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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
123/856

120階 ロウニールの帰還

一難去ってまた一難とはまさにこの事・・・レオンが去り、ホッと一息も束の間、道端で同期のみんなに囲まれている


「武者修行?一声かける時間くらいあったよな?」


「心配させたって自覚ある?仕事休んでまでする事?」


「むう」


「武者修行・・・ね。ダンジョンを使えばいいのにわざわざ外で・・・」


「あう・・・みんなごめん・・・その・・・色々テンパってて・・・」


囲まれた圧力だけじゃなく、嘘をつく事に後ろめたさを感じ上手く言葉が出ない


何とか必死に考えたストーリーを話すと渋々ながら納得してくれた・・・エリン以外


じーっと僕を見る目が何かを見透かしているようでついつい目が泳いでしまう・・・さすが組合の副長・・・一筋縄ではいかないみたいだ


「まっ、ロウニールがそう言うのならそうなんでしょうね・・・ひとつ貸しにしといてあげる」


なぜ貸しに・・・追求しないであげたからって事?それとも何かに気付いて?・・・恐ろしい・・・


「とにかくペギーにも謝っておけよ!かなり心配してたぞ?」


「ペギーちゃんが?」


「お前・・・なんで嬉しそうなんだよ・・・ったく!今日はお前の奢りだかんな!」


「うっ・・・分かってるよ」


ペギーちゃんが僕を心配してくれたのか・・・嬉しい・・・けどその分怒られるよな・・・


「で?どれくらい強くなったの?サラさんくらいになった?」


「なっ、なる訳ないし!下手なこと言わないでよ・・・もし今のをサラさんに聞かれたら・・・」


「ほう・・・聞かれたらなんだ?」


ですよね・・・道端で集まって話していれば目立つし、そんな時に噂をすれば出て来ますよね・・・


「し、師匠・・・」


「さて・・・どこに行ってたのかは後ほど聞くとしよう・・・まずはサボっていなかったか確認が必要だと思うが・・・時間はあるか?」


「え、えっと・・・・・・はい」





現れたサラさんに首根っこを掴まれ訓練所に強制連行・・・最近訓練所に来る頻度が半端ないような・・・



「さあ修行とやらの成果を見せてみろ」



静かに言うサラさんの目は真剣そのもの・・・


それに応えるべく僕は真剣に戦ったつもりだ


本当は全力を出して応えたい・・・けど出せない・・・そのもどかしさを感じながら・・・



「・・・まあ合格だな。で?1ヵ月の間何をしていたか、どこに居たか聞こうか」


大の字に倒れ天井を見上げていた僕の視界を遮るようにサラさんの顔が現れた


「・・・実は・・・」



僕はみんなについた嘘をまた並び立てた


自分を守る為の嘘・・・胸がギュッと締め付けられる


「・・・そうか。気を遣わせてしまったみたいだな」


「そんな!・・・違うんです・・・そういうのじゃなくて・・・」


「今度からは誰かに言伝を頼むのだな・・・みんな心配してたぞ?ジケット達も・・・私もな」


「・・・すみません・・・」


「それで・・・ロウはどこに住んでいるのだ?いつも門の所に居るから失念していたが寝泊まりする家くらいあるのだろう?」


「・・・えっと・・・ヘクト爺さん・・・もう1人の門番の人の家に転がり込んでいました・・・」


「?街の兵士なら兵舎が使えるのでは?それに実家もあるだろ?なぜヘクトさんの家に?」


「兵舎も家も居場所がなくて・・・」


「・・・そうか・・・まあ、私もギルドに間借りしている身だからとやかく言うつもりはないが・・・ずっと住む訳にはいくまい」


「ええ・・・でもお金もなくて・・・」


本当は腐るほどある・・・と言うか無限にあるけど


「・・・ふむ・・・まあ、兵士の安月給では宿に泊まるのは厳しいだろうし・・・私の部屋に泊まるか?」


「えっ!?」


「冗談だ・・・本気にするな。・・・ふむ・・・」


ダンジョンは何でも揃ってるし快適だけどロウニールとしてちゃんと生活してないとおかしいよな・・・でも家を建てるにもお金がかなり掛かるし・・・


「・・・領主に相談してみたらどうだ?」


「領主に?・・・そう言えば誘致で家をプレゼントみたいな事をしていたような・・・でもそれって外から来た人用ですよね?」


「いや、土地さえあれば何とかなるだろう」


「へ?」


「かなりまだ土地は余っているはず・・・そこに家を建てればいい」


「それはそうですけど先立つものが・・・」


「何を言っている・・・自分で建てるのだよ」


「建てる?家を!?・・・いやいやそんな簡単に建てれないですよ!てか、自分で建てた家なんて心配で眠れないですって!いつ崩れるかも分からないのに・・・」


「やりもしない内から諦めるな!為せば成る!」


ならんわ!


ヤバい・・・なんかブツブツ独り言を言い始めたぞ?マジで家を建てさせる気なのか?


「・・・木は森から調達出来るし・・・切るのは風牙龍扇で・・・」


ああ・・・マジで建てる気だ・・・どうしよう・・・


「うむ!土地の件は私が領主に掛け合ってみよう。ロウは手伝ってくれそうな者に声を掛けておいてくれ」


「へ?自分で建てるって・・・」


「1人で家が建てられる訳ないだろ?私も協力するしケン達にも手伝わせよう・・・どうせ暇だろうし暇過ぎるとろくな事をしないからな・・・特にケンとスカットは」


ああ・・・歓楽街に行ったことをまだ・・・まあ僕は知らないことになっているから触れないでおこう


「でも素人が集まっても家は建てられないんじゃ・・・」


「何とかなるだろ?木は現地調達出来るし窓は・・・まあ買えばいい。ドアは・・・見よう見まねで・・・」


ダメだこの人!家造りを簡単に考えてる!


「し、師匠・・・僕がお金を貯めて大工に頼みますんでその時まで・・・」


「その時まで居候する気か!?私の弟子ともあろう者が・・・それは許さん!早速取り掛かるからロウはなるたけ人を集めろ!いいな!」


うわぁ火がついてしまった・・・別に居候は恥でもなんでもないような気もするけど・・・


サラさんはそのまま訓練所を出て行ってしまった。もしかしたら本当に領主に土地を貰いに行ったのか?・・・どんだけ行動力があるんだよ・・・


これはもう止められないな・・・仕方ない・・・ジケット達に相談してみるか・・・



サラさんに連れ去られたので再会が中途半端になってしまったジケット達を見つけ事情を話す


すると彼らは目を輝かせて何も言ってないのに協力を申し出てくれた


「マグの親父が大工だ。もし出来なかったら相談すりゃいい」


「うむ」


そう言えば以前家の補修している人がどことなくマグに似てたかも


「ねぇねぇ家のデザインは私がしていい?冒険者かそういうデザイン系に進むか迷ったのよね~」


「やめた方がいいよロウニール・・・ハーニアの感覚は独特だから」


「ちょっとエリン!?どこが独特なのよ!いいわよ・・・見てなさい・・・みんなが驚くようなデザインを描いて来るわ!」


いや誰もいいとは言ってない・・・しかも驚くようなデザインって・・・普通の家がいいです・・・普通の家が


そんな話で盛り上がっている間にペギーちゃんの終業時間が近付く


怒られるのかな・・・それとも実はそんなに気にしてなかったから普通に・・・


「あれ?みんなどうしたの?・・・・・・」


ギルド前で出て来るのを待っていると仕事終わりのペギーちゃんが僕達に気付く


初めは笑顔・・・でも僕と目が合った瞬間・・・眉間にしわ寄せた


「・・・どちら様ですか?」


グハッ!・・・サラさんよりも・・・シークスよりも強烈な一撃が僕の心を撃ち抜いた


冷たい視線・・・低い声・・・他人行儀な話し方のトリプル攻撃にダウン寸前だ


「まぁまぁ・・・ロウニールにも色々事情があってな・・・飯を奢ってくれるって言うからとりあえず店に行こうぜ」


「・・・」


ジケットに宥められても止まぬ冷たい視線の攻撃に僕は一言も喋る事が出来なかった──────




店に入るとみんなが驚く程に急ピッチでお酒を飲むペギーちゃん


出された食事に一切手を付けず浴びるようにお酒を飲んではテーブルにコップを乱暴に置く


ガンっと音が鳴る度に僕はビクビクしながら説明してくれているジケットに全てを託す


「・・・ふーん・・・ロウニール君にとって私達なんてそんなもんなんだ」


どんなもんなんだ?


いやいやとても大切な友達です!・・・とここで言えればどんなにいいか・・・僕は依然黙ったままなのが癪に触ったのか再びペギーちゃんはお酒を注文する


「ほ、ほら・・・男ってのは努力を見せない美学みたいのがあって・・・」


「・・・人に心配かけさせて美学?笑わせるわね」


「え、いや・・・なあ?マグ」


「・・・」


触らぬ神に祟りなしと思ったのか普段から口数が少ないマグはより一層の少なくなり『無』と化した


「あー、うん・・・全体的にロウニールが悪い!」


おい!


「まっ、反省している事だし許してあげたら?」


「男なんてみんなそうだよ?考え無しで行動して・・・結局損を見るのは女なのよね」


一応ハーニアとエリンも援護してくれているが・・・何故か構図がどんどん男VS女に変わっていって・・・



「男なんてバカばっかなのよ!この前も小銭貯め込んでると思ったら歓楽街に遊びに行くって白状していたし!」


「ジケットは分かるけどまさかマグまでとはね・・・しかも普段は物静かなくせしてやたら語るし」


「どうせ私の事なんて()()()()女としか見てないのよ。歓楽街の綺麗な女性に相手してもらえば?」


「いや、興味があるだけで別にそんな・・・てかエリン!俺なら分かるって何だよ俺ならって!」


「ぐぅ」


ジケットは辛うじて反論するがマグはぐうの音も出ない・・・じゃなくてぐぅの音を出した


僕はと言うとペギーちゃんがあの時の事を根に持っていたと分かり戦々恐々・・・テーブルの対面にいるペギーちゃんを見る事が出来ずカタカタと震えていた


「あーあ、どっかに素敵な男は居ないかなー居ないよなー・・・クズばっか」


「そりゃ歓楽街は繁盛する訳ね。商売相手がこんなだし」


「男の目線はいつもココ・・・こっちは気付いてるのに見てないフリするって何なの!?バカなの?アホなの?」


ハーニアとエリンはほとんどいつも通りだけど、毒を吐くペギーちゃん・・・怖い・・・ん?


「そうそう軟弱な男が増えてガッカリだよな?ペギー・・・こんな奴らと飲んでないでこっちで俺らと飲もうぜ」


いつの間にかペギーちゃんの背後に4人の男が・・・しかも1人はペギーちゃんの肩に手を回して・・・


「アドスさん・・・今は同期で食事しているのでちょっと・・・」


「つれねえこと言うなよペギー・・・俺らがいつも誘ってるのに断っといてこんな冴えねえ男と・・・デカ胸の無駄使いだぜ?」


そう言ってアドスは肩に回した手をあろう事かペギーちゃんの胸へ伸ばす



咄嗟だった


咄嗟に立ち上がると所狭しと並んだ食器の隙間に手を付きテーブルを飛び越え男の顔面に蹴りを食らわす



「・・・てめぇ!」


アドスが呆気なく倒れると一瞬間が空き我に返った男達が僕に向かって来る


掴み掛かろうと伸ばす手・・・その手を弾き腹部に掌打


下がった顔に膝をお見舞いすると仰け反りそのまま倒れてしまう


「ウェッジ!!・・・この・・・」


「やっていい事と悪い事の区別もつかないのか・・・駆け出しの冒険者風情が調子に乗るな」


「駆け・・・てめぇ!!」


「・・・ロウニール君・・・その人達Dランク・・・」


「え!?」


Dランク?こいつらが?・・・だってDランクってそこそこの冒険者だって・・・ギルド長権限で上げられる最高位・・・冒険者が最初に目指すランク・・・それなのに・・・


「おいおいアドスだけじゃなくウェッジまで・・・」「アイツ何者だよ・・・ギルドで見た事ねえぞ」「見えなかった・・・この俺が・・・」


ヤバい・・・店の中だというのを忘れてた


何かザワザワし始めてるし店員さんもコチラに向かって来てるし・・・あーもう!


「今日のお代と迷惑料を置いておきます!みんな行こう!」


テーブルの上に多めにお金を置いて呆然とするみんなに声を掛けると後ろから手を掴まれた


「てめぇ逃げる気か!」


「・・・逃げる?僕が?君から?」


店に迷惑がかかるのが分からないのか?逃げるって何だよ


「・・・まだやりたいなら外に出てからにしよう・・・僕の名はロウニール・ハーベス・・・逃げも隠れもしないから」


アイツみたいに・・・レオンみたいに逃げたり隠れたりしない・・・向かって来るなら・・・正々堂々叩きのめす!


「うっ・・・」


僕が睨みつけると男はすぐに掴んでいた手を離した


少し前なら萎縮してしまいそうな強面な男もレオンやシークスに比べればなんてことは無い


「行こうみんな」


「お、おう」


エモーンズにいる冒険者はそんなに粗暴な人はいないと思ってたけど、どうやら違うみたいだな


ペギーちゃんを誘ったりいきなり胸を・・・


これは何とか対策しないと・・・いつかペギーちゃんが悪い冒険者に騙されて・・・



僕達は食事を残したままアドス達を置き去りにして店を出た


ジケット達が何かを僕に言っていたがあまり覚えていない


僕の頭の中ではどうやって悪い冒険者を正す・・・もしくは追い出すかで頭がいっぱいだったから・・・


自分が今、ロウニールである事を忘れて──────

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