164階 サラVSセンジュ
そろそろ次の段階に進むべきか
ロウニールの吸収力は素晴らしい・・・それに普段の努力も実って体も柔らかくなってきたしマナの扱いもかなりのレベルだ・・・今ならあの技を使いこなせるやもしれん
にしても私が弟子をとるとはな・・・同じ武道家と聞いて興味本位だったが今では弟子の成長が何よりも嬉しい
もしかしたら私の気性に合っているのかもな・・・冒険者を引退したら道場でも開いてみるか・・・
最近では相手のマナも感じれるようになったし指導者向きなのかもな
マナか・・・そう言えば他の者とロウニールのマナは若干違って見えた
他の者はバケツに水を張ったように見え、何も無ければ水面は穏やかでマナを使う時は波打つような・・・でもロウニールは普段からマナが渦巻いて見える・・・荒々しく渦巻き、中心は底が見えない程深く・・・確か聖女はロウニールのマナ量がどうとか言っていたな・・・聖女にも見えているのだろうか・・・あの不思議な現象が・・・
いかんいかん、そんな事を考えている場合ではなかった
次の段階・・・あの技を教えるかどうか・・・
ロウニールの為に考えた技・・・私の弟子と名乗るには必要不可欠なあの技を教えるべきか否か・・・うーむ悩みどころだ
冒険者ギルドの1階・・・昼も過ぎて人もまばらになってきた場所で弟子の事を悩む私・・・何と言うか『良い日常』とはこういう事を言うのだろうか・・・
「サラ!!大変だ!!」
・・・ハア・・・得てして『良い日常』とは誰かによって崩されるものだな・・・しかもよりによって・・・
「それは大変だな・・・センジュ」
「まだ何も言ってねえ!本当に大変なんだ!ロウニールが・・・」
「なに!?ロウニールがどうした!」
「お、おう・・・少し冷静になろう、な?」
思わずセンジュの胸倉を掴んでしまった・・・冷静にならなくては・・・しかし・・・
「で?・・・どうしたんだ?」
「それがよ・・・一緒にダンジョンに潜ってたらはぐれちまって・・・」
なんだそんなことか
今のロウニールなら相当深い階層でなければ問題ないだろう。特にエモーンズダンジョンは各階にゲートがある・・・余程のことがない限り自力で無事に戻って来るはずだ
「階は何階だ?一応探しに・・・」
「ご・・・55階だ」
55・・・55階だと!?
「バカな!なんで・・・そうか・・・ロウニールは前回罠にかかって51階から行けるように・・・それでも・・・・・・お前か・・・お前が・・・」
「わ、悪かったと思ってるよ!まさかはぐれるなんて・・・順調に進んでてふと後ろを見たらもう居なかったんだ!」
くっ!・・・ロウニールの実力なら55階でも・・・いや、魔物との戦闘には慣れてないはず・・・しかも55階は特殊だ。森のような形状で視界も悪い・・・もしかしたら・・・
大きな声で話してたのでペギーにも内容は聞こえていたはず
受付の方を見るとペギーは何かを確認し私を見て頷いた
ペギーが確認したのはロウニールのギルドカード・・・そして頷いたのはまだ生きているということ・・・でも55階なら急がなくては・・・
「ここに55階に行ける冒険者はいるか?いれば一緒に来て欲しい!」
私一人でも捜索するだけなら容易い
だけど状況が分からない為1人でも多くの者で探しておきたかった・・・が、今いる者達の中で55階に到達している者はどうやらいないようだ
ことは一刻を争う・・・私だけでも行って探さねば・・・
「俺も手伝うぜ?はぐれた場所は俺しか知らねえしな」
「・・・当たり前だ・・・案内しろ!」
「あのっ!」
センジュと共にギルドから出ようとした時、ペギーが突然立ち上がり珍しく大きな声で私を呼んだ
何かを訴えるような眼差し・・・ロウニールの事を心配していると共に他の事を伝えようとしているが伝えられないもどかしさ・・・何を伝えようとしている?・・・しかし・・・
「行って来る」
ペギーの意を酌む事は出来なかったが時間がない
今は・・・ロウニールのギルドカードの灯火が消える前に捜し出すのが何より先決だ
ギルドを出てダンジョンへ
入口のギルド職員に緊急事態と告げると中に入りゲート部屋を目指した
階が分かっているなら捜索は容易い・・・まさか自分のこの能力に感謝する日が来るとはな
スカウトの能力・・・ローグに教えてもらってからは少し考えが変わった
私の中では風を使って周囲を調べているつもりだったけど実際はマナを風のように操りダンジョン内を調べていただけだった
つまり元から私に魔法・・・つまり変化の適性はなく強化と操作の適性があったのだ
通りで風は操れるのに風魔法は使えないはずだ
55階へのゲートに入りセンジュの案内でロウニールとはぐれた場所までやって来た
「あれ?・・・なんで・・・いやまさか・・・」
「どうした?」
「・・・なんでもねえ・・・なんでも・・・」
「ここがはぐれた場所か・・・あまり遠くに行ってないといいが・・・」
様子のおかしいセンジュを問い質す時間すら惜しい・・・今は何よりもロウニールの捜索が先決だ
目を閉じマナを操ると薄く広くをイメージしながらダンジョンの隅々に届くようマナを展開する
「・・・」
おかしい・・・魔物が一体もいない
ロウニールが倒したのか?それともセンジュが?
それならそれで安全とも言えるが・・・この階層はそれなりに魔物がいたはずなのに・・・これはどういうこと・・・!?
咄嗟に屈むと頭の上を何かが通り過ぎる
もし屈まなかったら・・・無事では済まなかっただろう
「・・・どういうつもりだ?・・・センジュ」
背後から私に向けて剣を振るったのはセンジュ・・・殺意は感じられなかったが明らかに意図して振るった様子・・・まさか・・・
「・・・っとにめんどくせえ・・・最近上手くいかねえな・・・やっぱり前の街からか?俺の運が落ちたのは」
「・・・運だと?」
「女運だよ女運・・・前の街でやらかしてな・・・すぐに始末したんだけどまさか変な噂になってるとはな・・・誤魔化すのにあれだけ必死こいたのによぉ」
「要領を得んな。一体何の話をしている・・・」
「まだ分からねえか?全部俺が仕組んだんだよ・・・ロウニールを失踪させてサラ・・・お前をダンジョン内に誘い込む為に・・・本当はもっと上手くやるつもりだったんだけどな・・・」
「そうか・・・それがお前の本性か・・・」
「驚かないんだな?」
「元より心を許した時はない・・・お前という人物像など簡単に上書き出来る・・・それで・・・ロウニールをどうした・・・」
「ハア・・・やっぱり上手くいってねえ・・・本当なら『なっ!?センジュ・・・信頼していたのに!』とか言われるはずだったのによぉ・・・これじゃあただのレイプだぜ」
「そんな事はどうでもいい・・・ロウニールはどうしたんだ!」
「エサのくせに逆らうもんだからよ・・・ちょいと手足の骨を折ってやったわけよ。本当はぶった斬ってやりたかったけど出血多量で死んだら元も子もねえからな・・・んであれだ・・・手足を折られて身動きの取れない弟子の前でお前を犯してやろうと考えてたが・・・何がどうなってんだか・・・」
怒りで我を失いそうになるのをグッと堪える
この男の本性などどうでもいい・・・とにかく今はロウニールの安全を確保しなくては・・・
今の口ぶりからロウニールの居場所を知らないのは本当だと思う・・・しかし手足を折ったのが事実ならその状態でロウニールは一体どこへ?
「・・・とりあえず・・・やらしてくんねえ?」
「貴様はバカか?」
「バカじゃねえよ。考えてみ?負傷した弟子は行方不明・・・で、目の前にはお前を抱きたい俺がいる。もしお前が抱かせてくれなかったら・・・俺は何すると思う?」
「・・・」
「分からねえか?無理矢理しようとするに決まってるだろ?んでだ・・・お前は俺に襲われながらロウニールを探すことが出来るのか?」
「・・・」
「無理だろ?無理だよな?となるとあれだ・・・素直にここは抱かれといてさっさと済ませて2人でロウニールを探した方が確実じゃね?だろ?俺・・・自慢じゃねえけど早いしさ」
「・・・やはり貴様はバカだ・・・もっと簡単な方法があるだろ?」
勝てるか・・・いや、勝たねばならない
それも時間をかけず最速で!
「ったく・・・せっかく優しくしてやろうと思ったのに・・・無理矢理は痛えぞ?」
「知るか・・・貴様に指一本触れさせるつもりは・・・ない──────」
戦いが始まりすぐに気付いた
奴は私を殺さぬように立ち回っている
そうでなければ・・・ここまで圧倒することは出来なかっただろう
「いってえな・・・もう少し手加減しろよめんどくせえ」
「ほざいてろ・・・二式・龍の顎」
「またそれかよっ!」
風牙龍扇を二つ開いて振るとセンジュに喰らいつかんと風の龍が大きな口を開ける
センジュは器用に二本の剣で風を叩き斬るとそのまま私に突っ込んでくる
「四式・竜巻」
「またー!!」
風牙龍扇の起こした竜巻に巻き込まれ弾け飛ぶセンジュ・・・このくだりは何度目だろう・・・とっとと決着をつけたいところだが本能が奴を近付けさせる事を拒む
恐らく・・・奴の間合いに入ったら・・・やられる
「くっそ・・・あの弟子にしてこの師ありか・・・今度から武道家なんて名乗るんじゃねえよ!」
「身の程はわきまえているのでな・・・工夫くらいするさ」
死ぬのは怖くはない・・・が、穢されて殺され・・・更にロウニールをも・・・という最悪の結果を避けたいだけだ
本当は今すぐにでも探しに行きたいところだが・・・私の命には今2人分の命が懸かっている・・・最速で倒さねばならないが最悪の結果は避けなければならない
「あーもうめんどくせえ・・・いっそ・・・いやアレはダメだ・・・やり過ぎちまう・・・なら・・・」
大きな声で独り言を・・・『アレ』とはなんだ?やはり奥の手が?
今のセンジュにAランクの実力はあってもSランクに最も近いとは言い難い。つまりSランクの最も近いと言わしめる何かがあるのは確実・・・それが『アレ』なのか?
「ハア・・・もういいや・・・頼むから死ぬなよ・・・サラ」
来る
センジュは残念そうにため息をつくといきなり体を脱力させる
両手の剣は下を向き、体はフラフラと不規則に揺れていた
「行くぜ?・・・『蹂躙無尽』──────」




