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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
142/856

139階 決戦前

「あー疲れた・・・まさかパーティー組むとこんなにも疲れるとは思わなかった・・・」


人喰いダンジョンの11階から20階まで駆け抜け、宿に戻るとベッドに倒れ込む


苦になるような魔物は出て来なかったけど色々と気を使って精神的に疲れた


まずロウニールとして力を抑えないといけない事、それにみんなに合わせて行動する事・・・ソロとして動いてきたのでこのふたつに神経を使うのに必死だった


《一応ロウに経験させたかったんでしょ?だからわざとゆっくり進んでダンジョンの中で寝泊まりして・・・》


「ほぼ毎日ダンジョンに寝泊まりしてるっていうのに・・・まあ、そんな事は口が裂けても言えないけどね」


15階に降りるとまだ奥に行ける体力は残っていたのにゲイルさんはそこで1晩過ごすと言い始めた


それから安全な部屋を探してテントを組み始め、見張りを立てて交代で眠る・・・安全とはいえ魔物が襲って来ないとは限らないから見張りを立てるらしい


《あの部屋に魔物は来ない・・・そう言ってあげたら良かったのに》


「なんで分かるんだって言われても答えられないし・・・てか、ダンコはなんで分かるの?」


《・・・何となく?》


「なんだよそれ・・・何となく魔物が出て来ないと思うので見張りはいりません・・・なんて言えるわけないだろ?」


《・・・それもそうね》


「もしかして隠れて酒でも飲んだ?言動がおかしいぞ?」


《どうやって飲むのよ・・・うーん、もしかしたら他のダンジョンの影響かも・・・前に入った時も変な感じしたし》


ダンジョンコア同士の共鳴みたいなもんかな?でも前回は何も無かったみたいだし・・・あまり気にしても仕方ないか・・・


とりあえず明日は休んで明後日には続きの21階からの攻略・・・また泊まりになる可能性が高いからなるべく用事は済ませておくか・・・


疲労感たっぷりの体を無理矢理起こし、部屋にあるテーブルの上に通信障害である石を置いた


「さて・・・聖女様は約束を果たしてくれたかな?もう着いている頃だと思うけど・・・」


少し緊張しながら石にマナを流し、ラルの父親が出るのを待つ


前回と違ってそんなに遅い時間じゃないから起きているはず・・・


〘ローグ様!ありがとうございました!〙


のっけから感謝の言葉・・・って事はどうやら聖気様は約束通り・・・それに治療も成功したっぽいな


「もう来たのか?」


〘はい!まさか聖女様がこのような家に足を運んでくださるとは・・・何もかもローグ様のお陰です!妻も・・・つ・・・〙


喉を詰まらせ泣いているのが分かる・・・相当苦しかったんだろうな・・・自分は足を失い、妻は病に倒れ、幼い子供に果実を売り歩かせる日々・・・うっ、僕まで泣けてきた


「その様子だと治ったみたいだな。バデットもすぐにはサボったりはしまい・・・しばらく報告はいいから家族水入らずで・・・」


〘私は!・・・この多大なる恩を返す術がありません!この命を賭したとしてもとても返せる恩では・・・〙


「なら苦労をかけた娘を笑顔にしてやってくれ。2人のたった1人の娘であり私の命の恩人だからな。それで十分だ」


〘し、しかし!〙


「それよりも何か他に変わった事はなかったか?」


〘変わった事・・・ですか?・・・そう言えば聖女様のお付きの方がローグ様にお礼を言いたいと仰ってました。こちらからは通信しないお約束だったのでお断りしましたが・・・繋げた方が良かったでしょうか?〙


お付きの方・・・多分あの侍女だな


「いや、もし次会う事があれば礼は要らないと伝えておいてくれ」


〘恐らくそれは難しいかと・・・今日の日中にエモーンズに旅立ったらしいので・・・〙


もう?多分今日着いたばかりくらいのはず・・・ムルタナにも宿屋はあったのに泊まらずに行くなんて疲れてないのかな?


「分かった。先程も言ったように報告はしばらく良い・・・私もまた少し忙しくなるからな」


〘分かりました〙


「何か問題があれば連絡してくれ」


〘はい・・・本当に・・・本当にありがとうございました〙


石の先で頭を下げている姿が目に浮かぶ・・・良かった・・・今度は助けられたみたいだ



「・・・」


通信を終えた僕はある事を考えながら役目を終えた石を見つめていた


《何を考えているの?》


「・・・魔蝕・・・だっけ?なぜ聖女にしか治せないんだろうって・・・もし他の誰か・・・例えば僕が治せればラックの妹のネルちゃんは助かったかもしれない・・・」


《魔素をマナに変える器官・・・魔核・・・その修復は普通じゃ出来ないはず・・・目に見えないはずなのにどうやって治してるのかしらね》


治し方を聞いたら教えてくれるかな?でも表向きは再生の能力を持っていない僕が聞くのは怪しいか・・・うーん・・・


セシーヌとそんなに長く居た訳じゃないけど彼女なら多くの人を治す為に努力は惜しまなそうな気がする・・・それなのにセシーヌの一族しか治せないって事はやはり特別な何かがあるのだろうか・・・教える事が出来ない何かが・・・



・・・考え事をしていたらいつの間にか寝てしまった・・・


今日は休養日


またゲイルさんは買い出しをしてくれるらしく完全に自由な日だ


「・・・エモーンズに戻るか・・・」


《なぁに?気になる事でもあるのぉ?》


「その間延びした言い方はやめろ・・・別に・・・ただスラミがちゃんとやっているか見に行くだけだよ」


《それなら目を閉じればダンジョンの様子は見れるじゃない?》


「・・・家の事も気になるし・・・」


《ローグの格好で家を見に行ったら怪しまれるわよ?それにあの人間と鉢合わせするかも・・・》


「あの人間?」


《セシーヌだっけ?エモーンズに向かっているんでしょ?それにもれなくアナタの妹にも・・・》


「・・・やっぱり戻るのやめた!」


《そう・・・それがいいわ。今はここのダンジョンの攻略に集中しないとね》


「・・・うん・・・そうだね・・・」


なんだろう・・・別におかしい事を言っている訳じゃないのに違和感が・・・


ゲイルさんと話している時に感じた違和感とはまた別の・・・なんだか薄気味悪いな・・・



言い知れぬ不安を感じながらエモーンズに戻らない事に・・・街をぶらつくのも気が引けたので部屋でゴロゴロしてその日は過ごした


次の日の朝、また例の如く冒険者ギルドに集まり人喰いダンジョンへ


21階から30階まで2日かけて攻略するとまた1日休む


そしてとうとう31階から目的の40階のボスであるドラゴニュートに挑む時がきた


31階から35階まで一気に降りていつも通りダンジョン内で一夜を過ごし、次の日に35階から40階へ・・・40階のボス手前の待機部屋まで難なく進む


着いた頃には4人のコンビネーションはかなり良くなっていたと思う。ジルさんがアタッカーのいる方向に魔物を誘導し、それをアタッカーである僕かゲイルさんが倒す・・・その繰り返しだけでほとんどの魔物は対処出来た


攻撃を受け止めるだけがタンカーだと思ったけど誘導するタンカーっていうのもあるんだな


ジーニャさんの出番はほとんどなかったけど魔物が大量に出て来た時の魔法は圧巻だったな・・・



土属性魔法『ストーンシャワー』



無数の石礫が上下左右至る所から魔物に降り注ぎ、抵抗する間もなく穴だらけになってしまった。今の僕にはあれを防げる術はない・・・ローグでもゲートを使って逃げるしかないかも


ジーニャさんはヒーラー兼魔法使いって言うより回復が出来る魔法使いの方が近いかもな・・・まあヒーラーは怪我をしないとなかなか活躍の場がないからどうしても魔法の方が目立ってしまうだけだけど・・・


「何か私の顔についてる?」


「あ、いや・・・別に・・・」


「うーん、仕方ないわね。今日だけは私のテントで寝ていいわよ」


なぜそうなる!?・・・って最初の頃は思ってたけどさすがにジーニャさんの冗談にも慣れてきた


今日でこうしてこのメンバーでダンジョンで寝泊まりするのも終わり・・・明日の朝にはドラゴニュートに挑みどっちにしてもこのパーティーは解散する


せっかく慣れてきたから少し名残惜しいけどいつまでもエモーンズを離れている訳にはいかないし、みんなもそれぞれの道がある


ゲイルさんは40階の先がある事をカルオスの冒険者に示してかつての活気を取り戻し、ジルさんとジーニャさんはしつこい奴らをまくために一箇所に長居せず転々と街を変えるのだとか・・・



「さて・・・最後の打ち合わせをしようか」


ジーニャさんのテントを組み上げ、それぞれ休息を取る準備を終えた段階でゲイルさんはみんなを見渡しそう言った


最後・・・僕達がパーティーを組んだ理由・・・ドラゴニュートの討伐に関する最後の打ち合わせ・・・


「師匠の話じゃドラゴニュートの最大の攻撃は口から吐く熱線・・・ブレスだ。それを完全に防ぐの難しいだろう。だからジル・・・お前さんにはブレスを受け流してもらいたい」


「ええ、何とかしてみせるわ」


「頼んだぜ。受け流す方向は右後方・・・ジルにはブレスに集中してもらう為に立ち位置を固定・・・援護班のロウニールとジーニャはジルの左後方に陣取り俺がドラゴニュートを相手する」


つまり先頭はゲイルさん・・・その後ろにジルさんが立ち、僕とジーニャさんが更にその後ろに立つ事になる。僕とジーニャさんは魔法でドラゴニュートを牽制する役目だ


「出来るだけ俺だけでとは思っているが何があるか分からねえ・・・俺がやられたら俺の立ち位置にロウニール・・・お前さんに任せる。なるべくそうはならねえと良いが、な」


「はい!」


ゲイルさんがもしドラゴニュートに倒されたら僕が代わりにゲイルさんの立ち位置・・・つまりドラゴニュートに突っ込む・・・その間にジーニャさんがゲイルさんを回復する手筈だ


「まっ、実際に戦ったことはねえから上手くいくか分からねえが・・・そん時は臨機応変に頼むぜ、ロウニール」


「はい!」


ゲイルさんが考えた作戦で問題はないと思う。ゲイルさんなら十分ドラゴニュートと渡り合えるし、ジルさんならブレスも受け流すことが出来るはず


「これで打ち合わせは終わり?それなら私はもう寝るわ・・・一緒にテント入る?」


「・・・遠慮しておきます」


「つれないわね・・・ジルは?」


「やめとくわ」


「・・・おやすみ」


「冗談でも俺にも聞け!」


1人誘われなかったゲイルさんが怒っているがジーニャさんはそんなことは何処吹く風といった感じでテントの中へ


ジルさんは少し離れた場所に座ると壁に寄りかかり目を閉じ眠りにつく


「悪いな荷物の関係上テントはひとつしか持って来れなくて」


「いえ、荷物が多いと移動速度が遅くなりますし・・・どうせ明日になれば宿でぐっすり眠れるので」


「だな・・・明日でしばらくこの硬い床ともおさらばだ・・・しばらくはドラゴニュートの魔核を売った金でのんびり暮らすとするか・・・」


上級魔物の魔核ならかなり高額で売れるだろう。ゲイルさんの言う通りしばらくダンジョンに行かなくていいくらいにはなるはず・・・でもそんな未来を予想している割にはゲイルさんの表情は暗かった


「何か心配事でも?」


「おいおい・・・ドラゴニュートを前に心配事がねえわけねえだろ?」


「ドラゴニュートに挑む事でそんな顔しているなら良いんですけどね・・・油断して望むより少しくらい緊張してた方が良さそうですし・・・」


あれだけ打倒ドラゴニュートで燃えていたゲイルさんが目前にして日和るとも思えない・・・だとしたらゲイルさんは一体なぜ・・・


「・・・ったく・・・ガキに見抜かれるったぁ俺もまだまだだな。お前の言う通りドラゴニュートにゃ万全よ・・・程よく緊張していい感じだ」


「じゃあなんでそんな顔を?」


「まだ挑んでもねえのに考えちまったんだよ・・・ドラゴニュートのその先に・・・何があるのかってな」


「・・・41階?」


「そういうんじゃねえ!・・・ハア・・・もう寝ろ・・・明日寝不足で下手打ったら目も当てられねぇしな」


「・・・ゲイルさ・・・」


「寝ろ」


「・・・はい」


ドラゴニュートのその先?倒した後の事?


ゲイルさんは親の仇でもありカルオスの活気がなくなった原因であるドラゴニュートを倒す為に自らを鍛えていた


つまり人生の目標みたいなものなのかも


でも倒してしまったらその目標を失う・・・だから・・・


ゲイルさんはドスドスと壁に向かって歩くとそのまま地面に横たわり寝てしまった


僕はその姿をしばらく見つめた後で同じように壁際に行き横になる



・・・僕もゲイルさんの気持ち・・・分かる気がする・・・


僕は・・・ダンジョンを成長させディーン様を迎えた後・・・何を目標に生きていくのだろう


後2年と少し・・・その後僕は──────

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