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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
141/856

138階 綻び

「どこに向かっておる?」


1人歩くエミリに声をかけたのはゴーン・へブラム・アクノスだった


エミリは立ち止まりゴーンとその後ろに立つキースに頭を下げる


「少しこの村長に聞きたい事がありまして・・・へブラム様はどこへ?」


「ゴーンで良い。同じく村長に聞きたい事があってな・・・そちらの聞きたい事とやらを聞いても?」


「はい。村にある石柱・・・あれをなぜ撤去しないか気になりまして・・・」


「ああ、アレか。見事なものだな・・・私でもあれ程の高さまで作れるかどうか・・・そもそも土属性はあまり得意ではないがな」


「しかもどうやらあの石柱、元は土柱だったそうです。それを倒れないよう石化したとか・・・」


「なに?作ったのはコカトリスとでも言うのか?」


「人間です。名はローグ・・・エモーンズの冒険者だとか・・・」


「冗談を真面目に答えるな・・・ローグか・・・なかなかこの村は面白い」


「・・・ゴーン様は何をお聞きに?」


「少し気になる事がある・・・ちなみに聖女は?」


「セシーヌ様は旅と治療でお疲れのようでしたので宿へ・・・何か御用事でしょうか?」


「いや・・・キースよ、お主は聖女の元へ。何かあってはまずいからな」


「へいへい・・・こっちとしては何かないと暇で死にそうなんだけどな」


「そうボヤくな・・・エモーンズに着けば否が応にも出番はある」


「そう願いたいね・・・んじゃま、一足先に宿に行ってらぁ・・・ジジイは頼んだぞ、エミリ」


そう言ってキースは宿屋に向かい、エミリとゴーンの2人で村長の元へ



特に行く事を知らせてはいなかったはずだが、早々に辿り着いた2人に村長は予想外の反応を示した


「お、お待ちしておりました!どうぞむさ苦しい所では御座いますが中へ!」


待っていた?


2人は顔を見合わせ首を捻ると言われるまま中に入り案内され部屋へ


部屋の中に入るとゴーンはテーブルにつき、エミリはその斜め後ろに立つと村長は座らずに頭を下げた


「この度は誠に申し訳ありません!村長として・・・」


「待て・・・何について謝っているのだ?」


「えっ・・・その・・・ギルド長の・・・え?王都からいらしたのでは?」


「王都から来たのは確かだがギルド長の事など知らん。それよりも村長・・・君に聞きたい事がある」


「え?・・・はあ・・・」


「まあ座れ。エミリ・・・君から聞くといい」


「はい」


この村ではまず有り得ない高そうな服装をしているものだからてっきり王都からの使者と思っていた村長は勘違いと分かり安堵する


そして改めて2人を見てようやく奇妙な組み合わせである事に気付いた


貴族風の男と修道服の女・・・普通では有り得ない組み合わせに気を取られ勧められるまま席に着く


「村長・・・」


「構わん。私が座れと言ったのだ・・・それよりも私の質問が控えている、さっさと問うがいい」


「・・・はい。それではムルタナ村の村長にお聞きしたいのですが村にある石柱・・・アレはどうしてそのままにしているのですか?」


「は、はい・・・その・・・記念と言いますか・・・数日前にゴタゴタがありまして、それを忘れないように・・・」


「そうですか。そのゴタゴタとは?」


「はい・・・その・・・数日前にギルド職員が村の近くにあるダンジョンから魔物が出たと・・・それで村中がパニックになり・・・」


「魔物が?」


「い、いえ!結局ギルド職員の見間違えでして・・・」


「そうでしたか・・・それであの石柱は何の為に作られたのですか?」


「えっと・・・確か村を一望する為にある方が・・・」


「ローグ殿・・・ですね?」


「・・・はい・・・」


「そのローグ殿は今どこに居るか御存知ですか?」


「い、いえ・・・恐らくエモーンズに戻られたかと・・・」


「分かりました。私からは以上です」


エミリは聞きたい事は全て聞いたと話を終わらせるとゴーンを見つめる


すると今度はゴーンが口を開く


「私からの質問はひとつだ。なぜダンジョンブレイクを隠しておるのだ?」


「え?」「え?」


村長・・・そしてエミリまでもがゴーンの言葉に耳を疑う


「ゴーン様・・・それは真でしょうか?もしそれが本当でしたら・・・」


「そうだな・・・国の定めにより隠匿した者を罰せねばならない。先程ギルド長云々と申していたがそれと関連しておるのか?」


「・・・」


「ちなみに嘘はつくではないぞ?つけばこの場で処刑せねばならなくなる・・・私としてはそれは避けたい」


処刑という言葉に反応し押し黙る村長


エミリがその様子を見て何か言おうと口を開きかけるがゴーンはそれを手を上げて制す


「ダンジョンブレイクが起きたダンジョンは再び起きる可能性が高くなる・・・それを知ってて隠しているなら村長失格と言わざるを得んな・・・村民の命より金が大事か?」


「そんな事は・・・ありません・・・」


「ふむ・・・ならば再び問おう・・・なぜダンジョンブレイクを隠しておる?」


「・・・・・・再びダンジョンブレイクが起きる事はない・・・そう聞いたからです・・・」


「ほう・・・未だ未知の部分が多いダンジョン・・・その最たるダンジョンブレイクに関して起きないと言える根拠は?」


「・・・私では理解出来なかったのですが・・・仰ってた方曰く『マナ不足により起きた』らしいのです」


「マナ不足?それ以外に何か言ってなかったか?」


「他に・・・その・・・私の他に聞いていた者が1人居たのですが、その者が『まるでダンジョンが生きているみたいだ』と言ったら、その方は・・・『そう考えれば辻褄が合う』と・・・」


「ダンジョンが生きているですって?そんなバカな話・・・」


「黙れエミリ」


「も、申し訳ありません・・・」


村長の言葉に思わず素が出てしまったエミリにゴーンは振り返り鋭い視線を浴びせる


そして顎を触りながら思考を繰り返す


「・・・・・・その話を信じたきっかけはなんだ?エミリのように荒唐無稽な話と一笑に付すのが普通だと思うが?」


「・・・その方はダンジョンをよく知っておられるようでしたので・・・それに村を救って下さった方でして・・・」


「そう言えば『その方』とやらの名を聞いてなかったな・・・その者の名は?」


「・・・・・・ローグ様です」


「なっ!?ローグ!?」


「先程言っていたエモーンズの冒険者か・・・」


「は、はい・・・今回この村に立ち寄ったのはそのローグ殿の依頼でして・・・」


「確か治療だったな。魔蝕か・・・」


「はい・・・魔蝕の患者を治してくれとの依頼でした。なんでもその患者の子供に命を救われたとかで多額の寄付金を出してまで・・・」


「村を救い魔蝕の患者を治す為に金を払いダンジョンに詳しい・・・しかも魔法使いとしての腕前も達者ときている・・・久々にダンジョン以外に興味が湧いた・・・急ぎエモーンズに向けて旅立つとしよう」


「・・・もう宜しいのですか?」


「うむ。聞きたい事は山ほどあるが直接聞いた方が良さそうだ」


「そうですか・・・それでダンジョンブレイクに関してはどうされますか?ギルドに通信道具があるはずなのでそれで・・・」


「必要ない・・・ダンジョンブレイクなど起きていないからな」


ゴーンは立ち上がるとそのまま部屋を出て行ってしまった


残されたエミリはオロオロとする村長を見下ろし目を細める


「村長・・・私達はここに来なかった・・・いいですね?」


「は、はい!」


「それとゴーン様は身分を明かされてはおりませんが高貴なお方・・・村長如きが同じ卓に座るなど本来ならあってはならない事です・・・以後気をつけなさい」


「っ!・・・はい・・・」


エミリはそう言い残すとゴーンの後を追う為に足早に村長の家を後にした


そしてゴーンに追い付くと少し後ろを歩き気になっていた事を口にする


「ゴーン様・・・なぜダンジョンブレイクが起きたと?」


「簡単だ・・・村の入口に無数の足跡があった。どれも三指の足跡・・・恐らくはゴブリンのものだろう。それを辿って行くと村の東側に争った跡があり、コレが落ちていた」


ゴーンは立ち止まると懐から布を出し、その中に包まれていたものをエミリに見せた


「これは・・・指・・・ですか?」


「うむ。少し変色しているがゴブリンの指だろう。この辺りで他にダンジョンブレイクが起きたという報せはない・・・つまりこの辺りには魔物は存在しないはずなのだ。なのに無数の足跡があり争った形跡があるのはおかしい・・・恐らくはダンジョンから出て来た魔物が村の東側から入口辺りまで迫っていたのだろうな。それを撃退して報告を挙げなかったのだろう」


「なるほど・・・それで・・・宜しいのですか?報告しなくとも・・・」


「構わん。もし再びダンジョンブレイクが起きたとしても自己責任だ・・・それに起きるとは思えんしな」


「それは何故ですか?まさかゴーン様もローグの言っている事を信じて・・・」


「信じている訳ではない。ただエミリ・・・君が言っていたであろう?『患者の子供に命を救われたとかで多額の寄付金を出した』と・・・もしダンジョンブレイクが再び起きるやもと思っていたらそのような事をすると思うか?」


「!・・・確かに・・・つまりそれだけ起きないという自信があるという事・・・」


「そうだ。それに・・・べつに起きたら起きたで村が犠牲になるだけの話・・・問題はあるまい」


「・・・セシーヌ様にはとても聞かせられる話ではありませんね・・・」


「聖女たるものそれで良い・・・綺麗なものだけを見て清い心を持ち続ける事が大事だ・・・私や()のように裏を見ずに、な。それにしてももしローグという者が言っている事が本当であるのなら私よりダンジョンに詳しいという事になる。ディーンの話を聞いてなければにわかに信じ難い話だが・・・」


「ダンジョンが生きている・・・ですか?それとディーン様がどのような関係が・・・」


「うむ・・・ディーンめ『面白いダンジョン』などと言うのでどう面白いのか尋ねたらこう言っていた・・・『ダンジョンに挑発された』と・・・壁に字が浮き出たのはエモーンズダンジョンを訪れた全員が目撃している。それだけならトラップなどのように何かのきっかけで文字が浮き出るという事で片付けられるが・・・」


「そのようなトラップがダンジョンにはあるのですか?」


「他のダンジョンである部屋を訪れると壁に文字が浮かんだ・・・そういう話は聞いた事がある。恐らく床に何かしらの仕掛けがあり、それを踏むと浮き出るというものだろう・・・だがディーンの話を聞く限りではまるで会話をしているようだったと・・・つまり仕掛けたものではなくダンジョンと意思の疎通が取れた・・・すなわちダンジョンは・・・」


「・・・生きている・・・」


「会話のように思えてそれすらも仕掛けなのかもしれん・・・だがもしダンジョンが生きているのならば話し・・・そして真実を・・・なぜ存在するのか・・・その真実を語してもらいたいものだ」


「・・・なんだかとても嬉しそうですね」


「そう見えるか?・・・そうだな・・・これまでの私の考えが覆されるかもしれぬ・・・だが、それもまた楽しみではある・・・先ずはエモーンズに居るであろう冒険者ローグとやらに話を聞きたい・・・何としても、な──────」

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