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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
153/856

150階 センジュという男

「よお!モテ男!」


家の掃除をしているとジケット達が我が物顔で家の中に入って来た


「・・・やめてくれる?その呼び方・・・」


「おお!クールだね・・・さすが聖女様を射止めた男は違う・・・なあ?ハーニア」


「ハイハイ・・・本当は嫉妬してるんでしょ?どっかの誰かさん遠目で聖女様見て目をハートにしてたしね」


「うむ」


「まあでも分からなくもないかな。女の私から見ても惚れ惚れするくらい綺麗だし・・・ってまだ掃除終わらないの?」


「どっかの誰かさん達が僕のいない間に沢山汚してくれたからね!」


そう・・・帰ってから既に3日・・・その間僕はずっと家の掃除に追われていた


使っていいとは言ったけどまさかゴミ屋敷になってるとは・・・


「わ、悪かったよ・・・いや、戻って来るまでに片付けようとは思ってたんだけどな・・・ついつい・・・」


「ハア・・・夜な夜な居なくなってると思ったらロウニールの家で酒盛りしてるなんて・・・ごめんねロウニール・・・私達も手伝うわ」


「うむ」


「よくもまあ人の家をこれだけ汚せるもんね・・・ほら、ジケットとマグはそこに溜まったゴミ袋を捨てて来て」


恐らくほぼ毎日のようにここで飲み食いしていたのだろう・・・ゴミをまとめた袋が10を数える・・・しかも放置していたせいで臭いが家に染み付いて・・・ハア・・・


「へーい」「うむ」


ジケットとマグが両手にゴミ袋を抱えて外へ


ハーニアとエリンは持って来た掃除道具を構えると掃除を開始する


「これは大変だわ・・・染みとか取れないよ?」


「床とか張り替えるしかないかも・・・本当ろくな事しないね」


張り替えって・・・せっかくの新居が・・・うっうっ・・・


「全部あのセンジュって人のせいよね・・・もちろんジケット達も悪いけど」


「組合に入ってくれて色々みんなの面倒見てくれるから言い難いけど・・・かえって雑用が増えた気がする・・・」


センジュ・・・か


『なまくら』センジュ・・・Aランク冒険者であり次のSランクに最も近いとされる男・・・で、サラさんに惚れている男でもある


エモーンズに帰って来てすぐにサラさんを訪ねた時、ロウニールとして初めてセンジュに会ったけど気さくでいい人ぽかった


僕がサラさんの弟子と知ると馴れ馴れしく肩を回してきて『困ったことがあったら俺を頼れよ』なんて言ってきて・・・あの時言えば良かった・・・『お前の存在が困ったことだ』って


センジュは強さと持ち前の明るさであっという間に組合の中で兄貴分としての地位を確立・・・その頼れる兄貴は組合員を引き連れて飲み歩いていた


そしてみんなで飲み歩いていたある時、店もほとんど閉まっていてそれでも飲み足りないと感じた彼らは家主のいない家・・・つまり僕の家で飲み始める


墓地が近い為か他に住んでいる人も居ないから騒いでも苦情が出ない・・・その事に気付いた連中は連日連夜この家でどんちゃん騒ぎ・・・で、ゴミ屋敷の完成だ


「・・・ねえロウニール」


「ん?」


「どうやって聖女様を射止めたの?」


「射止め・・・ハーニアまで・・・」


「ちょっ、ジケットと一緒にしないでよ!からかってる訳じゃなくて純粋に気になるのよ・・・ほらだって・・・あの聖女様よ?」


「それは気になるかも・・・ロウニールがってことじゃなくて、あの聖女様がって感じで。近隣の冒険者が押し寄せるほどの方よ?その方を同期の人がって・・・興味無いっていう方がおかしい」


「・・・あの・・・初めに言っとくけど僕とセシーヌ様は付き合ってないからね?」


「嘘でしょ!?」「本気で言ってるの?」


「本当だし本気だよ・・・だから射止めたって訳じゃ・・・」


「うわぁ何それ・・・引くわぁ・・・」


「相手が一方的に惚れてるだけで自分は興味ない、と・・・ちょっとね・・・あれだよね・・・」


え?何これ・・・今僕・・・責められてる?


「いやだって・・・まだ会って間もないし・・・」


「はあ?あれだけのことを言われてて『会って間もないし』ですって?死にたいの?」


いや、死にたくないです


「ハーニア・・・これはあれよ・・・『僕って絶世の美女に言い寄られてるけど気にしてないさ』アピールよ」


誰向けのアピールだよ!


「そんなんじゃ・・・」


「それとも・・・他に誰か好きな人がいるわけ?」


ん?なんだ?・・・2人の顔が何故かしたり顔・・・まさか・・・この流れに持っていく為にわざと!?


「そうよね・・・あの超絶美少女を振るくらいだもん、他に好きな子がいない限りないわよね」


「分かるぅ。きっとロウニールには心に決めた人が既にいるのよ・・・ねぇそうでしょ?」


恐るべし女子!まさかこんな策が張り巡らされているとは・・・


「いや・・・その・・・」


「もしかしてぇ・・・私達が知ってる子?」


「そうかも・・・だから言い難いのかも」


これはまさか・・・気付いてる?気付いててあえて僕の口から言わせようとしてる?


掃除する手を止めてニヤニヤと僕を見つめる2人・・・逃げ場はない・・・どうしよう・・・言ってしまうか?しかし言ってしまったら何かが終わるような・・・いや、もしかしたら始まるのかも・・・2人のいじりが


もしこの場で僕が『ペギーちゃん』と名前を出せば2人からのいじりは凄まじいものになるだろう・・・出来ればこのまましばらく皆で仲良く過ごしたい・・・変な空気にならずに仲良く・・・


どうする・・・『セシーヌは好みじゃない』と言うか・・・だがセシーヌほどの美少女を好みじゃないって言う男がいるか?・・・いやいない・・・となるとそれは却下だ


あとは・・・2人の知らない架空の人が好き・・・そんな設定はどうだろうか?・・・・・・それはかなりマズイ・・・もし2人がそれを信じてペギーちゃんに言ってしまったら元も子もない


・・・あれ?他にかわし方が思い付かない・・・もうこれは正直に言うしか道は無いのか・・・


「どうしたの?それか私が当ててあげようか?」


「まだ早いよハーニア・・・自分の口で言ってくれるよね?ロウニール・・・」


やはり確信犯・・・知っててこの2人は・・・


「い、言うよ・・・言えばいいんだろ?・・・僕は・・・」


もう言うしかない


ええい!後は野となれ山となれ!


「僕は!・・・」


「掃除捗ってる?お昼休憩で抜け出して来たよ!・・・あれ?掃除しないで何してるの?」


「・・・」「・・・」「・・・」


突然のペギーちゃんの来訪で何とか助かった・・・のか?


「・・・どうしたの?」


「い、いや・・・別に・・・」


「ふーん・・・ねぇねぇお昼持ってきたけど食べない?みんなの分も持って来たし・・・3人分」


「3人分?みんなって・・・」


「決まってるでしょ?ハーニアとエリン・・・それに私の分よ」


「・・・」


「ジケットとマグは家を汚したバツでお昼抜き!」


「・・・僕は?」


「・・・ロウニール君は・・・聖女様に作ってもらえば?」


グハッ・・・その軽蔑の眼差しと言葉がトゲとなり胸に突き刺さる


セシーヌが言った言葉は街中の噂になっている・・・当然ペギーちゃんの耳にも・・・セシーヌ・・・なんて事をしてくれたんだ・・・


あちゃーと手で顔を覆うハーニアとエリン・・・多分僕が誰の名前を言おうとしていたのか分かってた様子・・・きっと僕が言った後で根掘り葉掘り聞こうと思ってたのだろう


「さ、2人とも食べて食べて・・・ロウニール君・・・掃除は後でしてくれる?ホコリが立つから」


「・・・はい・・・」


ペギーちゃんの冷たい視線と2人からの憐れみの視線を浴びながら僕はフラフラと外へ向かった


そしてドアを開けたら・・・外ではなく誰かの鍛え抜かれた腹が目の前にあった


「?・・・あっ」


「おう!ロウニール!飯に行くぞ!」


「え?・・・センジュ・・・さん?──────」




僕は今・・・断る間もなく連れて行かれ、気付いたら近くの店にセンジュと共にいる・・・


「好きな物どんどん頼め!俺が奢ってやる!」


「は、はあ・・・」


どういうつもりだ?いきなり押し掛けてきて


前に1度挨拶した程度の仲・・・それなのに・・・



適当に頼むとセンジュは同じものを頼んだ


初対面に近い状態なので会話は弾む訳もなく、居心地の悪さから僕は出された水をひたすら飲むしかなかった


すると・・・


「わ、悪ぃな・・・その・・・あの家がロウニールの家って知らなくてよ・・・」


ああ、そういう事か


家主の居ない家という認識だけで使ってて僕の家とは知らなかった・・・かなり汚してしまったって自覚があったのか誰かに僕の家だったと聞いて謝りがてら食事に誘った・・・そんなところみたいだな


「い、いえ・・・大丈夫・・・です」


本当は文句のひとつも言いたいところだけど相手はAランク冒険者・・・下手に怒らせたらと考えると強くは出れない


「そっか!許してくれるか!」


「え、ええ」


「で、だ!・・・話は変わるけど・・・ロウニールはサラをどう思ってるんだ?」


いや変わり過ぎだろ!


サラさんを?何言ってんだこいつ


「師匠として尊敬してますけど・・・」


「そういうんじゃなくて!ほら・・・男女の・・・」


ああ・・・そっちね


サラさんをどう思ってるか・・・改めて聞かれると答えづらいな・・・さっき言ったように尊敬してるし信頼もしてる・・・それに女性としても魅力的なサラさん・・・そしてローグを・・・


「僕にとっては師匠は師匠です。それ以上ても以下でもありません」


この答えに偽りはない


けど僕にとってはそうでもローグにとっては?


信頼出来る仲間?それとも・・・


「そうか!いやぁ、あんな魅力的な女性が近くに居れば恋心のひとつも・・・いや、何でもない!忘れてくれ!」


もしかしたら僕が恋のライバルになると思って聞いてきたのか?お生憎様僕はペギーちゃ・・・


「残るはローグか・・・」


ぶっ!なぜローグの名が?


「・・・ローグさんが何か?」


「ん?ああ・・・サラがなかなか靡かねえから色々と聞いて回ったらよ、どうやらサラはそのローグって奴に惚れてる可能性があるって聞いたもんだから・・・前に居た時に問い詰めりゃ良かったぜ・・・お前はサラをどう思ってんだ?ってな」


なんと言うか・・・行動力あるなこの人


「まっ、とにかくロウニールがサラに気がないって聞けて安心したぜ!」


「・・・トイレに行ってきます」


なぜか胸の辺りがチクッと痛み、僕はその場に居続けるのが出来なくなった


特に用事はなかったけどトイレに立ち、個室の中でこの胸の痛みについて考えていると他の客が入って来たのか話し声が聞こえた


「・・・おい見たかよアレ・・・確か『なまくら』だろ?」


「ああ、Aランク冒険者だろ?しかもその中でもかなり上位の・・・それがどうした?」


「いやそれがよ・・・前にいた街である噂を聞いてな・・・」


「噂?」


「ああ・・・何でもその『なまくら』・・・各地で女を強引に・・・」


「おいおい!下手なこと言うもんじゃねえぞ!相手はAランク冒険者・・・そんな事言ってる所を聞かれたら殺されちまうぞ!?」


「大丈夫だよ。冒険者は街中じゃ大人しいもんさ・・・一緒にダンジョン入らなきゃな」


「・・・まあ、俺達がダンジョンに行く事はないし・・・でもそれならなんで捕まってないんだ?」


「言ったろ?一緒にダンジョンに入らなきゃ大人しい・・・けど、一緒にダンジョンに入ったら?」


「まさか・・・」


「そのまさかだよ・・・気に入った女とダンジョンに入り・・・後は言わずもがなだ」


「・・・でもなんで分かったんだ?そういう奴なら証拠隠滅に・・・」


「何でも命からがら逃げて来た女の証言らしいぜ?泣きながら訴えたがまあ証拠はねえから無罪放免・・・多分その街に居づらくなってこの街に流れて来たんじゃね?」


「くぁ~最低だな。冒険者じゃなくて良かったぜ・・・そんな輩と付き合う必要ないしな」


「だな」


・・・頭の中が真っ白になる


センジュがそんなことを?


サラさんに付きまとっているのは・・・その為に?


気付いたら僕はトイレを出てセンジュの待つテーブルに向かっていた


「おお、遅かったじゃねえか!料理はもう来て・・・っ!」


テーブルを叩きセンジュの言葉を遮ると睨みつける・・・そして怒りで叫びそうになるのを抑えて声を絞り出す


「表に出ろセンジュ・・・性根を叩き直してやる!──────」

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