表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
121/856

118階 訪問者

「ただいま戻りました!ケイン兵士長!」


兵舎にあるケインの執務室で声を張り上げると忌々しそうに書類から目を離し部屋に入ってきたロウニールを睨みつける


「・・・戻らずともいいと言わなかったか?」


「戻るなとも言われてませんでしたので!」


「・・・で、その汚らしい格好は何のつもりだ?嫌がらせか?」


「すぐに復帰の挨拶をしたく戻った足でそのまま来ました!」


「・・・俺がそれを『よくぞその足で報告に来た!』とでも言うと?」


「いえ!思いません!」


「・・・貴様・・・もういい・・・明日から門の番に入れ・・・身だしなみを整えてな」


「はっ!」


「とりあえずさっさと行け・・・貴様の臭いが部屋に移る」


「そんなに匂いますでしょうか?」


「貴様はそのまま好いている奴の元に行けるか?」


「行けません!」


「・・・死ね・・・いや、去ね。今すぐに!」


「はっ!では今日からまたよろしくお願いします!」


「明日からだ!」


「はっ!」


ロウニールは恭しく頭を下げると執務室から出て行った


ドアが閉まるまで睨みつけ、閉まり切った瞬間にケインは椅子にもたれ掛かる


「ジェイズ・・・仮にもアイツが私の部下ということに腹が立つのだが・・・どうにか辞めさせる方法はないのか?」


「方法はいくらでもありますが・・・その際には『お手紙』が団長の元に送られてしまうのでは?」


「・・・正当な理由ならば送られても問題ないだろう?」


「さあどうでしょう・・・痛くない腹を探られても問題はないと思いますが、下手に刺激して探られたらマズイのでは?例えば『せっかく捕まえた者を拷問死させてしまった件』など・・・」


「もういい・・・こうどうして上手くいかないのか・・・衛兵所の建設も延びたと聞くが・・・」


「はい・・・残念ながら・・・」


「このような辺鄙な場所に必要か?」


「辺鄙な場所だからこそ・・・では?」


「神に祈りを捧げ何になる?ダンジョンの魔物でも消し去ってくれるのか?」


「人々の心の支えに」


「・・・ジェイズ・・・なぜ肩を持つ?」


「そう聞こえましたか?」


「聞こえない方がおかしい・・・教会と貴賓を迎える為の宿を建設する為に衛兵所が後回しにされているのだぞ?それをさも衛兵所より優先すべきだという物言い・・・普通に考えればおかしいだろ?」


「・・・実はファンでして・・・」


「ファン?」


「聖女・・・セリーヌ・アン・メリア様の・・・」


「・・・お前は聖女の警護から外すからな」


「そんな殺生な!この街に来ると聞いて私を中心に警護計画を立てたのに!そうすれば少しでもご尊顔を拝見出来るチャンスが!」


「外す・・・絶対外す」


「ケイン様~!どうか・・・どうか御再考を~!──────」





ん?執務室から悲痛な叫び声が・・・まあいっか


それにしても何も聞かれなかったな・・・せっかく準備して来たのに


ダンコが考えた1ヵ月居なくなった理由・・・通称『熱血編』


内容はと言うと『自らを鍛える為、そして自分を追い込む為に近隣の森の中で1ヵ月間修行に励んだ』だ


要は武者修行・・・で、なぜそんな事をしたかと言うと『師匠であるサラさんも忙しそうで迷惑は掛けられず、街の中だと気が緩んでしまうから』だ


何の為には『数ヶ月後に人喰いダンジョンで頼まれている事がある』という訳だ


嘘の中に本当を混ぜてより本当っぽくしたこの言い訳・・・通じるような通じないような微妙な感じだが僕では思い付かないのでその作戦で行く事にした


ゲートを使って外に出て、1ヵ月間外に居たと思われるように地面に転がり自ら汚れ、門番をしていたヘクト爺さんにそのまま伝えたら微妙な顔をされたが・・・まあ大丈夫だろう


《まるで本当に1ヵ月間水浴びしていないような対応だったけど・・・普段から臭いと思ってる証拠ね》


そう!別に汚れてはいるが臭うはずがない・・・なのにケインは明らかに汚物を見るような目で僕を・・・臭い・・・ないよな?



兵舎に居ると兵士達がケインと同じような目で僕を見つめて来るのでそそくさと兵舎を出て人気のない場所でゲートを開き司令室に戻った



さて・・・ここからが本番だ



1ヵ月間居なかった理由をジケット達・・・そしてペギーちゃんとサラさんに伝えなくてはならない


心配してくれていたかは分からないけど、同期会を無断で欠席しているしサラさんは師匠だ・・・みんなに事情を説明しないとダメだろう


ただ・・・ペギーちゃんって妙に勘が鋭いんだよな・・・サラさんもローグとして接している時間がかなり長いし・・・


そんな事を考えながら汚れた服から着替えていると通信道具である石が光を放つ


一瞬レオンか!?と思ったけど、光ったのは新たに作ってサラさんに渡した石の方だった


「どうした?」


気持ちをローグモードに切り替えてマナを流し声を掛ける


〘あ・・・忙しいところごめんなさい。今大丈夫?〙


「ああ」


〘伝えてなかった事があってね・・・組合『ダンジョンナイト』に副長の座を設けたの・・・それでその人が誰かを伝えないとと思って・・・〙


「副長?その人は私が知る者なのか?」


〘うん・・・ジケット達のパーティーのエリンよ〙


エリン!?エリンが組合の副長!?


「ほう・・・どうしてエリンを?」


〘副長はローグや私が不在の時に決定権を持つ事になるわ。それなら思慮深い人が適任だと思って・・・私としてはエリンはその辺問題ないかと思ったけど、ローグはどう思う?〙


エリンか・・・予想外の人事だけどエリンなら大丈夫そうな気がする・・・意外と周りが見えているし考えも人より深い・・・


「いいと思うな。彼女ならこなせるだろう」


〘・・・そんなにエリンの事知ってたっけ?〙


聞いといてそれ!?


「・・・前にトロールとの戦いを見てそう感じた。それよりも平気なのか?」


〘?・・・何が?〙


「昨日帰る時におかしな歩き方をしていたからな・・・どこか痛めているのかと・・・」


〘!?・・・べ、別に平気よ・・・うん!全然平気!!〙


話をはぐらかそうと言ってみたが何この反応・・・突っ込んじゃいけないところだったのかな?


「そうか。それならばいいが・・・」


〘そ、それよりローグってまだ通信道具持ってる?〙


「あるにはあるが・・・」


また作ればね


〘もう2組あれば嬉しいなって思って・・・〙


「2組?誰と誰に渡すのだ?」


〘1組は今言ったエリン・・・もう1組は・・・ローグには前に話したと思うけど弟子のロウニールって子よ〙


僕!?なんで!?


〘副長になったエリンには緊急時にいつでも連絡取れるようにしたくて・・・で、ロウニールは・・・〙


「ロ、ロウニールは?」


〘師匠の私に断りもなく居なくなっちゃったのよ。何か事件に巻き込まれてなければいいけど・・・もしそういう事件とかではなくて黙ってどこかに行ったのならきつく叱らないと・・・で、一応私の弟子だしジケット達とも仲がいいし・・・冒険者と違って行き先が分かりにくいから持たせた方が安心出来るかなって・・・何か変なのよね・・・住んでいる場所も不明だし・・・〙


ギクッ・・・この流れはマズイ・・・


渡したらどっちに連絡しているか分からなくなりそうだし、居場所を把握されたら非常にマズイ!『今どこに居る?』なんて聞かれて下手な答えをするようならそこから色々とバレてしまいそうだ


ローグなら謎多き人物で通ってるから詮索されてないけど僕は余裕で詮索されるだろう・・・ダメだ・・・考えろ・・・


「・・・残念だが材料の関係上1組しかない・・・材料があれば話は別だが・・・」


〘そう・・・まあロウニールの方はオマケ程度だと思ってたし・・・その1組って譲ってもらえること出来る?もちろん対価は払うわ〙


良かった・・・危ない危ない・・・


「いや、組合に関する事なのだから対価は要らない。今度会った時に渡そう──────」




何とか難を乗り切ったけど・・・そう言えばすっかり忘れていた事がある



もし聞かれた時の住んでいる場所だ



さすがに野宿しているは通じないだろうし宿屋暮らしもダメだろう・・・居なくなった期間は『熱血編』で誤魔化せたとしても住んでいる場所はそれでは誤魔化せない


「ダンコ・・・住んでる場所どうしよう・・・」


《知らないわよ!適当な場所をでっち上げるかするしかないんじゃないの?》


でっち上げるって・・・そんな事に協力してくれそうな人って・・・仕方ない・・・あの人に聞いてみるか・・・



僕の事を知っていて家に泊めてくれそうな人は・・・


「どういう事じゃ?ワシの家に住んでいた事にしてくれとは・・・」


ヘクト爺さんしかいない


着替えを終えた後で仕事中のヘクト爺さんを訪ねて頼み込むと案の定怪訝な表情・・・騙すみたいで気が引けるけど、正体がバレたら僕はもう・・・ロウニールには戻れないから・・・


「その・・・兵舎を追い出されてからずっと他人の家の軒下とかで毛布にくるまって生活してて・・・バレそうになったら移動するって繰り返してたんです」


「なんでまた・・・家に戻ればよかろう」


「家は居場所がなくて・・・周りには家から通っている事にしてたんですけど修行中にバレちゃって・・・お願いします!ただ居た事にしてくれるだけでいいんです!実際に住ませてくれとか言わないので!」


「当たり前じゃ!・・・ふむ・・・まあ野宿していたと知られたら体裁は悪いわな・・・住んでいた事にしてやるのは構わんがずっとそのままの訳にはいかんぞ?」


「はい!ありがとうございます!」


「よいか?すぐに住む場所を・・・む?お客さんじゃちょっと待っとれ」


仕事中って事もありヘクト爺さんは訪問して来た人を見掛けると仕事に戻って行った


それにしても・・・良かった・・・これで万事解決・・・後はこの事をみんなに・・・


「ロウ坊」


「え?仕事早っ!」


「いや・・・どうやら街に入りたいのではなく・・・ロウ坊・・・お前さんに用があるらしい」


僕に?誰だろ?


《ロウ!見ちゃダメ!!》


振り返ろうとする僕にダンコが突然叫んだ


でも僕は途中で止める事など出来ず『彼』を見てしまう


「やあロウニール君・・・それとも別の名前で呼んだ方がいいかな?」



初めて見る人・・・でも僕はすぐに理解した


彼は・・・『タートル』の長・・・レオンだ──────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ