135階 パーティーメンバー
ハア・・・泣きそうになるセシーヌを宥めるのに疲れてしまった・・・
どうやらセシーヌは僕が一緒にムルタナに行くと勘違いしていたらしい
もしカルオスで用事がなくてもそれだけは勘弁して欲しい・・・あのエミリとしばらく一緒に行動するなんて・・・命がいくつあっても足りないよ
あの時セシーヌが部屋に入って来なければ・・・エミリは僕に仕掛けて来ていた
どれくらいエミリが強いか分からないけど、座った状態で果たして躱せたかどうか・・・
セシーヌにお願いされて見送りまでしたけど、セシーヌは何度も何度も振り返り、エミリは相変わらず僕を睨めつけ、シーリスに至っては姿も見せなかった
結局彼女の中では僕がどう変わろうと厄介者なんだろうな・・・恐らく母ちゃ・・・母親も・・・
《ロウ・・・いいの?ギルドで待たせているんじゃ・・・》
「・・・分かってるよ・・・でもね・・・足が鉛のように重いんだ・・・これがいわゆる一難去ってまた一難ってやつ?」
《何言ってんだか・・・自分で蒔いた種でしょ?さっさと行ってドラゴニュートを倒して来なさい》
「そんなに焦らなくてもドラゴニュートは逃げはしないよ・・・ハア・・・気が重い・・・」
重い足を引きずりながら冒険者ギルドに向けて歩き出す
怒ってる・・・よなぁ・・・待ち合わせに現れたと思ったら理由も告げずにどこかに行ってしまったんだ・・・怒って当然、最悪殴られたりするかも・・・
足取り重く歩き続けること数分・・・とうとうギルドの前に辿り着いてしまった・・・言い訳も思い付かないまま・・・
これ以上待たせる訳にはいかないと意を決して扉を開けるが朝居た場所に3人の姿はなかった。もしかして3人でダンジョンにでも行ったのかな?と思ったところで受付の女性が僕を見て立ち上がりこう言った
「ロウニールさんですよね?ゲイルさん達は2階のギルド長の部屋に居ますよ」
おぅ・・・ダズーさんの所か・・・
更に緊張感が増したけど行くしかない
受付の女性に礼を言って2階に上がると以前訪れたギルド長の部屋の前に辿り着く
大きく息を吐き気合を入れてドアをノックすると中から『入れ』と声が聞こえた
中に入るとゲイルさんにダズーさん・・・それに朝見かけた2人の女性がテーブルを囲んでいた
「おう!遅かったじゃねえか!」
「すみません!ゲイルさん・・・その・・・」
「女か?女なのか!?」
「え?いや・・・」
「まあいい・・・とりあえず自己紹介しようぜ!」
・・・怒ってない?・・・なんで??
「なんだぁ?驚いた顔して・・・もしかして怒られるとでも思ってたのか?」
「え、ええ・・・」
「ちゃんと遅れるって言いに来たじゃねえか。それだけで十分だ・・・理由は話したきゃ話せ。話したくないなら話さなくていい。んな事より自己紹介だ」
ゲイルさんが言うと2人の女性が立ち上がり僕を見た
「初めましてロウニール君。ワタシの名はジーニャよ・・・よろしくね」
「ジルです」
ウインク付きの自己紹介をするジーニャさんと無表情で名前だけを名乗ったジルさん・・・2人とも僕より年上ぽいな・・・特にジーニャさんはかなり・・・
「もう少しねえのかよ・・・ほら、適性とか年齢とかよ」
「適性はこれから一緒にダンジョンに行くのだからそこで知ってもらえば・・・年齢は・・・ひ・み・つ」
「タンカーで歳は21よ」
「ジル~」
ジルさんが素直に答えるとジーニャさんが恨めしそうな顔をしてジルさんに訴えかける
「どうせいずれバレるでしょ?」
「バレるって何よ!バレるって!」
どうやらそこそこお歳を召されているようだ
「・・・ロウニールです・・・ゲイルさんに聞いていると思いますが魔法剣士で・・・17歳です」
「17?あらま同い歳じゃない」
嘘つけ
「マイナス10すればね」
「ジィ~ル~」
なるほど・・・ジルさんは21でジーニャさんは27か・・・それにしても・・・顔が怖い・・・
「その辺にしとけって・・・んじゃまあ自己紹介の続きといくか」
「続き?他に何を・・・」
「決まってんだろ?パーティーメンバーの自己紹介となりゃ・・・ダンジョン探索だろ?──────」
ギルド長のダズーさんに見送られ1階で受付を済ますといざダンジョンへ
そう言えばもう昼過ぎ・・・色々あって昼食を食べ損ねてしまった
「ロウニールは11階からだったよな?」
「・・・ええ」
本当は21階まで行けるけど無許可で入ってたから言えない・・・まっ、11階から21階まではそんなに苦労しないからすぐに到達出来るだろう
「ふむ・・・それなら今日は軽く実力を見せ合って明日から本格的に潜るか・・・」
エモーンズダンジョンと違って各階にゲートがないからなぁ・・・40階のドラゴニュートに辿り着くには31階のゲートを使用するのが最短ルートになる。それだけでもキツイのに11階からなんてとてもじゃないけど道のりが長過ぎる
なので事前に31階のゲートを使えるようになっておかないといけないんだよなぁ・・・当然ゲイルさんは使えるし、恐らくこの2人も・・・なんだか僕の為に申し訳ないような・・・
「道順は全て頭ん中に入ってるから問題ねえがどうしても時間がかかる・・・俺とロウニールで行っても良いが・・・」
「何言ってんの・・・別に付き合うのは苦じゃないわ」
「ええ・・・稼ぎにもなりますし」
2人は特に気にした様子もなく一緒に行ってくれると言ってくれた
にしても・・・ヒーラーとタンカーだよな?昨日は2人でダンジョンに行ってたみたいだけど1体どうやって魔物を相手に・・・
ジルさんは背中に小さな盾をひとつ背負ってるだけ・・・特に武器らしい武器は持っていない
ジーニャさんは何も持っておらず手ぶら・・・ヒーラーって杖とか持っているイメージだけど必要ないのかな?
「ん?お姉さんの横乳が気になる?」
「ぶっ!・・・ち、違います!」
横乳って!
確かに見え隠れしているけども!
以前サラさんが着ていたようなありえないほどハレンチな服に似ている・・・実は流行っているのか?
「カッカッ!気をつけろよ?ジーニャ・・・俺との約束をすっぽかすほど女に飢えてるからなロウニールは」
「そういうんじゃないですって!」
そりゃあ向かった先は女性の所だったけども!
「あらヤダ・・・テントをたてる時は離れてた方がいいかしら?」
「ロウニールの為にね」
「ジ~ル~」
この2人・・・仲がいいのか悪いのか・・・
そんなくだらない話をしている間にも歩は進み、ようやくダンジョンの入口に辿り着く
人喰いダンジョン・・・2年ぶりに訪れた場所は特に変わった様子もなく冒険者を飲み込もうと大きな口を開けていた
「おう!入るぞ!」
「ゲイルさん!お願いします!」
入口に立つギルド職員に入場許可証を見せるといざゲート部屋へ
全員で11階へのゲートに入ると相変わらずの光景が広がっていた
ここを真似て作ったんだよな・・・28階・・・その節はお世話になりました
ダンジョンの中に入ったのに外に出ような感覚・・・ゲートを通り11階の地面を踏むと否が応でも緊張する
「さてと・・・どっちから見せる?」
ゲイルさんが振り向きざまに言うと無言でジルさんとジーニャさんが前に出た
「先ずは私達から・・・ね」
ジーニャさんは僕にウインクするとズンズンと先に進み始める
それに合わせてジルさんが先を行くが突然振り返りジーニャさんを睨みつける
「ちょっと・・・少しは考えてよ」
「タンカーの腕の見せ場を作ってあげないとつまらないでしょ?」
「そんな見せ場は要らない」
無警戒に突き進むジーニャさんに文句を言っていると上空に2人目掛けて飛んで来る影が・・・あれは確か・・・ビークイーグル!
「ほら、来たわよ?いつも通りお願いね」
「分かってる・・・そこで止まって」
何をするつもりだ?
ビークイーグルは少し前にいるジルさん目掛けて突っ込んで来る
ジーニャさんはジルさんの斜め後ろに立つと何も無い空間に手を突き出した
ジルさんはゆっくりと背中の盾を取り出し構えるとチラチラと斜め後ろに居るジーニャさんを見て・・・
「行くよ!」
「ハイハイ、いつでもどうぞ」
ビークイーグルがその鋭い嘴でジルさんに襲い掛かると彼女は当たる瞬間に盾を斜めに構えビークイーグルをいなす
勢いが少し弱まったビークイーグルがちょうどジーニャさんの前に来る瞬間、ジーニャさんは短く詠唱する
「槍よ貫け『ストーンスピア』!」
手のひらから石で出来た槍が飛び出しビークイーグルを貫く・・・発動時間も短いし威力も高い・・・けど・・・あれ?ジーニャさんってヒーラーじゃ・・・
ビークイーグルは石の槍に貫かれ程なくして絶命・・・見事な連携だけど・・・どういう事??
「・・・どうだった?」
「えっと・・・ジーニャさんってヒーラーじゃ・・・」
「そっ・・・もちろん治癒魔法も出来るわよ。人を癒す事の出来るヒーラーは聖職者とも言われているわ・・・で、私は聖職者でありながら傷付ける事が出来る魔法も使える・・・人呼んで『聖魔導師』またの名を・・・『賢者』」
け、賢者・・・ジーニャさんが!?
「見た目は『性魔導師』だけどね」
「ジ~ル~」
賢者は二つの種類がある
四つの属性を操る大魔導師と・・・ヒーラーと魔法使いの特性を持つ聖魔導師だ
まさかジーニャさんが賢者だとは・・・
「驚いた?まっ、土属性しか使えないけどそれでも立派な賢者でしょ?」
確かにこれなら2人で魔物に対抗出来る
でも確か・・・ヒーラー・・・つまり再生は他の適性を持ってしまうと消えてしまう可能性が高いと聞いた事があるんだけど・・・
《再生は色で言うと白・・・つまり他の適性と混じると染まってしまうから白なのよ・・・両立するのはかなり難しいはず・・・なかなかねこの人間》
それを言うと5つの適性を同時に持つ僕はなんなんだって話になるけど・・・とにかく凄い人だ・・・
それにジルさん・・・何気なくやってたけどビークイーグルの突進を難無くいなし、更にジーニャさんが魔法を放つ場所に誘導していた・・・受け止めるのではなく受け流すタイプのタンカーだ
もしかしたらドラゴニュートと相性がいいかも・・・ドラゴニュートはかなり素早く威力が高い攻撃を仕掛けて来るはず・・・全てを受け止めていたらマナが尽きて盾を破壊されかねない・・・けど、受け流せば体勢を崩せるかもしれないし、体勢を崩せれば隙も生まれる・・・その隙に僕とゲイルさんで攻撃すれば・・・
「その顔はどうやら満足したみてえだな・・・そんじゃ次はロウニール・・・お前が見せてやれ・・・魔法剣士の実力を、な」
「はい!」
最初はどうなる事かと思ったけどこれならダズーさん達のパーティーと戦って経験を得たドラゴニュートでも・・・倒せるはず
どれだけ強くなっているか分からないけど、ダズーさんとゲイルさんの話だとここ2年間はドラゴニュートに挑んだ冒険者もいないって話だしそこまで強くはなってないだろうし・・・
《これだけの実力を持っていて無名っていうのは気になるけどね》
・・・言われてみればそうだな・・・適性が二つの人って何かしら異名が付いてたり有名だったりするのに・・・サラさん然りシークス然り・・・もしかして何か理由があるのかな?
「おいロウニール・・・大丈夫か?」
「あ、はい!行きます!」
今は余計な詮索してないで集中しないと・・・
今度は僕がみんなの信頼を得る番・・・全力を出せないのはあれだけど・・・頑張るぞ──────




