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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
127/856

124階 拘留

僕は今、ムルタナという村の・・・牢屋に入っている


ムルタナ村はエモーンズから最も近い村・・・と言っても歩きだと1日くらいかかる距離だ


この村から約1キロくらい先にはダンジョンがあり、ほんの腕試しのつもりで寄ったのだが・・・


「イテテ・・・あの野郎思いっきり殴りやがって・・・」


傷の状態を確かめようと腫れまくった顔を触ると激痛が走った


なぜこんな事になったかと言うと──────




──────ゲイルさんとの約束の日まで1ヶ月を切った


この日まで平穏な日々が続いた・・・まあ何事もなかった訳ではないけど・・・


ローグに頼んだという事にして1階の奥の部屋を改装し床から何から全て石化させると排水口用の穴を作り大きな桶を用意した


これで僕の家に風呂が完成したのだ


すると連日のように来るわ来るわ・・・いつの間にか僕の家はみんなの溜まり場と化していた・・・まあ、ペギーちゃんも来るから良いんだけどね


ちなみにお湯を張れるのはマグとマホだけ・・・水と火の魔法を上手く調整しないといけないから自然と女性組はマホと、男性組はマグと来るようになり、時間をズラして来るのだが僕は両方の組の風呂上がりのクールタイムの井戸端会議に付き合わされる


「ねえロウニール!聞いてよ!またペギー胸が大きくなってるの!信じられる!?」


「ちょっとハーニア!ロウニール君にそんな事言わないでよ!」


「風呂を借りてるしサービスよ。ねえロウニール?」


ありがとうハーニア


「ケンさんもう30階突破したんですか!?」


「ああ!これもローグさんから貰った武器のお陰よ!」


「良いなあ・・・組合長俺らにもくれないかな・・・」


あげたいけどあまり身内贔屓しているとなぁ・・・まあ今度ジケット達がいる階の宝箱をいじるか・・・



そんな感じで楽しい日々が続き、サラさんも僕を気遣ってか今までよりも訓練の日を増やしてくれた


で、とうとう残り1ヶ月を切り、カルオスでゲイルさんと連携の打ち合わせをする為にと言う名目でエモーンズを旅立った


みんな見送りに来てくて嬉しかったけど、ジケットの『家は任せとけ』という言葉が少し不安・・・まだ半年も住んでないから壊さないで欲しい・・・


サラさんからは『見てダメだと思ったら引け。恥じる事はない・・・生きていれば次がある』と重い言葉を貰った


一緒について行ければとも言ってたけどカルオスまではかなり遠い・・・さすがにその間サラさんがエモーンズを離れると色々と支障があるだろう


そしてペギーちゃんが心配そうに見つめる中、僕は意気揚々とエモーンズを旅立ちいざカルオスへ・・・とまあここまでは良かったんだけどね・・・



どうせ一瞬でカルオスに行けるし腕試しに人喰いダンジョンとは別のダンジョンにでも行ってみるか



そんな軽いノリで訪れたのがムルタナというエモーンズの隣にある村だった


ダンジョンのなかった頃のエモーンズよりは栄えているムルタナ・・・だけど村に入る前から異様な雰囲気が漂っていた


「あの・・・これ・・・」


「あん?Fランク?・・・んだよ駆け出しかよ・・・はいはい、ムルタナにようこそ」


僕がギルドカードを提示すると門番の男はつまらなそうにギルドカードを見つめそう吐き捨てた


なんだこれ・・・エモーンズと・・・ヘクト爺さんの対応と全然違う・・・


たまたま虫の居所が悪かったのかもしれない・・・そう思いながら村の中に入ると活気がなく人もまばら・・・規模はエモーンズが村だった頃より全然大きいのになんでこんなに人が少ないんだろう?


「あの・・・」


歩いていると小さな女の子に声をかけられた


見るとあまり綺麗とは言い難い服にボサボサの髪・・・まさか孤児?


「どうしたの?」


「これ・・・」


そう言うと少女は小さな手に握り締めた真っ赤な果実を僕に差し出した


くれるのかな?


「100ゴールド・・・」


高っ!ひとつ・・・だよな?さすがにそれはぼったくり過ぎだろ・・・


「えっと・・・今は要らない・・・かな?」


「そう・・・ですか・・・」


うわぁ・・・凄い悲しそうな顔・・・てか今にも泣きそう・・・


「ごめんね・・・さすがにリンゴ1個100ゴールドは・・・」


お金ならある・・・けど社会の厳しさってものを教えないとね。僕は怒りはしないけど、他の人はこんなぼったくりの値段言われたら怒るかも知れないし・・・


「もう・・・何も無くて・・・」


「・・・お父さんとお母さんは?」


「お母さんは寝たきりで・・・お父さんは冒険者だったけど怪我して・・・」


うっ・・・なんて可哀想な境遇なんだ・・・けどここでお金をあげても根本的な解決にはならないんじゃ・・・


「お父さんは組合に入ってなかったの?怪我したりしたら組合が面倒見てくれたり・・・」


少女はただ首を振る


知らないのかそれとも組合に入ってないのか・・・ハア・・・


「君の名は?」


「・・・ラル・・・」


「おお!なんて偶然だ!僕の妹もラルっていうんだ・・・そっか・・・他人とは思えないからお兄ちゃんがお小遣いをあげよう」


「え?」


懐から取り出したのは1万金貨・・・これでお父さんの怪我が治るまでしのげれば良いけど・・・


「こ、こんなに・・・も、貰えないです!」


「いいから・・・僕って妹に何もしてあげられなかったから・・・妹の分まで君が貰って」


「・・・ありがとうございます!」


「うん、気を付けてね」


少女は何度も頭を下げると足早に去って行った


いい事したのかどうなのか・・・なんだか心が痛むなぁ


《アナタの妹の名前・・・ラルだっけ?》


「言うな・・・今日からラルだ」


それにしても組合は何しているのだろう・・・こういう時に助け合うのが組合じゃないのか?


僕は頭を傾げながら村の中を歩きようやく目的の場所、冒険者ギルドを見つけて中に入った


すると・・・


「・・・あっ!てめえロウニール!!」


ムルタナに知り合いなんて居ないはずなのに・・・と思って声のした方を見てみるとそこに居たのはアドスとウェッジと・・・その他2人・・・どうやらエモーンズに居られなくなりムルタナに身を寄せたらしい


「てめえ俺らを追ってきたのか?上等じゃねえか」


「べ、別に・・・」


追う必要性が皆無なのになぜそう思うんだ??


だが彼らは止まらない


あっという間に僕を取り囲み得物に手をかけたその時、彼らを止める人物が現れた


「おい!ギルド内で切った張ったはご法度って言ってんだろ!新人!」


アドス達を止めたのは僕の倍くらい・・・は言い過ぎだけどかなり背の高い筋肉隆々な男だった。しかも顔までごつくて・・・まるで魔物のホブゴブリンみたいな男・・・


「すいやせん!バデットさん!コイツが調子乗ってて・・・」


僕は歩いているだけで調子に乗ってるのか?


「あん?・・・見ねえ顔だな・・・新人か?」


何を以て新人なのかよく分からないが、アドス達を押し退けてゴツイ顔を近付けるのはやめて頂きたい


「あ、あの・・・」


「あん?聞こえねえな!もっと声出せや!」


このホブゴブリン!酒臭いし声でかいし最悪だ


「なんだ?ロウニール・・・あの時の威勢はどうした?サラやローグが居ねえと何にも出来ねえのかよ!?」


うるさいアドス!てかお前をのした時は2人は居なかっただろ!・・・まあローグは僕だけど・・・


「サラ?あの『風鳴り』か・・・サラとどういう関係なんだ?」


「コイツサラの弟子とか名乗って調子乗ってんすよ!」


だから調子乗ってないから


「サラの弟子か・・・確かお前らエモーンズから来たんだよな?って事はコイツも?」


「そうです!コイツがサラとローグって奴を使って俺らを追い出して・・・」


コラコラ別に追い出してないだろ!・・・まあ組合からは追い出したけど・・・


「・・・ふーん、エモーンズか。確かこの村にも以前エモーンズから来た奴らが居たな・・・なんて名前だっけな・・・ああ、そうそう!ジケットとか言ってたな。組合に入れてやったのに稼ぎは悪いし10階も越えられねえ使えねえ奴らだったな・・・エモーンズってのはそんな雑魚ばっかか?」


「・・・」


「ジケット・・・あー、そう言えばコイツそのジケット達と飲んでやしたよ!」


「なんだダチか?使えねえ者同士傷でも舐め合ってたってか?」


ギルド内に笑いが巻き起こる


コイツ・・・僕だけじゃなくジケット達までバカにして・・・


「おっ?なんだ?その反抗的な目は・・・もしかして俺様を殴る気か?この組合『ムルタナ』の組合長であるバデット様を!」


「・・・お前が組合長?・・・なんだ、てっきりダンジョンブレイクが起きてホブゴブリンが逃げて来たかと思ったよ」


「ホブ・・・てめえ!!」


顔を真っ赤にして怒るホブ・・・バデット


力はありそうだけど動きは遅い・・・コイツくらいなら・・・


「ギルド内で争いはやめて下さい!」


誰かが叫び声のした方を見るとギルドの受付の女性がこちらを睨みつけていた


そうだ・・・また繰り返すところだった・・・アドスの時も手を出してサラさん達に迷惑をかけたのに・・・


完全に油断してた


僕が同じ過ちを繰り返さないよう気を緩めると突然目の前が真っ暗になる


「っ!・・・??」


い、痛い・・・なんだ?何が・・・


「ほう?一発で倒れねえか・・・じゃあもう一発だ」


バデットの声・・・そうか・・・僕はコイツに殴られ・・・



体勢を立て直す間もなくもう一発くらい・・・その後は覚えてない。顔の腫れ具合から数発食らったのかも・・・でもなんで・・・なんで僕が牢屋の中に!?


「冒険者ギルド内で暴れるなんてふてえ野郎だ・・・しばらく牢屋で大人しくしてな!」


出してくれと牢屋の中で叫ぶと兵士らしき男が僕にそんな言葉を投げかけた


どうやら僕は殴られた上に騒動の首謀者として捕らわれてしまったみたいだ・・・被害者であるにも関わらず・・・


何だかムカついて来た・・・なんで僕が捕まらないといけないんだ・・・あのギルドの受付の女性も見てたはずなのに・・・こうなったらゲートでここを出て・・・・・・・・・あれ?


マナが・・・感じられない・・・なんで??


「ダンコ・・・マナが感じられないんだけど何でか分かる?」


・・・え?


「ダンコ?おーい・・・ダンコさーん!」


「うるせえぞ!黙ってろ!!」


ダンコを呼んでたら兵士に怒鳴られた・・・て言うかなんでダンコは返事を返してくれないんだ?もしかして・・・寝てる?・・・いやいやいや・・・そんなはずはない・・・じゃあなんで?


その時ようやく首に違和感を感じた


そっと手で触れてみるとゴツゴツとした鉄の輪っかみたいのが首に巻かれている事に気付く


そして思い出した・・・この鉄の輪っかの正体を・・・僕は知っている・・・


「・・・サラさん達が付けられていた首輪・・・マナを封じる・・・首輪だ──────」




ムルタナ近郊にあるダンジョン


その入口にギルド職員が2人、冒険者が不正に入場しないように見張っていた


「・・・暇だな」


「言うな・・・いつもの事だろ?」


「つっても最近は特に酷くないか?バデットの奴が組合長になってから自分で稼ぎもしねえで新人共に稼がせて自分は甘い汁だけ吸って・・・」


「やめろって!誰かに聞かれたらどうすんだよ」


「誰が聞いてるってんだ。誰も来ないダンジョンだぜ?ギルド長もグルなんじゃねえかって話もあるし・・・」


「だからお前やめ・・・・・・」


「あん?どうした?・・・おい、そういう冗談はやめろよな?なに?俺の後ろに誰か居るってのか?誰もダンジョンに入ってないのに?」


「・・・ま・・・」


「ま?まがどうした?」


「・・・にげ・・・」


「おい、ちゃんと話せよ・・・それとも何か?俺をビビらせようと・・・」


「ハッ・・・ハッ・・・ダメ・・・」


「おい!いい加減にしろ!さっきから俺の後ろ見て何言って・・・・・・え?なんっ・・・」


振り返ったギルド職員は最期にこう言おうとした



『なんでここに魔物が』と



襲われる相方をただ呆然と眺めていた男は、手に持っていた槍を放り投げると一気に村に向かって走り出す



魔物がダンジョンの外に出て来る・・・それを人は『ダンジョンブレイク』と呼ぶ──────

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