119階 レオン
「僕に何の用ですか?」
僕とレオンと思われる男は門から離れた場所で対峙する
どこにでも居そうな普通の人・・・穏やかな表情から友好的な雰囲気すら感じるが・・・
「何の用・・・か。とぼけるのは無駄な時間だから簡潔に答えて欲しい・・・私の仲間になる気はないかい?」
「貴方の仲間に?僕が?・・・誰かと勘違いしてませんか?」
「言ったろ?とぼけるのは時間の無駄だって・・・ロウニール?それともローグと呼んだ方がいいかな?」
いつだ・・・いつ気付かれた!?
ここ最近ロウニールとして表に出てない・・・僕とローグを関連付ける証拠なんてあるはずがない・・・なのにコイツはどうして・・・
「ふむ・・・『どうして?なぜ?』で思考が停止してしまっているようだね。仕方ない・・・教えてあげよう。私はね人を見抜く目を持っているのだよ・・・強さを見抜く目・・・と言ったら普通かも知れないが普通の人よりもかなり正確だ・・・こうして生きていられるのもこの目があるからこそと自負している・・・まあ、顔を変えられるのはオマケみたいなもんだ」
ダンコも相手の力を見抜く事が出来るけど・・・もしかしたらそれ以上?・・・って事は・・・
「僕とローグが一緒の強さと気付いた・・・って事?」
「そういう事。上手く何かの能力で妨害しているみたいだけど私にとっては意味がない・・・初めは若いのにそこそこの門番だと思った程度・・・でもダンジョンで初めてダンジョンナイトを見掛けた時に気付いた・・・あれだけ囃し立てられているダンジョンナイトが門番の君と同じ強さ・・・そこに違和感を覚えてからは君がダンジョンナイトであると気付くのにそう時間は掛からなかった」
「・・・同じくらいの強さなんてゴロゴロ居るだろ?どうして僕とローグを結び付けた?」
「成長の度合い」
「え?」
「初めは取るに足らない人材だった・・・けど君は人とは思えないスピードで成長していく。ある時は一晩で強くなり・・・ある時は全く成長していない・・・人は徐々に成長していくものだ・・・力を見抜ける私は幾多の人を見てきたから間違いない・・・君以外はね」
一晩・・・ダンジョンを拡張した時か・・・
「君は実に不思議だ・・・未だ強さは分かってもその力の根源は分からないまま・・・初めてだよ・・・こんなに欲しいと思ったのに手に入れられなかったのは・・・だから未練がましく会いに来てしまった」
「・・・」
「答えは分かってる・・・今の私は駒も持ってないしね・・・でも彼らを見て無理矢理従っているように見えたかい?出会いは最悪でもいずれは私に心酔し自ら従うようになる・・・君もきっと・・・ついてくれば分かるはずだ」
「口説き文句はそれだけか?僕の返事は・・・ノーだ」
「だろうね・・・このまま無理矢理拉致してもいいけど今の君に抵抗されたら・・・間違って殺してしまうかもしれない・・・それは何としても避けなくては・・・悩ましいな」
「ちなみに僕は街の兵士だ・・・手を出した瞬間からお前は指名手配されて・・・」
「私に脅しは効かないぞ?この顔で指名手配されても痛くも痒くもないしな。逆に君の方が困るんじゃないか?たとえ逃げ切れたとしてもロウニールはローグだとバレてしまう・・・何か理由があって顔を隠しているのだろう?」
「・・・」
「まあこうして会いに来たのは君に私が君の正体を知っていると教えたかっただけだ。他の誰にも言っていない・・・私と君2人の共通の秘密だ。君みたいに誰かと一緒に聞いたりもしていない」
あの時兵舎で聞いてたの・・・バレてたか・・・
「・・・何のことだか・・・」
「とぼけるのは・・・まあいい・・・欲しい人材はあらかた集めた・・・最後のピースが残っているが、な」
そう言って熱い視線を僕に向ける・・・恋・・・って訳じゃないよな・・・
最後のピースが僕って事か・・・こんなに嬉しくない高評価は初めてだ
「何をするつもりだ・・・人材を集めて」
「仲間になったら教えてやる」
「なら一生聞けそうにないな」
「後悔するぞ?」
「もうしてるよ・・・お前がまだこの辺をうろついていると知っていたらもっと強くなってた」
「それは怖いな・・・確かに1ヵ月前に比べると目を見張るものがある・・・君ならいずれ本当に勝てるかもな・・・そのいずれがいつかは何とも言えないが・・・」
「・・・もしかしたら明日にでも超えているかも知れないぞ?」
「ハハハ・・・さすがにそれはない。もし本当にそれが出来たとしたら君は正真正銘の化け物だよ」
「つまり・・・それだけまだ差があるってこと?」
「・・・その発言を聞けただけでも来た甲斐があったな・・・」
「どういう意味だ?」
「分からなくていい・・・ではこれで失礼するよ」
「・・・」
差があるか質問しただけなのになぜ来た甲斐があったと言ったのだろう
考え事をしながら去って行くレオンの背中を見つめているとダンコがボソリと呟いた
《やられたわね》
「え?」
《あっちの手札を見せてこっちの手札を見に来たのよ・・・で、まんまと見せてしまったってわけ》
「・・・分かりやすく」
《ハイハイ・・・あの人間は相手の力を正確に読める・・・けどアナタは出来ない・・・それを確認したのよ》
「なんで?」
《あのねえ・・・相手の力が読めるって負けないって意味と同じだからね?》
「いや違うでしょ」
《ハア・・・どうして違うと思うの?》
「え?だって・・・力が読めるだけじゃ勝てないし・・・」
《私が言ったのは負けないよ。誰も勝てるとは言ってないでしょ?相手が自分より下なら戦い、上なら逃げる・・・もしくは勝てるように策を講じればいい・・・アナタにはあの人間と同じ事が出来ない・・・それを確認出来ただけでもあの人間には収穫だったわけ》
「なるほど・・・でも分かったところで勝てなければ意味ないような・・・」
《本気で言ってる?あの人間が仕掛けて来るって事は勝てると分かっているから・・・勝てないと分かれば手を出して来ないだけ・・・つまりアナタは・・・一生あの人間に勝てない・・・これの意味が分かる?》
「べ、別に勝たなきゃいけない訳じゃないでしょ?」
《あの人間はアナタに執着している・・・勝てないと分かって手を引くと思う?》
「どうだろう・・・勝てないと思ったら諦めるんじゃ・・・」
《・・・アナタには通じなかったのね・・・あの人間の脅しが》
え?脅されたっけ?
《アナタとローグが同一人物って知っているのよ・・・勝てないと分かれば・・・いえ、労せずアナタを手に入れる為にはそれをバラすかも知れない・・・もっと言えば『今は駒を持っていない』と言ってたけど、駒は人質の事・・・もし今回初めからあの人間主導で動いていたら・・・果たして無事サラ達を助けられたかしらねえ?》
「あ・・・」
言われてみればそうだ・・・レオンは僕の正体を知っている・・・それを言いふらすと言われただけで僕は手も足も出ない・・・
それに人質・・・もし今回レオンが訓練所に留まらず動いていたら?地下に居たのが・・・1階に居たのがレオンだったら?
地下に居れば僕は負け・・・1階に居たらシークス達はすぐに制圧され・・・救出は困難・・・いや、失敗していただろう
今回はたまたま上手くいっただけ
もしレオンが本気になれば・・・
《アナタを味方に引き入れたいって言うのは本気なようね。でなきゃこの場で殺されている。力は読めても内面までは読めないから私達の正体を脅しに使えるか判断がつかなかった・・・今日来たのは色々と確認する為・・・慎重かつ大胆・・・今のアナタじゃ逆立ちしたって勝てない・・・いずれあの人間はやって来る・・・アナタを手に入れる為に・・・その時アナタはどう立ち向かう?あの人間を超えても逃げられ、人質を取られ仲間になる?あの人間は勝利を確信している・・・どう足掻いてもアナタに負けないと・・・》
「・・・僕ってそんなに魅力的?」
《アナタじゃないわ。私とアナタが魅力なのよ》
さいですか
でも実際にそうだから反論出来ない
僕はダンコが居なかったらどうなっていたんだろう・・・・・・考えても仕方ないか
ハア・・・次レオンが来る時は確実に僕を手に入れる算段が出来た時なのかな・・・
「ねえダンコ・・・レオンに勝つにはどうしたらいい?」
《簡単よ》
「そうなの?」
《ええ。全ての関わりを捨てて司令室に篭もりなさい。そうすれば誰も手出し出来ないわ》
「つまり・・・逃げろって事?」
《逃げるが勝ちって言うでしょ?それとも人質になった人間を見捨てる事が出来る?出来るなら単純に相手より強くなれば勝てるけど・・・》
「・・・無理だね」
《なら逃げる以外勝ち目はないわ》
「はっきり言うね」
《事実だからね》
ぐうの音も出ない
まるで僕の知り合いが弱点と言わんばかり・・・いや、実際そう解釈しか出来ない物言いに僕は反論出来なかった
実際に今回捕まってしまった訳だし
でも・・・
「僕は勝つよ」
《その自信はどこから来るのかしら?》
「僕1人なら無理でも・・・僕とダンコなら・・・きっと勝てる」
《でしょうね。アナタが私の言う事を聞いてくれれば、ね》
ダンコは逃げるが勝ちと言うのだろう。でも僕は逃げずに勝つ気満々だ
きっと勝てるよ・・・きっと──────
「どうでした?ローグちゃんの反応は」
「歳の割には冷静だったな・・・村出身だから偽りの年齢でもないはず・・・なかなか面白い」
「強引に拐ったらダメなんです?」
「それも考えたが・・・どうも協力者がいる気がする」
「協力者?シークス・ヤグナー?」
「いや、もっと深い・・・その場しのぎで手を組んだなどではないはず。でなければ一人二役は限度がある・・・バレずにここまで来れたのはその協力者のお陰だろう。その正体が分かるまでは手出しするのは危険だ」
「危険・・・ですか?」
「ああ・・・もしロウニールの力の根源がその協力者だとしたら逃げられる可能性があるからな・・・逃がしはしない・・・きっと手に入れてみせる・・・長年求めていた最後のピースだからな──────」




