き延びる為の・・・最後のチャンスだ


ヤドスは他の兵士に命令し、また後ろ手に手錠をかける。手錠をかけるという事はつまりあのブタに会うということだろう。他の時は手錠はかけなかったからな


「行くぞ」


そう言ってヤドスを先頭に屋敷の廊下を歩くと1階へ・・・前にブタと会った時は2階だったから今回は別の部屋という事になる


1階に降りると玄関とは反対側・・・屋敷の奥へと進み更に下へと降りる


地下・・・なぜわざわざ地下に?


降りるとまるでダンジョンのような石に囲われた大広間があり、中心には牢屋と言うにはあまりにも大き過ぎる鉄格子で囲われた檻があった


ブタの私兵がズラリと並び、その中に見た事のない女性と子供・・・顔が似ているから母娘だろうか


「貴様は中に入れ」


手錠は外され檻の中へと押し込められる


この鉄格子は・・・さすがに蹴ってもビクともしなさそうだな・・・今度はこの檻の中に閉じ込めておく気か?


「囚人には檻が似合う・・・サラ・セームンよ真実を話す気になったか?」


メインディッシュ・・・ではなくブタの登場だ


「っ!?」


ブタの方に振り向くと視線は自ずとブタではなくその後ろに立つモノに向けられた


ブタの倍くらいの身長・・・髪はボサボサ、上半身裸で脈打つ筋肉が不気味さを際立たせる。それに肌の色がむらさきがかってて・・・まるで毒にでも侵されているような・・・おおよそ貴族の屋敷には似つかわしくないモノ・・・なんだアイツは・・・


「気になるか?ワシのペットだ。名はヴォール・・・なかなか強そうだろ?」


ペットだと?


確かに首輪をしているな・・・あれはマナ封じの首輪・・・それに手足にも拘束具が・・・その拘束具から伸びた鎖を後ろの方で兵士が持ち動きを封じている


口からは牙が見え、ずっと口を開けているからかヨダレがヒドイ・・・もはや人とは呼べず獣・・・なるほど・・・確かにペットだな


「・・・まさかそのヴォールとこの檻の中で戦え、と?」


もしそうなったら・・・いや、マナ封じの首輪さえ向こうも付けたままなら何とか・・・


「察しがいい・・・が、まだその時ではない」


まだ・・・か。いずれは戦うことに・・・


「ヴォールと戦う前に真実を話してもらわねばならない。戦えば話す事など出来なくなるのでな。さて・・・今一度問おう・・・真実を話す気になったか?」


ヴォールの事はひとまず置いて今は奴の言う真実とやらを探ることに集中しなければ・・・


「・・・先日も申し上げましたが私が話したことが全てです・・・その内容こそが嘘偽りのない真実・・・」


「ふむ・・・そう言うと思った。そしてお前のような奴は決して自分が傷付いても真実を言わん・・・それは分かっていた」


やはり私に何かを言わせたいらしい


しかし言ったところで何になる?あまり考えたくはないがぶっちゃけ私を殺した後に私がこう言っていたと嘘をつけば済む話では?


「・・・そうか・・・知らぬのも無理はない。我が国の法務大臣殿は少々特殊な能力を持っていてな・・・『真実の眼』・・・要は嘘を見破る能力だ」


ほう・・・法務大臣になるべくしてなった人物のようだな。裁きを下す者が嘘を見破れるのであれば全ての人が自白するようなもの・・・それに冤罪もなくなるだろう


・・・うん?待てよ・・・そうか・・・そういう事か


なぜこのブタが私に言わせようとしているのか・・・何を言わせようとしているのか分かったぞ


言わせようとしているのはセンジュ殺しが誰かの陰謀であると言う事・・・そしてこの前名前を挙げていた人物が好ましいと考えている


確か全員ブタと同じ爵位だった・・・子爵・・・つまりセンジュ殺しの罪を着せ戦いを仕掛けるつもりだ


私自身の口から言わせようとしているのは法務大臣対策


『サラ・セームンが証言した』という嘘を真実にする為


ブタにとってそれが嘘か本当かどちらでもいい・・・私が証言すれば少なくとも証言した事は真実なのだから・・・


「どうやら理解したようだな。センジュは将来有望・・・もうすぐSランクに上り詰めるはずだった。そうすれば我が家は伯爵に・・・なのにそれを邪魔立てする者が現れた・・・さあ言え・・・サラ・セームンよ!どこのどいつがセンジュを殺せと命じた?チャナス子爵か?そうなのだろう?潔く吐け!」


このブタは大義名分が欲しいのだ・・・私がチャナス子爵に命令されたと言えば大義名分を得る・・・そして攻め込み滅ぼすつもりだ・・・でもなぜ?・・・いや、答えは出てる・・・子爵から伯爵になる為に・・・他の子爵を喰うつもり・・・


絶対に言ってはならない・・・もし言えば罪もない人が何人も死ぬ事になる・・・口が裂けても・・・言ってはならない!


「やはりな・・・素直に吐くとは思っておらん。先程も言ったが貴様を傷付けても口は割らないだろう・・・だから準備した」


「・・・何を・・・」


ブタが合図するとさっき見た母娘らしき女性と子供を引きずり檻の前に・・・この人達をどうするつもりだ?


「さて・・・貴様が『チャナス子爵に命令された』と言わない限りこの者達は死ぬ事になる。鍛えてない者達などヴォールのひと撫でで一瞬であの世行きだろう。さてどうする?」


「っ!・・・関係のない人を巻き込んで・・・それが罪にならないと思っているのですか!!」


「罪にならんさ・・・関係なくもないしな。その者の名を知っているか?サシャ・レノス・サムスとサナ・レノス・サムスだ。聞き覚えがあるだろう?」


レノス・サムス・・・だと?・・・まさか・・・そんな・・・


「分かったか?エモーンズギルド長フリップ・レノス・サムスの妻と子だ。奴は貴様を可愛がるあまり嘘の証言を繰り返した。我が子センジュを殺したのはサラじゃないと言い続けているのだ!今だに!人の子を奪った者を庇うなどその罪万死に値する!一族郎党にも罪が及ぶ程だ!つまり・・・この者達は罪人だ・・・処刑したところで罪に問われん」


「バカな!そんな道理が通じるとでも・・・」


「通じるのだよ・・・それが貴族と貴族でないものの違いだ。ワシもサムス家と事を構えるつもりはない・・・だからサムス家に確認したら除籍はしてないがほぼ除籍状態だとか・・・何をしてもサムス家は関係ないとの返事だった。つまりレノスという爵位の称号は残っているが貴族ではない・・・ワシの裁量で裁けるのだよ」


「だからと言って!」


「黙れ!その口を閉ざさねば今すぐこの娘の首を刎ねるぞ!」


「くっ!」


まさかフリップの・・・そんな・・・


「貴様が言葉にするのはただひとつ・・・『チャナス子爵に命令された』だけだ。それ以外の言葉は死に直結すると思え・・・もちろん貴様の死ではなくこの者達の、な」


どうする・・・もちろん2人は助けるべきだ・・・でも私がその証言をすることにより関係のない人達が・・・


「・・・罪人は2人いる・・・どっちか片方の無惨な姿を見ればその口も軽くなるか?ヴォール!」


ダメだ・・・何も浮かばない・・・くそっ・・・くそっ!


ブタの呼び掛けにヴォールが応える


雄叫びを上げ4人の兵士を引きずりながら2人の元へ


もう・・・こうするしか・・・


「・・・チャ・・・チャナス子爵に・・・命令されました・・・」


くっ・・・何故こんな・・・


「く・・・聞いたか?皆も聞いたであろう?エジナめワシを妬み下賎な者に命令し我が子を殺したのだ!これはもはや宣戦布告・・・我が子の仇必ずや取ってやる!」


兵士達が呼応し力強く叫ぶ


貴族同士の争いが始まる・・・私の一言がきっかけで・・・


「サラ・セームンよ、よくぞ証言してくれた・・・褒美に慈悲のある死をくれてやろう」


ブタは言うとヤドスに合図する


するとヤドスはヴォールを引っ張っている兵士達に目配せし一歩・・・また一歩と檻へと近付かせた


「バクアート子爵!ギルド長の・・・この2人の身柄は・・・」


「安心しろ。貴様が証言した褒美にフリップめの罪も帳消しにしてやろう・・・2人は解放する」


「ならばすぐにでも!」


「言える立場か?貴様は命令され我が子を手にかけた・・・罪人に口などないと思え」


そんな・・・もし私が殺されたら2人も・・・


「約束してくれ!必ず解放すると・・・約束してくれ!」


「黙れ・・・薄汚い女狐が。ちなみにヴォールはペットのくせに性欲が強くてな・・・陵辱されて殺されるか殺されて陵辱されるか・・・まあ綺麗な体では死ねないと思え。せっかく身綺麗にしてたのに・・・残念だな」


このっ・・・この4日間風呂も食事もさせていたのはこの為か!こんな奴に・・・こんな奴に!!


「後ろに下がれ!背中を反対側の格子につけろ!逆らえば・・・どうなるか分かっているな?」


ヤドスが抜いた剣の先は子供・・・サナに向いていた


「外道が・・・」


「センジュ様を亡き者にした貴様がどの口で言うか・・・下がれ」


下がる他ない・・・そして誰もいなくなった私が背中を格子につけると檻の扉は開け放たれ中にヴォールが入って来た


「マナ封じの首輪に矢を!それと同時に鎖を離せ!」


兵士の1人が弓を構え矢を放つ


その矢は一直線にヴォールの首・・・マナ封じの首輪に飛んで行き、当たると首輪はあっさりと外れた


「よし!離せ!」


4人の兵士が鎖を離・・・いや・・・


「ハッシュ!離せと・・・」


「いや絡まってしまっ!」


恐らく今まで離さないように鎖を腕に巻いていたのだろう・・・離すタイミングを逃しマナ封じの首輪が外れたヴォールに引っ張られハッシュは檻の中へ


そしてハッシュの存在に気付いたヴォールはニヤリと笑い鎖を持つと力を込める


「おいちょっと・・・まっ!」


ヴォールは鎖を思いっきり引っ張るとそのままハッシュは反対側の格子にぶん投げられた


なんという力だ・・・大の大人を軽々と片手で投げてしまうなんて・・・


「バカが!ええい扉を閉めろ!」


「しかしハッシュが・・・」


「仕方あるまい!このままではあの女の次に我々が餌食になるぞ!」


どうやら躾は出来てないようだな


鎖で動きを封じるのもマナ封じの首輪があってこそ・・・奴らもヴォールには敵わないらしい


問題は・・・私がヴォールに勝てるかどうか・・・


死ぬ前も死んだ後でもこんな奴に穢されるのは御免だ・・・何とか生き延びなくては・・・2人の為にも


「ほう・・・やる気か。精々ワシを楽しませてくれ・・・万が一にも生きて檻から出られるはずもないが、な──────」

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