132階 VSゲイル
カルオスに到着して早々聖女に求婚されるという意味の分からない状況を経て、日をまたぎようやく本来の目的地である冒険者ギルドに辿り着いた
最も賑わうであろうはずの朝にも関わらずギルド内は閑散としており寂しい状態に・・・まあそのお陰で目当ての人にはすぐに会うことが出来た
「おう!ロウニール!早かったじゃねえか!もう少ししたら迎えに行こうと思ってたところだ!」
良かった・・・早めに来ていて・・・エモーンズに来られてたらまたややこしい事になるところだった
僕を見つけて豪快に手を振り僕の名を呼ぶ『髭ダルマ』ことゲイルさん・・・相変わらずの立派な髭をたくわえドスドスと床を鳴らし近付いて来た
「お久しぶりですゲイルさん」
「ふむ・・・どうやら鍛えて来たようだな」
「分かるんですか?」
「何となくな・・・雰囲気からして別人のように見えるぜ?」
「そうなんですね・・・ゲイルさんも何となくですけど前より強く見えます」
「はっ、言うじゃねえか」
2年前の時と体格は変わってないけど強くなっているように感じる・・・なんだろう・・・僕も人の強さが少しは分かるようになったのかな?
「それで・・・あれからどうでしたか?」
ゲイルさんは2年間の間で自らを鍛える事とパーティーメンバーを集うと言っていた。周りを見る限りだとそのメンバーは見当たらないけど・・・
「まあ・・・色々あれだ・・・ここじゃなんだから外で話そうぜ」
少し困り顔でそう言ったゲイルさんを見てあまり良い話が聞けそうにないと感じた・・・最悪僕とゲイルさんだけでドラゴニュートに挑む事になりそうだ──────
ギルドを出て歩くゲイルさんの横に並ぶと色々と話してくれた
僕が去った後の2年間・・・ぶっちゃけ一年以上は変化のない日々を過ごしたらしい
自らを鍛えながらの対ドラゴニュートのメンバー集めは難航した・・・そもそもカルオスに滞在している冒険者はやる気がなく外部の人に頼らざるを得ない状況・・・それでもゲイルさんは必死にその時いた冒険者に頼んだそうだ
けど結局誰からも協力を得られず約束の日は刻一刻と迫ってくる
そして一年以上が経過してもはや協力してくれる人が出て来ても鍛える時間はなくなり即戦力を外部から探してこようかと考え始めた時・・・街におあつらえ向きの2人組が現れた
タンカーとヒーラー・・・組み合わせとしては珍しい2人組はかなりの実力者でありゲイルさんが求めていた能力を兼ね備えていた
「珍しいですね・・・タンカーとヒーラーの2人組って・・・」
「んまあそうだな。どこのダンジョンでも需要がある職業だが組み合わせとしては珍しいな・・・しかも2人でダンジョンに突っ込むんだからなおのことだ」
「え?・・・タンカーとヒーラーで?・・・誰が魔物を倒すんですか?」
「まあそうなるわな・・・俺も初めは信じられなかったが・・・まっ、一緒に行動すりゃ分かるさ」
って事はその2人が協力してくれるって事か
近接アタッカーのゲイルさんに遠近両方使える僕・・・それとタンカーとヒーラーならバランスが取れたパーティー構成になる。タンカーとヒーラーでどうやって魔物を倒しているか気になるけど、ゲイルさんの様子を見るとどうやら実力もありそうだ
「まっ、俺と2人の事は後で確認してくれ・・・ただダンジョンに行く前に確かめなきゃならねえ事がある」
なんとなしにゲイルさんと歩いてて今の今まで気付かなかった・・・いつの間にか街外れの広い空き地に辿り着く
そしてゲイルさんは背中に背負った戦斧の柄を握り構えた
「・・・最終試験・・・って感じですか?」
「雰囲気は別人だが中身がどうか分からねえからな・・・カルオスの未来を託せるかどうか・・・試させてくれや」
そう言い終えるとゲイルさんの戦斧から巨大なマナがうねりを上げる
「・・・悪ぃな・・・性格上手加減は出来ねえ・・・頼むから死んでくれるなよ」
「・・・少し帰りたくなって来ました・・・」
「フッ・・・2年待ったんだ・・・期待に応えてくれ・・・ロウニール!」
突然始まったゲイルさんとの模擬戦
僕は気持ちを切り替え魔法剣士ロウニールとなる
「ファイヤーボール!」
戦斧片手に突っ込んで来る
そのゲイルさんに手のひらを向けて牽制のファイヤーボールを放つとゲイルさんは一切躊躇せず戦斧でファイヤーボールを切り裂いた
「どうした?このままじゃ真っ二つだぞ!」
「模擬戦・・・ですよね?」
「手加減出来ねえって言ったろ!」
間合いを詰め戦斧を僕に向けて振り上げる
躱せない・・・そう判断した僕は剣に手を伸ばし振り下ろされようとしている戦斧に向けて放つ
剣気抜剣
ぶつかり合う剣と戦斧・・・マナを纏っていなければ当然戦斧の威力に負け剣は折れ僕は真っ二つになっていただろう
「・・・おい・・・俺の一撃を受けきるかよ・・・」
「ギリギリ・・・ですけどね・・・」
相手は片手に加えてマナも手加減出来ないと言いつつ振り下ろす瞬間に弱めてくれたみたいだ・・・僕は戦斧とぶつかる瞬間に両手で剣を持ち更にマナを追加して何とか耐えただけ
「お前さん・・・剣士としても一流になれるぞ?」
「そりゃどう・・・も!」
両手に力を込めて押し返す力を利用して一旦離れると剣にマナではなく風を纏う
「接近戦じゃとても敵わないので・・・僕なりの戦い方をさせてもらいます!」
近接戦闘はゲイルさんに一日の長がある
武道家としてなら何とか食い下がれそうだけど魔法剣士としてはかなり厳しい・・・となれば遠近両方を使える魔法剣士の特性を上手く使わないと・・・
「当たり前だ!俺を舐めてんのか!?ロウニール!」
「舐めてませんよ!魔法剣『風嵐』!」
剣を振ると無数の風の刃がゲイルさんに襲い掛かる
さすがにファイヤーボールのように切れないだろうと高を括ってたけど・・・
「げっ・・・」
「火の玉の次はそよ風か!?」
戦斧から体にマナを移動し傷付きながらも再度突進して来る・・・この人は恐怖ってもんがないのか!?
「くっ!」
「さて、次は受け止められないよう少しキツめに行くぞ!」
風の刃の群れを突っ切ると体を守っていたマナを戦斧に移す
さっき受け止められたのがよほどショックだったのか先程より一回りも大きなマナを纏い振り上げた
「それはちょっと・・・無理そうです!」
剣を地面に突き刺すとイメージするのはムルタナ村で作ったような土柱・・・でも今度は僕の足元を盛り上がらせるのではなく・・・
「おっ!?おおっ!?」
ゲイルさんの立っている場所を盛り上がらせる
戦斧を振り上げた格好のまま上空に押し出されるゲイルさん・・・このまま降りられない位置まで上げてやろうかと思ったけどすぐにゲイルさんは盛り上がる土柱から飛び降りた
「危ねぇ危ねぇ・・・てか楽して勝とうとしてんじゃねえよ」
「なかなか街を見下ろす機会なんてないですよ?それにダンジョンなら飛び降りる間もなく天井に到達してぺちゃんこになってたと思いますが・・・」
「言うじゃねえか・・・ちなみに魔法剣士ってなあれか?得意属性とか関係なく魔法を使えるのか?」
「いえ・・・多分使えるのは得意属性だけかと」
「・・・ったく、この化け物め・・・」
そうですよね・・・水属性は使うのやめとこう・・・四属性使えると言ったら卒倒しそうだ
ほとんどの魔法使いは得意属性以外は使えない。使えても威力が弱いから使わないと言った方が正しいか
初めに放ったファイヤーボールに風属性の魔法剣『風嵐』、そして土柱ことアースポール・・・どれも使えるレベルに達しているとなると魔法使いとしても超優秀なレベルになる・・・咄嗟とはいえファイヤーボールは出すべきじゃなかったかも・・・
「上げてきたな!ロウニール!!」
いや・・・ドラゴニュートを倒せるか倒せないかでカルオスの未来が変わるんだ・・・下手に出し惜しみして失敗するくらいなら・・・
やけに嬉しそうに構えるゲイルさんに呼応するかのように僕もニヤリと笑い構えた
「ゲイルさんこそ!」
それから水属性以外の魔法を駆使して思う存分戦った・・・望まぬ観客がいるのも知らずに・・・
「待て待て!もう分かった!・・・ったく・・・自慢の髭を焦がしおって・・・」
「ハア・・・ハア・・・すみません・・・手加減が苦手なもんで・・・」
「ぬかせ・・・手を抜いてやがったくせに」
「ゲイルさんこそ・・・まだまだ余裕って感じですよ?」
手加減をしたのは事実だけど体力的にはかなりキツかった
マナ量は僕の方が当然多いけどマナの扱いが抜群に上手い。それに両手で戦斧を持った時の破壊力は想像以上だ・・・これならドラゴニュートの硬い鱗も・・・
ただ問題はスピードか・・・ドラゴニュートは素早い・・・いくら破壊力があっても当たらなければ意味は無いし・・・そうなると僕の役割は自ずと決まってくる
陽動
魔法剣を使ってドラゴニュートの注意を引き付けゲイルさんが攻撃する・・・このやり方がベストかもしれないな
「・・・ところでロウニール・・・そこのお嬢さん方は知り合いか?」
「へ?お嬢さん方?」
地面に膝をつき息を整えながら対ドラゴニュート戦の事を考えていると突然ゲイルさんが変な事を口走る
お嬢さん方って・・・と、ゲイルさんの視線の先を追って振り向くとそこにはセシーヌと・・・見知った顔があった
「申し訳ありません。黙って見るつもりはなかったのですが声をかけるタイミングを失してしまいました」
ただお辞儀しただけなのに背後に花が見えたような気がした・・・さすがは聖女様
それに比べて・・・
僕が視線を向けるとその視線を躱すようにそっぽを向く・・・相変わらず・・・だな
「知り合いみたいだな・・・俺は一足先にギルドに戻ってるぞ。師匠に報告して色々と準備が必要だからな・・・今日はゆっくりして明日の朝またギルドに来い・・・明日から本格的に始めるぞ」
「っ!・・・はい!」
どうやら最終試験は合格みたいだ
ゲイルさんは服についた土を払うと戦斧を背負い来た道を帰っていく
「あら?」
セシーヌの声が聞こえたので振り向くとシーリスもまた去って行く・・・確かセシーヌの従者のはずなのに良いのか?彼女を置いていって・・・
「・・・素敵な妹さんですね。私とロウニール様を2人っきりにしようと・・・」
いやいや違うでしょ!・・・本当に変わってない・・・どうせ僕と同じ空気を吸いたくないとかそんな理由だろ?
「でも困りました・・・私は街中とはいえ1人で歩く事も禁止されているのですが・・・」
チラチラと僕を見ながら言うって事は送ってけって事なんだろうな・・・それにしても1人で街も歩けないなんて聖女って大変だな
「送って行きますよ」
「本当ですか!じゃあ行きましょう!」
嬉しそうにする彼女を見て少しは気が楽になる
僕の手を引くセシーヌの後ろ姿を見て、妹がこんな風に接してくれたらと考えてしまう僕がいた──────




