115階 ダンジョンナイトナイト
ふう・・・ギリギリだった
想定していたよりもずっと強いじゃないかシークスの奴・・・お陰で腕はもう上がらないくらいダメージを受けてしまった
戦う場所がもしダンジョンの外だったらと思うとゾッとする・・・目にも留まらぬ速さに一撃必殺の打撃、それに高い戦闘技術・・・武道家の頂点と言っても過言ではないはず
背中に目が付いているのかと聞かれたが半分正解だ。背中じゃなくて全身に付いているようなものだからな・・・ダンジョン内であれば
全体を見渡せる目・・・それと動くのと腕を犠牲にしてようやく防御が出来た。魔技を使われた後はもう死ぬかと思ったよ
1ヵ月の間の訓練で魔法剣士の特性と武道家の特性をどうにか組み合わせられないかと考え思いついた『魔闘士』という職業・・・もし思いついていなければ倒れていたのは僕だったはずだ
《出し惜しみするからよ。それに2回も戦っちゃって・・・》
出し惜しみじゃないし・・・あまりの速さに纏ったマナを変化するタイミングがなかっただけだ
流れで使えるようになればもっと強いのだろうけど、さすがにそれは無理・・・だから受け止めた時や大振りになった時のみしか使えなかった
それに気付かれてスピード重視の攻撃を続けられたら・・・ああ恐ろしい
それに2回戦ったのにも理由がある
シークスも気付いてたけど間違って『冒険者に手出しするな』と言っちゃってたんだよな・・・僕
後から『あっ、僕冒険者じゃないじゃん』と気付いた時には後の祭り・・・目の前にはたまたまいいのが入って気絶しているシークスの姿が・・・このまま帰したら絶対また狙われると思って無理矢理起こし挑発して大振りするのを待っていた・・・ってのが現実だ
それより何より・・・この石像どうしよう
「シークス!!・・・よくもシークスを・・・」
まあ、そうなるわな
仲間を石像にされて黙っている訳はないと思うし相手したいけど残念ながら腕が上がらない
「お前ら約束を破る気か!」
「舌の根も乾かぬうちに・・・ハーニア!マグ!エリン!やるぞ!!」
ケンとジケットはやる気満々・・・サラさんは・・・険しい顔をして状況を見つめている
石像を挟んで一触即発の雰囲気
目立たないように回復魔法で腕を治してはいるが・・・間に合うか・・・んん?
「え?なんだ!?」
ピシッと音を立てて石像にヒビが・・・
そして次の瞬間石像が割れてシークスが現れる
マジか・・・腕はまだ完治していないし、また同じ事をしろと言われてもマナは問題ないけど体力的に結構キツイぞ?
《内部から石化したのはいいけど充分じゃなかった・・・抵抗されて石化が解けたって感じね。でも・・・》
「シークス!!よっしゃー!これでお前らは終わりだ!もうこうなったら全員で・・・」
「・・・ボクの負けだ」
「シークス!?お前何言って・・・」
「もうマナが空っぽだよ・・・それともお前達だけでローグとサラに勝てるとでも?」
「うっ・・・」
マナ切れ?・・・助かった・・・
シークスに言われてヤット達は矛を収め、これで一件落着・・・とうとう長かったシークスとの腐れ縁も終わりを迎えた
「参ったよ・・・まさか石化とはね。まだ何か隠しているようだし・・・君は一体何者なんだ?」
「敗者に聞く権利があるとでも?」
《バカロウ・・・その煽りは・・・》
え?
「だね。知りたければ勝つしかない・・・か」
ああ・・・しまった・・・そうだよな・・・今の僕の言い方だと『知りたければ私に勝て』と言っているようなものだし・・・なんで僕はこう・・・
「執拗い男は嫌われるぞ?シークス」
「サラ・セームン・・・ローグといるとやけに強気じゃないか。また調教してあげようか?」
「私は冒険者だ・・・約束を反故にすると宣言したと判断しても?」
「・・・少し前のボクだったら今のような発言に激昂していたかもしれないな・・・でも今はなぜだが怒りが湧いてこない・・・約束は守るよサラ・・・冒険者には手出ししない・・・ボクの仲間もね」
「シークス!」
「元々ボクらは『ダンジョンキラー』と呼ばれるほどダンジョンを殺す為に活動している・・・だからわざわざ約束を破ってまで冒険者を殺す気なんてさらさらないよ」
「の割には私達は何度も襲われているが、な」
「・・・うーん・・・そうだね。なんでだろう・・・・・・ああそうか・・・ダンジョンナイトに会いたかったんだ」
なんというはた迷惑な・・・普通人に会いたいだけで別の人を襲うか?
「なるほど・・・念願叶ったのだからもう襲う必要はない・・・か」
「そうそう・・・けど、ひとつ欲求が満たされると次の欲求で生まれるのは仕方ないよね?」
いや、仕方なくない!なんで僕をそこまで執拗に追いかけるんだ?
「なぜローグを?ダンジョンキラー」
「ハハッ・・・そのダンジョンキラーとしての勘だよ・・・ローグはダンジョンと同じ匂いがする」
なんて勘のいい奴だ!その通りだよ!
「バカなことを・・・まだ追いかけ回すと言うなら・・・」
サラさんが懐から風牙龍扇を出す・・・殺る気だ
「参ったって言ったよね?まさか降参した奴を殺す気?何?サラって趣味が死体蹴りなの?」
『死体蹴り』のサラ・・・なかなか似合ってる気がする
「・・・誰のせいで1ヵ月も・・・」
「ん?なに?聞こえないけど・・・」
「とにかく!諦めの悪い奴など生きてて害悪にしかならん!死して屍となり死臭を放っている方が一時の嫌悪で済むというもの!それにダンジョンならばダンジョンクリーナーが綺麗さっぱり消し去ってくれるしな!」
何故か鬱憤が溜まっているサラさん。冷静に聞くと結構酷い事言ってるな
「ローグはボクを生かした・・・そのボクを君が殺すと?それってローグの意思に反しないかな?」
「害虫にも優しいローグの器に縋り付くな!駆除せず野に放ってやろうと言うのに性懲りも無くまた挑もうなど笑止千万!万死に値する!」
なんだかサラさんの精神状態がとっても不安定だ。でも怒っている割には今の位置から一歩も動いてないしなんか立ち方もぎこちないような・・・
「・・・なら判断をローグに委ねてみない?ボクを生かすか殺すか・・・それともサラの判断でボクを強引に殺す?ローグは果たしてどう思うだろうね?」
「くっ、卑怯な・・・いいだろう・・・判断はローグに任せるとしよう」
うわぁ人の生き死にの決定権が僕に来た
「ローグ、ボクを殺すかい?ちなみにボクは嘘はつかない・・・だから正直に言うよ・・・またボクは君に挑む」
「ほら見ろやっぱり・・・ローグ!今すぐ殺すべきだ!また同じ事が起きてからでは遅い!」
また挑むのは勘弁して欲しいしサラさんの意見の方が正しい気がする・・・でも・・・
「私は・・・シークスを生かす」
「毎度~」
「ローグ!なぜ!?」
「私は宣言したはずだ。シークスは殺さない、と。それはこの戦いが『サラ達を救出する為に協力してくれた』事への報酬だからだ。確かにこれまでの経緯を考えるとまた何をやらかすか分からない・・・後顧の憂いを断つという意味ではサラが正しい・・・が、多大なる恩に報いるのにただ戦うだけじゃ足りないからな。それにシークスもバカではない・・・負けると分かっていて挑んでは来ないはず・・・だろ?」
「たまには人助けもするもんだね・・・ローグの言う通りすぐに挑むようなバカな真似はしないさ。数年後・・・超えたと判断した時はその限りじゃないけどね」
「超えたと判断・・・か。それは今の私に?それともその時の私に?」
「・・・まだ限界を迎えてないって言いたいのかい?」
「うーん、そうだな・・・1ヵ月の期間は勘を取り戻す為・・・残念ながらまだまだ全盛期の勘は取り戻せてないが・・・限界かどうかは勘を取り戻してみないと分からないな」
まあ嘘だけどね
「・・・化け物め」
おお、信じた
実際問題限界ってあるのかな?ダンジョンの限界が僕の限界だろうけど・・・目標を100階にしてるけど際限なく増やせるとしたら・・・限界がないってことになるよね?
「サラはこれでいいか?シークスは冒険者に手を出さないって言って・・・サラ?」
「は、はい!じゃなくて・・・うん、ローグがいいならそれで・・・」
「という訳だシークス・・・そうだ、もし良かったら『ダンジョンナイト』に入らないか?」
そっちの方が監視しやすいし
「馴れ合うつもりはないね・・・キラーとナイトが同じ組合って笑い話にもならないし」
「・・・聞いてもいいか?」
「勝利の権利だしね・・・なんでも聞いていいよ」
「なぜキラー?誰かがそう呼んだから?」
「いや・・・初めは『ダンジョンクラッシャー』とかクソダサい名前で呼ばれてたからボクが訂正したのさ。壊すのではなく殺すってね」
ダンジョンキラーも大概だと思うけど・・・
「まるで生き物みたいに言うのだな」
「生き物だよ」
「なに?」
「ダンジョンは生き物・・・魔物は当然としてダンジョンコアも、ね。ローグも一度殺してみれば分かるよ・・・アレはダンジョンを生み出す物じゃない・・・生物だ」
当たり
「なるほどな・・・その生物をなぜ殺す?過去に何かされたか?」
「なぜ殺すって・・・さっきサラが言ってたじゃないか『害虫は駆除すべき』みたいな事を・・・言ってみればダンジョンは害虫の親玉みたいなものだよね?ダンジョンの奥で魔物を次々に生み出しているのだから・・・それを駆除して何が悪い?」
あれ?そう言われると・・・
「たまにいるんだよね『ダンジョンが無くなると・・・』みたいな事を言う奴。けどさ、ダンジョンブレイクが起こると手のひら返して壊せ壊せと言い始める・・・散々利用していたのに・・・ボク嫌いなんだよね・・・そういうの。初めから分かってたのに・・・ダンジョンは危険だって・・・」
「・・・君はもしかして人々の安全を考えて・・・」
「ハハハハッ!そんな訳ないでしょ!?一貫してダンジョンが要るって言い続けるなら良いけど都合が悪くなったら切り捨てるのがムカつくだけ。んで、ボクは要らないと思ってるしダンジョンコアをね・・・殺すとすんごい快感なんだ・・・なんて言うんだろ・・・苦労して苦労して一番奥まで辿り着いた先にあるダンジョンコア・・・魔物を生み出しダンジョンを作り出すダンジョンコア・・・それをこの手でかける達成感・・・堪らないよ?本当に・・・堪らない・・・」
うわー・・・その為だけかよ・・・
「全てを投げ打ってでもまたあの感覚を味わいたい・・・他には興味無い・・・本当は国所有でダンジョンブレイクが起きてないダンジョンも殺したいのだけどね・・・さすがに指名手配を食らうと面倒だからこのダンジョンに来たって訳だ」
「・・・ならローグではなくダンジョンコアを狙えばいい!」
あのーそれも僕なんですけど・・・サラさん
「何言ってんの?ダンジョンナイトはダンジョンの守護者なんでしょ?つまりこのダンジョンを殺すにはダンジョンナイトを殺す必要がある・・・でしょ?」
「うぐっ・・・それはそうだが・・・あまりにもローグに固執し過ぎではないか?」
「それも言ったろ?ダンジョンの匂いがするって・・・なんかね・・・ボクを満たしてくれるような気がするんだ・・・ダンジョンナイトのローグさんはね」
ええ、ええそうでしょうね。満たしますともなんてったってダンジョン人間なんですから
「どうしても引かないと言うのか」
「引く必要があるかい?約束の範疇外なのに」
「・・・ならばローグに挑む前に私が相手になろう・・・私はローグの補佐・・・つまりダンジョンナイトのナイトだ!」
・・・?ダンジョンナイトナイト?
「ハハッ!いいね・・・障壁が多い方が盛り上がる・・・期待しているよ『風鳴り』サラ・セームン」
こうして長かったシークス達との因縁も一旦の終わりを迎えた。しかしこうも立て続けに色々あると疲れるな本当・・・早く癒しの空間に戻りたいよ
「ようやく行ったか害虫め!・・・ふう・・・そう言えばケン・・・確か予約していたのだよな?」
「え?あ、はい!『ダンジョン亭』で人数分・・・もちろん主役のローグさんの分も!」
『ダンジョン亭』!?・・・ああ、その名前を聞いたら急に腹が減ってきた・・・って僕食べれないよね!?仮面しながらどうやって食べるのさ!
「そうか・・・それは嬉しいがやる事が溜まっていてな・・・今日どうしてもやらねばならない事が・・・」
「そうッスか・・・残念ッス・・・」
「な、なーにこれからはいつでもローグに会えるし今日は私達だけでも祝おうではないか・・・ローグの帰還と勝利を」
「ッスね!・・・予約の時間までまだあるしこのままダンジョン行こうかな・・・どうする?お前ら」
「あんな戦い見てたらいやでも昂るわね・・・行こっか」
「食前運動ってか?低層階にしような?な?」
「良いですね・・・ジケットさん達はどうしますか?一緒します?」
「良いんですか!?ヤッター・・・いい?」
「私はいいわよ」
「うむ」
「上位ランカーとの合同ダンジョンか・・・楽しみ」
良いなあ・・・なんだか楽しそうだ
サラさんはどうするんだろ?
「私は一度ギルドに戻る・・・報告など色々あるからな」
そう言って振り返り歩き出すサラさん・・・んー、やっぱりなんだか動きがぎこちないような・・・気の所為かな?・・・あっ、そうだ!
「サラ!」
「はい?・・・え?これは・・・」
僕はサラさんを呼び止めふたつの石を投げた
彼女はそれを受け取るとまじまじと見つめた後で僕を見た
「新しい通信道具だ。ひとつは私と・・・もうひとつは・・・ケン!」
もうひとつゲートから取り出してケンに投げる
前のは『ブラックパンサー』に奪われたからな・・・これでようやく元通りだ
「・・・ありがとうローグ・・・もう決して奪われない・・・」
「奪われたのは不可抗力だ・・・気にするな」
捕まった時に武具とアイテムは没収されていたからな。武具は3階にまとめて置いてあったからゲートに放り込んで回収出来たけど通信道具は持って行ってしまったから回収出来なかった・・・厄介な奴に持っていかれたが仕方ない
サラさんは大事そうに通信道具を懐にしまうとまた出口に向かって歩き出す
その様子を見ていた2人・・・マホとヒーラがヒソヒソと内緒話をしているのがたまたま聞こえてしまった
「ヒーラ、あれって・・・」
「ええ・・・完全に濡れてますね・・・」
濡れてるって・・・どこが??──────




