129階 ダンジョンブレイクの原因
・・・終わったか
目を閉じ結果を見終わると僕はムルタナのすぐ近くに通じるゲートを開いた
《なかなかダンジョンマスターっぽくなったじゃない・・・まさかアナタが魔物に人間を始末させるなんて思わなかったわ》
「・・・あいつがやろうとしてたことを真似ただけだよ・・・僕を刺し、魔物にやらせようとしていたことをそのまま、ね」
そのお陰で助かったんだけどね・・・あのままとどめを刺されていたら僕はもうこの世にいなかったして・・・マナを封じられたら何も出来ない・・・その事を改めて痛感した
《人間もなかなか侮れないわね・・・マナを封じる道具を作り出すなんて・・・》
「あれにはびっくりしたよ・・・まさかダンコとも話せなくなるなんて・・・簡易ゲートは常備していた方が良さそうだね。簡易ゲートがあればマナが使えなくてもエモーンズダンジョンに戻れるから今回みたいに捕まっても何とかなりそうだし・・・」
《そうね。対策はしといた方がいいわ・・・それと少し油断し過ぎじゃない?あの程度の人間に気絶させられるなんて・・・》
うっ・・・確かに・・・
バデットは決して弱くはない・・・けど、サラさんやシークスには数段劣る。けど僕は負けた・・・受付の女性が叫んだ事によって隙が生まれたのなんてただの言い訳に過ぎない・・・サラさんにこの事を話した日には何を言われることやら・・・
「以後気を付けるよ・・・ハア・・・最近はローグとの距離も縮まったと思ったんだけどな・・・」
ボヤきながら仮面を付けてゲートを通る
僕とローグは同一人物・・・だけど装備もそうだけど心構えもローグに劣っていると感じてしまっていた・・・仮面を付けるとこう気が引き締まるっていうか強くなければならないみたいな感じになる
逆に仮面を外すと強くなりたいという気持ちは強いけど『僕は弱い』って心のどこかで思い込んでしまっている気がする
これが多分・・・僕とローグの決定的な差なんだろうな
村の西側に門はない為柵を飛んで越えると村長とバデットが待つ村長の家へと急いだ
「おう!遅かったじゃねえか・・・で?終わったのか?」
村長の家に着くと出迎えたのは村長ではなくバデットだった
「ああ・・・さて、次は君の処分だな」
「やっぱり・・・見逃しちゃくれねえか・・・」
「当たり前だ。クルドに唆されたのだろうがこれまで好き勝手やってきたのだろう?」
「・・・まあな・・・」
「とりあえずこれまでやってきた事を全て話せ・・・それから処分は決める」
「ケッ・・・偉そうに・・・」
「とりあえず村長にも話があるから中で話そうか」
「・・・ああ」
バデットは素直に従い家の中へ。僕もそのあとをついて行くと先程話していた部屋に村長と・・・あれ?
「クルドは?」
「あー、誰かさんがぶん殴って気絶した元ギルド長か?そいつならさっき兵士に運ばせて牢屋行きだ。逃がしたらまずい雰囲気だったしな」
「そうか・・・ところで村長」
「は、はい!」
「村の人達には魔物が現れたのは誤報だったと伝えてくれ」
「・・・その件ですが先程も言っておられたのですが大丈夫なのでしょうか?・・・虚偽の報告・・・とりわけダンジョンに関してはかなり重い罪になると聞いておりますが・・・」
村長としてもダンジョンが無くなるのはかなりの痛手な為に出来れば残って欲しいと考えているみたい。でも、もし嘘がバレたらと心配しているようだった
「問題ない。国はダンジョンブレイクは一度起こると再び起こる可能性が高いからという理由のみでダンジョンを破壊する・・・が、裏を返せばダンジョンブレイクが再び起きないとなれば壊す必要が無いと言う事になる」
「ハッ、ダンジョンブレイクの原因は未だに不明だ・・・起こさないようになんて出来れば苦労しねえってえの」
「不明か・・・ダンジョンブレイクが起きたダンジョンと起きてないダンジョンを比べれば一目瞭然なのだがな・・・国もまだまだ調査が甘いな」
《偉そうに・・・私が教えたから知ってるだけでしょ?》
うるさい
「まさか・・・知っているのか?ダンジョンブレイクが起きる原因を・・・」
「ああ・・・過去のダンジョンブレイクが起きたダンジョンとムルタナ村のダンジョンを照らし合わせれば簡単に分かる」
過去のダンジョンブレイクなんて知らないけどね
「ほ、本当ですか!?そ、それで・・・原因とは・・・」
村長の質問に僕は行動で答える
スっと手を上げると指を立てバデットの事を指さした
「は!?俺様!?」
「君と言うより君達・・・かな?ダンジョンブレイクの原因は単純・・・単なるマナ不足だ──────」
僕は村長とバデットにダンジョンブレイクがマナ不足に起因していると判断した理由を説明した
まずはダンジョンそのものの話
一般的に『ダンジョンは?』と聞かれたらほとんどの人がこう答える
『魔物が生息する場所』
でもその考えではなぜダンジョンブレイクが起きたのか・・・その答えにいつまで経っても辿り着けない
事実ではあるけど一応『仮定』として『ダンジョンは単なる魔物が生息する場所ではなく魔物を生み出す場所』と説く。そして『魔物を生み出すにはマナが必要である』とも
2人は怪訝な表情を浮かべる・・・それはそうだ・・・これは僕が知っているだけで誰も知らない真実・・・仮説としてもかなりぶっ飛んでいる話なのだから
「するってえとアレか?俺様達のせいって言ったのはダンジョンに行かねえからマナが不足して魔物がダンジョンから出た・・・そう言いてえのか?」
「意外に賢いじゃないか・・・その通りだ」
「ハッ!バカバカしい・・・それじゃあまるでダンジョンが生きてるみたいに・・・・・・マジで言ってんのか?」
僕が本気で言っているのを肌で感じたのかバデットは正気を疑っているように僕の顔を覗き込む
「確証はない・・・が、そう考えれば色々と辻褄が合うのでね。さて・・・それでは次に君の話を聞こうか」
「?・・・まだ話は終わってねえだろ?今はダンジョンブレイクの・・・」
「ダンジョンブレイクを起こさない為には協力が不可欠。君が協力者となり得るか判断する必要があるのだ」
「・・・協力者?」
「言ったろ?ダンジョンブレイクの原因はマナ不足だ。ならマナを供給すればいい・・・その為の協力者だよ──────」
あまり納得がいかない顔をしながらもバデットはこれまでの事を話し始めた
バデットはクルドに唆され、組合の若い者・・・とりわけ駆け出しの冒険者から上納金として組合費とは別に納めさせていた。その半分はクルドに、もう半分はバデット達が受け取る・・・するとバデット達はダンジョンに行かずして収入を得る事になり、それが常態化して遂にはダンジョンへと全く行かなくなってしまったのだとか
「誓って言うが殺しとかはしちゃいねえ・・・そりゃあ殴ったりして言う事を聞かせたりはしたけどよ・・・」
十分酷いだろ・・・だがまあアドス達のように逃げずに村を守ろうとしていたのは事実だし、組合長としての責任感はある・・・のかな?
「・・・これから心を入れ替える気はあるか?」
「入れ替えないって言ったらどうするつもりだ?」
「それは聞かない方がいい・・・選択肢が無くなるからな」
「おお怖っ・・・まっ、脅されなくても替えるつもりだ。魔物が襲って来て初めて気付いた事もあるからな」
「魔物は襲って来てないと言ってるだろ?・・・まあそれは置いといて、気付いた事とは?」
「・・・生まれ育った村が無くなるのは・・・嫌だと思う俺様がいた・・・どうでもいいと思ってた村が・・・実はこんなにも大事なんだって今更ながら気付いた・・・」
「・・・バデット・・・」
村長は感動しているけど魔物が襲って来る前に気付けとツッコミたい・・・まっいっか
「なら私の言う事に従え。そうすれば全責任は私が背負う」
「あん?・・・従うって何をするんだ?」
「決まってるだろ?健全な冒険者生活だ──────」
村を歩くとすぐに目に付く謎の支柱・・・即席で作った村の外を見回す為の柱だけど壊しに行くと言ったら村長に止められた
なんでも今日の事を忘れないように残しておいて欲しいらしい
崩れたら危ないので石化してより頑丈にしてから記憶を辿りある家の前に
ドアをノックすると幼い声で返事が返って来てそれからしばらくするとそっとドアが開いた
「・・・・・・!お兄ちゃん!!」
「ラル・・・お待たせ。もう大丈夫だよ」
「本当!?」
「ああ、本当だ。お父さんとお母さんは?」
「中に居るよ!入る?」
「・・・そうだな・・・お父さんに少し頼みたい事もあるから入れてもらえるかな?」
「うん!」
ラルは嬉しそうに家の中に戻ると僕の事を2人に話していた
『今朝1万金貨でリンゴを買ったお兄ちゃん』という説明に2人はどんな顔をしていたか分からないけど、僕が姿を見せると顔を引き攣らせ青ざめる
「あ、あの・・・」
「エモーンズの組合『ダンジョンナイト』の組合長のローグだ。仮面は事情があり外せなくて申し訳ないが決して怪しいものでは無い」
僕の説明にラルは首を傾げるが特に何も言わないでくれた
仮面の下の顔を唯一知る少女・・・まあ、設定としては『ロウニールに変身していたローグ』って事なんだけどややこしいので説明は省こう
「エモーンズの・・・それで私に頼みたい事とは・・・その・・・1万ゴールドに見合うような働きは・・・」
見るとラルの父親は左足を膝の下から失っていた
これでは歩くのも困難・・・当然冒険者は無理だし他の職も厳しいだろう・・・母親の方も体は起こしてはいるもののベッドからは出られそうにない・・・顔色は悪く酷く痩せこけていた
痩せているのは収入がないせいでまともに食べれなかったからかな?とにかくこのままだと1万ゴールドが尽きれば・・・
「1万ゴールドはリンゴに対する対価・・・その金で頼む訳ではない。君にはひとつ仕事を頼みたい・・・もちろん報酬は約束する」
「・・・それはありがたいのですがなにぶん足が・・・」
「歩かずとも出来る仕事だ。この村の組合『ムルタナ』の組合長は知っているか?」
「は、はい・・・バデットさん・・・です」
「そのバデットからの報告を私に伝えてくれればいい。かなり重要な役割なので月に・・・5000ゴールド払おう」
「5000!?・・・そんな・・・報告するだけでですか!?」
「ああ・・・報告の内容はその日のダンジョンの収支に関するものだ。何人の冒険者が挑み何人帰って来たか・・・魔核はどれだけ手に入ったか・・・まあそれくらいだな」
「それだけ・・・」
「かなり重要な事だ。受けてくれるならバデットに毎日ここに来るように伝える・・・まあアイツは見た目が厳ついから他の者を寄越すよう言ってもいいが・・・」
「あ、え・・・そうしてくれると助かります・・・でもどうやって貴方様に報告を・・・」
「マナは使えるか?」
「え、ええ・・・人並みには・・・」
「ならばこれを渡しておく」
そう言って僕はゲートを開き予め作っておいた通信道具である石を手渡した
「これは・・・」
「マナを流すと対になるもうひとつの石に繋ぐことが出来る通信道具だ。試しにそれにマナを流してみろ」
「は、はい・・・」
彼がマナを流すと僕が持っているもうひとつの石が淡く光り出す
「何か喋ってみるといい」
「は、はい」
〘は、はい〙
「ええ!?お父さんの声がこっちからも聞こえた!」
〘ええ!?お父さんの声がこっちからも聞こえた!〙
驚く3人に僕は報告の仕方を説明した
サラさんに言ったようにまずはマナを流して喋りかけない事・・・これは僕がローグであったなら問題ないがロウニールの時にいきなり話し掛けられると色々まずいからだ。その辺は適当に忙しいからと理由をつけて納得させる
「最初は毎日・・・しばらく経ったら週に一回など減らしていくつもりだ。それと報告以外でも困った時は報せるといい・・・なんでも構わないが暇つぶしっていうのは勘弁してくれ」
「そんな事は・・・でもなぜ私なのですか?変な話私以外でも・・・それこそ誰にでも出来る事を・・・」
「ラルが私の命の恩人だからだ」
「え?」
「バデットに嵌められてマナを封じる首輪を付けられてしまってな・・・先の騒動で混乱する最中ラルがその首輪を外してくれた・・・もしラルが外してくれなければ・・・私はここには居ないだろう」
「そんな事が・・・ラルが色々と話してはくれたのですが要領を得なくて・・・」
まああの状況を口で説明しろと言っても難しいしね
「恩返しと思ってくれ・・・それと・・・」
僕がチラリと母親の方を見るとそれを察したのか父親は彼女の事を説明してくれた
その症状は・・・ラックの妹のネルちゃんと同じく病名不明で治癒不能な病気と同じだった・・・
「調子の良い時もあるのですがなにぶん突然具合が悪くなったりするので・・・知り合いのヒーラーに回復魔法をかけてもらったりしたのですが一向に治る気配もなく、あとはもう・・・」
「聖女・・・か」
「はい・・・ですが王都までの道程は長くとてもじゃないですが・・・」
もしかしたら聖女が王都から出られないのは同症状の人が王都に殺到しているから?それじゃあ遠方にいる人はどう足掻いても・・・
僕がゲートで聖女を連れて来れば・・・いや、ゲートの能力がバレたらまずいか・・・でも人一人の命には変えられない・・・でもラルの母親だけを救えば良いのか?他にも困っている人が沢山・・・それこそやっとの思いで聖女の治療を受けに行く人もいるだろうし、その人の立場はどうなる?
重苦しい雰囲気の中、その場に居ても解決出来る問題でもないので僕は仕事の件は追って連絡すると言い残し家を出た
ネルちゃん・・・そしてラルの母親・・・病気の正体は何なんだ?それになぜ聖女だけが治せると噂されているのだろう・・・特殊な能力が?それとも・・・
《ロウ?》
「ああ・・・分かってる。とりあえずバデットにちゃんとやるよう釘を刺して・・・そろそろ向かうか・・・人喰いダンジョンへ──────」
ムルタナは小さな村であり誰もがとは言わないがほとんどが顔見知りと言っても過言ではない
そんな中で犯罪を犯す者は少なく村人を守る兵士の数も非常に少ない
なので牢屋の数もまた最小限であった
ムルタナ村の村長からギルド長クルドを拘束するよう頼まれた兵士は逃げないようにマナ封じの首輪を装着させ縄で縛り唯一の牢屋へと護送していた
そして地下にある牢屋に辿り着くと・・・
「何やってんだお前」
「・・・!?隊長・・・これはその・・・そう!ここに居た奴に騙されて牢屋に入れられ・・・」
「・・・ならその手に持つ鍵はなんだ?」
「あっ!これは・・・その・・・」
「・・・なるほど・・・牢屋に逃げ込んだ訳だ・・・牢屋に入っていた奴を逃がして自分は安全な牢屋に・・・とりあえず鍵を寄越せ」
「ち、違うんです!」
「いいから寄越せ!」
隊長の迫力に怯え牢屋の中に居た兵士は兵士長に鍵を渡す
すると隊長は鍵を開け、縛った状態のクルドを牢屋の中に押し込んだ
「冒険者ギルドのギルド長!?・・・あ、隊長・・・私は出ま・・・」
牢屋の中の兵士が出ようとすると隊長は無言で扉を閉めすぐに鍵をかける
「・・・あの・・・隊長?」
「しばらくそこにいろ・・・マナ封じの首輪をつけてないからと言って牢屋を破壊したら重犯罪・・・即死刑だからな?」
「隊長・・・冗談ですよね?私は奴に騙されて・・・」
「牢屋に入っていた人の事か?その人なら濡れ衣を着せられていたらしいので無罪だ。更に村の外に出た凶暴な動物を1人で処理したとか・・・村にとっては犯罪者どころか英雄だな」
「・・・動物?え、いやだって・・・ダンジョンブレイク・・・」
「ダンジョンに動物がいるわけないだろ?だからダンジョンブレイクなんて起きてない・・・それともうひとつ教えといてやろう・・・お前が言っていた牢屋にいた奴はエモーンズのギルド『ダンジョンナイト』の組合長だそうだ。ちなみにその組合長はあの『風鳴り』より強いらしい」
「・・・へ?」
「そこにお前を残すのは俺なりの優しさだ。少しその場で反省してろ・・・すぐに出てその人に出会して殺されたいなら話は別だが、な」
「・・・」
兵士は黙り牢屋の奥に向かって歩くと座り込みブツブツと呟き始める
それを見た隊長はため息をつくと階段へと歩き始めた
「おい!本当に私を置いて行く気か!?後悔するぞ!兵士ごときが!」
それまで黙って事の成り行きを見ていたクルドが突然喚き散らす
それを聞いて隊長は足を止め振り返るとクルドに告げた
「俺も忙しいのでね・・・これから村の外に出た魔・・・動物の処理をしないといけない・・・文句があるならいずれ来る王都からの使者殿に言ってくれ」
「くっ!・・・覚えていろ・・・必ず後悔させてやる・・・」
格子に掴まり歯軋りをしながら睨むクルドを横目で見た後、隊長は再び歩き始める
魔物という名の動物の死骸の処理をする為に──────




