123階 魔女達の集い
十中八九死ぬ・・・その言葉を聞いても僕は驚かなかった
サラさんの分析は正しい
「死ぬって・・・え?」
「ゲイルがどの程度の実力かは知らない・・・が、近接アタッカー同士で組むには余程息が合っていないと足を引っ張り合う事になりかねない」
そうなんだよね・・・サラさんにとって僕はあくまで武闘家・・・近接アタッカーの斧使いであるゲイルさんとは相性が悪い
「じゃあその人はなんでロウニール君に・・・」
「さてな・・・何か考えがあってだとは思うが・・・」
魔法剣士だからです・・・はい
ゲイルさんが前に居る時は僕が後ろで、ゲイルさんが危なくなったら僕が前に・・・そうやって入れ替わりながら倒すのが効率良いだろうな・・・それは言えないけど・・・
「・・・多分ゲイルさんに何か考えがあっての事だと思います。それに・・・誰かに頼られたのって初めてで・・・期待に応えたいって気持ちがあって・・・」
「・・・ロウニール君・・・」
「勘違いするな・・・別に止めようとしている訳ではない」
「え?」
てっきりやめておけって言われるかと思ったけど・・・
「サラさん!?」
「ペギー・・・冒険者は常に命懸け・・・冒険するから冒険者なんだ。まあむざむざ弟子を死地に送るマネはしないがな」
「えっと・・・止めないってさっき・・・」
「強くなればいい・・・ソロで倒せるほどに・・・行くまでの間覚悟しておけよ?絶対に死なせはしない・・・必ず生きて帰れるよう鍛えまくってやる」
ハ・・・ハハッ・・・何だかサラさんらしいって言うか・・・普通なら止めるところを・・・
「はい!よろしくお願いします!」
「うむ!さあ、中に行くぞ」
「はい!・・・・・・ペギーちゃん?」
家の中に向かうサラさんについて行こうとしたら動かないペギーちゃんに気付き振り返る
「・・・あっ、ごめん・・・何でもない・・・行こっ」
どうしたんだろう・・・もしかしたら僕の事が心配で心配で堪らないとか?・・・・・・んな訳ないか
家の中に入ると既に出来上がっているジケット達とケン達が主役の居ない間に盛り上がっていた
「おお!ロウニールとペギー!早く座れよ」
「早く座れって・・・座らせてくれなかったのは誰だよ・・・好き勝手食い散らかして・・・」
「まあそう言うなって・・・俺達の家が完成しためでたい日じゃねえか」
「・・・俺達?」
んん?なぜ『達』なんだ?
「ああ・・・最近冒険者が、増えたせいか1階でくつろげなくなってな・・・ちょうど暇潰し・・・作戦会議が出来る場所に困ってたところなんだよ」
今暇潰しって言ったよね!?てかまさか・・・溜まり場にするつもりか?
「ロウニール悪いな!ジケットの言う通り1階が手狭になってきたから俺達も使わせてもらうわ」
使わせてもらうわって・・・僕の承諾は!?
「ねぇねぇ!1階の奥にある空き部屋・・・改造して風呂場にしない?ほら大きい桶を用意してさ!お湯なら私が出せるし」
「それは楽しそうですけど木造なのであまり湿気は良くないのでは?家が腐ってしまいそうですけど・・・」
「風呂か・・・良いな。防水加工出来れば問題なさそうだが・・・」
「ローグさんなら出来るんじゃないっスか?ほら、シークスを石化したみたいに部屋を石化しちゃえば・・・」
「でも水の処理とかは?排水されないんじゃない?」
「奥の部屋なら排水用の穴を開ければ・・・マグ出来るよね?」
「うむ」
「なら奥の部屋は風呂場決定で・・・なあなあ・・・ほら、換気って必要じゃない?壁に穴開けてさあ・・・」
「そこ!覗き穴を作ろうとするんじゃない!」
・・・勝手に話が進んで行く・・・なぜ1階の奥の部屋が風呂場に・・・特に部屋割りは決めてはないけど・・・なぜみんなが決めるんだ・・・
「てかさ・・・1人で住むには広くない?」
「あー、思った。金欠の時は泊めてもらおっかな」
「さすがにそれは・・・着替えもないですし・・・」
「着替え置いとくか?2階もかなり部屋余ってたろ?」
「いいですね!俺もここに住もうかな・・・」
「アンタは家があるでしょ?まあでも親と喧嘩した時なんていいかも・・・」
「うむ」
「渡しベッドじゃないと寝れないのよね・・・マグ、今度2階にベッド作って」
止めないと・・・侵食されていく・・・僕の家が・・・
「ペギーは住んじゃえば?ほら家より若干ギルドに近いし」
!!??
ペギーちゃんがここに・・・住む?
ペギーちゃんが・・・ペギーちゃんが・・・
「バカねぇロウニールがいくら人畜無害だからって一緒に住んで無事な訳ないでしょ!」
チッ!ハーニア余計な事を・・・
「それにほら・・・ペギーにはダンがいるし」
!!・・・やっぱりダンとペギーちゃんは・・・
「ち、違うよ!ダンとはそんな・・・」
「おやおや?数多の冒険者からの誘いをお断りしているのはどこの受付嬢かな?中には将来有望そうな冒険者やイケメンも居たとか聞いてるけど?」
「そ、それは・・・」
なんだがゲスいけど・・・頑張れハーニア
「ダン?ダンとは誰なんだ?」
「俺も知らないな。お前らの同期か?」
うっ、サラさんとケンの横槍が・・・今はダンの事じゃなくてペギーちゃんの事でしょうが!
「そっか・・・サラさんもケンさん達もダンとは入れ違いですもんね。そうです、ダンは俺達の同期で出世頭・・・になる予定の男です。今もアケーナダンジョンで頑張ってんじゃないですかねぇ」
「ほう・・・君達と同期でアケーナか・・・かなりの才能があるみたいだな」
「ええ・・・同期じゃ1番でした・・・今はどうか分からないですけどね」
そう言ってジケットは僕を見た
「な、なに?」
「別に・・・何でもねえよ」
何だよ・・・てかそれよりペギーちゃんの話の続きを・・・
「君達の同期は何気に凄いな・・・そのダンといいロウニールといい・・・もう1人才能ある者が居たとか・・・」
僕の場合は才能って言うか何と言うか・・・ん?もう1人?それってもしかしてペギーちゃんの事?
「ロウニール君、私じゃないって・・・多分サラさんが言ってるのはみんなが卒業してから入って来た子の事だと思う・・・宮廷魔術師候補に選ばれた・・・」
ああ・・・そう言えばペギーちゃんが学校を辞めるきっかけになったって言う・・・
「そうだ・・・私も話に聞いただけだが候補に選ばれるなどかなり珍しいらしいぞ。まあ宮廷魔術師に選ばれるのは最終的に1人だから難しいと思うが候補になるだけでも大したもんだ」
「うへぇマジか・・・そんな子が村に・・・卒業してから入って来た子なら俺達の知らない子か」
「そうだね・・・でも理由があって途中から入って来た子だから年齢的には私達とそんなに離れてないみたいだったけど・・・」
ん?途中から入って来た?
「ほう・・・途中からという事は別の場所から移り住んできたということか?」
「いえ・・・理由は聞いてはないのですが村に住んでいたらしいのです」
んん?もしかして・・・
「ペギーちゃん・・・その子の名前ってもしかして・・・シーリス?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も・・・シーリスは僕の妹なんだ・・・」
「ええ!?」
みんなが驚きの声を上げる・・・けど1番驚いているのは僕だ・・・なぜ妹とが宮廷魔術師候補なんかに・・・
「・・・凄い兄妹だな・・・兄はふたつの適性持ちでサラさんの弟子・・・妹は宮廷魔術師候補かよ・・・お前の両親実は凄腕冒険者だったとか?」
「いやいや平凡な農夫だよ!代々守り続けていた畑があるだけで・・・」
「そうよね・・・この村出身なら冒険者は到底無理だし・・・かと言ってロウニールのところが引っ越して来たなんて聞いた事もないし・・・何なのよアンタら兄妹は・・・」
僕も知りたいよ!
僕はダンコが居るからだけどなぜシーリスが?
「・・・エモーンズは不思議だな・・・」
「え?」
突然ボソリと呟くサラさん・・・不思議って何の事だ?
「・・・私はここに来るまでマナ量で悩んでいたんだ・・・少ないマナをどう使えば良いか考え工夫してきた。私がBランクになれたのは風牙扇と服の能力のお陰・・・もちろん努力もしたが限界を感じていた。ところが今はマナ量がかなり増え使える技もそれにより増えた・・・ローグに貰った風牙龍扇と服のお陰もあるが・・・もしエモーンズに来た時の私が風牙龍扇と服を持っていたとしても・・・恐らくBランクが関の山だっただろう」
「つまり・・・エモーンズが何かしら人を成長させる力がある?それでロウニールとロウニールの妹が?」
「それは分からないが・・・何かしらの影響があるようにしか思えない・・・」
サラさんに影響?・・・シーリスの事もそうだしサラさんもって・・・エモーンズが変わったのは間違いなくダンコの影響・・・そして僕もその影響を受けている
でも・・・僕だけじゃなくて周りにも影響が出るってこと!?
気になっていたペギーちゃんの事が吹き飛び頭がぜっさん混乱中・・・一体全体どうなってんだ??──────
──────フーリシア王国王都魔法学校特別教室
その教室は収容人数20人程の大きさがある・・・が、生徒と思われる女性が1人ポツンと座っているだけだった
「あら地味子・・・相変わらず早いではないか。まっ、他にやる事がないから暇なのか」
その教室に新たな生徒が1人座る生徒を見て嘲笑う
「うるさい派手子。黙って座ったらどう?後ろがつっかえてるよ?」
派手子と言われた生徒が振り向くと入口を塞がれて困った顔をした生徒が頭を下げる
「すみませんすみません!別に急いでないのでごゆるりと入口を塞いで下さいませ!」
必死に頭を下げる生徒に嫌悪感を顕にすると派手子ことスウ・ナディア・フーリシアは無言で教室内に入り席に着く
「お優しいこと・・・さすが第二王女様」
「フン・・・シーリス・ハーベス・・・とっとと諦めて田舎に帰ったらどうだ?同じ部屋に長い時間おると妾まで田舎臭うなって仕方ないのだが?」
「そりゃ失礼しました第三王女様。こちらも香水の匂いで鼻がもげそうなので風上に立たないで頂けると助かります」
「何を!やるか地味子!!」
「上等よ派手子!今日こそ埋めてやる!」
「や、やめてください~仲良くしましょうよう~・・・あ」
シーリスとスウが立ち上がり歩み寄るとそれを止めようとした生徒・・・サマンサ・ケドリック・ローザンが魔法を暴発させる
「・・・サマンサ・・・また漏らしたな?」
「ヒィ~すみませんすみません!」
「あら?咄嗟に魔法を防げないのに宮廷魔術師候補と名乗るのはどうなのかしら?第四王女様?」
止めようとしたサマンサから出た大量の水をスウはまともに浴び、シーリスは咄嗟に出した土魔法で作った壁で防いでいた
「・・・喧嘩売ってるのよな?」
「さっきから売ってるけど今更気付いた?てか最初に売ったのはそっちでしょ?第五王女様?」
「もう我慢ならん!辺境の地まで飛ばしてくれる!田舎に帰ったら言うのだな・・・『崇高なるスウ様に構ってもらえて幸せでした』と!生涯の思い出にするがいい!!」
「たとえ帰ったとしてもそれだけは誰にも話さないけど?だって黒歴史じゃない・・・墓場まで持って行くわ」
「おのれシーリス!!」
「何よスウ!!」
「ヒィ~おやめ下さいおやめ下さい!」
一触即発の事態に陥りサマンサがまたもや魔法を暴発させようとした時、教室の入口に現れた老女が持っている杖で床を叩く
「まーたやってんのかいアンタら!そんだけ体力が有り余ってるなら外で走ってきな!」
「げっ・・・ラディル・・・先生・・・」
「げっじゃないよスウ!どうせアンタがシーリスを挑発したんだろう?ここでは一生徒同士って言ったら何度分かるんだい!・・・ハア・・・その濡れた服をどうにかおし」
「違っ・・・・・・フン・・・・・・風よ・・・」
言い返そうとしたが宮廷魔術師ラディル・ククルス・ホテルスに睨まれ口をつむいだスウはシーリスを一瞥し鼻を鳴らすとマナを集め風を起こす
風はスウの周りで吹き荒れあっという間に服を乾燥させた
「便利ね。服の乾燥屋さんでもすれば儲かりそう」
「このっ」
「おやめ!・・・まったく・・・」
ラディルは大きくため息をつき教壇に立つと3人はいつもの席に着いた
大きい教室に3人の生徒・・・元々はこの教室のある席が全て埋まるほど居た生徒も今はこの3人だけとなった
第二王女であるスウ
エモーンズ出身のシーリス
ケドリック家の長女サマンサ
そしてここには居ないもう1人を足した4人が宮廷魔術師候補の最終メンバーである
「さて・・・今日は授業の前に伝える事がある。シーリス、サマンサ」
「はい」「はい」
「2人には半年後・・・エモーンズに行ってもらう事になった」
「え?エモーンズ?」
「オーホッホッホ!遂に田舎に帰る事になったのねシーリス!お土産代がなければ差し上げてもよくってよ?」
いきなりお嬢様キャラになり煽るスウ・・・シーリスが睨み立ち上がろうとした時に恐る恐るサマンサガ手を上げる
「あの・・・私も・・・ですか?」
「うむ。スウは何を勘違いしているのか知らないけど2人にはある方の護衛とダンジョン探索の手伝いをしてもらいたいのさ。ちょっと予定していた者が事情あって行けなくなってね・・・まあ代役って訳さね」
「護衛?・・・ダンジョン探索?」
「ちょ・・・なぜ妾は入ってないのだ!?」
「スウが行けば護衛の護衛が必要になるのが分からないのかい?今回は前回みたいにディーンが行けないからね・・・スウはここで留守番だよ」
「ぐぬぬ・・・」
「師匠・・・そのある方っていうのは誰なんです?」
「あー、まだそれは極秘事項だから話せない・・・とりあえずまだ時間はあるから旅の準備だけはしといておくれ。かかった費用は国が出すけどあんまり変な物買うんじゃないよ」
ある方の護衛とダンジョン探索・・・シーリスは恐らくそのダンジョンとは彼女が王都へと向かう少し前に出来たエモーンズのダンジョンの事だろうと推測する
2年ぶりの帰郷・・・宮廷魔術師となっての凱旋ではないが落とされて帰る訳でもないので久しぶりに会える両親の顔を浮かべて微笑んだ
しかし・・・
アレもまだ居るのよね・・・エモーンズに・・・遭遇しないで済めばいいけど・・・
両親の顔を浮かべた時にチラリチラリと見え隠れするひとつの影
彼を見る度にため息をつく母を見て育ちいつの間にか毛嫌いするようになったあの男・・・
ハア・・・家には居ないと思うけど・・・なるべく村の中を出歩かないようにしないと・・・今会ったら埋めてしまいそう・・・
そんな事を考えながらシーリスは今日も宮廷魔術師となるべく魔法の授業を受けるのであった──────




