165階 蹂躙無尽
縦横無尽ではなく蹂躙無尽と言ったか?
見た目でどんな能力か分かるな・・・アレは危険だ
両手に持つ二振りの剣・・・その剣が纏うマナ量は・・・異常だ
「ハッハァ!触れると痛いじゃ済まねえぞ?」
剣から迸るマナを見れば分かる・・・アレは触れるもの全てを破壊する
「今までコイツに触れて無事だったのはキースだけ・・・後は言わずもがなってやつだ」
「それはそれは・・・キースに次いで2人目になれるとは光栄だな」
勝てる気がしない──────
まるで絶望が歩いて来るようだ
マナを多く纏う剣士は何人か見てきたがアレは常軌を逸している・・・剣先は地面に向けられているのにその剣に纏ったマナはセンジュの頭を軽く越えていた
「なまくらな剣を持つとよぉ・・・斬れなくて斬れなくてさ・・・斬りたいけど斬れない・・・なら斬れるようにすりゃあいいって話しよ」
「・・・斬れ味のいい剣を買えばいいだろ?」
「なら武道家ぁ・・・拳じゃなくて武器を使えよ」
「・・・なるほど・・・そう返されると返す言葉もない」
「だろ?武道家と俺は同じ・・・わざと使えない武器を使って自らを高める・・・今からでも遅くねえ・・・同じ志を持つ同士体の相性も確かめ合おうぜ?」
「どうしてそうなる・・・それに使えない、だと?武道家は全身が武器・・・使えぬ場所などない。私の拳を貴様のなまくらと一緒にするな」
追い込み方は似てるが、な
「全身武器ねぇ・・・そりゃますます楽しみだ・・・言ってなかったけど俺はやる時にここにもマナを纏う・・・そうすりゃどんな女もイチコロよ・・・まっ、その後はその女は使いものにならなくなるけどな」
「・・・話す度に殺意が増すな。今すぐ死ね」
「そう言うなよ・・・天国に連れて行ってやるからさ」
「・・・地獄の間違いだろう?」
「おっ!」
強力なマナを纏っているからか近付いて来ないと油断していたらしい。ゆっくりと近付いて来ていたセンジュにこちらから一足飛びで距離を縮めると容易に懐に入ることが出来た
「射吹!」
すかさず大地を蹴った足のマナを右手に移しセンジュに放つ
「ぐもっ・・・いってえなぁ」
その程度!?鳩尾に射吹を当てたのに・・・その程度なのか!?
「くっ!ならばっ!」
マナを纏いそして込めた拳を、蹴りを連続で当てる
しかし──────
「効かねえな・・・最初の一撃の方がマシだぜ?」
何故センジュはここまで強い?
両手の剣にマナを集中させているはずなのに・・・何故効かない!
「想像してみろよ・・・俺が・・・Aランク最上位の俺がAランクなりたてのお前に負けるとでも?」
っ!・・・まさか気後れしてるとでも言いたいのか?そんなはずはない・・・現に私は確実に当てて・・・
「蹂躙無尽にビビって腰の入ってない拳じゃ効かねえって・・・サラビビり過ぎ」
「このっ!・・・!?」
足に力が入らない?
センジュが・・・大きく見える・・・
そうだ・・・私は飲まれていた・・・センジュを見て勝てないと・・・思ってしまっていたんだ・・・
最初の一撃は無我夢中で・・・その後の攻撃は焦りながらも的確に急所を狙っていた・・・つもりだった
でも懐に入れば必然的にあの剣の前に身を晒す事になる。そして無意識に逃げ腰になり打撃も手打ちになってしまっていた
「もっと頑張らないとぉー・・・今頃ロウニールは魔物に食われてるかもよ?」
そうだ!ここで私が負ければロウニールは・・・負けられない・・・負けてはならない・・・何としても!
「そうそう・・・頑張れ。じゃないと屈服させた時の快楽が得られないからな」
「ぬかせ!その余裕消し去ってくれる!」
余裕のない私と余裕のセンジュ
対称的な2人の攻防の結果など分かりきっていた
いくら力を込めようが本能的に危険を察知し当たる瞬間に込めた力は逃げてしまう
恐らくだが私が気付かない程度にインパクトの瞬間に奴は殺気を放ちそうなるよう仕向けているのだろう
いつでも私を殺すことが出来る
奴の余裕が物語っていた
そして私自身もそれを感じてしまっている
絶望的な実力差・・・それを埋めるには・・・
「またそれかよ・・・サラァ」
風牙龍扇を取り出すとセンジュはニヤリと笑う
「三式・千牙!」
無数の風の牙がセンジュに襲いかかる・・・が、奴が剣を軽く一振するだけで全ての風の牙が掻き消えてしまう
「四式・竜巻!」
「無駄だっつーの!!」
これも・・・
「五式・暴風!」
これも・・・
「一式・風牙!」
これもダメ
風牙龍扇が弱いのではない
私のマナ量が足りないだけ
あと私に出来ると言えば・・・アレだけだ
でもアレを使えば私は多分動けなくなる・・・そうするとロウニールを探すことが出来なく・・・
「うざってえ・・・それ邪魔だな・・・」
来る──────
身構え攻撃に備える
『蹂躙無尽』を使ってから奴は自ら仕掛けて来ていない。いや、それどころか攻撃すらして来ていない
どうやって攻撃して来る?
やはり今まで通り剣技とは言えぬただ力任せに剣を振るうだけの攻撃か?それとも・・・
奴が剣を振るう
間合いなど関係なく・・・剣先すら届かない距離で
「え?」
風牙龍扇を持つ腕が熱くなる
見ると私の右腕は・・・肘から下が無くなっていた
「あ・・・あ・・・ぐあああぁぁぁ!!」
なんだ!何が起きた!?
腕が・・・ない
いつの間にか右腕から・・・おびただしい量の血を吹いていた
「おっと・・・予想以上に血が流れてるな・・・早くしねえと出血多量で死んじまうな」
センジュの左手に持つ剣からマナが消えている
そうか・・・纏っていたマナを・・・放ったか・・・
私の反応速度を上回る速度で剣に纏ったマナを放ち・・・私の右腕を・・・切り落したか!
痛みで気を失いかける
すぐにマナを切り落とされた箇所に集中し止血を試みた
「うっ・・・くっ」
血は止まった・・・けど右腕を失った事により更に実力差は広がる・・・それに風牙龍扇も・・・
「おー・・・よく出来ました。ウザイ武器もないし右腕もない・・・全身武器の武道家さんはここから何を見せてくれるんだ?ちなみに蹂躙無尽はしばらく使えねえ・・・残念だがマナ量が足りねえからな。だけどまだ・・・こっちは何かを斬りたくて暴れてるぜ?次はどこだ?左か?足か?」
ハッ・・・ハッ・・・ダメだ・・・飲まれるな・・・
まだ勝機はあるはず・・・何か・・・何かあるはず・・・
「うーん、やっぱり左腕にすっか?手癖悪いしな・・・やってる時に殴られたらイケメンが台無しだし・・・」
大丈夫・・・まだ手はある・・・そこに転がっている私の腕から風牙龍扇を取り・・・
「あー戦意喪失ってやつ?なら斬らねえでいっか。二箇所止血出来るか分からねえしな」
奴の声が近くに聞こえる
動かなきゃ・・・動け・・・動いて風牙龍扇を・・・
「うはっ堪んねえな・・・全部脱がせるか?いや・・・このまま下だけ脱がして突っ込むか・・・」
なんで天井が見える?
なんで奴の顔が近くに見える?
背中に地面の感触・・・私は・・・押し倒されたのか?
「そろそろ行くぜ・・・マナ量が少し足りねえが・・・これだけ纏えば充分だろ・・・一応聞いてるぜ・・・お前処女なんだってな・・・初めは痛えけどすぐに天国に連れてってやるよ」
やめろ・・・私は・・・
助けて・・・ローグ・・・
助けて・・・ロ・・・
「おいクズ野郎・・・こっちだ」
「!?てめえ生きて・・・?・・・どこだ?」
今の声は・・・!?
私の手に何かが触れた
その何かが何か・・・すぐに理解する
ありえないけど・・・なぜここにあるか分からないけど・・・間違いない・・・
私の上でキョロキョロしているセンジュは気付いていない
今しかない・・・このチャンスを逃せば・・・次はない
左手でギュッと握り私はそれを奴の腹に突き付けた
「・・・あん?・・・お、お前・・・どうやって・・・」
「さあな・・・気付いたら手の中にあった。それよりもいつまで私の上に乗ってるつもりだ?」
「くっ!このっ!」
「逃がすか・・・零式・風喰い」
「てっ・・・があぁぁぁあ!!」
零式・風喰い・・・風牙龍扇を全て閉じて使う奥の手
使用はなるべく控えたかったが・・・もう私にはこれしか残されていなかった・・・
風牙龍扇を相手に押し当てて放つ事により風が体内を喰い破る。抵抗がなければ粉々となり、抵抗があったとしても無事では済まないだろう
だが問題は・・・この技はマナを流して使うのではなく使用者のマナを喰らう
「グッ!・・・ガハッ!」
マナが足りなければその分がダメージとして体を駆け巡る・・・すると激しい痛みが襲って来て込み上げてきたものを抑えきれず吐き出した
真っ赤な血・・・気を失いかける・・・が、今はダメだ・・・今気を失えば・・・
「・・・こ・・・この・・・」
目や口・・・穴という穴から血を吹き出すセンジュ
ダメージは当然向こうの方が上だ
私は残った左手で上に乗るセンジュを押し退けて立ち上がる
「・・・ま・・・て・・・」
「・・・トドメを刺す時間も惜しい・・・そこで朽ち果ててろ・・・」
もう捜索するマナすらない・・・それでも探さないと・・・ロウニールが・・・私を・・・待っている──────
「くそっ・・・たれ・・・なんだ・・・動け・・・ねえ・・・まるで・・・バラバラに・・・サラが・・・行っちま・・・」
「あれは風牙龍扇の能力のひとつ零式・風喰い・・・体内で暴れ回る風を喰らった感想は?」
「っ!・・・てめっ・・・ロウ二・・・」
「おっとあまり大きい声を出すな。サラさんに聞こえてしまう」
「どうやって・・・あの時確かに・・・両手両足の骨を・・・」
「ああ、痛かったよ・・・動けなくなり死を覚悟した・・・でもお前は僕の前でサラさんを犯したくて殺さなかった・・・それが間違いだったな」
「待て・・・話を聞け・・・俺は・・・」
「残念だけど僕はまだ完全ではないのでね・・・お前のトドメを刺すのは・・・お前だ」
「あ?俺?・・・ちょ・・・待て・・・そいつは確かに殺した・・・」
「やれ、シャドウセンジュ・・・コイツの首を・・・落としてやれ──────」




