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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
146/856

143階 別れ

ドラゴニュートを倒した後、僕達は満身創痍のまま未踏の地であった41階に足を踏み入れすぐに地上へと続くゲートに入った


少しだけでも41階を見ておきたかった気持ちはあったけどいきなり魔物に襲われないとも限らない・・・どんな魔物が出るかも分からないのにそれは危険と判断した


まあ今度からいつでも来れる・・・けど・・・


ダンジョンを出ると入口に立つギルド職員の2人は無事に帰って来た僕達を見て喜び、祝福してくれた・・・そしてその祝福を受けながら街に戻っている最中にジルさんとジーニャさんが急に立ち止まる


「・・・ねえ、私達はこの戦いに参加しなかった事にしてくれない?」


「何を急に・・・」


「上級魔物であるドラゴニュートを倒したパーティーは目立つわ。私達はしつこい奴らから逃げている身・・・あまり目立つのは好ましくないのよ。だから・・・私達はここでお別れ」


「え?」


「・・・行くのか?」


「ええ・・・ドラゴニュートを倒したとあれば宣伝効果は抜群・・・他の街から冒険者が雪崩込むだろうしね・・・だから・・・」


「せめて分け前くらい受け取ったらどうだ?お前さん達が居なければ倒せなかった・・・報酬を受け取ってからでも遅くはないだろ?」


「十分貯えはあるし必要ないわ。それに私達が居なくとも倒せたんじゃない?誰かさんが居ればね」


そう言ってジーニャさんは僕を見る


「そんなこと・・・」


「あるわよ。結局足を引っ張っただけ・・・だから私達への報酬はその誰かさんにあげておいて・・・じゃあもう行くわ」


「ジーニャさん!」


「・・・また会える・・・それじゃ」


「ジルさん!」


2人はそう言って街とは反対方向に消えて行く


残された僕とゲイルさんは2人の後ろ姿を見えにくなるまで見つめるしかなかった


「・・・名誉も金も要らねえ・・・か・・・じゃあ一体何の為に・・・」


「・・・ですね・・・実はゲイルさんに惚れていたとか?」


「そんな軽口を叩けるならもう1人で歩けるな!いつまでも寄り掛かってんじゃねえ!気持ち悪い」


「うべっ・・・そんなぁ・・・」


ガタガタの体でゲイルさんの肩を借りてたのだけど余計な一言で怒らせてしまった


支えてくれてた手を外され地面に倒れる僕を置いてスタスタと歩くゲイルさん・・・何とか立ち上がり追いかけようと一歩踏み出した後、ふと気になり2人が去った方向に振り返る


本当に・・・何の為に・・・


「おい!置いていくぞ!」


「は、はい!」


結構頑張ったのにこの仕打ち・・・ゲイルさんひどい・・・


「・・・そう言えばゲイルさん・・・いつから意識を取り戻していたんですか?」


「んー・・・・・・奴が人の姿に戻ったくらいだ・・・だから何も見ちゃいねえ」


ああ・・・これは色々と見られたな・・・多分かなり前から起きていたのだろう


一番見られちゃまずいゲートも見られたはず・・・どうしよう・・・


「あの・・・ゲイルさん・・・」


「皆まで言うな・・・念願だったドラゴニュートの討伐は終わった・・・ただそれだけの事実をギルドに報告して終わりだ。パーティーメンバーで祝勝会といきたいところだが2人じゃ盛り上がらねえから師匠や他の奴らも連れて派手にやるか・・・金なら魔核を売った金で何とでもなるしな」


「・・・そうですね・・・そうしましょう!」


ゲイルさんは他の人に話したりはしないだろう・・・普段ならダンコが色々と言いそうだけど今はずっと黙ってるし・・・もしかしたら言う事聞かなかったから怒ってるのかな?


「とりあえず街に・・・って、まだしんどいか?」


「ハハッ・・・少し・・・」


「鍛え方が足りないぞ?若者よ!」


「いきなり気絶して十分休んだ人に言われたくないですね」


「おまっ・・・それは師匠に言うなよ!」


「・・・じゃあ今日の祝勝会はゲイルさんの奢りで決まりですね」


「・・・けっ・・・強さだけじゃなく根性まで手に入れたか・・・ほら、肩貸してやるからさっさと行くぞ!」


「・・・はい!」


肩を借りないとまともに歩けないほどフラフラだけど・・・2人の足取りは軽かった


早く吉報を届けたいから


そしてカルオスは取り戻すはず・・・ゲイルさんが望んでた活気ある冒険者ギルドを──────




「あー、疲れた・・・何なのよあの魔物・・・ドラゴニュートって上級でも下位でしょ?危なくシャレにならい事態になるところだったわよ」


「・・・盾がおしゃか・・・」


「もうひとつあるでしょ?」


「・・・」


「あーもう!分かったわよ!買えば良いんでしょ!?・・・こんな事なら報酬を受けてから去れば良かった・・・」


ロウニール達と別れたジルとジーニャは次の潜伏先に向けて歩いていた


予想外の苦戦でボロボロになった体にムチを打ち、歩き続ける2人は先程の戦いを振り返る


「長い年月放置すると魔物は強くなるのかな?」


「個体によって差があるとも言うしたまたま強く生まれただけかも」


「にしても強過ぎよね・・・あんなのが40階に居たらそりゃギルドも廃れるわ」


「でも魔物はまた湧く・・・その時にまた同じくらいの強さのドラゴニュートだったら・・・」


「良いんじゃない?先が不透明だったから人が離れていった・・・けど先が見えたなら・・・人はまた戻って来るはずだし」


「そうなると良いけどね・・・それはそうと良かったの?何もせずにカルオスを離れて」


「仕方ないでしょ?まさかこうなるとは・・・でも噂に違わぬ実力ね・・・最後見た?あの一振・・・」


「ええ・・・斧を使う者が目指す技・・・『大切断』・・・」


「鉄さえも真っ二つにするって言われてるけどあれを見るまで信じられなかったわ・・・まさか斧の一振であそこまで綺麗に斬れるなんて・・・」


「剣よりも肉厚のある斧では普通不可能・・・彼が木こりをやったら木は切られたことすら気付かないかも」


「そうね。もしかしたら・・・一撃だけならトップクラスかもね。さすがお眼鏡にかなっただけはあるわ」


「『髭ダルマ』ゲイル・アグリス・・・敵には回したくないわね」


「あれだけ恩を売ったんだもん、敵になることはないでしょ。まっ、本来なら味方に引き込むはずだったけど・・・」


「まさかゲイルが遅れて来るって言っていた助っ人の1人が彼だったなんて・・・」


「ロウニール・ハーベス・・・団長が惚れ込むのも無理はないわ」


「別の空間と繋げる『ゲート』・・・あの能力だけでも驚異なのにまだ彼は隠している能力がありそう」


「『呪毒』って言ってたっけ?あの技も危険よ・・・多分防ぐ術はない」


「是非とも仲間に・・・ってところね」


「・・・()()


「なに?()()()()


「ああ、もう偽名を使う必要はないわね。ねえ()()・・・色仕掛けで落とすのはどうかな?」


()()()の?やめといた方がいいわ・・・それ逆効果よ」


「逆効果って!これでもけっこう言い寄ってくる男は多いのよ!」


「・・・多かっ()でしょ?」


「・・・喧嘩売ってる?」


「今の貴女が私に勝てるとでも?」


「・・・直ったら覚えておきなさいよ・・・」


「その前にまた壊されない事を祈るわ・・・あの破戒僧に」


「破壊僧よ!・・・あー、思い出しただけで腹立ってきた・・・よくも私の子を・・・」


「・・・やっぱり私と戦う前にまた壊されそうね──────」




ギルドに帰ると受付の前でウロウロしていたダズーさんに突然抱きつかれた


どうやら少し前からずっと僕達を心配していたらしい・・・受付の女性がかなり邪魔だったと言っていた


そして改めてゲイルさんがドラゴニュートの討伐を報告するとギルドは大盛り上がり・・・そのまま業務を中断してその場にいた冒険者、それにギルド職員と共に店になだれ込む


そこからは飲めや歌えやの大騒ぎ


店にいた客や新たに来た客を巻き込みどんちゃん騒ぎが続いた



酔いもだいぶ進み、酔い潰れた人がチラホラと出てきた頃、1人店を出るゲイルさんを見かけた


外に涼みに行くのだろうか


気になって後を追うとゲイルさんは店から離れ、ある場所へと向かっていた


そのある場所とは・・・


「・・・ロウニールか?」


ある場所に向けて手を合わせ佇むゲイルさんに近付くと、後ろを振り返らず僕に気付く


「報告ですか?」


「ああ・・・今日中にと思ってな・・・あのまま店にいたら酔い潰れちまいそうで抜け出して来た」


遺体のないただ名前が刻まれた墓標・・・その墓標に手を合わせていたゲイルさんが目を開け振り返る


「全部お前さんのお陰だ・・・ありがとう」


「・・・諦めなかったゲイルさんのお陰ですよ・・・他の誰もが諦めていたのに1人諦めなかったゲイルさんの・・・」


「それも2年前にお前さんが来てくれたお陰だ。お前さんとなら勝てる・・・そう思わせてくれたから諦めなかっただけ・・・じゃなかったらとっくに諦めていたよ」


「・・・」


どうだろう・・・それでもゲイルさんは諦めなかったと思うけど・・・


「・・・なあロウニール・・・ここで一緒にやらねえか?」


「・・・すみません・・・」


「そっか・・・そうだよな・・・俺がここを見捨てられなかったみたいにロウニールにも帰る場所があるよな・・・」


「・・・」


「ロウニール・・・ジルとジーニャが死んだらしい」


「え!?」


「正確には死んだ事になっているらしい。ギルド長には冒険者の生死が分かるんだとよ・・・さっき師匠から聞いた」


まさかそんな・・・あの二人がどうして・・・


「けどよ・・・師匠が死んだって言っている時間がおかしいんだ・・・俺達がドラゴニュートと戦っている最中・・・いや、もっと前に死んだ事になっていたらしい。だから心配になって・・・」


受付の前でウロウロしてたのか・・・でもどうやってダズーさんは2人の死を?いや、そもそも2人は本当に?


「多分だがダンジョンに行く際に預けるギルドカードに何かしらの仕組みがあるんだろうな。人の生死が分かるような仕組みが・・・で、2人はしつこい奴らに追われているって言ってたから死んだ事にしたかったんじゃないか?だから死んだように見せる為にギルドカードの仕組みに細工して・・・」


なるほど・・・だからギルドカードも報酬も受け取らず去って行ったのか・・・


「まっ、詮索はするつもりはねえし、死んだ事にした方が都合がいいならと思って否定しなかった・・・ジルとジーニャは命を投げ打ってドラゴニュートを倒した・・・そういうことにしたよ」


「分かりました・・・僕も聞かれたらそう答えます」


どんな仕組みでどんな細工をしたのか分からないけど追われているらしいからそういう事にしといた方が良さそうだな


「・・・で?お前さんはいつ帰るんだ?少しはゆっくりするんだろ?」


「・・・いえ、すぐにでも帰ろうかと・・・」


「・・・そうか・・・寂しくなるな」


「また会えますよ・・・いつでも」


「そんなしょっちゅう会える距離でもねえだろ・・・エモーンズとカルオスは結構離れてるぞ?」


「そうでもないですよ・・・ほんの一瞬で行ける距離ですから・・・」


「そんな訳ねえだろ?酔ってんのか?」


「・・・僕への報酬はゲイルさんが使って下さい」


「あ?何言って・・・」


僕はゲイルさんに頭を下げると指で1本線を引くと線は空間を裂き左右に広がり別の空間へと繋がる


「楽しかったです・・・まあかなりピンチにもなりましたが・・・何かまた手伝える事があったら言って下さい・・・僕はゲイルさんのパーティーメンバーですから・・・」


もうここでやり残した事はない


本当は明日カルオスのギルドに行けばランクをDまで上げてくれるって言われたけど・・・僕は冒険者じゃなく街の兵士だから・・・ランクは必要ない


「まさかそれ・・・エモーンズに?」


「ええ・・・何かあればダズーさんに・・・冒険者ギルドには通信道具があるので報せてくれればすぐに駆けつけます・・・あ、その時は『ローグ』に用事があると言って下さい」


「ローグ?」


「組合『ダンジョンナイト』組合長ローグ・・・そう言ってくれれば分かります」


「おい!まだ礼も十分に・・・」


「今日ご馳走してくれたじゃないですか・・・それで十分です。では、また・・・」


「おい!ロウニール!・・・くっ・・・またな!たまには顔出せよ!」


「・・・はい!」


僕はそのままゲートを通りエモーンズの・・・僕のダンジョンに戻って来た


随分と久しぶりに感じる


「マスターお帰りなさいませ」


「ただいま・・・問題はなかった?」


「はい・・・ですがストックしていた魔物が枯渇しています。今すぐにでも補充して頂きたいのですが」


「今すぐ・・・分かった。何とかするよ・・・」


魔物が枯渇するって事はスラミはかなり頑張ってくれたみたいだな


「えー・・・ダンコ?魔物を補充したいんだけど・・・」


《・・・すれば?》


「まだ怒ってるの?」


《ええ・・・怒ってるわよ・・・アナタにも・・・私にもね》


「自分に?」


《まんまとあのダンジョンのコアにやられた自分に、よ。いつか仕返ししてやる・・・》


「お、おう・・・それとゲイルさん達に能力がバレた件だけど・・・」


《・・・ゲイルを殺せって言ってもやらないでしょ?》


「当然」


《なら言っても仕方ないから別にいいわ・・・他の2人は最初から知ってただろうし》


「他の2人って・・・ジルさんとジーニャさん?あの2人はゲイルさんが言ってたけど死んでしまったって・・・でもよく分からないんだ・・・別れてから死んだ訳じゃなくてダンジョンに居る頃に死んだって・・・まさか2人は幽霊・・・って訳じゃないよね?」


《そんな訳ないでしょ?カードに細工したんでしょ・・・あの人間共がしそうな事よ》


「あの人間共?」


《『タートル』だっけ?2人はその組合の組合員よ・・・恐らくね》


「へ?・・・『タートル』!?」


《レオンってそんな珍しい名前じゃないでしょ?ロウが通信道具でレオンに連絡を取った時、ジーニャはレオンという名前を聞いて驚いていた。知らない相手なら驚くのではなく『誰?』ってなるはずよ。それにゲートはともかくアナタが様々な能力を使ってもあまり驚いた様子を見せなかった・・・ドラゴンに匹敵する強さのドラゴニュートと互角に戦っても、ね。それはロウニールという人物が知らせている以上の力を持っていると知っている証拠・・・で、それを知っているのは・・・》


「・・・レオン・・・」


《そうよ。ロウとローグが同一人物と知っている唯一の人間・・・同じ組合なら情報を共有しているだろうしあの二人が組合員なら知っててもおかしくない。恐らくあの名前は偽名ね・・・そして偽名が記されたカードに何かしらの細工を施していた・・・だからギルドでは死んだと判断した・・・っていうのが私の予想よ》


「んなバカな・・・ジルさんとジーニャさんが・・・『タートル』なんて・・・」


《気になるなら聞いてみれば?》


「だ、誰に?」


《決まってるでしょ?その組合の組合長・・・レオンって人間によ──────》

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