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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
156/856

153階 さらばダンジョンナイト

「ふぅ・・・」


最近何かと忙しない


聖女様と貴族であるゴーン様の来訪により衛兵達は常にピリピリしているし、聖女様の発言により冒険者がどこからともなく湧いてきててんやわんや・・・センジュはしつこく付きまとってくるし気分転換も出来たもんじゃない


久しぶりにロウニールとの手合わせはいい気分転換に・・・むう、これではロウニールをストレス発散の為に使ったみたいだな・・・今度何か奢ってやらないといけないな


それにしてもロウニールの奴・・・手合わせの時は成長していないと本人に言ったが・・・かなりマナの流れがスムーズになっていた


帰って来て、久しぶりに会った時は・・・一瞬彼と見間違う程に・・・


いや、まあ彼とは比べ物にはならないが、それでも成長は誰よりも早い気がする


弟子にしてからそんなに時間は経っていないがいずれ私を超えてもしかしたら・・・いやいや、それはないな


「何かお困り事か?ため息なんかついて」


問題が起きた時の為にギルドの1階のテーブルにつき物思いに耽っていると不意に話し掛けられる


本人は気付いてないのだろうか・・・その困り事のひとつという事に


「何でもないからどこかに行け・・・センジュ」


「つれないなぁ・・・それに組合員としてひと仕事して来た優秀な部下にお褒めの言葉のひとつもないのかよ」


うっ・・・確かにセンジュの働きだけには感謝している


この忙しい時にもダンジョンは止まらない・・・冒険者にとってダンジョン攻略は命懸けだから忙しいからと言ってそっちのけには出来ない


新たな階層に挑む時・・・組合員は不安を感じたら組合に助っ人を頼む事が多々ある。今までは私が同行していたが最近はセンジュが代わりに行ってくれてるのだ


「あー、助かった・・・ジェファーに言って報酬を受け取ってくれ」


「俺は・・・報酬なんかよりサラとのひとときが欲しいんだけどな」


「あと数千回手伝ってくれたら考えなくもない」


「数千かよ!・・・なぁ、少しくらいいいだろ?奢るからさ、飯でも・・・」


「断る」


「ぐっ・・・少しくらい悩むフリをしろよな・・・」


「分かった・・・・・・・・・断る」


「このっ・・・ハア・・・どうしたら俺のものになってくれるんだ?」


「勝手に座るな。そんな事は一生ありえん」


空いてる椅子を引いて当然のごとく座って私を覗き込む。そしてギルドにいる冒険者達に聞こえるような大きな声で私を誘う・・・これがコイツのやり方・・・『Aランク冒険者の俺が狙ってるのだから他の奴は手出しするなよ』と暗に伝えているのだ


そのせいで私に話し掛ける冒険者の数は日に日に減っていった


前は気軽に話し掛けてきた冒険者も今ではコイツにばかり話し掛けている


「どったの?サラ・・・俺の顔に何かついてるか?」


「ローグみたいに仮面をつけたら?そしたらその顔を見ても少しは不快にならずに済みそう」


「仮面をつけても少しかよ!てか不快なのかよ!」


「不快じゃないとでも思ってたのか?頼むから消えてくれ・・・そうでなくても最近色々あって疲れているんだ」


「では出直そうか?」


「ああ、そうして・・・っ!?ローグ!?」


「出たな仮面野郎・・・」


いつの間にかギルドにローグが・・・てか睨むなセンジュ!仮面野郎って言うな!


「出直すなんてそんな・・・そ、そうだ!ここではなんだし私の部屋で・・・」


「はあ?じゃあ俺も!」


「・・・センジュ?ちょっと来て」


私とローグの邪魔をしようとするセンジュを手招きすると顔を近付けありったけの殺意を込めて呟く


「邪魔したら殺す」


どうにか願いが通じたようでセンジュはコクコクと頷くと項垂れながらこの場を立ち去った


「さあ行こう」


ああ、ここ最近の疲れなど一気にどこかへ行ってしまった


これから久しぶりにローグと2人っきり・・・何の用か分からないけどもしかしたら・・・もしかしたらそういう関係に?あれ下着は可愛いのだったかな?汗の匂いとか大丈夫よね?ちょっと・・・いや、かなり緊張してきた──────




「・・・え?今なんて・・・」


「そろそろ組合長との兼任が難しくなってきた・・・と言っても今までもほとんど何もしてないがな。とにかく組合長の座を辞したい」


そんな・・・


「わ、私が全てやるから・・・最初からその約束でローグにはお願いしてたんだし・・・」


「これから街を離れる事も多くなる。いざって時に何も出来ない組合長ではこれから厳しくなるだろう・・・少し前の冒険者が増えた時の話を聞く限りでは大変だったのだろう?」


「それは・・・」


確かに大変だった


ローグの事を知らない冒険者にとって冒険者でもないローグが組合長って事に不信感を持つ者もいたし組合長であるローグが直接頼んだら入ってやるって言う冒険者もいた


そういう輩はこちらから願い下げなのだが、もしローグがいてくれたら・・・なんて考えたのも事実だ


組合に入る入らないは自由・・・けど、入ってくれればこちらも助ける事が出来るし、助けてももらえる・・・そういう関係が昔はいやで私は組合に属さなかったけど・・・今なら分かる・・・組合が如何に冒険者にとって必要なのかが


けど・・・


「ローグが組合長をしてくれるって言ったから引き受けたの・・・もしローグが辞めるなら私も・・・」


「今はその時と違うだろ?」


「・・・」


そうだ・・・あの時は組合なんてどうでも良かった・・・ただローグの傍にいられれば・・・そう思っていた


でも今は違う・・・ケン達やジケット達のように私を慕ってくれる後輩冒険者や私が組合に誘ったジェファー・・・他にも大勢私を頼ってくれてる


もし私も抜けたら?副長のエリンにも迷惑かけるしジェファーも辞めてしまうかも・・・そもそも次の組合長は誰がやるの?


「・・・以前とは状況が違う。そしてこれからも変わるだろう・・・エモーンズが発展しダンジョンが深くなればなるほど冒険者は増えていくはず。その時に不在がちな組合長では務まらないだろ?だからこの辺が潮時だと思ってな」


ローグが言っていることは正しい


それでも私は・・・


「みんなを頼む・・・サラなら私以上に出来るはずだ」


ずるいよ・・・そんな風に言われたら・・・断れないよ・・・


「すぐにとは言わな・・・」


「大丈夫・・・どれだけ補佐としてやって来たと思ってるの?今日からでもやれるわ」


忙しい中いつも本当に危ない時には助けてくれたローグ・・・私はその存在があったからこそ補佐としてやって来れた


本当はローグに負担をかけたらいけないのに・・・私の詰めが甘いせいで・・・


多分どこかでローグに甘えていたのだろう・・・いざとなったら助けてくれる、と


だからいつの間にかそれがローグの負担となり・・・


でもひとつだけ確認しておかないと


「ローグ・・・街を離れる事が多くなるって言ってたけど・・・ローグの帰って来る場所はここよね?」


「・・・」


沈黙・・・まさかこのままどこかに行ってしまう?そんな・・・それなら私は・・・


「・・・どうだろうな・・・帰る場所と言いたいが、帰って来れるかは・・・」


「ローグ!なら私も・・・」


「サラ」


私の名を呼び見つめるローグ


仮面の奥の瞳が語る・・・その意味に気付き言葉を続けることが出来なくなってしまった


さっき言ったじゃないか・・・この街に来た時と今では状況が違う。私がもしローグに『私も連れて行って』と言い、ローグが承諾してくれたら・・・組合に入ってくれた人達はどうなる?


誰かに組合を押し付けて自分だけ・・・そんな事が出来る状況では・・・もう、ない・・・


「・・・ごめん・・・」


「いや・・・すまない・・・前もって伝えておければ良かったのだが・・・」


「ううん、ローグにも事情があるのは分かってる・・・それに無理を言って組合長をやってくれって頼んだのは私だし・・・」


本当は引き止めたい・・・けど私は・・・こんな時でも理解のある女を演じてローグにいい格好したいと思ってる・・・本音を言えずに格好つけてる・・・バカだな私は・・・



その後、二三言葉を交わしたけど内容は覚えていない


ついさっきの事なのに頭が真っ白になって・・・


ローグが部屋を出て行こうと背中を向けた時、咄嗟に出た手を何とか引っ込めた・・・そのまま手を伸ばしてローグの服を掴み『行かないで』と叫びたかったのに・・・脳裏に浮かんだのは組合員の笑顔・・・私はローグよりみんなを取った・・・そういう事か・・・


「もっと前なら・・・結果は違ってた・・・かな・・・」


ベッドに沈み1人呟く


フリップやケン達との関係が積み重なりローグへの想いを越えてしまった?



・・・違う・・・そうじゃない・・・私はこの場所でこの環境でローグと・・・共に居たかったんだ


どっちが上とかどっちの方がではなく・・・今のままで・・・


「上手くいかないな・・・これなら用無しと捨てられた方が・・・マシじゃないか・・・」


ローグは決して組合を見捨てた訳ではない


私なら託せると思ってくれたのだろう・・・つまり私が昔のように頼りなかったら・・・ローグはずっと傍にいてくれたはず


なのに・・・


「私・・・何の為に強くなりたかったんだっけ・・・」


あれだけ強くなりたいと思っていたはずなのに・・・今は胸にポッカリと穴が空き、そこから強くなりたいと願った気持ちが抜け落ちる



私は・・・ローグが去ると共に生きる目的を見失ってしまった──────




《アナタねえ・・・人の話聞いてた?》


サラさんの部屋を出た瞬間にダンコが呆れ声で呟く


「これには色々と・・・」


廊下を歩きながらダンコに説明しようとした時、1階に降りる階段近くに気配を感じ口を噤む


見るとそこには壁に寄りかかり僕を睨むセンジュが立っていた


「・・・もう少し遅かったら突入するとこだったぜ」


ロウニールとして会った時と違う・・・明らかに敵意剥き出しの雰囲気に少し呑まれそうになりながらも必死に耐える


「・・・あとは任せた」


「あ?任せた?」


「言葉の通りだ」


「は?」


すぐに分かるさ・・・何せ今日を最後に・・・ダンジョンナイトは消えるのだから──────

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