152階 恋愛マスターダンコ
「ん?付き合う気は全くないぞ?」
あ・・・れ?
僕はてっきり・・・
今は久しぶりにサラさんと手合わせ中・・・弟子の成長をしっかり噛み締めるようにサラさんは僕を笑顔で殴り続けた
「ぐふっ・・・で、でも・・・」
ローグとして通信をした時、サラさんはどこかよそよそしかった・・・あれは恋愛経験がない僕にも分かる・・・多分ローグに勘づかれないようにしてたはず・・・後ろめたいという気持ちがあるから
後ろめたいって事は僕はこう考えた
ローグの他に気になる相手が出来た
それがセンジュだと思ったのに・・・
「どうした?そんなくだらない話をする余裕があるのか?」
「だっ・・・ちょっ・・・激し過ぎ・・・」
ニコニコ笑顔で殴るサラさん・・・もしかしたらストレスが溜まってるのか?いつも容赦ないけど今日は特に・・・
「ロウ・・・もしかして弱くなったか?ダンジョンに行くと言って実は遊んでたんじゃないのか?どっかの誰かさんと」
「違っ・・・なら見せますよ!成長した僕の力を!」
一旦離れて回り込む
そして渾身の蹴りをサラさんに・・・
「やっぱり・・・成長してない」
上段蹴りを放つ際に隙だらけになった腹にサラさんの肘がめり込む
「がっ!・・・そん・・・な・・・」
胃の中のものが全て出そうになるがそんな暇さえ与えられず続け様に拳の嵐・・・何とかそれまで耐えて来たけど、とうとう僕は最後の一発で意識を失ってしまった──────
「うっ・・・あ・・・」
「起きたか?ロウ」
目を開けたらサラさんが逆さまに・・・じゃなくてサラさんの膝の上で気を失ってたのか・・・って、ええ!?
「なっ痛っ!・・・急に起きる奴があるか!」
「~~~・・・イテテ・・・」
びっくりして起き上がったら額と額がぶつかってしまった
「・・・まさか膝枕のお礼が頭突きとはな・・・」
「そのっ・・・驚いちゃって・・・すみません・・・でもなんで膝枕なんか・・・」
「気絶した弟子をそのまま寝かせておく訳にもいかないだろ?かといって枕になるような物もないし・・・なんだ?嬉しかったか?」
「いや・・・その・・・すぐに起き上がったので感触は・・・」
「そうか・・・まあ、今度は起きてる時に彼女にしてもらえ」
「そうします・・・・・・彼女?」
「うむ・・・まさかロウに彼女が出来るとはな・・・しかも相手は聖女様・・・」
「ちょ、師匠?セシーヌ様は彼女なんかじゃないですって!」
サラさんも知って・・・ってそりゃそうか
これは本格的にヤバいぞ・・・ペギーちゃんにも誤解を解いてないのに・・・このままにしておくと既成事実となりゆくゆくは・・・
『君か・・・私の可愛い娘をかどかわしたのは・・・』
『ち、違います!セシーヌから・・・』
『問答無用!食らえ聖者ビーム!!』
・・・なんて事になりかねない!
「・・・本当に?」
「え、ええ!そりゃあもう・・・多分セシーヌ様も一時の気の迷いと言うか・・・ほら、聖女様やってるとなかなか出会いがなくて、たまたま出掛けた時に僕を見て・・・珍しいからとかそんな感じで・・・」
ハア・・・僕は何言ってんだろう・・・
「うん?どうした?」
「いえ・・・相手が好意を示してくれてるのに他の誰かに対してその好意を否定するって・・・なんかちょっと違うような気がして・・・」
相手に僕の気持ちを伝えていないのに否定しているのはある意味卑怯だ。セシーヌに失礼だ。やっぱり言わないと・・・僕には好きな人がいるって・・・
「そうだな・・・そうかもな・・・」
「僕・・・はっきり言ってきます・・・それでセシーヌ様に嫌われてしまっても・・・このまま何も返事しないでただ引き延ばすよりは・・・」
「・・・なあロウニール・・・」
「はい」
「明らかに好意的な行動をしているのに相手から返事も何もないのは・・・拒絶を意味するのか?」
「え?」
あっ・・・そうか・・・僕とセシーヌの関係を自身のローグとサラさんの関係と重ねて・・・
「・・・人によって・・・違うと思います・・・」
「・・・そうだよな・・・変な事を聞いてすまない・・・私はそろそろ戻るからロウも適当に戻るんだぞ?あとそろそろ仕事をしないとヘクトさんが寂しがってたぞ?」
「は、はい!明日から・・・復帰します!」
僕の返事を聞いてサラさんは微笑むと訓練所を後にする
残された僕は・・・・・・ひたすら自己嫌悪に陥っていた
「なんで・・・なんで僕はあんな事を・・・」
サラさんはセンジュとくっつくべきだと思っていたはずなのに・・・なのに僕は・・・
《キープ?》
「違う!そんなんじゃ・・・」
《保険?》
「だから違うって!」
《何が違うの?別に悪い事じゃないでしょ?誰しも自分が1番・・・アナタはペギーに行為を抱いているけどペギーはどうか分からない・・・振られる可能性は十分にあるわ。だったら振られた時の事を考えて自分に好意を寄せる人間をキープするのは当然の行動・・・わざわざ振って自分を追い込む必要なんてないしね》
「で、でも・・・」
《ハア・・・逆の立場になってみなさいよ》
「逆の立場?」
《アナタはペギーに好意を寄せている。ペギーは・・・そうね、アナタの事をちょっと気になる同期・・・そう思っていると仮定するわね》
「気になる同期・・・なんかいい響き・・・」
《でもペギーには本命がいる・・・例えばダン》
うっ・・・その例えはちょっと・・・
《さて、ペギーは果たしてダンと付き合えるでしょうか・・・それは誰にも分からない》
「うんうん・・・で?」
《まだ結果が出てない段階でペギーがアナタに話があると言ってきました》
「えっ?・・・う、うん」
《『気持ちは嬉しいけど・・・私にはダンがいるから・・・』》
グハッ
《振られたアナタは意気消沈・・・諦めきれずそのまま独り身で過ごすか適当な誰かとくっつくか・・・まあそれはこの際どうでもいいわ》
どうでもよかないだろ!
《問題はペギーがダンに振られた時よ》
「・・・え?」
《アナタを振った後にペギーはダンに告白・・・でもダンには既に意中の人がいて振られてしまう・・・憐れ振られしペギーは何処の馬の骨とも知らぬ男と結婚し星の数ほど子供を作るのであった・・・》
「なんでだよ!」
《なんで?だってそうでしょ?気になる同期のアナタはもう既に振ってしまった。意中の人に振られたからって『やっぱり付き合おう』なんて言える訳ないでしょ?》
だからって何処の馬の骨とも知らない男に・・・しかも星の数ほど子供を作ることはないだろ・・・いや、それは完全にダンコの妄想か
ダンコの言葉は一理ある
きっと振った負い目からやっぱり付き合おうなんて言えないだろう・・・つまりそれは・・・ちょっと気になる同期と付き合う可能性を自ら閉ざしてしまったって事に・・・
逆の立場・・・僕がセシーヌに好きな人がいると告げてからペギーちゃんに告白して・・・振られたら僕はセシーヌと・・・ダンコの言う通り付き合う事はないだろう。あまりにも失礼過ぎる
でもそうなると僕を好きでいてくれたセシーヌは他の人と・・・もしくは誰とも付き合わずに一生を?・・・いや、セシーヌクラスなら他にも沢山・・・でもそれって幸せなのか?
僕だったら好きな人と結ばれたいと思う・・・それが例えその人が他の人を好きでその人に振られたとしても変わらない・・・って事はつまり・・・
《分かる?アナタが振ろうとしているのは良心の呵責に耐え切れず楽になりたいだけ・・・それによって相手の幸せを奪う事になってもね》
「相手の・・・幸せ・・・」
そうなのか?だとしたらこのままで・・・・・・・・・いや、違う!
「確かにセシーヌにとってはそうかもしれないけど・・・ペギーちゃんはどう思う?他の女性に言い寄られていてそのままにしている男を見て・・・」
そうだよ・・・もしセシーヌをキープしているみたいに思われたらペギーちゃんは多分僕に愛想を尽かすはず・・・本当に今の状態がちょっと気になる同期だったとしたら、それが原因でただの同期に格下げする可能性も・・・
《分かってない!何が『他の女性に言い寄られていてそのままにしている男を見て』よ!更に気になるに決まってるじゃない!いい?誰にも見向きもされない男よりも誰かに好かれている男の方が気になるものなの!繁盛している店と繁盛してない店・・・どっちの料理が美味しいか聞かれたらどうする?実際に繁盛していない店の方が美味しいと感じたとしても不安になるでしょ?『僕の舌がおかしいかも・・・だって繁盛してないし』ってなるでしょ?それと同じよ!言い寄られない男に価値はない!》
そうなのか・・・そうなのか?
《いい?ロウ・・・アナタが純粋だから言わなかったけど本当なら相手は何人でもいいの・・・ペギー、サラ、セシーヌ・・・何人でも・・・好かれたら受け入れ、好いたら攻め続け・・・》
「それはいやだ!」
《どうして?》
「だって・・・僕がいいなら相手もいいってことでしょ?どうせなら相手には・・・僕だけを見ていて欲しい・・・」
《・・・アナタ存外重いわね》
「重い言うな・・・そんなに重い?」
《激重よ》
そっか・・・重いのか・・・・・・いや、普通だろ!
《まっ、ロウがそれを望むなら別にいいけど・・・これだけは言っておくわ・・・アナタが思っている以上に女は強かよ?振り回されないよう気を付けてね》
「・・・なんか経験豊富っぽいこと言ってるけど・・・ダンコってダンジョンコアだよね?」
《さあ・・・どうかしら》
いや、ダンジョンコアだろ
最初は小さい石ころだったのにどうやって女心を学んだんだ?
僕と同じものを見てきたはずなのにどうして経験豊富になれるんだ??
うーん・・・謎だ
結局僕は何の結論も出せなかった
何か行動を起こしてしまうと途端に全ての関係が壊れてしまいそうで・・・怖かった
でも一つだけ行動を起こさないといけない事がある
それは──────




