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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
136/856

133階 教会

町を並んで歩いているとセシーヌの印象は至って普通の女の子だった


街を歩き気になるものがあれば『あれは何か』と尋ねて来る。それを僕が持てる知識を総動員して答えると目を輝かせて驚いてみせる


修道服と顔立ちのせいで目立ちはするけど誰も彼女を聖女だとは気付かないだろうな


「ロウニール様はどのような食べ物がお好きですか?」


「僕?・・・うーん・・・肉ですね」


「お肉ですか・・・私はあまり口にする機会はないので上手に焼けるかどうか・・・お飲み物は何が好きですか?」


「???・・・えっと・・・爽やかな柑橘系の飲み物が・・・」


「それは何とかなりそうですね。良かった」


「えっとセシーヌ様?さっきから何を・・・」


「ロウニール様に私の手料理を食べて頂きたくて・・・よく言うではありませんか・・・男心を掴むにはまず胃袋からと。まあ料理はしたことないのですが・・・頑張ります」


「ハ・・・ハハッ・・・」


乾いた笑いが思わず零れる


彼女はどうやら本気のようだ・・・僕は一体どうしたら・・・



その後たわいもない会話を続けながら歩き教会に辿り着くとセシーヌと別れた


朝からゲイルさんとの模擬戦に続きシーリスとセシーヌの登場にすっかり疲れ油断していた・・・いや、油断していなくとも気付けなかったかもしれない


「カッ・・・押し倒しでもすりゃ戦えたのにな・・・残念残念」


背後に人の気配がして振り向くとそこにはキースが立っていた


「うわっ・・・いきなり人の後ろに立たないで下さい!」


「いきなりってお前・・・俺はずっと後ろにいたぜ?」


んなバカな・・・これだけの存在感のある人が後ろにいて気付かないはずが・・・


《ずっと後ろにいたわよ?付かず離れずって感じでね》


本当に?だとしたらこの人・・・気配消すの上手すぎだろ・・・


「小僧が思っている以上に『聖女』ってのは国にとって重要なんだよ・・・どっかの馬の骨と2人っきりにさせるわきゃねえだろ?」


「うぐっ・・・馬の骨で悪かったですね!」


「怒るな怒るな・・・いい線いってるぜ?小僧・・・中途半端な魔法剣士なんてやめて剣士になれ。そうすればいいところまでいけるぜ?」


中途半端!?手加減していたとはいえあの戦いを見て中途半端って言えるこの人って一体・・・


「どれもこれも極められる程人の人生は長くねえ・・・()()()みたいにゃなるなよ」


そう言ってキースはセシーヌの後を追いかけるように教会へと歩いて行く


アイツ?・・・アイツって誰だろ?


《恐ろしいくらい強いわね・・・あの人間》


「そんなに?・・・どれくらい?」


《そうね・・・人間で言うとディーン・・・それとレオンと同等レベルよ──────》




今回はなるべくエモーンズに戻らずに冒険者ロウニールとして過ごすことに決めていた


なので夜になったらゲートで戻ったりせずにちゃんと宿に泊まり、そこから冒険者ギルドに通う・・・ごく当たり前の事なんだけど僕にはとても新鮮だった


「これもスラミが色々出来るようになったお陰だけど・・・てかダンコ・・・もしかしてセシーヌの事嫌い?」


《何よ突然・・・》


「だって普段なら僕が誰かと話してても余計なちゃちゃを入れるだろ?それがセシーヌの前だと少ないように感じたから・・・」


《・・・そうね・・・嫌いと言うより警戒してるって言う方が正しいかしら》


「警戒?」


《人間が聖女と崇めているだけあって非凡な能力を持っているみたい。まるで私を見透かすような・・・》


「バレそうってこと?」


《ええ。相手のマナ量を正確に把握するのなんて至難の業・・・それを一目見ただけで出来るなんてかなりの能力よ。油断したらバレるかもね》


「・・・」


《何よ》


「・・・いや、ダンコならそんな厄介な人はすぐに『始末しましょう』とか言いそうだと思ったのに・・・」


《・・・そうならない理由は大きくふたつあるわ。ひとつはあの人間・・・キースだっけ?アレが常に近くに居るから・・・それに国にとって聖女は重要なんでしょ?そんな人間を始末したとしたらそれこそ厄介な事になるわ》


「なるほど・・・もうひとつは?」


《・・・アナタに気がある人間を始末する気になれない・・・ってところかしらね》


「・・・もし僕がキースより強かったら?」


《即処分ね》


「おい」


《冗談よ。たとえロウが誰よりも強くなっても・・・あの人間がアナタに興味を失っても・・・手を出すべきではないわ。下手をすれば国を敵に回す事になりかねないからね》


手を出すつもりはないけど、ダンコの言う通り聖女様が危害を加えられたと知ったら国全体が血眼になって犯人を探しそうだ・・・キースが言っていた言葉は嘘なんかではないだろう


どうして国は聖女を大事にしているのだろうか・・・実はとてつもないヒーラーだからとか?


《それよりも良いの?》


「何が?」


《あの人間に頼み事をするんじゃなかったっけ?》


「あの人間ってセシーヌ?・・・何かあったっけ?」


《呆れた・・・てっきりあの村の少女の母親を・・・》


あの村?少女の母親?・・・・・・あっ


「すっかり忘れてた!ど、どうしよう・・・いつここを出るか分からないし今から・・・でもゲイルさんを待たせてるし冒険者ギルドに行かないと・・・」


《別にギルドには朝来いって言われただけでしょ?教会に寄ってから行ったって少し遅れる程度・・・さっさと行かないとそれこそあの人間達はこの街から出て行くかもしれないわ》


「そ、そうだよね!分かった!急いで教会に・・・ああ・・・シーリスに出会したらどうしよう・・・」


《ハア・・・アナタずっと仮面をかぶっておけば?》


「な、何を突然・・・」


《だってそうでしょ?ローグの時はいつも冷静沈着なのに今のロウときたら慌てふためいちゃって・・・》


うっ・・・ダンコの言う通りだ・・・ローグの時はしっかりしなきゃって気持ちが前面に出るから慌てる事はない・・・まあ心の中ではいつでも慌ててるような気がするけど・・・けど傍から見たら冷静に物事を判断している感じだ


それで今まで上手くいってたし今回も・・・



仮面は付けずに自分はローグだと思い込む・・・すると少しだけ落ち着く事が出来た


「よし!冒険者ギルドに寄ってから教会に行く!」


《へえ・・・あの人間がこの街をすぐに出て行かないと?》


「いや、ゲイルさんに少し用事が出来たって伝えてから行く。予定より早く来たんだし急いではないはず・・・黙って遅れるより全然いいだろ?」


《そうね・・・さっきまでの慌てっぷりが嘘みたい》


「うっ・・・と、とりあえず善は急げだ!」


そう言って部屋から飛び出すと未だ慣れないカルオスの道を進み冒険者ギルドへ


辿り着くと扉を開けて閑散とするギルドの中で2人の女性と話をしているゲイルさんをすぐに見つける事が出来た


「おう!こっちだ!」


「すみませんゲイルさん!ちょっと用事が・・・すぐに戻って来ます!」


「あん?おい!ロウニール!」


多分同じテーブルで話していた女性2人がパーティーメンバーなのだろう・・・でも今はそれどころじゃない!急いで教会に行かないと


冒険者ギルドを出て教会に向かって走り出す


昨日の段階で街を出る日を聞いとけば良かった・・・目的地がここならしばらく滞在するのだろうけどあくまで目的地はエモーンズ・・・そんなに長居はしないはず


まだ残っていてくれと願いながら教会に辿り着くとそのまま中に入って行く


中に入るとまず目に飛び込んで来たのは手を組み祈りを捧げるようなポーズをした女性の像


その像の前に赤い絨毯が敷かれ、左右に椅子がズラリと並ぶ


チラホラと椅子に座り像に向かって祈りを捧げる人が見えるが多分教会の人じゃなくて街の人のようだ


「・・・何か?」


入口でキョロキョロしている僕を不審がってか修道服を着た女性が僕に尋ねる


「あ、えっと・・・セシ・・・」


これ幸いとセシーヌの所在を聞こうとして慌てて口を閉じた


相手は聖女・・・気軽に会える人じゃないはず


ここで僕が普通に聞いて会わせてもらえるはずもない


「?・・・お祈りでしたら席でお願いします。ここでは他の方の妨げになってしまうので」


あう・・・どうする・・・ええいままよ!


「セシーヌ様はいらっしゃいますか?その・・・少しお話したいことが・・・」


セシーヌと名を出した瞬間、女性の表情が変わる


目を細め周囲に目配せすると口元だけ笑ってみせた


「誰の事か存じ上げませんが詳しくお話をお聞きしたいので別室でお伺いしても?」


口調は丁寧だが警戒心MAXって感じだ・・・やっぱりセシーヌの存在を隠しているからかな?そりゃ聖女がここに居るって街の人が知ったら殺到しそうだし仕方ないか


「は、はい」


ここは大人しくついて行くしかないと頷き、彼女の後ろをついて行く


この反応からセシーヌはまだ街を出て行ってないのだろうけど会わせてくれるかは微妙だな・・・伝言だけでも頼むか?でも伝えてくれなかったら・・・


彼女は僕の前を歩き、ふと立ち止まると同じ修道服を着た女性に何か耳打ちしていた


そして何事もなかったようにまた歩みを再開し立ち止まったのは教会内にある一室の前だった


「こちらでお待ち下さい」


そう言い残すと彼女は去って行く・・・1人残された僕は案内された部屋のドアを開け中に入る


何も無い小部屋・・・どうやら単なる空き部屋のようだ


「客人扱いではなさそうだね」


《そうね。客人なら椅子もないような場所に案内するはずもないし・・・あら早い・・・さっそく来たわよ》


ダンコの言う通りドアが開く音が聞こえて振り返るとそこには記憶の片隅にある顔・・・確か街の入口でセシーヌと僕の間に入って来た・・・なんて名前だっけ?


「お待たせしました。それで御用件は何でしょうか」


丁寧を装っているがいきなり挨拶もなく本題に入る。きっと本心では早く帰れってところかな?


「ロウニールと申します・・・その・・・セシーヌ様にお願いがあって・・・」


「お願い?・・・それでしたら私が承ります」


一瞬ギロリと僕を睨んだ後、作り笑いを浮かべる


この人・・・怖い


「えっと・・・直接本人に伝えたいのですが・・・」


「セシーヌ様はお忙しい方ですので御容赦ください。それでお願いとは?」


ぐっ・・・取り付く島がない・・・ちゃんと伝えてくれるかも分からないし、返事も聞けないからとてもじゃないけど頼む気にはならない・・・かと言ってこのまま粘ってもセシーヌとは会えそうにない・・・どうしよう


「あ・・・えっと・・・」


くそっ・・・こんな時ローグならどうする?このままお願いするか出直すか・・・ラルの母親の命が懸かってるんだ・・・考えろ


「・・・」


ううっ・・・なんて冷たい目だ・・・その視線がプレッシャーになって何も浮かばない・・・考えろ・・・どうすれば・・・


「あの・・・やっぱり直接本人に・・・」


「貴方はセシーヌ様の身分を御存知ですよね?でしたらなぜ会えないかも自ずと分かるはず・・・あまり執拗いようですとこちらもそれなりの対応をさせてもらいますが?」


「それなりの対応って?」


「御想像にお任せします」


「・・・では、お伝え下さい。『話がある』と」


「畏まりました。私の方で責任を持ってお伝えしますので今日はお帰り下さい」


「・・・はい・・・」


この人は伝えない・・・そんな確信めいたものを感じた僕はある事を決意する


「では」


促されて小部屋を出ると待ち構えていた女性二人と目が合った


余計な所に行かないようお見送りしてくれるみたいだけど・・・


「あっ!洩れそう!トイレ借ります!」


「ちょっ!?」


我ながら情けない作戦だけど『トイレを探すフリをしてセシーヌを見つける』・・・見つかればセシーヌが何とかしてくれるだろうけど、見つからなければ・・・物凄く怒られるだろうなぁ・・・


「待ちなさい!」


突然走り出した僕に呆気に取られていた二人だがすぐに我に返り追いかけて来た


そんなに広くないからすぐに見つかると思うけど、部屋をひとつずつ開ける暇はない


となると自ずとやる事はひとつ・・・


「スゥ・・・セシーヌさ」


《ロウ!屈んで!!》


走りながら息を吸い込み、大声を出した瞬間にダンコが鋭く言い放つ


咄嗟にその指示に従い屈むと頭の上を何かが風を切り通過する


「・・・チッ・・・トイレはそちらでは御座いませんよ?ロウニールさん」


短剣を逆手に持ち親切に教えてくれるのはいいけど・・・今舌打ちしましたよね?


「は、ははっ・・・ついうっかり・・・て言うかその物騒な物をしまってもらえませんか?」


「・・・貴方が教会から出たら考えます」


考えるって・・・


廊下にいた2人を抜き去りどこから出したのか分からない短剣で僕を殺そうとしたこの人は明らかに普通の人じゃない・・・セシーヌの護衛と言うより・・・


「何をしているのですか?エミリ」


この声は!


エミリと呼ばれた女性は咄嗟に短剣を懐にしまい僕に向けて意味深な視線を向ける


多分視線の意味は『余計な事は喋るな』だ


「・・・お客様を御案内していたところです・・・」


「お客様?」


ちょうど僕の真後ろに声の主が現れたのでどうやら短剣は見られずに済んだみたいだ


本当は告げ口してやりたい気持ちもあるけど・・・そうすると恨みを買いそうなので貸しにしとこう。今はそれよりも・・・


「おはようございます・・・セシーヌ様」


「まあ・・・ロウニール様!」


僕が振り返り挨拶するとセシーヌは嬉しそうに声を上げる


これで直接伝える事が出来る・・・ラル・・・母親は助かるぞ──────

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