125階 マナ封じの首輪
どうしよう・・・マナが使えなければゲートはもちろんダンコとも話せない・・・てかダンコってマナを使って話してたのか?
牢屋の中で1人頭を抱えてどうするか考える
ぶっちゃけ捕まってもいつでも出られると考えていた
でもマナが使えないと何も出来ない・・・身を軽くしようと武器やら道具は全てしまっておいた・・・サラさんにあげた物と同じで腕輪のタイプ。でもそれも当然ゲートを開くのにマナが必要になる
少し考えたんだ・・・緊急用に簡易ゲートくらいは懐に閉まっておこうかと・・・でもゲートを開いて取り出せばいいやと通信道具以外は全部しまってしまい・・・ヤバい手詰まりだ
クソっ・・・これも全てアドス達とあのホブゴブリンのせいだ・・・なんで殴られた僕が捕まってアイツらは居ないんだ?・・・ハア・・・そんな事を考えても仕方ないか・・・今はここから出る事だけを考えないと──────
──────何も浮かばない
小一時間経ったと思うけどどう考えても無理だ
何度か近くに居る兵士に話し掛けたけど全て『うるさい』の一言で片付けられてしまうし、鉄格子は殴っても蹴ってもビクともしない
これっていつまで牢屋に入れられたままになるんだろう・・・もし1ヶ月とかならシャレにならないぞ
何とかして出ないと・・・せめてこの首輪さえなければ・・・
・・・いやに外が騒がしい・・・
歓声・・・じゃないな・・・怒号?・・・何やら嫌な予感がする・・・
〘ローグ!〙
え!?サラさん??
通信道具から聞こえて来た声は間違いなくサラさんの声
でも・・・約束していたはず・・・
いきなり話し掛けられたらバレちゃうからマナを流すだけにって・・・これまでもそれは守られてきた。でも今の切羽詰まった声はもしかしたら・・・約束を破ってでも伝えなくてはならない事がある?
〘本当にごめんなさい・・・でも・・・頼れる人が貴方しか居なくて・・・・・・今、ギルド長から緊急事態の報せを受けたの。エモーンズの隣にある村『ムルタナ』のダンジョンでダンジョンブレイクが起きたって・・・ムルタナのギルド長はエモーンズに協力を要請・・・でも魔物がどこに向かうか分からず私達はエモーンズを守らないといけないから動けないの〙
ダンジョン・・・ブレイク?
しかもムルタナって・・・嘘だろ・・・
〘今のところ対策としては兵士達は街の守りを・・・組合はムルタナに向けて出発する事になってるの・・・そうすればもしエモーンズに向けて魔物が向かって来ていてもかち合い討伐出来るし万が一討ち漏らしても兵士が街を守ってくれる・・・けどその間にムルタナは・・・。ローグ・・・力を貸して・・・ムルタナを・・・救って・・・〙
「サラ!聞こえるか?サラ!!」
ダメだ・・・やはりマナを流さないと向こうには届かない
どうすればいいんだ
このままだと村は・・・壊滅?
いや、どれくらい魔物が出て来ているかも分からないし、そもそも誤報かも・・・でも村が騒がしいのはダンジョンブレイクのせい?
ここに居ては何も出来ない・・・今は出る事に集中しないと
「すみません!!誰か居ませんか?」
もううるさいとか言われても気にしない・・・近付いて来たところをガッと掴んで引き寄せて牢屋の鍵を奪ってやる
そう思って何度も叫ぶが何も反応がない
もしかしたら兵士達は魔物の対応に・・・
どうしよう・・・本気で何も出来ないぞ?
焦って鉄格子をガンガン殴ってもやはりビクともしない。いや、諦めるな・・・何度も叩けばいずれ・・・
ダメだ・・・少しでも曲がったりすれば希望も持てるがかなり頑丈に出来ているらしく壊れる気配は全くない
こうしている間にも魔物が村に迫って・・・いや、もう既に入り込んでいるかも・・・
その時、兵士が血相を変えてやって来た
僕はこれが最後のチャンスと思い叫ぼうとすると・・・兵士は予想外の行動に出る
無言で牢屋の前に立ち、いきなり鍵を取り出すと開け始めたのだ
もしかして助けてくれるのか?
黙ってその様子を見ていると牢屋の扉を開けた兵士は僕を見て何故か舌打ちした
「出たいなら勝手に出ろ」
「え?・・・あ、うん・・・」
なんとも呆気なく牢屋から出る事に成功・・・と思ったら背後でガシャンと音がする
「え?」
「これで俺は安全だ・・・バカな奴ら・・・あんなの防げる訳ねえよ・・・」
内側から器用に鍵をかけて呟く兵士・・・もしかしてコイツ・・・
「まさか・・・1人だけ助かろうと?」
「あ?見てねえでさっさとここから出て行け!外で何が起きてるかも知らねえで勝手なことほざきやがって・・・」
「・・・魔物が攻めて来たのか?」
「・・・チッ・・・知ってやがったか・・・そうだよ・・・ダンジョンの入口にいた奴が報せに来た・・・で、見張りも確認した・・・魔物が大量にこっちに向かってる姿をな・・・もう終わりだよ・・・みんな殺されちまう・・・」
「だから牢屋に逃げ込んだ・・・」
「うるせえ!俺はお前に騙されてここに入れられた事にする・・・どうせお前は死ぬし助けに来た連中は俺に同情してくれるさ・・・ムルタナ唯一の生き残りとしてな」
「・・・この首輪を外してくれ・・・もし外してくれれば僕がみんなを助ける」
「はぁ?マナが使えたところでお前みたいな奴がどうにか出来るレベルじゃねえ!てめえはさっさとここから出て魔物に食われて死ねばいいんだよ!」
コイツ・・・いや、怒りを抑えろ・・・この首輪を外してもらわないと本当にコイツの言う通りになってしまう
「誰にも言わない・・・いや、僕が騙した事にしていい・・・だから頼む・・・首輪を・・・」
「失せろ・・・誰かが来たらどうすんだ!さっさと失せろ!!」
ダメだ話が通じない
こうなったら外に出て誰でもいいから首輪を外してくれる人を探した方が良さそうだ
僕はまだ痛む顔を押さえながら外に向かって歩き出す
「残念だったな!お前だけが生き残るはずだったのに!俺は生き残るぞ!絶対生き残るんだ!!」
勝ち誇った兵士の声が響き渡る
これじゃあまるで・・・ケインが正しいみたいじゃないか
ケインは僕達の事をあんな風に思ってたのかな?
冒険者の資質がないからと兵士にさせられ、ただ村の中を歩き回ったり入口でボーと立っているだけ・・・いざ何か起きても村人と共に逃げ惑う・・・村の兵士なんてそんなもん・・・そう思われてたんだろうな・・・
どうやら牢屋は地下にあったみたいで僕は階段を上がり建物の出口を探すと外に出る
着の身着のまま右往左往する村人達・・・そして至る所から聞こえる悲鳴や泣き叫ぶ声・・・まるでこの世の地獄のような風景が広がっていた
くっ・・・今は兵士としてどうするかより首輪を外す事に集中するんだ・・・外せさえすれば・・・
誰かに頼む・・・と言ってもみんな必死に逃げているから声を掛けても立ち止まってすらくれない
てかなんで行ったり来たりしているんだ?魔物が来ている方向とは逆の方向に逃げればいいだけじゃ・・・まさか・・・囲まれている?
ダンジョンの方角はどっちだ?
魔物はどこから?
全く情報がない中、僕は何とか首輪を外してもらおうと走り始めた
誰か・・・少しでも余裕がありそうな人・・・外からマナを流せば首輪は外れたはず・・・ほんの少しの時間さえあれば・・・
「おい!お前!」
走っていると急に呼び止められ振り向く
もしかしたら首輪に気付いて・・・と期待して振り向くと僕に声を掛けたであろう人物と目が合った
「やっぱりそうか・・・この混乱で逃げ出したのか?ロウニール」
「アドス・・・」
色んな感情が湧き上がるが今はそれどころじゃない
「これを・・・これを外してくれ!」
「あー、それ知ってるぜ?罪人がマナを使って脱走しないように付けられるやつだろ?ダメじゃねえか犯罪者がうろちょろしたら」
「くっ!・・・今はそんな事言ってる場合じゃないだろ!魔物がそこまで迫って・・・」
「関係ねえな・・・バデット達は村を守るんだーなんて言って向かってたけど俺らには一切関係ねえ・・・それよりも面白いもんも見つけたしな」
「え?」
「俺ら4人で突っ切れば何とか生き残れっだろ・・・まあそれでも早くしねえと魔物がなだれ込んで来たらお終いだ・・・だからさっさと終わらせてやる」
そう言ってアドスはナイフを取り出す
まさかこの状況で?嘘だろ?
「あの時の一撃は効いたぜぇ・・・まあ気を失っちまったからぶっちゃけ何が起こったのかすら分からなかったが・・・でもよ・・・これだけははっきりしている・・・俺らはてめえのせいでエモーンズを追い出された・・・」
「違う!あれは・・・」
「違くねえから・・・奇跡的に生き残ったらウザイからな・・・きっちりここで仕留めてやるよ」
こんな事している場合じゃないのに!
アドスは勝利を確信しているのか余裕の笑みを浮かべると僕に向かって突っ込んで来る
速さはそこそこ・・・目で追えるスピードだ・・・けど・・・
「このっ!」
カウンター気味に拳を放つが空を切る
分かっていた・・・マナを使ってる者と使ってない者の差は・・・学校の時に嫌という程経験したから・・・
「ハッ!遅せぇ!」
マナを使いスピードを上げ回り込むアドス
それについていこうと体を捻るが思考と体の動きがズレ始める
思考の中では既に振り向きアドスを正面に構えているはず・・・でも実際はまだ振り向いている最中・・・その隙だらけの僕に・・・アドスはナイフを突き立てた
「あ・・・がっ・・・」
熱い
熱い熱い熱い
脇腹が燃えるように熱い
見ると脇腹にナイフが深く刺さっており、少しずつだけど血が滴り落ち始めていた
「うわ、痛そ・・・てかそのナイフお気に入りなんだから返せよ」
無造作に引き抜かれナイフでせき止められていた血が大量に流れ出る
咄嗟に傷口を手で塞ぐが指の隙間からポタポタポタポタと・・・血が流れ出る・・・
「つまんね・・・もっと足掻けよ」
「・・・」
「今更ながら後悔したか?懺悔の言葉でも聞かせてくれるなら首輪を外してやってもいいぜ?」
「・・・くたばれ・・・」
「・・・いい度胸だ・・・な!」
容赦ないアドスの蹴りが僕を吹き飛ばす
それ同時に傷口が開いたのか更に血が溢れ出した
「おいおい殺す気かよ・・・俺の分も残しとけよ」
「悪ぃ悪ぃ・・・まっ、トドメを刺すより放っておいて生きたまま魔物に食い殺された方が面白いんじゃね?」
「・・・それいいな・・・そのザマを見れねえのは残念だけど・・・」
「行こうぜ・・・早くしねえと魔物がわんさか集まって来ちまう・・・そうなったら出るに出られねえぞ?」
「だな・・・ほぼ南側から来てるけど周りを取り囲み始めたって話だ・・・馬鹿正直に門から出ないで柵を越えて出ちまおうぜ」
「なら西だな・・・ダンジョンは東にあるし一番手薄だろ」
「じゃ、行くか・・・おい、まだ死ぬなよ?魔物が来るまで生きるんだぞ?」
アドス達はそう言い残すと僕の前から去って行く
蹴られて倒れた僕は起き上がれずただ傷口を押さえてその後ろ姿を見送った
目が霞む
まさかこんな事になるなんて思いもしなかった
もう誰も僕の事を見向きもしない
もう誰にも・・・
いやだな・・・なんで僕がこんな目に・・・
強くなったと思ったのになぁ・・・家も建ててこれからって時なのに・・・
まだしたい事・・・沢山あったんだけど・・・なあ・・・
怖いなぁ・・・死ぬのは・・・いやだなぁ・・・
「お兄ちゃん?」
え?
僕を『お兄ちゃん』と呼ぶ声に反応して僅かに顔を上げる
シーリスがここに?・・・いや、シーリスは宮廷魔術師候補になって王都に・・・
足が見えた
とても幼い足
でもそれ以上顔を上げることさえ出来ない
「血が・・・お兄ちゃん!」
誰だ・・・この声・・・聞き覚えが・・・
「どうしたの!?ねえ!起きて!お兄ちゃん!」
そうだ・・・この子は・・・
「・・・ラル・・・僕の首輪にマナを・・・」
「マナ?でも・・・えっと・・・」
・・・ダメか・・・
「うん!やってみる!」
頼む・・・これで無理なら・・・・・・・・・
《ちょっとロウ!何よこれ!?》
なんだか・・・とても懐かしい声・・・ああ僕はまだ・・・
「お兄ちゃん!外れたよ!ど、どうすればいいの!?」
「・・・大丈夫・・・もう・・・大丈夫だから・・・」
傷口を押さえている手にマナを集中力させる
もっと・・・もっと早く・・・もっと強く・・・
「お兄ちゃん?」
「・・・ありがとう・・・ラル・・・お陰で村は救われた」
「・・・え?村?」
体中に力が漲る
まるでなんでも出来るような・・・そんな気がするくらい
「ゲート」
僕はゲートを開き、剣と・・・仮面とマントを取り出した
《ちょ!?何考えてるの!?それに何この状況は!?》
「ラルは逃げないの?」
「え?・・・あ、うん・・・お父さんとお母さんが動けないから・・・」
「そっか・・・なら家で待ってな・・・すぐに片付けるから」
「片付けるって?」
「決まってるだろ?この村に向かって来ている招かざるお客さん・・・家には1人で戻れる?」
「う、うん・・・すぐそこだから・・・」
「良かった・・・じゃあ早く家に・・・あとは全部お兄ちゃんに任せな」
仮面を着けマントを羽織る・・・そして地面を触るとイメージした
高く・・・村全体を見渡せるくらいに高く・・・
「上がれ!」
地面は盛り上がり僕を空高くへと導く
「このくらいでいっか」
《アナタねえ!自分が何やったか分かってんの?》
今はダンコの小言が心地いい・・・でもそれを満喫する時間はないみたいだ
村には北と南に門がある
それ以外は柵で覆われているが人の高さくらいの低い柵・・・魔物は行儀よく門から入ろうとせず東側に集中しそれを冒険者達が柵の中から村への侵入を防いでいる形だ
確かにアドス達の言うように西側にはまだ魔物は来ていないかもしれない・・・けど村の西側は森になっており、視界が悪く本当にいないかどうかは確認出来ないな
「小言は後でいくらでも・・・今はこの状況を何とかするのが先決だ」
《・・・近くでダンジョンブレイクが起きたのね・・・何をしてんだか・・・》
「そういうこと・・・さて、招かざるお客さんにはご退場願いますか」
《油断しない事ね・・・次々に出て来るし、時間が経てば経つほど強い魔物が出て来るわよ?》
そっか・・・上から順に出て来るからそうなるわな・・・でも・・・今の僕なら負ける気がしない
さて、とりあえず挨拶を・・・
「ムルタナ村へようこそ──────」




