149階 輪廻
クッソ疲れた
ゴーン様との会話・・・まあほとんどダンコの言葉をそのまま伝えていただけだけど、あの探るような目でずっと見られていると精神的にくる・・・そして『なまくら』センジュの乱入・・・アイツのお陰で尋問のようなゴーン様との会合は終わりを迎えたけどいきなり乱入して来てなんなんだアイツは
サラさん曰くアイツはAランク冒険者らしい
それなりに有名でSランク冒険者のキースも知っていたほど
僕がカルオスに向けて旅立ったすぐ後くらいにやって来て活躍しているのを耳にしたサラさんが組合に勧誘した・・・その時にセンジュはサラさんに一目惚れしたらしい
前にローグとしてサラさんと通信した時に妙によそよそしかったのはその為だ
センジュか・・・サラさんと同じAランク冒険者・・・組合に入ってからは低ランクの冒険者の面倒を見てくれているらしい・・・頼れる兄貴分といったところか・・・
《いいの?このままで》
「え?いや別に・・・そういうのは当人同士の・・・」
《・・・は?当人同士って何よ。あのゴーンという人間をそのままにしていいのか聞いてんのよ》
な、なんだそっちか・・・
司令室の椅子にもたれながらいきなり聞かれたから思わず後ろに倒れそうになり慌てて座り直す
ゴーン様・・・ダンジョン研究家か・・・
「放っておく・・・じゃマズイ?」
《下手に刺激するよりそっちの方がいっか・・・》
「どうしたの?ダンコにしては慎重だね」
《ダンジョン研究家などと名乗るからどんなものかと思っていたけど・・・侮れないわ》
「へえ・・・どの辺が?」
《考えが柔軟なのよね・・・普通の人間が信じないような事を言っても受け入れる。受け入れて自分で確かめようとする強かさがあるのよ。そういう人間に下手な嘘はつけない・・・拒絶するのではなく受け入れて確かめるからいずれバレるから》
「つまりダンコの言葉を受け入れてこれから確かめようとするってこと?」
《多分ね。バレないよう虚実を混ぜたつもりだけど・・・あまり続けるとボロが出そうな気がするわ》
「僕がダンジョンマスターであることが・・・バレる?」
《もう既にバレてるかも》
「え!?」
《調子に乗って喋り過ぎた・・・まあでも原因はロウだし・・・》
「僕が何を・・・」
《人間は未だダンジョンブレイクの原因を突き止めていない・・・それをぽっと出の人間であるロウが解明したのよ?例えるなら巨大な落とし穴があってほとんどの人が落ちたのにアナタだけ落ちなかった感じ・・・》
「うわぁ・・・それはバレバレかも・・・でもそんな感じだった?」
《ダンジョンの歴史は古い・・・かなり昔から存在し、ダンジョンブレイクもその歴史と共に起きていた。当然最初の頃は躍起になって原因を追求していたでしょうね・・・でも叶わなかった。ダンジョンを破壊するのは苦肉の策・・・何人・・・何十・・・何百・・・何千という人間が悩み抜いても解けなかった難問を解いたのよ?さっきの例えじゃ足りないくらいよ》
「でも原因を突き止めたと言ってもほら・・・半信半疑みたいなところもあるし・・・」
《バカね・・・もしそうならアナタは極悪人よ》
「へ?」
《だってアナタは半信半疑な状態でムルタナダンジョンでダンジョンブレイクが起きていないと偽り国に報告させなかった人間って事になるのよ?それってまるで・・・実験してるみたいじゃない?》
ううっ・・・言われてみれば・・・
《あのゴーンって人間の見方一つで変わってくる・・・アナタを『確証もないのに村で実験をする』極悪人と見るか『誰も知り得なかった情報を知る』謎の人物と見るか・・・》
極悪人と見られたら逮捕されそうだし、謎の人物と見られたらとことん調べられそう・・・どっちに転んでも詰みだ・・・
「ま、まあこれ以上関わらなければ大丈夫・・・だよね?」
《そうね・・・処分するにもあの人間が常に傍にいたら無理だし・・・関わらず放っておくのが1番ね》
処分って・・・ダンコさん怖いです・・・
「と、とにかくゴーン様に注意しつつダンジョン作りに励もう!大丈夫・・・何とかなる!」
《そうね・・・ところでロウはいつ帰って来る予定なの?》
「・・・あんまり帰って来たくないような・・・」
《どうして?・・・あー、照れてんの?聖女に好き好き言われて》
「違うわい!・・・何となく・・・何となくだよ・・・」
《ふーん・・・まっ、別にいいけどね。その方がダンジョン作りに専念出来るし》
「・・・1週間後・・・1週間後には帰るよ・・・」
そりゃあ僕だって帰りたいさ
ローグのままじゃ色々制限されるし
でも・・・セシーヌが居るって事は当然・・・
それに・・・いや、あれは関係ない、うん、関係ない
とにかく・・・なるべくなら会いたくない
でもセシーヌは数年居るって宣言してたし・・・無理だよな──────
忙しいと1週間なんてあっという間だった
その1週間の間に1度だけ・・・またあの奇妙な夢を見た
「うわ・・・これ全部・・・本?」
──────本──────
『うん』みたいに言うなよ
相変わらず真っ白な空間の中、顔のない少女は食い入るように開いている本を見つめていた
まあ、見てるかどうか目もないから分からないけど
「ねえ・・・この前僕に何か言おうとしてなかった?ほら・・・『アナタは何?』とか『まだ早い』とか・・・あれってどういう意味?」
──────しーっ・・・読書中──────
「はい・・・って!人の夢の中で読書するなよ!一体何の本を・・・」
真っ白な空間にズラリと並ぶ本・・・そのひとつを手に取って見てみると・・・何のことはない子供が読むような英雄譚だ
「・・・もしかしてこれ全部?勇者とか魔王とかそんな内容?」
──────そう・・・輪廻の本──────
輪廻の本?なんじゃそりゃ
「飽きない?同じような内容の本を読んでて」
──────飽きない──────
もしかして前の少女と違う人物か?顔がないからいまいち分からないな
僕は夢中になって本を読む少女の邪魔をしまいと暇潰しにいくつかの本を手に取り読んでみた
どれも変わらずの英雄譚・・・かと思えば必ずしもそうではなくハッピーエンドで終わるものもあればバッドエンドで終わるものもある。英雄譚って最後はハッピーエンドになるから面白いんじゃないのか?
その後も何冊かパラパラとめくり軽く内容を見ているとどれも似たり寄ったり・・・違うとすれば最後の結末くらいだ
だけど何冊目かの本を手に取って見たら・・・その一冊だけ他の本とは違っていた
「ねえこれ・・・最初の数ページしか書いてないけど・・・」
最後の数ページ以外は全て白紙・・・これって欠陥品じゃ・・・
──────それは今だから──────
「今?今って・・・」
──────今は今・・・今この時も綴られている──────
あー、なるほど・・・他の本は過去でこの本は現在って事か・・・うん?
「ねえ・・・まさかこれって実際にあった話が書かれている訳じゃないよね?」
──────実際にあった話──────
嘘・・・だろ・・・
もしそれが本当なら・・・この膨大な本の数だけ勇者と魔王の戦いがあったってこと?
でもなんで・・・
「決まって勇者と魔王の戦いで物語は終わってる・・・」
──────そう・・・結びだから──────
少女が両手を上にあげると僕の持っていたほとんどが白紙の本以外の本が宙に舞い円を描く
──────この輪を崩してはいけない──────
「輪?どういうこと?それに結びって・・・待って・・・待ってくれ!──────」
少女は消え僕は目を覚ました
夢・・・間違いなく夢・・・でも・・・
《起きた?さあ、今日も張り切ってダンジョン作りよ!》
「・・・ハイハイ」
最近のダンコのテンションは妙に高い
多分マナの獲得量が前に比べて倍くらいになっているからだろう
その理由は単純に冒険者が増えたから・・・聖女様々だな
この時は思いもしなかった・・・まさか僕がエモーンズに帰った事によりダンコのテンションがだだ下がりになるなんて──────
帰る日を決めてからちょうど1週間・・・それまでの間に七度・・・つまり毎日サラさんから連絡が入った
決まってその内容はゴーン様からのお誘いだ
日中はダンジョンを調査して夜は僕とダンジョン談義に花を咲かせたいらしい・・・当然の如く丁重にお断りしたけど・・・
「・・・うっし!帰るか!」
《気合い入れるのはいいんだけどローグが帰って来てどうすんの?》
「え?・・・あっ」
最近ずっとローグの姿だったから仮面とマントをつけたままだったのを忘れてた
すぐに仮面とマントを外して両頬を叩く
これ以上ボロを出せば致命的にもなりかねない・・・僕はロウニール僕はロウニール僕はロウニール・・・
「もう大丈夫!さあ帰るぞ・・・我が家に!」
ようやく帰れる・・・完成して間もない我が家に!
あまり気乗りしなかった帰郷も目前に迫れば楽しみになっていく
僕は以前と同じように近くの森にゲートで移動すると少し服を汚して長旅を経て辿り着いた感じを演出する
門番にはいつものようにヘクト爺さんと僕の代わりにドカート隊長が・・・と思ったら様子がおかしい・・・ヘクト爺さんはいるけど相方はドカート隊長じゃなく・・・あの人は確か・・・ファーネさん?
「あら坊やじゃない・・・居ないと思ったらどこかに行ってたの?」
「ちょっとカルオスまで・・・それよりもドカートた・・・さんは?僕の代わりはいつもドカートさんがやってたはずなのに・・・」
「色々あるのよ・・・色々ね」
遠い目をするファーネさん・・・色々って一体何があったのだろう・・・
「ほれ、ロウ坊!お前さんでも許可証がないと入れることは出来んぞ」
「あ、はい」
懐からギルドカードを出してヘクト爺さんに渡すとギルドカードを見たヘクト爺さんは片方の眉を上げる
「なんじゃお前さん・・・てっきりカルオスのダンジョンに行くと言ってたからランクがひとつでも上がっていると思っておったが・・・前のままか」
「まあ僕も・・・色々ありまして」
ダズーさんにお願いしてランクはFのままにしてもらった。もしかしたら今回のドラゴニュート討伐の噂がエモーンズまで届くかもしれない・・・その時に僕が活躍したと知ったら色々とややこしい事になる。何せカルオスでは魔法剣士として通ってるからだ
でもランクが上がってなければ噂が届いても『僕はただの荷物持ちだった』で誤魔化せる・・・そう思ってダズーさんに頼んだんだ
「ふむ・・・まあいい、とにかく・・・エモーンズへようこそ・・・そしておかえりロウ坊──────」
んー、久しぶりのエモーンズ!・・・でもないけど・・・とにかく帰って来た
少しばかりヘクト爺さんと話した後、僕は門を通り我が家に足を向けると・・・
「ロウニール様!!」
げっ・・・なぜセシーヌが・・・
教会に居るはずのセシーヌが門を通ったばかりの僕に向かって猛ダッシュしてくる・・・修道服ってそんなに速く走れるの!?
「ぐえっ・・・セ、セシーヌ様・・・」
もはや体当たりと言っても過言ではないセシーヌのアタックに躱す事も出来ずまともに食らう
周りから見たら熱い抱擁みたいに思えるかもしれないけど・・・かなり痛い・・・
「ああごめんなさいロウニール様!つい・・・」
「セシーヌ様!お召し物が汚れます!それに・・・」
侍女長エミリがセシーヌを窘めると周囲に視線を向け顔を覆うと項垂れる
誰も居なかったら良かったのだけど・・・街の入口付近には結構な人で溢れその人達に見られてしまっていた
「なにか?」
「なにか?ではありません。聖女たるもの・・・」
「聖女とはいえ1人の人間です。愛しい方に久しぶりに会うのに喜んで何が悪いのです?」
「なっ・・・セシーヌ様!」
いいのか?・・・そんな事言ったら・・・
・・・その日の内に噂は瞬く間に街中に広がり、増えた冒険者は元の・・・いや、元よりも少なくなってしまった
それに伴いアゲアゲだったダンコのテンションは案の定急激に下がってしまったのだった──────
「ふむ・・・今日もまたダメか・・・」
「随分と入れあげてるなジジイ・・・そんなにアイツとのお喋りが楽しかったのか?」
「楽しい・・・と言うより興味深い。どこまで知っているか想像もつかん・・・そういう君も随分と楽しそうだが?」
「ああ、楽しいね。他のダンジョンと違い各階にゲートがあるから何日も潜らないでその日に帰れるし三バカトリオもいるし・・・まあ1人は逃げやがったが・・・坊ちゃん騎士もいる・・・それにまだ2人も美味しそうな奴がいる・・・サラとセンジュ・・・もしかしたら王都にいるより楽しめるかもな」
「・・・あの男はどうだ?」
「あの男?・・・ああ、アイツか。アイツは・・・よく分からん。けど・・・」
「けど?」
「・・・どこかで会った気がする・・・どこかで・・・嗅いだことのあるニオイだ──────」




