13階 ロウニールの誕生日
《アッハッハッハッハッ!バカね・・・おぼこいって言うのは『青臭い』とか『子供っぽい』とかそういう意味があるのよ!あの場面で他の人間がそう言ってたなんて言ったら気分悪くもなるわよ》
そんな・・・
《あー危なく笑い死にしそうになったわ・・・どう?初恋の人を怒らせた感想は》
最悪だ・・・最悪だよ・・・てっきり褒め言葉だと思ったからつい・・・
司令室で冒険者に倒されて空いたスペースに魔物を配置していく
その作業をしながら僕の気分は落ち込むばかり・・・もう帰って寝たい・・・
「ハア・・・続きはダンコがやってくれよ」
《だから言ったでしょ?今はまだ人間が少ないけど多くなればやる事も増えるし体が持たないわよ?どうせお金なんて稼げるし・・・》
「え?どうやって?」
《作ればいいじゃない。武具を作った時みたいに》
「あ・・・」
そう・・・素材もなしに作れるんだ・・・
ダンジョンに置く宝箱の中身には色んな物を入れておいた
剣、盾、鎧、宝石、お金・・・それらは全て自作だ
つまり僕は・・・もうお金に困ることは・・・ない
《呆れた・・・気付いてなかったの?て言うかお金も必要ないかもね・・・食事だって作れる訳だし服も寝る所だって・・・正直あの門番って仕事は時間の無駄よ?》
確かにそうだよな・・・門番はあくまでも仕事・・・お金を稼ぐ為にやってるのだからお金が必要ないとすればやる必要なんてないよな
《さっさと辞めちゃってダンジョンに集中しなさい。その方がアナタの為にもなるわ》
ダンコの言う通りだ
武器や防具など物を作る時はダンコの知識にないから絵を描いたり現物を見て作らないといけないけど、逆を言えば現物があれば幾らでも作れる・・・となるとお金は増やし放題だし服なんかにも困る事はないだろう。食事はまだ作った事はないけど・・・多分出来るんだろうな・・・けど・・・
「なんかさ・・・変なんだ」
《何が?》
「・・・僕は人間だ」
《知ってるわよ・・・だから何?》
「けど・・・おかしいんだ・・・ダンジョンでも当然人間として見てるから人間と魔物が戦ってたら人間を応援する・・・はずなのに・・・」
耳にタコが出来るくらい聞かされてた『魔物は道具』
マナを得る為の・・・道具
でもその魔物が人間に倒されると・・・モヤモヤする
《・・・ダンジョンマスターとしては当然の感情・・・だって人間も道具・・・マナを得る為の、ね》
「そんな風には思えない・・・てか人間も魔物も道具って・・・なあ・・・今更だけどマナを溜めてどうするんだ?」
《ダンジョンの拡張と魔物の創造に使うのよ・・・知ってるでしょ?》
「違う・・・その先・・・ダンジョンコアの目的ってなんなんだ?」
今まで疑問に思わなかったけどふと思った・・・マナを溜めてダンジョンを大きくする・・・その為だけにダンコは魔物と人間という道具を使ってマナを溜めているのだろうか、と
僕は人間だから『村の繁栄の為』ひいては『人間の為』に努力する事は苦ではない。でもダンコは?ダンジョンコアは人間も魔物も道具と言う・・・なら何の為に?何がダンコを突き動かす?
《・・・今更ね。魔物のリストの一番下を見てみて》
一番下?
ダンコは水晶に魔物のリストを出した
下級魔物から順に並んでおり、その名前の横には必要なマナのコストが書いてある。下に行くほどコストも上がり強そうな魔物の名前が並んでいた
「アラクネ・・・グリフォン・・・ヒドラ・・・うお!ドラゴン高っ!んでその下は・・・ん?なんだこれ」
ダンコの言っていた一番下・・・そこには何かが書いてあったようなスペースがあったが空欄になっていた
名前も・・・必要なマナも・・・
「これは?」
《恐らくだけど・・・魔王・・・》
「魔王・・・魔王!?」
《恐らく、ね。私には下された使命がある・・・恐らく他のダンジョンコアも同じ・・・『ダンジョンの生成』と『リストの一番下を創造』する事》
「使命・・・」
《直接言われた訳でもないから何ともいないけどね。まっ、本能ってところかしら?でも私がすべき事であるのは間違いないわ。でも一番下は何も書かれていないから予想でしかないけどドラゴンより上位の魔物と言えば魔王かな、と》
「や、やばいでしょ!魔王なんておとぎ話でしか聞いた事ないけど創造しちゃったら人類が滅ぼされ・・・」
《ダンジョンの外に出なければ魔王もただの魔物・・・そんなに怯える必要ないと思うけど・・・》
「でも・・・うーん・・・そうなのかな?」
確かに僕達が創造したら魔物の王とは言え僕達には逆らえないはず・・・上手く操れば・・・いやでも・・・
《ダンジョンブレイクを懸念してるなら大丈夫よ。そうそう起こらないしそもそも私達がしっかり管理してれば起きようがないから。でもなんで空欄なのか気になるわね・・・資格か何かあるのかしら?》
「必要マナが足りないからとか?」
《それなら他の魔物も空欄になっているはずよ。上級なんて殆ど足りないもの》
「だよな・・・となるとなんでだろ?うーん・・・!?てかダンコも魔王を創造する気!?」
《ええ》
「ええ、って・・・」
《多分私達が創造しなくても他のダンジョンコアが創造するわよ?そうなると私達じゃ管理出来ないし最悪そのダンジョンでダンジョンブレイクが起きたら・・・》
「それはまずい・・・魔王がダンジョンから出て来るって事だろ?それこそ人類が・・・」
《そういう事よ。だから私達が魔王を創造した方がいい・・・人任せじゃなくて自分で管理出来た方が安心でしょ?》
「僕が・・・魔王を・・・管理・・・」
ダンコの言う通り他のダンジョンで魔王が創造されたらどうなるか分からない・・・それならいっそのこと・・・
《でも必要なマナを溜めるまでは途方もない時間がかかるだろうからそれまでにどうするか決めてくれたらいいわ。もしかしたら他のダンジョンで創造されちゃうかもしれないし》
「・・・それもそうだね・・・って、もしかしてもう既に、って事は・・・」
《ない、と思うわ。何となく分かるの・・・まだ誰も創造していない事が。そしてもし・・・どこかのダンジョンで魔王が創造されたら・・・》
「されたら?」
《この空欄に名前が出るはず・・・多分》
多分と言いながら確信めいた感じて言ってるように聞こえるけど・・・何にせよすぐに答えを出さないでいいなら後回しにしよう。上級の魔物を創造出来るくらいの頃にまた考えるとするか
魔王の事は後回しにして今考えるべき事を考える
ペギーちゃん・・・じゃなくて門番・・・兵士を辞めるかどうか・・・
何の為に仕事をしているかと聞かれれば、当然お金の為と答えるだろう・・・お金に困る事がなくなった今、仕事を続ける意味は・・・
夜通し魔物の創造と配置を行いゲートを使って自分の部屋へ
兵舎は既に慌ただしく、その中で僕はドカート隊長の元へ向かった
「隊長・・・その・・・」
「おお、ロウニール・・・すまんが今は忙しい!後にしてくれ!」
「いや、あの・・・」
「まだ夜回り組は帰らんのか!ええい、とりあえず引き継ぎ前に一番厄介なダンジョン周りだけでも何も無いか見て来い!帰ったらアイツらは説教だ!・・・ん?まだ居たのか?お前も早く行け!ヘクト爺さんが待っておるぞ!」
「・・・はい・・・」
兵士を辞める事・・・言えなかった・・・
辞めると伝えずに門番の仕事を行かない訳にはいかないので仕方なく仕事場までとぼとぼと歩いて行く。ダンコから《ヘタレ》やら《意気地無し》と罵られるが無視だ無視・・・別にそんなに焦って辞めなくても良いじゃないか・・・
村の入口に着くと既にヘクトさんが許可証のチェックをしていた。僕はヘクトさんへの挨拶もそこそこに慌てて手伝い始める
ダンジョンが出来てからというもの村を訪れる人は後を絶たない。特に何故か朝は訪問ラッシュだ。朝に合わせて旅立ってるのだろうか・・・この人達は
ようやく訪問ラッシュが落ち着いて僕とヘクトさんはいつもの定位置・・・村にはそぐわない大きな門の両端に並び立つ
突貫工事とは思えない程の高い外壁と立派な門・・・中もこの外壁や門に合うようになっていくのかな・・・今は空き地ばっかりでスカスカだけど・・・
「ロウ坊・・・先に休憩してよいぞ」
「いえ、僕は遅れたのでヘクトさんが先に・・・あの・・・ヘクトさんはなんで僕を『ロウ坊』って・・・」
僕はヘクトさんを知っていたし、ヘクトさんも村の全員を知ってるのは聞いたけど・・・僕とヘクトさんはそれほど親しい訳じゃない。と言うかこれまでまともに話した事なんてなかった
「いやか?」
「いえ・・・いやと言うか・・・」
「・・・ちょうど同じ日だった・・・」
「同じ日?何と何がです?」
「ロウ坊と・・・村の始まりの日じゃ」
「村の・・・始まりの日?」
「そう・・・あの日は特に盛り上がった・・・」
ヘクトさんは遠い目をして当時の事を語ってくれた
村の始まりの日とはただの集落だったこの地が国に認められ村となった日。それを記念してこの村ではその日に祭りを行う風習があった
いつやるかは僕も知ってる・・・僕の誕生日と同じ日だったから
祭りを行う日は知ってたけど、祭りにどんな意味があるかは今日初めて知った・・・そうか・・・祭りにはそんな意味が・・・
「ロウ坊の誕生は村の者全てが祝福したものじゃ・・・村の始まりの日と同じ日に生まれた子は今の今までロウ坊ただ1人じゃからのう・・・。明るい話題に乏しい村で最も明るい話題だったんじゃぞ?当時はな」
どんだけ話題がないんだこの村は
「ワシにとってはロウ坊は孫みたいなもんじゃ。だからついつい・・・もう15になったのに『坊』はないのう・・・すまんかった」
僕の祖父母は僕が産まれる前に亡くなってしまったらしい。理由は話してくれなかったけど多分病気か何かだろう。だから孫と言われると少しくすぐったい気持ちになる
爺ちゃんか・・・
「別に嫌じゃないです・・・ただヘクトさんがロウ坊と呼ぶなら僕は・・・ヘクト爺さんって呼びます」
ドカート隊長がヘクトさんの事を『ヘクト爺さん』と呼んでいるのを聞いて少し羨ましかった。なんか距離が近いような気がして
ヘクトさん・・・いや、ヘクト爺さんは僕の言葉を聞いてキョトンとした後で優しく微笑んだ
「ふっ・・・ワシの孫ならもう少ししっかりせい。背中が丸まっとるぞ?」
「うっ・・・この体勢が楽なんだよ・・・」
「門番は村の顔じゃ・・・ほれ、しっかり背筋を伸ばさんか」
「うへぇ・・・こんな爺さんなら要らない・・・」
「なんじゃと?ほれ!門に背中をつけて──────」
「ロウニール!朝、何か話があると言ってなかったか?」
兵舎に帰るとドカート隊長が近付いて来て僕に話しかける
僕は少し間を置いてこう答えた
「いえ・・・なんでもありません」
少し・・・もう少し門番の仕事をやってみようと思う
辛いだろうけど・・・何となく続けたくなった
《・・・どうなっても知らないわよ?》
呆れ声でダンコが言うけど僕はそれを無視して自室に向かうとすぐにゲートを開きダンジョンへ
さあ、夜のお仕事だ




