148階 ダンジョン研究家
ギルドからセシーヌ達が去り、僕とサラさんは再びギルド長室へ
そこでギルド長から聖女にまつわる話を色々と聞いた
ギルド長曰く聖女は──────
国の毒である
「国の・・・毒か・・・」
《随分な言い草よね。普通の感覚なら誰にも治せない病を治せるのだから『薬』って言いそうなものだけど・・・》
表向きは至宝だのなんだの言っておいて本音は毒扱いか・・・なんだかセシーヌが不憫に思えてきた
ギルド長は貴族出身・・・だけど跡取りにはなれない事が分かった時点で好きなように生きようと冒険者になったらしい・・・表向きは
でも実際は嫌になったのだとか・・・政治に関わる事が
聖女の件も嫌になった原因の一つ
国はセシーヌの一族を男は聖者、女は聖女と呼び爵位こそ与えてないが伯爵と同等の身分と称号を与えた
称号とは貴族の名前みたいなもの・・・普通は苗字と名前だけだが称号が入るとセシーヌ(名前)・アン(称号)・メリア(苗字)となる
大体は名前と苗字の間に入るが王族と一部の者は苗字の後に付くらしい・・・ややこしい
で、なんでセシーヌの一族が『国の毒』と言われているかと言うと・・・
《各地に聖女の血族を配置する・・・それによりあたかも救いの手を差し伸べているように見せかけといて・・・》
「いつでも配置した人達を回収出来るようにしておく・・・もし『魔蝕』を治せる人達が突然居なくなったらその国は・・・」
《どんどん拡がっていくでしょうね・・・まるで毒が体を侵食するかのように・・・その『魔蝕』という毒が》
直接与えるような毒ではなく、治さないことにより毒と同じような効果を生み出す・・・怪我をした冒険者からヒーラーを引き離すようなもの
セシーヌの一族に爵位を与えないのは爵位を与えたら国に帰属するのと同じ・・・だから表向きは爵位を与えず各国にセシーヌの一族を配置している
でも裏ではいつでも回収出来るよう手を回している・・・『毒』をいつでも発動出来るように・・・
「セシーヌに兄弟がいるような素振りはなかった・・・自分の父親と2人で治療していると言ってたはず」
《他の国にいる血族の存在を知らない可能性が高いわね。それに子供の数も制限されているかも・・・ほら、少ない方が希少価値が生まれるでしょ?》
希少価値か・・・まるで物扱いだな
「より多くの人を治すよりも価値を・・・か。まだ想像の域を出ないけどもしそうなら国は腐ってるね」
《だからあのギルド長は貴族という地位を捨てたんじゃない?》
僕達に話さないだけでギルド長はもっと深い部分を知ってそうな雰囲気だった。多分それを話してしまうと僕達が国に反感を持つと思って話さなかった・・・そんな気がする
まあもう・・・遅いけど・・・
《・・・ロウ・・・国を相手にするのはやめときなよ?》
「いきなり何を・・・」
《どうせ『知り合いを毒扱いするなんて!』・・・とか思っているんでしょ?でもアナタじゃどうしようもないわ・・・少なくとも今のアナタじゃね》
うぐっ・・・心を読まれてる・・・
「どうせ僕一人の力なんてたかが・・・うん?今の?」
《そう・・・今のアナタはただのダンジョンマスター・・・国に対抗するには全然力が足りない。けど・・・もし魔王をも従えるダンジョンマスターとなったら?恐らくその戦力は一国に匹敵する・・・つまりそれだけ発言力が増すって事よ》
「それって発言力が増すって言うより脅しに近いような・・・」
言う事聞かないと魔王を外に出すぞ!っていうことだろ?・・・なんか人類の敵みたいな感じだ
《そう?じゃあ国の意見に従うのはなんで?》
「なんでってそりゃあ・・・・・・なんでだろ?」
《間違っていると分かっていても従わざるを得ない・・・それなのに従っているのは国の力に怯えてるからじゃない?》
国の力・・・武力か
国が定めた法を犯せば罪となる・・・そうなれば出て来るのは兵士や騎士団だ。Sランク冒険者のレオンですら追われれば身を隠す程の圧倒的な武力
「でも国は別に武力を盾に脅したりは・・・」
《そう・・・相手が勝手に怯えているだけ。だからロウも勝手に怯えさせれば良いのよ。それなら国のやってる事と同じでしょ?》
・・・いや魔王と騎士団を同列に考えちゃダメだろ
「と、とにかくそういうやり方はよくない!」
下手すりゃ・・・いや、下手しなくても人類の敵になりかねない
けど・・・やっぱり納得いかないな・・・同じ人間を使うっていうのは・・・
ギルド長の話が真実ならフリーシア国は他の国をセシーヌの一族を使って・・・
確かに聖女を怒らせたらマズイよな・・・なんてったって大事な大事な道具だもんな・・・胸糞悪い・・・
〘ローグ?今平気?〙
サラさん?さっきまで一緒だったのに何の用だろ?
「ああ」
〘その・・・ギルド長を通じて私に連絡が入ったの・・・貴方に会いたいって〙
「・・・まさかまた聖女か?」
〘いえ・・・私もよく知らないのだけど聖女様と一緒にある貴族がこの街に来ていてその貴族がローグに会いたいって言ってるらしいの〙
貴族が?僕に?
〘なんでもダンジョンの事で聞きたい事があるらしいの・・・それもムルタナ村のダンジョンの事だって・・・〙
ムルタナのダンジョン?まさかダンジョンブレイクしたのがバレた?でも貴族がなんでまた・・・
「その貴族の名は?」
〘ゴーン・へブラム・アクノス伯爵・・・巷ではダンジョン研究家と呼ばれている貴族よ──────〙
次の日、ギルド長たっての願いでダンジョン研究家と呼ばれる貴族、ゴーン・へブラム・アクノス伯爵との話し合いの場が設けられた
昨日セシーヌ達と話をした応接室に僕とサラさん・・・そしてゴーン様とその隣にSランク冒険者『大剣』キース・ヒョークが座っている
ダンコがキースはレオンと同等の力を持つって言ってたけど・・・なるほどまんまか
「へえ・・・そこそこ強いな」
キースは僕ではなくサラさんを見ていた
どうやらキースには仮面とマントの効果が通じているらしく僕の実力は測りかねているっぽい。同じSランクのレオンみたいに見抜かれていたら危なかったかも・・・何せ僕はロウニールとして彼に会っているから・・・
「フン、強さなどどうでもいい・・・君に聞きたい事がある。ムルタナのダンジョンの事だ」
「聞きたい事?それは・・・」
「回りくどいのは好きではない。だから単刀直入に聞こう・・・なぜダンジョンブレイクを隠した?」
!?・・・やっぱりバレて・・・でもどうやって?証拠は隠滅したはずだけど・・・
「おっと、誤魔化そうとしても無駄だぞ?村の東側にある魔物の足跡に魔物の一部が落ちているのを見つけた・・・あの村の近くのダンジョンでダンジョンブレイクが起きたという報せは受けていない・・・となると近々にダンジョンブレイクが起きたダンジョンがあるという事だ」
足跡まで気にしてなかったな・・・しかも魔物の一部が落ちてたってことは言い逃れは出来ないか・・・
「・・・その通りだ。あの村のダンジョンでダンジョンブレイクは起きた」
「ローグ!・・・ち、違うのです伯爵・・・その・・・」
「サラ・セームン・・・そんな事はどうでもいいのだよ。私が聞きたいのはそこではない」
老紳士であるゴーンはしどろもどろになるサラさんをひと睨みすると再び僕を見つめた
「なぜ隠した?再びダンジョンブレイクが起きて村が全滅しても良いと?」
「・・・逆に聞きたいがなぜダンジョンブレイクが再び起こると思っている?そんな事を言ったら他の街や村も同じ条件では?」
「一度ダンジョンブレイクが起きたダンジョンは再びダンジョンブレイクを起こす可能性が非常に高い・・・なので国は一度でもダンジョンブレイクを起こしたダンジョンは閉鎖し、然るべき処置をするよう定めたのだ」
「なるほど・・・再び起こる訳だ」
ダンジョンコアを破壊するというのは聞いていたけど、その前に閉鎖していたとは・・・
「ほう・・・何故だ?」
しまった・・・つい呟いてしまったがあまり変な事を言うとボロが出そうだ
相手は村長や冒険者と違ってダンジョン研究家と名乗る人・・・嘘なんて簡単に見破られそうだし隠し事をしても追求されそうだし・・・どうしよう・・・
《ロウ・・・私が答えるからアナタは私の言葉をこの人間に伝えて》
それは助かる
思わず分かったと返事をしそうになるのを慌てて止めてダンコの言葉に耳を傾けた
そして・・・
「どれだけの事例でそう結論付けたのか知らないが結局起こった後のダンジョンだけをみてその結論に至ったのだろう?そもそもそこが見当違いよ・・・だ」
「ほう?・・・見当違いか」
「ああ・・・ダンジョンブレイクが起きたダンジョンは再びダンジョンブレイクが起きやすい・・・これは間違いではない。だが問題はダンジョンブレイクが起きる前にあるの・・・だ」
「そもそもダンジョンブレイクが起きる原因・・・か。それはいくつか議論されてはいるが結論には至ってはいない。もし分かれば世界は大きく変わるだろう・・・今のところダンジョンの一番の悩みの種はダンジョンブレイクにあるからな」
「・・・結論に至っていない理由は?」
「根拠がない。いわゆる机上の空論だからだ。一つ一つを検証しようにも人も時間も足りない・・・国としては現状ダンジョンブレイクを起こらないようにするよりも起こってから対処してもなんら問題がないからな・・・それならば人も時間も他の事に充てた方がマシと考えている」
「私が今から話す内容も根拠のない話だが・・・それでも話す意味はあるのか?」
「もちろんだ。どんな突拍子のない話でも聞かねば判断出来ぬからな・・・それにその考えに至った理由は当然あるのだろう?」
「・・・ダンジョンには意志がある」
言っていいのか悩んだけどダンコには考えがあってのことだろう
そもそもディーン様にはバレてるだろうし・・・
「・・・続けたまえ」
「ダンジョンには目的がある。それは人間からマナを集めるという目的・・・その為に魔物を配置している。人間が魔物を倒す時に出るマナを吸収しているという訳だ」
「どうしてマナを?」
「・・・それは人間にどうして生きているのかと尋ねるのと同じだと思うが?」
「ふむ・・・では質問を変えよう。どのようにして君は知り得たのだ?」
「偶然だ。ダンジョンで文字を見つけた・・・ある小部屋の前に『宝箱部屋』と書かれていたが私はその小部屋の中の宝箱は空っぽで罠であることを知っていたから文句を言ったのだ・・・『嘘をつけ』とな。すると文字が変わったのだ『本当だ』と」
おいおい・・・そんな嘘を並べていいのか?自分で言っててなんだけど嘘丸出しだぞ?相手はダンジョン研究家・・・こんな嘘は・・・
「それで?」
あれ?信じてる?いや、そんなはずは・・・
「試しに確かめてみたがやはり罠だった。急いで部屋を出てまた文字に話しかけてみた『やっぱり嘘ではないか』と・・・すると文字はまた変わり『宝を入れ忘れた』とふざけた事をぬかしたのだ」
「ほう・・・続けたまえ」
「それから何度か話し掛けたがその度に文字は変わり答えてくれた。私はそのおかしな会話を続けている時に思った・・・今私が会話しているのはダンジョンそのものなのではないだろうか、と。そして聞いてみた・・・『ダンジョンの目的はなんだ』とな」
「それで『マナを集める為』と答えた・・・という訳か」
「そうだ。それから色々と聞いてやろうと思ったがいきなり返事が返って来なくなってな・・・それで私なりに考察してみた・・・その考察のひとつがダンジョンブレイクはなぜ起こるか、だ」
「ふむ・・・目的が分かればなぜイレギュラーが起きたか気付くのも容易いか・・・」
「ああ・・・ダンジョンはマナを集めている・・・その為にダンジョンは魔物を配置し人間と戦わせているのだが、ムルタナのように冒険者がダンジョンに行かなくなると目的であるマナが集められなくなってしまう」
「それで魔物が外に出て人を襲うと?理解出来んな・・・それが出来るなら初めからそうした方が効率が良いのでは?」
「いや、恐らくはダンジョンの外で人間にマナを使わせたところでダンジョンには集まらない」
「矛盾しているな。マナを求めて外に出ているのに外ではダンジョンはマナを得られない・・・では何の為に魔物は外に?」
「・・・もし魔物が単純な命令しか理解出来ないとしたら?」
「なるほど・・・そういう事か」
「・・・なあ、口を挟むつもりはなかったけどよ・・・俺にも分かるように説明してくれ」
ダンコの言葉をゴーン様は理解したみたいだけどテーブルに足を乗せて鼻をほじって聞いていたキースは理解出来なかったみたいだ。ちなみに喋ってた僕も半分理解していない・・・
「簡単な話だ。魔物は単純な命令は理解出来るがダンジョン内で人にマナを使わせないとマナは溜まらないという言葉は理解出来んのだよ」
「へえ・・・なら外に出そうな魔物を止めればいいんじゃね?単純な命令なら理解出来んだろ?マナを溜めろっていう命令よりよっぽど単純だと思うがな」
「ダンジョンで待ちきれず外に出てしまう状態だ。一種の錯乱状態なのかもしれない・・・その状態で止まれと命令しても無駄なのだろう」
「フッ・・・キース、君が戦闘中に止めろと言っても聞かないのと同じだ」
「・・・納得」
そもそもSランク冒険者の戦闘なんて誰も止められないと思いますけど・・・とその時
何やら部屋の外が騒がしくなり、いきなりドアが開いたと思ったら見慣れる男が入って来てキョロキョロしたと思ったら視線をある人に向けた
「見つけた!サラ!」
サラさんの知り合い?
その男の後ろには男を必死に止めようとしているペギーちゃんが・・・なんだこの男は・・・
「なっ・・・こんな所まで・・・」
「ほほう・・・この街にいたのか・・・『なまくら』センジュ」
「なんだ?俺の事を知ってる奴が・・・げっ・・・キース・・・」
キースも知っているこの男『なまくら』センジュとは一体・・・何者なんだ?──────




