114階 再戦
ローグの思ってもみなかった提案にシークスは目を白黒させていた
それは見ている私達やヤット達もまた同じ・・・明らかに勝敗が決したのにもう一度やるっていうのは・・・ローグ・・・貴方は何を考えているの?
「・・・君・・・人を怒らせる事が得意みたいだけどあまり調子に乗らない方がいい・・・そうしないといずれ憤死する人が出てくるぞ?」
「怒らせるつもりは無かったのだが・・・」
「・・・なら・・・どういうつもりだ」
「今回の結果に納得していないだろう?そういう奴は決まって自分が納得するまで繰り返す・・・約束を破ってでもな」
「・・・分かってるじゃないか」
「てめえ!!」
「・・・外野が騒ぐなよ鬱陶しい・・・約束を破るつもりはないよ・・・冒険者には手を出さないつもりだしね」
「あん?何言ってやがんだ・・・サラさん?」
怒るジケットを制止して考える・・・なぜわざわざシークスは『冒険者』を強調して言ったんだ?・・・あっ
「ローグは・・・冒険者ではない」
「え!?・・・あ、そうか・・・ってそんなのズルい・・・」
「いや、ジケット・・・私はそのつもりで提案した」
「組合長?」
「どうせ約束させても破るのは目に見えている・・・かと言って殺したくはない・・・多少なりとも恩は感じているからな・・・サラ達を救う為に協力してくれた事に」
「・・・多少なりとも、か。もっと感じてくれてもいいよ?」
そうだ・・・敵とはいえシークス達が『ブラックパンサー』の拠点で暴れなければ私は・・・
「無様に倒れた君を起こしてあげたが・・・それでは足りないか」
「・・・またボクを怒らせて・・・大振りになった隙をついて攻撃しようとでも?」
「勝手に大振りしたのはそっちだろう。さて、どうする?やるのかやらないのか・・・もし回復が必要なら日を改めても・・・」
「黙れ・・・これ以上ボクを・・・怒らせるな!!」
再び始まる2人の戦い
今度はいきなり突っ込まないで静かにローグを観察するシークス・・・怒らせるなと言いつつ冷静だな
「ローグ!君が強いのは十分分かったよ!だから最初から本気で行く!」
ムッ・・・なんだあれは・・・シークスの体が黒く変色していく・・・それに・・・
「うわぁ・・・なんッスかアレ・・・」
「体内でマナが暴れている・・・激しく・・・」
微かだが見える・・・『射吹』もマナを体内で移動させる技だがアレはそれとは比べられない程の速度と量・・・もしあれをシークス自身が操っているとしたら・・・
「・・・へえ?マナが見えるのかサラ・・・これはいい奴隷を手に入れたな。そう・・・この魔技は体内でマナを暴れさせているだけの技・・・身体中で縦横無尽に駆け巡るマナ・・・少しずつ少しずつ力を増しながら・・・魔技『黒蝕招来』・・・さあ始めようかローグ・・・次は君が地面に這い蹲る番だ」
「ちょ、ちょっと色黒になっただけじゃねえか・・・」
「そ、そうよ・・・でも・・・私・・・あの人の前に立ったら秒で気絶しそう・・・」
「むぅ」
「体内でマナが暴れてるって事は本人にもダメージがあるはず・・・それにマナの量にも限界がある・・・どっちにしても少しの時間耐えれば勝機は・・・ある」
さすがエリン・・・だが、その少しの時間が耐えられるかと言うと・・・
「時間なんて要らない・・・この状態になったらボクの勝ちは揺るがない・・・さあ死ねローグ!!」
ただ踏み込んだだけなのに床が砕け散る
もはや目では追えないスピード・・・黒い影がローグに伸びていく
人の動きではない・・・ローグが強いとはいえ今の状態のシークスとまともにやり合えば・・・
「どうした?今度は避ける事も出来ないか?」
先程と同じような展開・・・シークスが攻めてローグが守りに入る・・・だが決定的な違いがある・・・躱すのではなく全て受けている
しかも最初は全ての攻撃に対して受け止めていたが徐々に食らい始めて・・・幸い急所はガード出来ているがそれも時間の問題・・・何せ今のシークスは全ての攻撃が『射吹』と同じかそれ以上の威力を持っていると考えられる・・・恐らくガードした腕や足自体にも相当なダメージを受けているはずだ
「サ、サラ姐さん・・・ヤバいんじゃ・・・」
「・・・」
想定していた強さの遥か上をいく・・・どれだけ修練すれば追い付けるのか見当もつかない
シークス・ヤグナー・・・紛れもなく武道家の頂点に近い存在・・・
「サラさん・・・俺らは覚悟出来てるぜ?もし行くって言うなら・・・」
「ジケット・・・私達が加勢しても邪魔になるだけだ。それにあの3人も黙ってはいないだろう・・・シークスの腰巾着に思われているが奴らも強い・・・」
「でも見てるだけじゃ・・・」
「信じろ・・・自分達の組合長を・・・ローグという男を・・・」
何故だろうか・・・シークスがいくら強くても私の中に焦りがない
何故だろう・・・まるで追い込まれている気配を感じないのは・・・
「ねえ・・・組合長あの位置から動いてなくない?」
エリンの言葉でようやく気付く
シークスは床を削り縦横無尽に攻撃を仕掛けているのに対してローグは一歩を動いていない。防御に徹しているから?いや・・・それでも少しは動くはず・・・しかも後ろからの攻撃も視線すら向けずに受け止める・・・どうやって・・・
「ハッ!背中に目でも付いてるかな?」
「付いているかもな」
「・・・なぜ仕掛けて来ない?まさかマナ切れを待ってるとか言わないよね?」
「少し罪悪感を感じててな・・・いつ謝罪しようかと考えていた」
「あ?」
ローグの予想外の言葉にシークスは一旦離れて彼を睨みつける
謝罪?どういう事だ?
「シークスは武道家と聞いていた。だから私も・・・と思ったが予想よりも強かった・・・だから謝罪しようかと」
「意味が分からないな・・・強かったから謝罪って何だよ?許してくれって事か?」
「違う」
「だったら何の謝罪だ!」
「君に合わせて武道家として戦ってみたが君の方が強かった。これでは舐めていると思われても仕方ない」
「・・・は?合わせて?」
「ああ。・・・悪かった・・・もう合わせるのは止める」
「意味の分からない事を・・・武道家じゃなかったら何なんだ!?」
床が弾け影が伸びる
影は形を変えローグの心臓に伸びていく
ローグはそれを左腕で受け止めると一言呟いた
「少し熱いぞ?」
熱い?
確かにローグはそう言った
その刹那、影と化していたシークスが顔を歪め、突然ローグから距離をとる
「・・・ぐっ・・・何をした・・・」
「ネタばらしが必要か?」
「・・・とことんムカつく奴だ・・・なら何かする暇すら与えないまで!」
更に速度が上がった!?
今度は影すら見えず床が弾けてようやくそこに居たと認識するのが精一杯だ
それでも・・・ローグは動かない
「くらえ!!」
やっと姿を現したシークスはローグの背後から蹴りを放つ
それを読んでいたのかローグは腕を上げその蹴りを受ける・・・すると今までとは違う音がした・・・まるで骨が砕けるようなそんな音だ
「・・・何だそれは」
「見た事ないか?氷だよ」
ローグの腕が氷の塊に覆われシークスの蹴りを防いでいた
氷・・・さっきは熱いと・・・そうか・・・
「いきなり氷が・・・なんッスか?あれ・・・」
「変化だ・・・ローグは纏っていたマナを氷に変化させた・・・」
「で、でも氷くらいでシークスの攻撃を防げるもんッスか!?」
「ただの氷なら砕けて終わりだろうな」
「え?じゃああれはただの氷じゃないって事ッスか?」
「当たり前だ。マナを変化させるのは?」
「えっと・・・魔法使い・・・あっ・・・つまりローグさんは魔法を纏っている?」
「そういう事だ・・・上位の魔法使いの氷はドラゴンの鱗すら突き破るという・・・その硬度があればシークスの蹴りぐらい防げてもおかしくないだろ?」
実際ローグの氷がどれくらいの硬度かは分からないが・・・現実にシークスの蹴りを弾き返しているのだ、かなりの硬度があるのだろう
腕に纏っていたマナを瞬時に氷に変化させる・・・そんな戦い方など私は知らない・・・武道家の私には無理・・・いや、この国に何人出来るというのだ・・・そんな戦い方が
「・・・今更だけど君・・・何者?」
「やっと覚える気になったか・・・私の名はローグ・・・そうだな・・・武道家から更に変化・・・魔法を足した『魔闘士』とでも名乗っておくか」
「魔闘士・・・ふざけた野郎だよ・・・さっきの熱も魔法か・・・」
「正解だ。そして残念なお知らせがある」
「・・・お知らせ?」
「私の得意な属性は・・・土魔法だ」
「だから何なん・・・・・・てめえ・・・」
「さっきのお詫びだ。使う属性が分かっていれば対策のしようもあるだろ?」
「・・・舐めやがって・・・」
「気を付けろ・・・土魔法は手加減が難しい」
「ほざいてろ!!」
三度突進するシークス
相変わらず動かないローグは右側に移動したシークスの攻撃を簡単に受け止める
「背後がダメなら横か・・・単純だな」
「このっ・・・ん?うわあああ!!」
シークスが突然叫び離れる
見ると繰り出した右拳が灰色に・・・いやあれは・・・
「石化?」
「えっ!?石化って・・・」
石化させるなど魔法で出来るのか?
確か人を石化させる魔物はいたと思うが・・・
「・・・君コカトリスかよ・・・」
「失礼な奴だ。人を魔物に例えるなんて・・・ひとつ忠告しておく・・・その手は上辺だけとはいえ石と化している。なのであまり強い衝撃を与えると中の手ごと砕け元には戻らなくなるだろう」
「・・・何それ脅し?」
「事実だ。まあ要らないと言うなら続けてもいいが・・・」
「・・・ふざけるな・・・拳ひとつくらい・・・くれてやる!!」
そう言ってシークスはローグに突っ込んで行く
いつの間にかシークスの魔技は切れ、肌の色は元の色に戻っていた
スピードは遅くなり私の目でも十分追える
それでもシークスはローグへと向かって行き、あろう事か石化した右拳を突き出した
ローグの言葉を信じていないのかそれとも本気で拳を失ってもいいという覚悟なのか・・・どちらにしろ認めざるを得ないな・・・シークスという男を
ローグは石の拳を受け流すと流れるようにシークスの懐に入る
そして最初に戦った時と同じように掌打を叩き込んだ
「ぐっ・・・まだ・・・」
「あー、一応まだ時間があるから決めるなら早目に決めた方が良いぞ?変なポーズだと恥ずかしいだろ?」
「・・・な・・・に?」
「私が打ち込んだ所を見てみろ。掌打で内部に流し込んだ・・・剣先だと斬り付けないといけないが直接打ち込めば・・・」
「石化っ!・・・くっ!その前に!!」
「残念・・・私に殴りかかろうとするより抵抗する事に徹していれば石化も防げたかもしれないのに・・・もう遅い」
「おまっ!・・・ローグゥゥ!!──────」
「おぉ・・・叫びながら拳を振り上げた状態で完全に石化したか・・・なかなかどうして下手に格好つけるより良いじゃないか」
シークスは石化し完全に石像と化した
あのシークスを圧倒・・・無傷の勝利ではないだろう・・・打撃を受けた所は少なからず痛みを感じているはず・・・でも・・・ローグはもしかしたら・・・あのレオンよりも強いのかもしれない・・・そんな気がした──────




