127階 ギルド長
「この度は誠にありがとうございます」
バデットと共に戻ると歓声を聞いた村長とギルド長が僕達を出迎えた
そして村長宅に案内するとテーブルを囲み改めて村を救った礼を言われる
「当然の事をしたまで」
オドオドしている村長のファムロとあまり僕を好ましく思ってないのか憮然とした態度のギルド長のクルド。対象的な2人だな
「・・・村を救ってくれた事に礼は言うがその仮面は取らないのか?少々無礼では?」
「クルド殿!」
「村長・・・私は国直属の冒険者ギルドの長・・・それなりの身分ある者としてここに居る。その私の前で正体を明かさないのは如何なものかと」
「しかし・・・」
「訳あって外せないのだが不快に思うのなら立ち去るとしよう」
「ま、待って下さい!・・・クルド殿・・・事情があるということなのでここはひとつ・・・」
僕が立ち上がると慌てて止める村長
クルドは納得していない様子で鼻を鳴らす
「まあいい・・・どうせこの村のギルドはなくなる・・・こんな片田舎でのギルド長生活もこれで最後だ少しくらい我慢してやろう」
「・・・」
クルドの言う通りこのままだとダンジョンは消滅させられる・・・そうなれば冒険者ギルドは不要となる。あの言い方だとクルドはここのギルドに不満を持っていたってところか・・・なるほどね
村長は押し黙ってしまったがやはりダンジョンが無くなるのは惜しいと思っているようだ。冒険者が居なくなれば村は貧しくなる可能性が高いから当然っちゃ当然か
「何とか・・・ダンジョンを存続させる方法はないのでしょうか・・・ダンジョンが無くなれば村は・・・」
「ないな。既に救援要請と共にダンジョンブレイクの事実を伝えてある。今頃王都では誰にダンジョンコアを破壊させるか協議しているのではないか?もしくはもう既に向かっているか・・・」
シークスに知らせれば嬉々としてやって来るだろうな
ダンジョンブレイクが一度でも起きたダンジョンは閉鎖を余儀なくされる。理由はひとつ・・・一度ダンジョンブレイクが起きたダンジョンはまた同じようにダンジョンブレイクが起きる可能性が高くなるからだ
度々ダンジョンブレイクが起きては魔物がダンジョンの外に出て来る・・・それを繰り返していたら国中が魔物だらけになってしまうのでそうなる前にダンジョンコアを破壊しダンジョンを消滅させる・・・それが国の方針だ
「・・・そう・・・ですか・・・」
「そう嘆かずともまたいずれダンジョンが出来るかも知れない・・・まあその時のギルド長は私でない事を祈るばかりだがな」
嫌な奴だ・・・自分が長を務めていたギルドが無くなろうとしているのにそれをまるで歓迎しているかのように・・・しかもダンジョンが無くなれば村がどうなるかも分かっているはずなのに・・・
「もういいだろう?村を救った報酬として倒した魔物の魔核を相場より高く買い取ってやる。それ以上望むのなら村長に言え・・・私はこれで失礼する」
「ちょっと待て・・・ギルド長にひとつ聞きたいのだが」
「・・・なんだ?」
「そう面倒臭そうな顔をするな・・・確認したいだけだ。この村に来てひとつおかしな事が起きてな・・・冒険者ギルドで私は今隣にいるバデットに殴られた・・・気絶するまで何度も・・・それもギルド職員の前でた。だが目を覚ますと私は牢屋に入れられていたのだが・・・この村では殴られた方が捕まるという独自の法律でもあるのか?」
クルドの視線はバデットに向き、バデットはその視線を受けて頷く
恐らく確認したのだろう・・・さて、どう出る?クルド
「・・・何かの手違いがあったのだろうな・・・村の兵士達とギルドは関係ない・・・所詮はこの村の兵士・・・程度が知れてるというもの。そういった勘違いを起こすのも致し方ないだろうな」
「ほう・・・私はてっきりバデットとギルド長がグルで私を牢屋にぶち込んだのかと思っていたが・・・」
「口を慎めローグとやらよ。私がそんな事をして何の得があるというのだ」
「得か・・・確かにギルド長は得などないな。それで得すると言えば捕まらなかったバデットだけ・・・だけどもし・・・バデットが捕まったら都合が悪い理由がある・・・とかなら事実を捻じ曲げて私を牢屋にぶち込んだりするのでは?」
「私とバデットが?単なるギルド長と組合長の関係だが?」
「そうなのか?バデット。正直に話した方が身のためだぞ?私を無実の罪で牢屋に入れたのだ・・・それを仕組んだ者にはそれ相応の罰を与える・・・兵士なのかバデットなのか・・・それともギルド長なのか・・・そこら辺をはっきりさせたいのだが・・・」
「罰を与えるだと?貴様一体何様のつもりだ!」
「今はバデットと話している・・・少し黙ってろ」
「ぐっ!・・・貴様・・・」
殺気を放つと押し黙るクルド
バデットはと言うと・・・難しい顔をしてどうするべきか考えてるって感じだな・・・もう一押しか
「村から去ろうとしているギルド長に義理立てする必要があるか?もし兵士が関与しておらず君の独断で私に罪を着せたのなら・・・私の刃は君に向かうだろう・・・命を賭して守りたいなら守ればいい・・・私にはその価値があるようにはどうしてもみえないが、な」
ギルド内で・・・しかもギルド職員の前で僕は殴られた・・・その僕が捕まるって事は誰かが僕に罪を擦り付けた事になる。たとえば僕がギルド内で暴れていたからバデットが止めた・・・なんて嘘の証言をして僕に罪を・・・ただ本来中立の立場であるギルド職員が嘘の証言をするとは考えにくい。嘘の証言をするとしたらバデットを恐れてか・・・もしくは上からの圧力くらいだろう・・・さて・・・どっちだ?
「・・・はっ・・・脅しのつもりか?」
「つもり?まさか・・・脅しているのだよバデット」
「怖ぇな・・・あの実力を目の当たりにした後だとその脅しは強烈過ぎるぜ・・・・・・俺様には免罪符がある・・・ギルド内で・・・いや、村の中でも外でも何しても許される免罪符がな」
「バデット!!」
「黙れ・・・続けろバデット」
「・・・そういう契約なんだよ・・・俺様が組合長を務めてる間、ギルド長に金を渡し続ければその免罪符は効果を発揮し続ける・・・人を殺そうが何しようが・・・罪に問われないようギルド長が何とかしてくれるって感じにな」
「なるほど・・・その金はどこから?」
「駆け出しの冒険者達から巻き上げていた・・・ダンジョンで稼がせてその金を組合に納めさせギルド長に渡す・・・ギルド長からの要求以上の金が手に入りゃみんなで分けた・・・次第に馬鹿らしくなっちまったよダンジョンに行く事が・・・命を懸けて稼ぐよりも何もしないで大金が手に入るんだからな」
「それであんなに弱かったのか・・・ここの冒険者達は」
数が多いとはいえ下級の魔物ごときに手こずっていたからな・・・バデットはそこそこだったが他の冒険者はお話にならないくらい低レベル・・・そりゃあそうなるわな
「さて・・・そうなると誰が悪くなるかな?私を殴ったバデット?バデット達の話を鵜呑みにして私を捕まえた兵士?それとも・・・バデット達から金を貰い受け『免罪符』なるものを渡し好き放題させていたギルド長?」
「私のどこが悪いというのだ!ギルド公認の組合に多少の権限を与えるのは当然のこと・・・その権利を悪用したバデットが悪いに決まっているだろう!」
「・・・」
「ほう・・・つまり金銭を受け取り権利を与えたのは認めるのだな?」
「フン・・・別にそれがなんだと言うのだ・・・どこのギルドでもやっていること・・・ギルド長という責任ある立場にも関わらず安月給でコキを使う国が悪いのだよ・・・」
「だがそれに伴い組合が悪さをしても見て見ぬふりをするのはどうなのだ?」
「知らんな。冒険者という底辺共が何をしていようが私には何の関係もない」
「私のいるエモーンズのフリップギルド長は君の言う底辺の冒険者にもちゃんと対応してくれているが?」
「フリップ?・・・あのように冒険者崩れのギルド長と同じにしないでもらいたい。私とは格が違うのだよ格が」
おいおいそこまで言うか?知らないぞ・・・どうなっても
〘言ってくれるじゃねえか・・・ムルタナのギルド長さんよぉ〙
「・・・なに?」
一瞬の間がありどこからともなく聞こえた声に反応するクルド・・・声を出したって事はもう十分って事かな?まさか耐えきれなくなって・・・じゃないよな・・・
〘話は聞かせてもらった・・・エモーンズの組合『ダンジョンナイト』に助けてもらっておいてえらい言い草じゃねえか・・・救援要請の通信の時の慌てっぷりとは違い過ぎて別人かと思ったぜ〙
「誰だ!」
〘もう忘れたのか?・・・まっ、さっきの通信では一瞬だったし無理もねえか・・・エモーンズ冒険者ギルド長フリップ・レノス・サムスだ。話は聞かせてもらった・・・最初からな〙
もういいだろうと懐から光る石を取り出してテーブルの上に置いた。それが何かすぐに気付きクルドの顔は真っ青に変わる
「ああ、すまん・・・先程報告をする際に通信したままだった・・・別に盗聴するつもりはなかったのだが・・・」
「貴様・・・ぬけぬけと・・・」
サラさんの真似をさせてもらったが効果絶大だな。聞いている相手が違うと油断してホイホイ喋ってくれる
〘それで?冒険者崩れの俺が言うのもなんだが賄賂をもらって冒険者に好き放題させてたって?なかなか面白いこと思いつくじゃねえか・・・さすが冒険者崩れの俺とは違うな〙
「くっ・・・か、勘違いするな・・・賄賂ではなく・・・その・・・」
〘言い逃れ出来ねえって。あれだけはっきり認めたんだ・・・お前さんはもう終わりだよ〙
「・・・しょ、証拠はどこにある!?貴様が上に報告したところで私が認めなければ問題ない!ただの徒労に終わるだけ・・・貴様と私では信頼度が違うのだよ!・・・そうだ・・・報告したければすればいい!王都に帰り真っ向から否定してやる!」
〘おいおい・・・証拠云々ってか自分で白状してたじゃねえか〙
「・・・知らんな・・・聞き間違いではないか?」
開き直りやがった・・・確かに証拠はない。『そんな事を言った記憶はありません』とでも言えば逃れられるかもな・・・ただ・・・
〘そうか・・・俺の聞き間違いか・・・〙
「当たり前だ!貴様の耳が腐ってるのではないか?冒険者時代に魔物に耳でもやられたか?」
〘・・・かもしれねえな〙
「そうだ!そうに決まっている!私は何も言っていない・・・不正など何もしていないのだ!」
〘〘・・・私は冒険者をした事がないのだが聞き間違えたのは老いのせいかな?〙〙
フリップのと違う少し遠くから聞こえる声にクルドは一瞬首を傾げる
「誰だ?・・・エモーンズの村長辺りと聞いていたのか?・・・もし聞き間違えたのなら歳のせいだろうな・・・耄碌したジジイが横から口を挟むな!」
〘〘耄碌したジジイ・・・か・・・それならば引退して次に譲らねばな・・・何せ総ギルド長というのはかなりの激務だし耄碌していたら務まらない・・・フリップよ・・・私は引退した方が良いか?〙〙
「・・・へ?」
〘いやいやまだお若いですよセデス・アジート・アルファス総ギルド長・・・それに王都のギルドを任せられるような人材も育ってはおりますまい〙
〘〘ふむ・・・君など良いかと思うのだが・・・〙〙
〘やめてくださいよ・・・俺なんてまだまだ駆け出しの冒険者と同じ新人ギルド長ですよ・・・それにどうやら耳が腐っているようでしてね〙
〘〘君の耳が腐っているなら私の耳もおかしい事になる・・・さて、もう一度聞こう・・・クルド・マーニアス・ハドリシアよ・・・私の耳は正常か?それとも異常か?〙〙
「・・・総・・・ギルド長・・・そんな・・・なんで・・・エモーンズなんかに・・・」
〘〘ほう・・・私を覚えているということは記憶力はあるようだな。自分の発言を忘れてないとなるとやはり私の耳がおかしいのか?〙〙
「いや・・・それは・・・」
〘〘はっきりしろ!クルドギルド長!私の耳は異常か?〙〙
「・・・・・・総ギルド長のお耳は・・・正常です・・・」
〘〘ならば君の言葉を聞き間違えた訳では無いのだな?冒険者から金銭を受け取り、代わりに罪を見逃していたと・・・〙〙
「違います!私は・・・」
〘〘何が違うか!ギルド長の責務はギルドと冒険者の管理及び育成を主とする・・・だがクルド・・・貴様はあろう事かその責務を怠り、金銭を支払った一部の冒険者に肩入れする始末・・・会話を聞く限りではまだまだ余罪はありそうだな・・・覚悟しておけ・・・私の名において洗いざらい全て吐かせてやる・・・村の牢屋で書き溜めておけ・・・全ての罪を・・・少しでも誤魔化したり嘘をついておれば・・・分かっておるな?〙〙
「・・・・・・」
〘〘そこにおるエモーンズの組合長よ・・・手数をかけるがそのクルドを牢屋に入れておいてくれ。後は全て私の方で処理する・・・冒険者ギルドも・・・ダンジョンも、な〙〙
「はて?お言葉ですが総ギルド長・・・ダンジョンを処理する必要はないのでは?」
〘〘ん?そうもいかん・・・ダンジョンブレイクが起きたダンジョンは速やかに処理せねば・・・〙〙
「あー、お伝えし忘れてました。ダンジョンブレイクが起きたというのは誤報です・・・魔物はダンジョンから出ておりません」
〘〘なに?〙〙
「なので冒険者ギルドをなくしたりダンジョンを処理する必要はありません。必要なのは新しいギルド長のみ・・・」
〘〘冗談か?それとも・・・〙〙
「どうやらお耳が遠いようで・・・もう一度言います・・・ダンジョンブレイクは起きていません──────」




