151階 VSセンジュ
突然の僕の変わり様に初めは冗談だと思っていたらしく笑っていたセンジュも徐々に僕が本気である事に気付き立ち上がる
そして運ばれて来ていた食事には一切手を付けずお金を払って外に出ると無言である場所へと歩き出した
《ちょっとロウ!アナタ正気!?》
ダンコが狼狽えるのも仕方ない・・・相手はAランク冒険者・・・しかもSランクに最も近いと噂される二つ名持ち・・・僕なんかが逆立ちしたって敵う訳が無い
それでも僕は引く訳にはいかない
仲間であり師でもあるサラさんを・・・襲おうとしているセンジュを野放しには出来ない!
センジュはそのまま歩き続け、辿り着いたのはダンジョン入口・・・僕もやるならここにするつもりだった
表に出ろと言ったはいいものの、外で暴れれば捕まってしまう
だけどダンジョンなら・・・誰にも邪魔されず捕まることもない
「あれ?センジュさんダンジョンに?」
「いや、訓練所を借りたい。急に来たから受付はしてないが・・・」
「後払いでも良いですよ・・・ん?ロウニールも?」
「ああ・・・ちょっとな」
僕はギルド職員に会釈してダンジョンの中に入ると真っ直ぐ進み訓練所へ
センジュが1番手前の部屋に入ると僕もその後に続き2人して部屋の中央へ向かった
「さて・・・どうして急に怒ったか聞いてもいいか?」
部屋の中央で向かい合うがセンジュはあまり警戒していない様子・・・まさか僕が冗談であんな事を言ったと思ってるのか?
「自分の胸に聞いてみろ・・・センジュ!」
これは訓練じゃない!
手合わせでもない!
センジュの腰には左右に剣がぶら下がっている
『なまくら』と呼ばれる由縁の斬れ味の悪い剣・・・その剣を抜かれる前に勝負をつける!
間合いを詰め蹴りを放つと余裕で躱される・・・けど、それは想定内・・・体を回転させ後ろ回し蹴りを放つとセンジュは片手で蹴りを防ぐ
「チッ!」
油断しててもこの反応・・・やはり僕より一枚も二枚も上手だ
とにかく剣を抜かせないように連続で仕掛けるしかない!
そこから止まることなく連撃を繰り返す
拳を、蹴りを、使えるもの全てを放ち攻め続けるが体勢すら崩せない・・・
「なあ・・・本当にサラの弟子か?」
「くっ!」
その言葉の意味を理解し拳に怒りを込め放った
センジュはこう言いたいんだ・・・『サラの弟子にしては弱い』と・・・
せめて身体能力強化のマントを着けられたらもっとマシな攻撃が出来るのに・・・今の僕はあくまでサラさんの弟子の武道家・・・変化や強度は使えない・・・操作と強化で何とかしないと・・・
「・・・ハア・・・しゃーねぇ・・・少し痛えぞ?」
剣を抜く・・・させない!
右手が剣の柄に伸びる
それを阻止する為に蹴りを放つ・・・が、突然左腕に衝撃が・・・
「折れてねえ・・・よな?」
いつの間にかセンジュの手には剣が握られていた
噂通り刃引きされた剣を構えるセンジュ
左腕の衝撃はその刃引きされた剣で殴られたから・・・抜かせまいと思ったのに・・・抜かれてしまった・・・
「・・・話すつもりねえなら・・・話したくなるようにしてやるよ──────」
それならは一方的だった
攻める間もなく気付いたら痛みが走りうずくまる・・・それを繰り返していると次第に意識が遠くのを感じた
「おい・・・そろそろ話してくれねえか?どうして・・・」
「・・・うるさい・・・黙れこの野郎!」
まだ動く
動いていればセンジュだって人間・・・いずれは隙が生まれるはず
止まるな動け
動いて隙に食らいつけ!──────
「もういいか?・・・ったく」
もう・・・動けない・・・全身の骨が折れたみたいに・・・激痛が走る
悔しい・・・ただの一撃も・・・なんで・・・なんで僕は・・・こんなに弱いんだ・・・
地べたに這い蹲る僕・・・それを見下ろしセンジュは僕に近付く
「おーい、生きてるか?・・・しゃーねぇヒーラーをとっ捕まえて来るか・・・」
行かせない
行かせたら・・・
「っ!・・・おいおい・・・骨までいってねえけどかなり痛いはずだぞ?なのに・・・」
部屋を立ち去ろうとするセンジュの足を掴み歩みを阻む
ここからの逆転はありえない・・・それでも僕は・・・
「・・・絶対に・・・行かせはしない!」
「いきなりなんなんだ?・・・さっきまで普通だったのに・・・」
「それはお前だろ!・・・ダンジョンの中では捕まらないのをいい事に・・・油断させて・・・突然襲いかかって・・・女性を何人も・・・」
「・・・あん?何の話だ?」
「とぼけるな!・・・聞いたんだ・・・お前が別の街で・・・」
「はあ?なんだそれ・・・もしかしてお前・・・そんな事鵜呑みにしたのか?」
「泣いて訴える女性がいたって!でも証拠がないからうやむやになったって!」
「・・・あー、アレか」
「やっぱり!」
「それ・・・ただ単にその女を振っただけだぞ?ちょっと手伝ったら俺に好意を持ったみたいで・・・まあ半分は将来有望な俺をゲットして楽して暮らそうとしたのか周りに自慢したかったのか・・・で、振られてバツが悪くなったんだろうな・・・嘘を並べて俺を街から追い出そうとしやがった。別にその街に拘ってた訳じゃねえからよ・・・それに新しく出来たダンジョンに興味もあったから街を出たって訳だ」
「・・・え?・・・」
「ちなみにな・・・これは内緒だぞ?・・・俺は童貞だ」
「・・・え?・・・」
「いやー、少しダンジョンにのめり込み過ぎちまってな・・・恋愛だのなんだの面倒で・・・そしたら同期の奴らは結婚だ出産だの・・・で、有名になればなるほど女は寄ってくるけど打算が透けて見えてな・・・ほとほと女には愛想尽かしてたんだが・・・」
「・・・」
「この街に来て・・・サラに組合の勧誘を受けた時はまた色仕掛けでもしてくるかと思ったらよ・・・全然違った。Aランク冒険者『なまくら』センジュじゃなくて、俺を・・・ただのセンジュを見てくれた・・・新鮮だったぜ・・・あの会話は・・・」
『Aランク冒険者『なまくら』センジュか?』
『・・・ああ・・・なんか用か?』
『組合に入らないか?』
『パス・・・群れるの嫌いなんだわ』
『そうか・・・邪魔したな』
『おう・・・って、それだけかよ!』
『?・・・入る気はないのだろう?高ランクは今のところ私しかいないから入ってくれれば助かるが強要するつもりはない』
『そ、そうか・・・いや、でも俺が入ると色々と助かるぞ?』
『・・・何が言いたい?入りたいなら入ればいい。じゃあ』
「って感じでよ・・・立ち去っていくその後ろ姿が今でも忘れられねえ・・・駆け引きなんかじゃない・・・本当に『どっちでもいい』って感じで・・・」
「・・・」
「俺は自由が好きでな・・・縛られるのが好きじゃねえ。だから組合なんてこれっぽっちも興味はなかったけど・・・俺に興味のねえサラに興味が湧いた・・・いや、惚れちまった・・・あの後ろ姿に・・・」
多分・・・この人の言っていることは本当なのだろう
嘘をついてる感じがしない・・・照れくさそうに笑うその顔でもし嘘をついてたら・・・それは悪魔の所業だと思う・・・
そう思ったら力が抜け、足を掴んでいた手が勝手に開く
「・・・あの・・・すみません・・・僕・・・」
謝って許されることではない・・・一方的にセンジュが悪い奴だと決めつけ襲ったんだ・・・僕は
「・・・気にすんな・・・サラを護ろうとしたんだろ?ヒーラー呼んで来るからここで大人しくしとけ」
僕の髪をグチャグチャと撫でるとセンジュはそのまま部屋の外へ行ってしまった
残された僕は身動きが取れず・・・
《アホマヌケバカ雑魚・・・》
ダンコの悪口を延々と聞く羽目になった──────
「稽古にしてはやり過ぎじゃないですか?まさかサラさんの弟子だから嫉妬して・・・」
「ち、違うって!なあ?ロウニール」
「ええ、僕が調子に乗っちゃって・・・センジュさんは悪くないです」
「そうですか?・・・ならいいですけど・・・」
センジュが連れて来たのはヒーラだった
ちょうどゲートから出て来た所に出会して連れて来たので・・・当然ながらケン達も付いて来ていた
「派手にやったッスね・・・大人げない」
「弟子の家を汚しボコボコにする・・・これをサラさんが知ったら・・・」
「鬼だ・・・アンタ鬼だよセンジュさん」
「だから違うって・・・勘弁してくれよ」
傍から見たら弱いものいじめ以外の何物でもないよな・・・ランクで言うとAランクとFランク・・・二つ名持ちと街の門番・・・うん、よく挑んだな僕
「ありがとうございます、ヒーラさん」
全身痛かったのが嘘みたいに痛みが引いた。回復の速度は僕より全然上かも・・・そりゃあそうか・・・ヒーラー一本でやってるヒーラに比べて僕は色々と手を出してるし・・・
「助けてくれ!ロウニール!コイツら全然聞いちゃくれねえ!」
「・・・センジュさんはいい人ですよ・・・僕みたいな弱い者にも真摯に向き合ってくれて・・・ボコボコにしてくれて」
「おい!その言い方だと・・・」
「うわぁ最低ッスね」
「なになにイジメ?ありえないわぁ」
「頼れる兄貴だと思ったら・・・とんだサディスティック野郎だ」
「ショックです・・・これは早速サラさんに報告を・・・」
「待て待て!サラにだけは・・・サラにだけは言わないでくれ!!」
少し・・・ほんの少しだけ意地悪したくなった
多分僕から・・・サラさんを奪っていく人だから──────




