11階 オープン
冒険者達が続々とやって来たので何かあると思い調べてみると納得した
とうとうエモーンズ村に冒険者ギルドが出来たのだ・・・仮設の建物だけど
村長たっての希望で優先的に冒険者ギルドと宿屋を仮設で建ててもらい冒険者を誘致したらしい
部屋に戻った僕はゲートを開いて司令室へ
近寄って来たスラミをひと撫ですると椅子に座りダンジョンを映し出す水晶を見た
「休みをもらっといて良かった。ちょうど明日から冒険者ギルドの受付が開始される・・・危うくファーストパーティーを見逃すところだったよ」
《ファーストパーティー?》
「このダンジョンに足を踏み入れる最初の冒険者達・・・この前のディーン様達は調査だったからね」
《あー、そういう事ね。でも明日はそんな事を気にしている暇はないかも・・・》
「そんな事って・・・最初の一組目って記念になるって言うか思い出になるだろうし・・・」
《まあ明日になれば分かる・・・明日になれば、な》
それ以上ダンコは語らず、僕も明日は早く起きてファーストパーティーを迎えようと椅子に深く腰掛け眠りについた
翌朝
ダンコに起こされ水晶を覗き込む
まだ誰も入って来てない事に安堵してワクワクしながら覗いていると予想外の展開に混乱してしまった
雪崩込む冒険者達
その冒険者達に次々と倒される魔物達
想像していたのと・・・全然違う!
「何・・・これ?」
《前回の調査のようになると思った?昨日来た冒険者の数と1階の魔物の実力を考えれば容易に想像出来た光景よ。1階は超初心者用・・・他の地から来た冒険者なら単なる通過点に過ぎない。それとも何?お行儀よく一列に並んで攻略していくものと思ってた?》
思ってました
確かに何組か冒険者が来てたのは分かったけどまさかこんなにがっつくとは・・・いや、それもそうか
冒険者ギルドの役割は魔核の買取りにダンジョンの入場許可と入場料の徴収
つまり冒険者達はお金を払ってダンジョンに入ってるんだ
このダンジョンの正確な入場料はまだ知らないけど、他のダンジョンは大体100ゴールドと聞いてるから仮に100ゴールドとしよう。で、冒険者の主な収入源は倒した魔物の魔核をギルドに売って得るお金だ。下級魔物は平均5ゴールドで買い取ってくれるらしいから20体の魔物を倒して魔核を売れば入場料とトントンになる。けど・・・
「入場料分稼げても赤字・・・宿代に食事代は当然かかるし装備品なんかも永久に使える訳ではないから壊れた時の為にお金を貯めとく必要が・・・だからなるべく多くの魔物を倒して魔核を手に入れる必要があり、その為には人が最も多い入口でウダウダしてたら稼ぎげドンドン減っていってしまう・・・そう考えると入ったらすぐに他のパーティーより奥へって気持ちは分かる・・・分かるけど・・・」
《ダンジョンにとってはいい事よ?当然私達にも、ね。競うように倒してくれれば得られるマナもその分多くなるし、マナが多くなればダンジョンの成長も早まる。だから今日はお客様をガッカリさせないようにおもてなししましょ!》
「おもてなし?」
《稼がせてあげるの・・・初回特典よ》
そう言うと胸の中央にあるダンジョンコアことダンコが淡く光り司令室に所狭しと魔物を創り出す
「ちょっ・・・え??」
《配置は任せるわ。どんどん創るからどんどん配置してちょうだい》
スライム、ブラッドドック、バウンドキャット・・・1階の魔物を次々に創り出すダンコ
僕は慌てて水晶を見ながら手薄になった場所に配置していく
なるほど・・・確かに記念とか思い出とか言ってる場合じゃない。予定では椅子に腰かけながら冒険者の活躍を傍観するはずだったのに・・・
「おぉ!?このダンジョン倒した魔物がすぐ湧くぞ!?」
「低階層だから?もし高階層でも同じなら宝の山よ?」
「魔物によっちゃあやべぇけどな!中級レベルだったら普通に死ねるぜ?」
「情報と違いますね・・・無理せず進んだ方がいいかもしれません」
水晶から声が聞こえてくる
あのパーティーは・・・昨日門番している時に初めて来た冒険者パーティーだ
「ダンコ・・・少し遊んでいい?」
《遊ぶ?何をして?》
「拍子抜けって言ってたパーティーがいてね・・・ちょっと歓迎しようかと・・・」
《いいけど程々にね。冒険者はマナを運んでくれる貴重な存在・・・リピーターになってもらわないとすぐガラガラのダンジョンの出来上がりよ》
あーそれは嫌だな・・・そっか・・・活気あるダンジョンにするにはそういう事にも気を付けないといけないのか・・・
「分かった!程々にするよ・・・また来たいって思うけど骨のあるダンジョンだって思わせるように・・・程々に、ね」
せっかく創った魔物が簡単に倒されていくのも癪だし、名前も知らない冒険者パーティーだけどこれも何かの縁・・・このダンジョンの広告塔になってもらおう
「おい!倒す前から・・・」
「チッ!今日は様子見だったのに・・・囲まれた!?」
「たかが下級されど下級・・・この数はちぃっと面倒だぞ!」
「王国騎士団の調査報告も当てにならないですね・・・いえ・・・確か報告の中に『面白いダンジョン』という記述が・・・なるほど」
「考えるのは後だ!今はここを切り抜け生き残る事だけを考えろ!」
「結局考えるんじゃない・・・まあこれだけの数を倒せれば今日のノルマはクリア出来るし・・・とっとと倒して帰るわよ!」
どうやら好評みたい・・・僕の歓迎パーティーは
4人の冒険者を取り囲む1階の魔物達・・・その数60体
彼らの構成は近接アタッカーの剣士に後衛アタッカーの魔法使い、それにスカウトとヒーラーの4人組。タンカーがいないのは剣士がタンカーを担ってるからって感じかな?
《程々って言ったのに・・・》
「大丈夫・・・彼らなら切り抜けられると思うし・・・やりたい放題やられて少しムカついたから少しくらい痛い目みてもらいたいからね」
魔物はマナを得る為の道具・・・それは分かってるけど・・・
《・・・いい傾向ね・・・》
「ん?なんか言った?」
《別に・・・余所見してる場合じゃないわ・・・始まるわよ》
言われて水晶を覗くとちょうど魔法使いが魔物達に向けて魔法を放つ瞬間だった
「そこ邪魔よ!蒸発しな!『ファイヤーボール』!」
5つの炎の玉が頭上に現れ魔物の群れへと放たれる
彼女の言う通りスライムは蒸発しブラッドドックは弾け飛ぶ
バウンドキャットだけは巧みに躱すが壁から跳ね返って来る所を剣士に串刺しにされてしまった
今の魔法で包囲の一角が崩れると彼らはその場所に移動して包囲から抜け出した
「もっとこう・・・全体を燃やしちまう魔法はねえのかよ!」
「あるにはあるけど調整が難しいのよ!ダンジョンの1階で全滅なんて洒落にならないでしょ!?」
どうやら魔法使いは広範囲魔法も唱えられるらしい
ファイヤーボールも5つ同時に出していたし・・・冒険者としてはかなり上の方なのかな?
全力を出さなくても1階なら何体襲って来ようが切り抜けられるって事か・・・なら・・・
《ロウ!》
「あ・・・そっか・・・程々、ね」
囲いを突破した彼らはペースを取り戻したのか危なげなく魔物達を全てを倒してしまった
魔法使いはファイヤーボールのみで
剣士は所々で魔技を使い無キズ
スカウトは短剣を投げアタッカー2人のサポートに徹し、ヒーラーが活躍する事なく全て・・・
「ふう・・・これだけ魔核があればしばらく休んでもお釣りが来るな」
「しかし全ての階層に同じ事が起こると言うなら対策を練らないといけませんね。もし魔物が中級・・・いえ下級でももう少し厄介な魔物でしたら・・・」
剣士が落ちている魔核を拾いながら呟くとヒーラーは魔物達の残骸がダンジョンに消えて行くのを眺めながら思案する
「多分どっかの誰かさんが罠を見逃したのよ。さすがに罠じゃなくてこの湧き方は異常だし他のダンジョンで聞いた事ないわ」
「あのなぁ・・・俺が1階なんかの罠を見逃すと思うか?」
「おいおい・・・今は魔核を集めてダンジョンを抜ける事に集中してくれ。その辺の事は祝杯でも挙げながら話そうや」
「・・・そうだな」
剣士の言葉に全員が頷き魔核を拾い始める
それをぼーっと見ていると胸にある石がチカチカと光り出す
《ロウ?まだこの冒険者達に固執するつもり?》
「いや・・・もういいだろう・・・このパーティーは」
もうダンジョンから出る気満々のパーティーに魔物を差し向ける気にもなれず、僕は水晶で別の場所を映し出し魔物の配置を続け始めた
道具である魔物を冒険者の近くに配置するただの作業
それなのに・・・僕の拳はずっと強く握り締められたままだった
ダンジョンは眠らない
それでも冒険者達は目標を達成したのかお腹が空いたのか、それともマナが切れたのか次々にダンジョンを出て行く
残る冒険者もいるにはいたが、僕は限界を迎えていた
肉体的にも・・・精神的にも・・・
《今日はこの辺にしておく?食事も取ってないしろくに休憩も・・・疲れたでしょ?》
「・・・う、うん・・・そうだね・・・でもそうなると魔物は・・・」
《初回特典は終了よ。別に湧かなくなったら他の場所に移動するでしょ・・・まだ2階に行く冒険者も出てないし当分大丈夫よ。それに足りなくなればいつでもゲートを使って戻れるし・・・ね?》
「それなら・・・いっか・・・」
水晶から目を離すと背もたれに体を預け天井を見上げる
深く息を吐き目を閉じると今日の出来事が脳裏に浮かぶ
《どうしたの?》
「いや・・・何でもない」
そう答えた僕は立ち上がるとゲートを開き兵舎の自室に戻ると急にお腹が空き食事をする為に外へ出た
なんだか頭がふわふわしていて・・・思考がはっきりとしない
匂いに誘われたのかふらりと見知らぬ店に入ると席に座り適当に注文した
僕はどうしてしまったんだろう・・・疲労が溜まっておかしくなったのか・・・
いつの間にか運ばれて来ていた食事
何の肉か分からないが茶色いソースがかけられ甘い匂いが鼻腔をくすぐる
フォークとナイフを手に取りさっそく食べようとすると聞き覚えのある声が背後からして思わず振り向いてしまった
「・・・最高だぜ・・・ん?なんか用か?兄ちゃん」
「いえ!・・・すみません・・・」
ほろ酔い状態で上機嫌に喋る男・・・そのテーブルには他に男1人に女2人・・・そう・・・あのパーティーだ
剣士の男に振り向いた所を見られ慌てて首を振ると向き直り意味もなく目の前の肉を凝視した
別に相手は僕の事を知らない・・・それでも心臓が飛び出るほどバクバクと揺れ動く
「・・・まあいいや。で?次はいつ潜る?今日の稼ぎだと1週間は余裕だぞ?」
細かく切ってフォークで刺した肉を口に頬張りながら聞き耳を立てる
どうやらたまたまあのパーティーが祝杯を挙げている所に出会してしまったらしい
「って言っても何も無いわよ?この村。店は殆ど露店だし宿も建設中の本館の横の仮設だし・・・稼げるって言ってももうちょっと・・・ねぇ」
「これから発展していくのでしょうね・・・それにしてもダンジョンに行かないとなると時間を持て余しそうですが・・・」
「俺は・・・ギルドにでも行ってようかな・・・」
「はあ?あの仮設のギルドに何が・・・あっ!あの受付でしょ!?このロリコン!」
「ち、ちげえわ!」
「ふーん・・・いかにも村出身のおぼこい子だったし巨乳だったし・・・アンタのもろ好みじゃない」
「そんなんじゃねえって!」
おぼこい?・・・それよりも村出身のきょ、巨乳の受付??
この村に当てはまる人物は1人しか居ない
けど彼女は・・・
「・・・仕方ない。稼げるだけ稼いで別の街で豪遊ってのはどうだ?入場料と旅費を引いてもかなりの金が余るだろうし」
「それ賛成!」
「でも次々に冒険者が訪れたら次来た時には宿が取れないかも知れませんよ?」
「その時はその時だ。村の空いてる場所にテントでも組めばいいし・・・」
後ろのパーティーはダンジョンの事というより今後の事を話し始めていた
僕はというと・・・彼らの話していた受付の事で頭がいっぱいで結局どんな味付けかも分からぬまま料理を完食しお代を払って店を出る
適当な場所でゲートを開くと司令室に顔を出すとスラミの頭を撫でた後で椅子に腰掛けた
《ロウ!聞いて聞いて!マナの量がかなり・・・ちょっと聞いてる?》
「ん?・・・ああ・・・」
《・・・もうしっかりしてよね!この調子なら2、3日すればまた階層を増やせるわ。そろそろ訓練した魔物を投下してもいいかも。マナの節約にもなるしね!あと──────》
ダンコの声が耳に届くけど頭に入って来ない
今日のダンジョンを見て僕はおかしくなってしまったのかも・・・それともさっきのパーティーが言ってた事が気になって?
とにかく明日は門番の仕事がある
それが終わったら見に行こう・・・冒険者ギルドに




