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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
114/856

111階 事実と真実

ふぅ・・・タイミングバッチリだったな。奪われた通信道具がこんなに役に立つとは・・・


「・・・なぜもっと上手く誘い出せない・・・仮面の男」


「ローグだ・・・ケイン兵士長」


シークス達を解放してもらおうとサラさんと共に兵舎へと訪れると意外とすんなりと話が進んだ


どうやらギルド長がケインに『ブラックパンサー』の事を伝えていたらしくケイン達でも独自に調べていたらしい


そこで衝撃の事実を聞いた



『ブラックパンサー』を隠れ蓑にして動いている可能性がある『タートル』・・・その『タートル』の組合長は元Sランク冒険者レオン・ジャクスであると


軍内では周知の事実らしい。Sランク冒険者は貴重な存在で国も彼らを頼る事があるらしく彼らの位置を把握しているそうだ


だけどある時忽然と消えたレオン・・・その後から有力な冒険者が次々と消え、いつの間にか現れたのが闇組合『タートル』って訳だ


そして何より『タートル』の組合長がレオンであるとする理由・・・それはSランク冒険者時代の二つ名にある



『千の顔を持つ者』



()()()を持つレオン


しかも全ての能力を巧みに操る事が出来る彼は瞬く間に頭角を現しSランクへと上り詰めた


だが国が最も欲した能力はその類まれなる強さではなく別人になれる変身能力だった


どういう意図で国がその能力を欲したか・・・それは分からないが彼は執拗に国から誘われていたらしい


召し抱える気はないかと


それに嫌気がさしたのかレオンは消え『タートル』が生まれる・・・変幻自在の組合長を元に



「まず間違いなくレオンだ・・・捕まえれば国に多大なる貢献が出来たと言うのに・・・」


「それは失礼した。私の目的はあくまで仲間を守ること・・・そのレオンとやらの捕獲には興味がなくてな」


「・・・代わりに貴様を捕まえる事も出来るのだぞ?」


「ほう・・・罪状は?」


「後からどうにでもなる。それに国はえらく変身能力に興味があってな・・・」


無茶苦茶言うな・・・まあ確かに今の僕は怪しさ満点だけど・・・


「・・・冗談だ。そんな目で睨むな・・・事情は把握した・・・勝手に連れてけ・・・こちらはその地下室とやらを調べてくる」


サラさんが僕とケインの間に立つと奴は肩を竦め兵士達と共に兵舎を出て『ブラックパンサー』のアジトへと向かった


残された僕らは兵士に案内され兵舎内にある留置所に


そこではサラさん達も付けられていた首輪をしたシークス達面々が檻の中でくつろいでいた


「遅かったね。このまま来ないかと思ったよ」


「一生ここで面倒見てくれるならそれもいいが、どうせ暴れただけならすぐに出て来るだろ?恩を仇で返す理由には少し足りない」


「冷たいなあ・・・協力した人に対して」


「出会いが最悪だったからな・・・冷たくもなる。それで?しばらくここで寝泊まりするか?それとも・・・」


「出るに決まっている・・・1ヶ月後に抜かれないように鍛えないとならないしね」


「今でも十分強いだろ?」


「意外と小心者なんだ・・・負けるとは思ってないけど万が一を考えて・・・ね」


やめてくれーと内心叫びながら案内してくれた兵士に檻を開けてもらい首輪を外してもらう


「もうダンジョンには入れるのかな?」


「明日から入れるようにしよう・・・ただし・・・」


「みなまで言うなって・・・1ヶ月は大人しくしてるよ。久しぶりに魔物に会いたいしね」


「・・・約束だ。人に手を出した瞬間1ヶ月後の話はなし・・・永久にダンジョンを彷徨う事になるぞ」


「勝手に約束付け足すなよ・・・怖い怖い・・・そっちこそ約束忘れるなよ?」


「ああ」


シークス達は僕達に背中を向けると手を上げヒラヒラとさせて去って行った


1ヶ月後か・・・勝てるのか?僕・・・


「ローグ」


サラさんが心配そうにマントを引っ張り見上げてくる


信じてるけど心配・・・そんな複雑な感じの表情に僕は決心していた事を告げた



「私は1ヶ月、自らを鍛える。その間連絡は全ての遮断するつもりだ──────」




「ふぅ・・・」


死にそうな顔をしていたサラさんと別れると僕は司令室の椅子に深く腰掛け天井を見上げる


一難去ってまた一難・・・けど去った一難はとてつもなく大きい・・・かと言って残った一難が小さい訳ではないけど・・・


《自ら蒔いた種でしょ?》


「分かってるよ・・・だからこうして外界と遮断して強くなろうと・・・」


《その間、ロウニールは?》


そう、そこなんだよな・・・少し休みを取る程度って感じだったのに僕まで1ヶ月後も行方知れずだと色々と問題が起きそうな・・・せめて誰かに行き先を告げてれば・・・


門番の仕事に同期会もあるしサラさんとの訓練も・・・あまり交友関係が広くない僕だったけどいつの間にか色んな人と関わるようになってた


なのに僕は何も告げずに居なくなり・・・ハア・・・


《まっ、二重生活していて勝てるような相手ではないから私生活の方は諦めるのね。勝った後ならどうにでもなるけど負けたらそこでお終いなんだから・・・ロウもローグも》


だよな・・・怒られるのは覚悟してローグに集中するか・・・ダンジョンを拡張しつつ上級魔物と訓練・・・ドラゴニュートみたいな人型の魔物がいいかも・・・


絶対勝てるって自信が持てるまで自分を追い込む・・・じゃないとシークスには勝てないだろう・・・彼もきっと勝つ為に鍛えてくるはずだから・・・


《さてと・・・何から始める?》


「そうだな・・・とりあえず強さの限界を上げようか・・・ダンジョンを拡張させて──────」





「これは酷い・・・牢屋が3つに4人の惨殺死体・・・それにむせ返るような血の匂い・・・何人ここで殺したのやら・・・」


ジェイズがハンカチを鼻に当てて『ブラックパンサー』のアジトの地下を見回す


部屋の中央にある死体・・・だが壁や床至る所に血痕がある事から何人もここで殺されたのが容易に想像出来た


「・・・下手したら数十人か・・・ダンジョンでの死者も入れると相当な数の者が死んでいる事になるな」


ケインも足を踏み入れ苦々しい表情で地下室を見つめる


「確か国に兵舎の建て直しを申請してましたよね?もしかして却下されるかも知れませんね・・・それどころかケイン様の立場も・・・」


現在エモーンズはかなり急ピッチで開発が進んでいる


それに合わせてケインは兵舎と仕事場を分けられるように兵士が寝泊まりする場所とは別に建物を建てるよう国に申請を出していた


その建物は衛兵所


未だエモーンズは村の名残で単なる兵士が街を警護している


だが本来なら街を警護する者は衛兵と呼ばれ兵士よりワンランク上の役職となるはずだった


そして兵士が衛兵となればその長・・・つまりケインも衛兵長となり騎士団の地位に1歩近付く


兵士長が手柄を立てて騎士団長になるよりは遥かにハードルが下がる為に何としても衛兵として認められなければならなかったのだが・・・


「『タートル』を捕まえ損ねたとあれば騎士団長どころか衛兵長すら危うい・・・か」


「急がなくてもエモーンズは衛兵長が管理する事になるでしょう・・・ですがその時の衛兵長は・・・」


「頭が痛いな・・・手柄を取り損ねたばかりか足を引っ張られるとは・・・忌々しい奴らだ」


「・・・もう少しご立腹になるかと思いましたが意外とあっさりしていますね」


「腹に据えかねると逆に冷静になるものだ。そして冷静になれば頭も冴える」


「と言うと?」


「事実は真実とは違うという事だ」


「・・・まさか事実を捻じ曲げるおつもりで?」


「まさか・・・今見ているのが()()であり、真実とは異なると言いたいだけだ」


「・・・なるほど・・・ここにあるのは3つの檻に死体が4体・・・それが『ブラックパンサー』アジトの地下にある事実・・・ここが何に使われ何人死んでいようが・・・真実はどうあれ事実は目の前にあるこの光景のみ・・・そう言いたいのですね」


「分かってるじゃないか。ここに『タートル』の痕跡などない。『ブラックパンサー』が『タートル』の下部組織などただの妄想に過ぎない・・・だろう?」


「しかし仮面の男と会話していた男は・・・」


「自らレオンと名乗ったか?『タートル』の組合長ですと自己紹介したか?」


「してないですね・・・では今回の事件は『ブラックパンサー』の内輪揉めと?」


「それと『ダンジョンナイト』との組合間の争いだな・・・民間人は犠牲になっていないただの荒くれ共の殴り合いだ」


「冒険者も民間人ですが・・・」


「どうだか・・・ただ力が強いだけ・・・ダンジョンがなければただの無法者に過ぎない。だからこういう事件を起こす」


「かなり暴論ですが・・・となると国への報告は・・・」


「する必要はあるまい。組合間の争い如きで報告していたのであれば日に何枚報告書を出せば済むと思っているんだ?」


「しかし犠牲者が出ていますし・・・数も・・・」


「ダンジョンで死ぬのも街中で死ぬのもそう大して変わらないだろ・・・冒険者にとっては何のことは無い日常だ」


「冒険者に何か恨みでも?」


「今のところはまだない。が、俺の出世を邪魔するなら・・・恨みの一言も出るかもな」


「・・・ギルド長殿にはなんと?」


「捜査中とでも言っておけ・・・それとも何か?配置換えでも希望するか?今ならギルド職員に空きがあるかも知れないぞ?」


「いつ私がそんなもの希望しましたか・・・それにケイン様は私が居ないと困るでしょう?」


「・・・そう・・・だな」


「なんですかその間は・・・ハア・・・善人の私は心が痛みます。事実とはいえ犠牲になったであろう冒険者達の無念を晴らせないなんて・・・」


「なんだその言い方は・・・まるで俺が悪人みたいではないか」


「口が滑りました・・・自覚していると思っていたのですが・・・」


「何か言ったか?」


「いえ・・・では戻り次第・・・見たままの報告書を書いておきますので後で目を通して下さい」


「さすが優秀な副官だな」


「今は褒め言葉が悪口に聞こえるのは何故でしょう?」


「気のせいだ」


ケインは地下室から出て外に待機していた兵士達に死体の処理を命じると1人兵舎へと戻って行く


その場に残ったジェイズは深くため息をつき死体となった冒険者の懐からギルドカードを取り出した


「Dランクか・・・甘い汁は吸えたか?命の対価に見合うほどの・・・全員聞け!明日より『ブラックパンサー』の調査を徹底的に行う!幹部候補と言われていた者達は見つけ次第捕らえろ!抵抗するなら殺しても構わん!」


「はっ!」


死体処理に来た兵士達にそう告げるとジェイズは立ち上がり地下室の天井を見上げた


「・・・さて、捕らえた者が知り過ぎていたら・・・ハア・・・謹慎という名の休暇を求める者を募集しないといけないな・・・吐かせようとして拷問し過ぎて殺してしまった・・・その兵士には罰を与えなければならないし・・・口封じも楽じゃない」


ジェイズは1人呟き地下室から出る


真実ではない事実を報告書にまとめる為に──────

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