162階 ダンジョンマスターVSセンジュ
「おーい!早く食物連鎖の頂点が誰か教えてくれよー!隠れてないでさー!」
冗談じゃない・・・さすがにまともにぶつかればこの前の二の舞になる
センジュが剣を2本同時に抜いた瞬間にダッシュでその場を離れ何とか巻くことが出来たけど・・・さてどうしよう・・・
《なんでそのまま逃げないのよ・・・倒せるとでも思ってるの?》
「倒せるさ・・・僕だけじゃ無理だけどね」
と言っても絶対じゃないけど・・・それに犠牲も出る
僕は見つかる前に計画を全て話した
行き当たりばったりだけどこれならセンジュを倒せるはず
《・・・分かってる?私はその間何も出来なくなるし・・・》
「大丈夫・・・気持ちの問題だから」
《そっ・・・死んだら承知しないからね》
「はいはい・・・肝に銘じておきますよ」
計画は伝え準備は整った
後はセンジュを倒すだけ
ロウニールとしてではなく・・・ローグとしてでもなく・・・ダンジョンマスターとしてセンジュの・・・息の根を止める!
「ゲート!・・・スラミ!予定通りに!」
〘はい!マスター!〙
眷族特有の伝音が耳に響く
すると遠くに見えていたセンジュに向かってこの階にいる魔物達が一斉に押し寄せる
「はあ?なんだ??」
「さあセンジュ・・・僕の力を見せてやるよ──────」
声がする
Fランク冒険者がAランク冒険者を挑発する声
その声に反応しセンジュは集まった魔物を切り刻みながら突っ込んで行く
「そこかぁ!!・・・あ?」
確かにここから声がした
しかしそこには誰も居ない
確かに一瞬だが声と共に気配も感じたはずなのに・・・そこにはFランク冒険者であるロウニールの姿はなかった
「どこに逃げやがった!」
「こっちだよ間抜け」
「チッ!」
再び声がする
魔物が立ち塞がるその方向へと再び駆けると同時に魔物達を始末するセンジュ・・・しかし魔物の群れを突き進み声のした場所に辿り着くもそこにも誰も居なかった
「こんなに素早く動けるわけがねえ・・・となると・・・」
とめどもなく襲いかかる魔物を倒しながら周囲に目を配る
声がしてもそちらを向かずにひたすら気配を探る
そうしてようやく何かを見つけたセンジュはニヤリと口の端を上げた
「見ぃ・・・つけたっ!!」
とつぜんあらぬ方向に駆け出したセンジュは探り当てた獲物に向かって剣を振る
木の陰に隠れていた獲物は木ごと横に真っ二つ・・・勝利を確信したセンジュは更に笑みを深める
しかし──────
「結構コスト高いのに・・・よくも・・・」
身を隠していた大木ごと真っ二つにしたはずなのに
咄嗟にセンジュは切った木の裏に回る
そしてそこで見たものは・・・明らかに血ではない黒い液体だった──────
クソ・・・やられた
鍛えた方を最初から出せば良かったか?
いや・・・下手に切り札を出して通じなかったらあとがない・・・今はじっくりと体力とマナを削るべきだ
「スラミ・・・奴の周りに今度は中級の上位の魔物を配置してくれ」
〘はいマスター〙
魔物には悪いが奴を倒す為にはこうするしかない
奴に見つからないよう遠くに離れて観察しているけどSランクに最も近いってのは伊達じゃない・・・正直勝てるイメージが全く湧かない
でも・・・それでも勝たないとダメなんだ
逃げてサラさんに奴の本性をバラせば終わるかもしれない・・・でももし奴がやぶれかぶれになったら?
キースが居ない今・・・犠牲はかなり出るだろう・・・その中には僕の知り合いも含まれるかもしれない
そんな事は・・・させない
「スラミ!出し惜しみしなくていい・・・休む間もなく魔物達を奴の元へ!」
〘マスター!ターゲットが徐々に魔物の輪を抜けてマスターの方に!〙
「分かってる・・・構わないから魔物を出し続けて!」
目を閉じると見えるその姿はまるで嵐だな
もうゲートを使って声を色々な方向から聞かせても意味はないだろう・・・この距離で僕の位置をどうやって把握したのか真っ直ぐに僕のいる場所に向かって来ていた
「これは・・・ここに来るのも時間の問題か・・・さて・・・」
もう少し削りたかったけど・・・仕方ない
「スラミ・・・例の奴らを僕のそばに」
〘はいマスター〙
準備万端・・・後はセンジュが来るのを待つだけ
まだ時間に余裕があると思ったけど、センジュはあっという間にこの場所に辿り着いた
「探してたぜ・・・ロウニール」
「・・・どうやって僕の場所を?」
「声も気配も辿れねえと分かれば・・・後は匂いだろ?」
え?そんなに匂う?・・・じゃなくて匂いで見つけるなんて・・・しかもかなり離れてたのに・・・獣かよ!
「ったく・・・手間取らせやがって!魔物はアホなくらい湧くわこの階に普段いない魔物までいやがるわ・・・ん?・・・なんでここにドラゴニュートが?てかなんでお前を襲わねえんだよ!」
そう・・・僕の隣にはドラゴニュートが偉そうに腕組みして立っていた
今まで待機所で配置を心待ちにしていたドラゴニュートはようやく実戦の機会を得て組んでいた腕を解きゆっくりとセンジュに向かって歩を進める
「なんで僕を襲わないかって?それは・・・僕がダンジョンマスターだからだよ」
「ダンジョンマスター?なんだそ・・・チッ!」
センジュの言葉を遮るようにドラゴニュートが仕掛ける
ドラゴニュートの爪を屈んで躱し、足払いで足を刈り取りあのドラゴニュートを転ばせる
「ハッ!ドラゴニュートごときが俺に敵うかよ」
センジュレベルになるとドラゴニュートすら手玉に取るのか・・・でもその余計な一言がドラゴニュートを刺激してしまう
「我を・・・ごときだと!?」
あっさりと最終形態であるドラゴンになってしまったドラゴニュート・・・まさかこの姿のドラゴニュートもあっさり倒す・・・なんて事はないよね?
「最初っからその姿になってりゃいいものを・・・まあなったところでって話だがな!」
不安は的中
あれだけ硬いドラゴンの鱗をまるで紙でも切るようにズバズバと切り裂いていく
「グアアアアア!!」
「ハハッー!どうした?ドラゴンの姿をしていてもさっきとあんま変わんねえぞ?」
まずいな・・・もう少し時間が必要なのに・・・
本当に・・・本当にあっという間に倒してしまった
ドラゴニュートの返り血を手の甲で拭いながら笑みを浮かべこちらを向くセンジュ
もう対話は必要ないと言わんばかりに殺気を放ち一歩また一歩と近付いて来る
まだか・・・まだかダンコ!
《お待たせ!言われた通り100階まで拡張しといたわ・・・でも分かってる?拡張して強くはなれるけどアナタが使いこなせなければ意味がない・・・どんな名剣もスライムが持ってちゃ宝の持ち腐れ・・・みたいなものよ》
ナイスタイミング!って、スラミから抗議が来そうな言い回しだが・・・まあ何となく言いたいことは分かる
ダンコの言う通りダンジョンを拡張すれば僕は強くなる・・・けどそれは力を手に入れただけであって使えなければ意味がない
大量のマナがあっても使いこなせてない僕は・・・力を手に入れてもまだほんの一部しか使えこなせてないんだ
「大丈夫・・・戦いながら使いこなせてみせる」
「あ?何1人でブツブツと・・・」
「1人じゃないさ・・・もう十分見ただろ・・・センジュの能力をコピーしろ」
「ああ?・・・なんだ??」
スラミに配置してもらったのはドラゴンニュートだけじゃない
もう一体・・・その魔物はスライムより弱い。けど相手を間近で観察し理解するとその相手の能力をコピーする事が出来る
シャドウ・・・コイツが僕の奥の手
いくら100階まで拡張しても使いこなせるまで時間がかかる
戦いながら使いこなすつもりでいるけど相手はAランク冒険者センジュ・・・多分そんな余裕はないだろう
けどセンジュをコピーしたシャドウと一緒なら!
シャドウは黒い液体のような体を変化させセンジュの影となる
姿形・・・そして両手にはしっかりとセンジュが『なまくら』と呼ばれる所以となった剣を2本握っていた
「俺?・・・ハハッ・・・舐めんな雑魚が!!」
自分の姿を真似されたセンジュは怒りをぶつけるようにシャドウに剣を振る
凄まじい量のマナを纏った剣・・・その剣をシャドウは同じように剣を振り受け止める
「チッ!コイツ・・・」
センジュは剣技という剣技を持ち合わせていない
ただ来るものを圧倒的な力で斬り刻む
刃引きされた剣にも関わらず相手が斬り刻まれるのは纏っているマナの量が尋常ではないほど多いからだ
そのセンジュの一撃をシャドウは真っ向から受け止めた
「剣気一閃!」
一瞬膠着状態になった隙を狙って放った一撃だったがセンジュは瞬時にシャドウを押し退け自らも後ろに下がり僕の剣を躱す
やっぱり鍛えたシャドウとはいえセンジュの完全コピーは無理か・・・予想はしてたけど残念
シャドウを鍛えるのは大変なんだよな・・・上級魔物だからコストは高いしコピー前だとスライムより弱いし・・・
「おいおい・・・お前サラの弟子だよな?」
「今更・・・」
「じゃあなんで剣を持ってんだ?」
・・・そう言えば自然に剣を使ってたけど僕はサラさんの弟子であり武道家だった・・・
「えっと・・・シャドウ!」
「お前!・・・くっ!」
困った時のシャドウだな
シャドウは僕が叫ぶとセンジュに向かって猛突進
僕に気を取られていたセンジュはかろうじてシャドウの剣を受け止めたが数メートル後ろに吹き飛ばされた
「・・・んにゃろ・・・剣を操り魔物を操り・・・そう言えば忘れてたけどドラゴンニュートもお前を襲わず俺に向かって来た・・・お前・・・本当にロウニールか?」
お前が僕の何を知ってるって言うんだよ・・・まあでも正確に言うと今の僕はロウニールじゃないのかも・・・
門番の仕事に誇りを持ちサラさんの弟子であるロウニールではなく、ロウニールの代わりに正体を隠して冒険者を助けるダンジョンナイトローグでもない・・・ダンコと同化してダンジョンを作り魔物を創る・・・
「・・・何度も言わせんな・・・僕は・・・ダンジョンマスターだ──────」




