144階 通信
なんだか緊張する・・・あの時は差し迫っていたしそれ以外考えられなかったから平気だったけど・・・Sランク冒険者でありながら犯罪者に身を落とした闇組合の組合長・・・レオン・ジャクスに連絡を取ろうとしていた
また出てくれるとは限らないし・・・ええいままよ!
レオンが持っている石と対となる石にマナを流ししばらく様子を見る
すると・・・
〘どうやら無事倒せたようだね〙
「・・・どうも。お陰で助かりました・・・」
いきなり声が聞こえてビクッとなりながらも平然を装い答える
〘それで?改心して仲間になるという通信かな?〙
「改心って・・・まるでアンタらが正しい行いをしているみたいに言うんだな」
〘みたいにではなく、しているのだよ・・・ロウニール・ハーベス〙
「人質を取ったり殺したりする事が正しい行い?」
〘仲間でなければ敵だからね・・・それなりの対応をしたまでだよ〙
「自分の組合にすら手をかけていたじゃないか!」
〘いや?私の組合員には手をかけてはいないよ?・・・ああ、『タートル』に入る前の組合員はどうなろうと知った事ではない・・・私の組合員ではないのでね〙
「・・・やっぱりお前とは・・・相容れる事は出来ない」
〘残念だな・・・まあいずれ君は選択することになる・・・私の仲間になるか敵になるかを、な〙
「いや聞いてた?僕は・・・」
〘まだその時ではない。いずれと言っただろ?その時はもしかしたら君の考えは変わっているかもしれない・・・本当ならすぐにでも仲間になってもらいたいが・・・気長に待つとしよう〙
何があっても仲間になるつもりはないんだけど・・・まさか!
「誰かを人質に取って脅す気か!」
〘有効な手段だとは思うけど・・・君にはあまり恨まれたくはないので今はその手段は選ばないとだけ言っておこう〙
「今は・・・か。もし誰かを人質にしたりしたら・・・」
〘何もしていないのに怒ることないだろう?・・・ふむ・・・ならば約束しよう・・・君にその手段は使わないと〙
「約束?あてになるもんか・・・僕の正体は共通の秘密だとか言っておいてベラベラ喋る奴の約束なんて・・・」
〘?私は誰かに話した事はないのだが?〙
「ならなぜ知っている奴がいる?ジルとジーニャ・・・お前の仲間なんだろ?」
〘知らないな・・・初めて聞く名だ〙
「なっ!?・・・本当か?」
〘本当だ〙
あれ?ダンコの読みが外れた?けどダンコの言っている事は的を得ていた・・・レオンって名前で驚いたのも僕の能力にさほど驚いた様子を見せなかったのも知っていたから・・・でも否定されたら追求のしようがない・・・
《ロウ・・・言い方を変えて》
「え?」
〘ん?まだ何かあるのかな?〙
《ジルとジーニャと名乗っている仲間がいるかどうか・・・そう聞くの》
さっき聞いたけど・・・ここはダンコを信じてみよう
「もう一度聞く・・・ジルとジーニャと名乗っている仲間はいるか?」
〘・・・〙
なんで答えないんだ?さっきは即答だったのに・・・
《ジルとジーニャは偽名よ。だからジルとジーニャという仲間がいないと言うのは嘘ではない。けどジルとジーニャと名乗っている仲間はいる・・・それを否定すれば嘘になる》
別にそれくらいの嘘は平気でつきそうだけど・・・
《レオンはアナタを仲間にしたがっている。だからなるべくなら嘘はつきたくないはずよ・・・ひとつ嘘をつけば他も嘘ではないか?って疑われるからね。どうでもいい相手になら嘘をついても問題ないけど信用を得ようとしている相手には嘘はなるべくつけないもの・・・どうやらロウを高く評価しているのは本当みたいね》
って事はやっぱり2人は『タートル』なのか
〘・・・どうしてそう思った?〙
「えっと・・・僕は魔法剣士としてダンジョンに挑んでた・・・けど、それ以外の能力を使ってもあまり驚かなかったからもしかしたら知ってるのかと思って・・・僕の事を知ってるのはレオン・・・お前だけだ・・・だから・・・」
〘なるほど・・・今度から君が申告以外の能力を使ったら驚くよう伝えておこう〙
「じゃあやっぱり・・・」
〘ああ・・・私の組合員だ〙
「っ!・・・って事は2人は僕に近付こうと?」
〘いや・・・パーティーを組むことになったのは偶然だろう。君への対応は全て私がすると伝えてある・・・ああ、そうそう・・・君の正体は秘密のままだ・・・私と同等の才を持つ・・・そう伝えただけだ〙
「Sランク冒険者のレオンと?それは光栄だね」
〘そうかな?君の年齢からすると過小評価とさえ思っているよ・・・だからこそ君への配慮には特に気を使っているつもりだ〙
「・・・だから嘘はつかない・・・そう言いたいのか?」
〘そうだ。ジルとジーニャと名乗っている仲間はいる・・・そう白状したのもその為だ。ひとつの嘘が真実すらも疑われるきっかけになりかねないからね〙
「なら教えてくれ・・・お前は何を企んでいる?」
〘それは仲間になると受け取っても?〙
「・・・内容によるかな?」
〘ならば今はその時ではないな・・・君はいずれ選択を迫られる・・・その時になれば分かるさ・・・私のやろうとしている事も・・・仲間になるべきかどうかも、ね〙
「・・・」
一体何を企む?どうして犯罪行為を行ってまで仲間を集めている?しかも精鋭のみ・・・弱い者など必要ないと言わんばかりに簡単に殺す・・・なんで・・・
〘さて、私も誰かさんのせいで潜伏の身・・・あまり暇ではないのでこれで失礼するよ〙
「・・・それは悪かったな・・・って、そっちが悪さをするからだろ!僕のせいにするな!」
〘『悪さ』・・・か。まあいい・・・いずれ分かる・・・その時が来れば、な〙
「・・・」
そして石は光を失った
ジルさんとジーニャさんの事は分かったけどモヤモヤが残る・・・『タートル』はなぜ・・・レオンは何をしようとしているんだ?その時って──────
《アハハハハッ!さあジャンジャン魔物を創るわよ!》
「・・・」
不機嫌だったダンコはどこへやら・・・レオンとの会話を終え魔物を補充しようとした時から一気に機嫌が直った
その原因はマナ・・・僕達が不在の間、ダンコが初めに作った水晶に獲得したマナが溜められていたのだが、そのマナを吸収した時から大はしゃぎ・・・それもそのはず今までにない程の大量のマナが溜められていたのだ
僕達が居ない間にスラミは不眠不休で魔物を配置、それにより冒険者は過不足なく現れる魔物を倒しまくりマナがどんどんと溜まっていく・・・何故だか冒険者も熱心にダンジョン攻略に取り組みあれよあれよという間にマナは溜まりダンコの機嫌を直すまでに至った
《オーホッホッホ!このペースでいけば2年も待たずに100階到達・・・いえ、魔王創造まで待ったなしよ!》
「それはようござんしたね・・・何ならスラミに今度から配置を任せれば?」
《妙案ね・・・今までロウが不在の時の代理だったけど役目として配置させれば・・・たまにはいい事言うじゃない》
スラミは教えればちゃんとその通りにこなしてくれる・・・まあ応用が効かないのは玉に瑕だけど重要な事さえ教えておけば問題はないだろう・・・もっと早くやっておけば良かった・・・
「てなわけでスラミ・・・今後も魔物の配置はよろしく頼む」
「畏まりましたマスター」
これで僕の仕事は少しは減ったな
にしてもなんでこれだけのマナが?冒険者が増えたのかな?・・・まさかまたよからぬ事を企む奴らが・・・
《ロウ!何ボサっとしているの!?私が魔物を創るからアナタはダンジョンの整備と補修をやりなさい!》
「・・・ハイハイ」
《ハイは1回!それが終わったら階を増やすわよ・・・魔物は置いといてとりあえず5階分くらい一気に・・・》
「あの・・・戻ったばかりで結構疲れているのですが・・・」
《はあ?これまでサボってた分を取り戻さないとダメでしょ!?何言ってんの!?》
・・・機嫌が悪いダンコもあれだけど今のダンコも大概だ──────
「・・・随分と楽しそうですね」
「またむくれているのか?」
「ニーニャ達は駒・・・でもロウニールちゃんは・・・」
ロウニールとの通信を終えたレオンの表情を見て頬を膨らます
ニーニャの言わんとしている事を理解してレオンは彼女の頭を撫でた
「駒では不満か?」
「・・・いえ・・・みんなが駒なら別に・・・でも1人だけ特別扱いは・・・」
「気に入らないか・・・そう言うな・・・彼は目的を達成する為の駒ではなくカギだ・・・」
「カギ・・・どこが違うと言うのですか!ニーニャ達とどこが!」
「熱くなるなニーニャ・・・らしくないぞ」
「・・・ニーニャは絶対に役に立ってみせます・・・ロウニールちゃんよりも・・・絶対に・・・だから・・・」
「ニーニャ・・・もうこの話は終わりだ」
「レオン様!」
「駒とカギでは役割が違う・・・どう頑張ろうと駒はカギにはなれん・・・理解しろとは言わん・・・気に食わぬのなら私から離れても良いのだぞ?」
「・・・離れるわけ・・・ないじゃないですか・・・あの時からニーニャは・・・レオン様の物です」
「ならば黙ってついて来い・・・そろそろ寝る時間だ。明日も朝は早いぞ?日が昇ってからでは暑くて敵わんからな」
「・・・あの・・・貯えが十分にある事ですし・・・やめませんか?」
「何を言っている・・・潜伏てはその土地に溶け込むこと・・・何もせず何不自由なく暮らしていれば目立つだろ?朝早く起き、芋を掘り、日が昇ったらそれを売る・・・健康的で良い商売ではないか」
「爪に土が・・・土が入るんですけど!」
「爪に入った土など洗い流せばいい・・・さあ、寝るぞ」
「なかなか洗っても落ちないんですって!・・・あー!もう寝てる!・・・うぅ・・・レオン様のバカ!!」
ある村に潜みのんびりと時を待つ2人
その2人をよそに村では異変が起きていた
「まーた行っちまったよ・・・これで何人目だ?」
「若い奴はほとんど・・・残ってるのは妻帯者か女のみだ・・・あんな噂が流れるから・・・」
「本当に言ったのか?聞き間違いじゃ・・・」
「さあな・・・けど来ているのは事実だし・・・でもまあ噂が嘘ならすぐに帰って来るだろう・・・」
「『好みは冒険者』か・・・言ったのが事実ならえらいことを言ってくれたもんだ・・・聖女様は──────」




